結とユイ 〜君といた日々〜 第5話 イノチのネダン @ 結子の庭にある花壇の横にある。 それは結子が飼ってきたイキモノたちのお墓だ。 初めて自分以外のイキモノを飼ったのは キクばあちゃんに買って貰った金魚。 一匹”270円”の一番安い金フナ。 オレンジ色で可愛かった。 キクばあちゃんが一生懸命にお世話しなさいといってので 水槽やえさやりを頑張ったら 5年以上も生きてくれた。 二番目に飼ったのは 近所で捕まえたクワガタ。 タダだ。 けど、とても繊細ないきものだったけれど割と長く生きてくれた。 (思い出をアリガトウ) といいながら、手を合わせた。 270円で買った命が2年持ち、 ただのクワガタも数倍生きて。 幼い結子のココロに灯った疑問。 ”命の値段って何だろう?” 結子が小学3年生の時に書いた作文のタイトルだった・・・。 ※ 結子の学業以外の活動の場。 生き物が好きな結子だが、 それはペット屋・・・ではなくて。 『NPO イキモノ係』 捨て犬や猫などの里親を仲介する事務所である。 保健所や他のサポートセンター、動物病院などと連携し、 運営している。 里親探しから犬や猫のしつけ方の指導、 または盲導犬や介助犬の育成促進などを活動としている。 「ふぅ・・・。えーと今週末は・・・」 ホワイトボードにぎっしりつまった予定表。 講演会やらなにやら最近では活動範囲が広まり、本業の学業より 力を入れている。 「結ちゃん、あんまり無理しないでね。 人間もイキモノ。休憩取りながらでないとね」 「はい。ありがとうございます」 優しい事務所のスタッフに励まされ、書類等の事務を パソコンに打つ結子。 (ん!?) 妙な気配。 入り口の引き戸を見てみると・・・。 「!!」 事務所の窓にユイ太の顔がへばりついていた・・・。 「な、なんで・・・っ」 「あら?かっこい坊やね。結子ちゃんの彼氏?」 「ち、違います、み、身内です。だたの・・・」 結子はあわてて事務所の入り口を開けた。 「アンタ!なんでここに・・・」 「結子の匂いがしたから」 ケロっとした顔でテレもせずに言う。 「・・・(照)こ、答えになってないでしょ」 「一人じゃつまらねぇ。遊ぼうぜ」 ガクっと肩を落とす結子。 「ここは遊ぶ場所じゃないの。大切なお仕事してるの。 だから帰っておとなしくしてなさい!」 「やだ。結子のそばにいる。オレから逃げられると 思ったら大間違いだぜ」 (こ、小生意気な・・・!) と、強引に事務所から出させようとしたとき。 スタッフの坂田さんが一声かけてくれた。 「いいじゃない結ちゃん。丁度、男手が欲しかったの。 ほら、倉庫の餌の整理とかダンボールの整理とか・・・」 「・・・で、でもこいつは・・・」 「オレ、出来るぞ。なんでも運べるぞ。 オレの名前はユイ太」 「ユイ太君か。可愛い名前ね!」 「結子がつけてくれたからな」 (ちょ、ちょっと勝手に事運ばないでよ・・・) 「よし!では、ユイ太君。じゃあさっそく 奥の倉庫に行ってくれる?」 「おう。わかった」 結子が口出せないままあれよあれよと言う間に スタッフになっちゃいました、ユイ太。 「さ、坂田さん、あの・・・色々事情があるやつで・・・」 「ここを手伝ってくれる人なら誰でもOK!彼、 かなり動物に好かれるタイプみたいよ」 「え?」 「テツがしっぽ振ってたもの」 テツというのは事務所で飼っている犬の名前。 人見知りが激しいのだが・・・。 「人手がほしいのは確かだし。結ちゃんの 知り合いなら大丈夫よ。ね!」 「は、はい。あ、ありがとうございます・・・」 とそんなこんなで。 ユイ太もスタッフ??になったわけですが・・・。 「おー!お前、○○のドックフード好きなのか。 オレは○○製品の方がいいぜ」 力仕事以外は、犬と会話しまくるユイ太。 「あんたね、ちゃんと言われた仕事してるの?」 