結とユイ 〜君と過ごした日々〜 第6話 イノチノネダン A 仮名 ラブ。柴犬で老犬の糖尿病の犬が 事務所に来てから二週間・・・。 ラブの体調は徐々にだが良くなってきた。 「状態がよくなってきてもなぁ・・・。糖尿の場合は 人間と一緒で毎日のケアが大事だ。特にインシュリン投与な」 「先生・・・。この子は・・・。 もう少し元気になったら今度の里親会に出せるかな・・・」 「・・・。気持ちは出したいがな・・・。半分が子犬であとは 基本的なしつけした成犬がメインになっちまうかも・・・」 「弱気なこと言ってちゃ駄目です!この子にだってきっと いい”運命の出会い”があるかも・・・。ね!」 結子の熱弁にスタッフ達も意見一致。 一方ソレを聞いていたユイ太は・・・ (”出会い・・・”オレと結子が出会ったのも”運命”って やつなんだな、きっと) 運命の出会い、意味はあんまり解らないけれど、 ユイ太にとって結子と出会えたことはきっと神様が決めたんだと 思ったのだった・・・。 そして里親会当日。 会場は事務所の駐車場 テントを貼って受付の手伝いを結子はしている。 (すごいなぁ。今回は・・・) ペットブームのせいか、 テレビでいろんな犬のドラマがはいったりしたせいか、 人員整理するほどの人数が訪れる。 そしていよいよ、犬達と来た人たちとの 対面の時間。 ゲージの中に家族連れや若い女の子なんかが 犬達と触れ合う。 結子はそれを見守る。 だがどうしても、人気なのは子犬か、人気種だったり・・・。 「きゃーかわいい!チワワだ。この前、 あの芸能人の飼ってたのと一緒だ」 というような声が聞こえてくると結子は少し複雑な気持ちになる。 (芸能人の犬ってねぇ・・・汗) 「芸能人の犬だろうがどの犬も一緒だ。 なぁ、結子」 と、ユイ太も結子の心の声に同調。 (聞こえたのかな・汗) このイベントは普通のペットショップではない 捨てられた犬や色んな事情を抱えた犬達と再び優しい飼い主との出会いの場だ。 ペットショップ感覚な少しフラットな気持ちで、 選んで欲しくはないと・・・ 新しい家族が出来るという覚悟と愛情をを持って 探して欲しい。 受付の前に、希望者にはそういった飼う上での心構えを 書いたパンフレットと説明会はしたのだが・・・。 だがやはり人気なのは 子