「おう」 「それから、犬のしゃべるのとかやめなさい」 「なんで」 「他の犬がびっくりするでしょ!」 (というか怪しい奴に見えるでしょ・汗) 「してねーよ。ほら」 事務所の裏の里親待ちの犬達の小屋。 ワンワンと元気な声が聞こえる。 (・・・) 中には人間不信な犬もいるのにこのハイテンションさは・・・。 「こいつらみんな、ここの人たちは みんな”やさしい”って言ってる。でもなかなか素直に なれないんだってさ」 「・・・そう。ま、あんたの想像力には負けるけどね」 ユイ太の奔放さが少しうらやましい結子。 (人を和ませるところは・・・認めてるよ) 不思議な空気。 「おーい。ユイ太くーん。手、貸してー」 「おー!結子のためにがんばるぞ」 ワンワンワン! 犬たちが元気にほえる。 「”愛し合ってんだね”っていってらぁ。 あはははは」 「・・・(汗)いいから早く倉庫に行きなさい!」 (想像力豊かなのか、空想力豊かというか・・・汗) たちまち、事務所に溶け込んでしまったユイ太。 騒動を起こさないかハラハラしながらも結子は ユイ太と共にここで過ごす時間を 自然に受け入れていたのだった・・・。 ※ 最近では、事務所の存在が知られるようになり、 「また・・・」 この間は、絶滅種とかいわれそうな亀がどすんと 事務所の窓口においてあった。 今日も知らぬ間に事務所の前に夜中とんだ 新入りが・・・。 ダンボールにはいった成犬。 メモが一枚入っていた。 『手におえなくなったので よろしくおねがいします』 と一言だけメモが・・・ 結子はそっとダンボールから犬をだした。 柴の成犬。 獣医の資格を持つ職員を呼び、健康状態を まずは調べる。 すると獣医は・・・ 「このこは・・・」 妙な痩せ方・・・ 落ち着かない様子・・・。 すぐおしっこが出てきてしまう・・・。 瞳をじっと調べ、獣医が下した診断は・・・。 「・・・糖尿病かな。それも白内障合併して・・・。 目もあまり見えてないかも・・・」 若くは無いが、老犬でもない 妙に痩せた体は食事制限を主人がそれなりにしていた ことが伺える・・・。 「・・・世話に・・・疲れたってトコか・・・。 合併症も患ってるんじゃ・・・大変だわな・・・」 獣医は難しそうな顔で成犬を診ている・・・。 (・・・だからって・・・黙って置いていくなんて・・・) どんな理由であれ、 置き去りにされた犬は 自分が置いていかれたことを知っている。 淋しい。 悲しい。 ”どこへ行ったらいいの” クワンクワンという悲鳴が 結子の心を締め付ける。 悲しむ人間のように現実を受け止めたくなくて、情緒不安定になる 犬もいる。 体調も崩す。 「・・・。兎に角・・・。治療しなくちゃね・・・。 少しでも体力つけて・・・。早くお外はしろうね・・・」 やせ細った犬の足をマッサージしながら 結子は少し目を潤ませて・・・。 優しく 冷えたカラダをあたためるように 心をあたたまるように 結子は全身揉んで抱きしめて マッサージした・・・。 それを見ていたユイ太がぽつり・・・ 「・・・気持ちいいってさ」 「・・・え?」 「・・・ここに置いてかれて・・・。ずっと 怖くて緊張してたんだ・・・こいつ。だから・・・すこし解れたって・・・」 「ホント・・・?」 「おう。結子のマッサージが効いたんだ。こいつ、 今、心、落ち着いてるから・・・」 冗談だと思っていたユイ太の言葉が 本当に聞こえる。 というか思いたい・・・。 この犬の名前がない。 とりあえずだが・・・ (早く治療して回復したら・・・いい飼い主さんに会おうね) 『ラブ』 と仮名がつけられたのだった・・・。 「オレの結子にベタつくんじゃねぇぞ」 と横で、拗ねるユイ太。 果たして『ラブ(仮)』飼い主さんと出会えるだろうか・・・? 出会えて欲しい。 出会わせてみせる・・・! 願いと共に結子達は里親会の準備に勤しむのだった・・・。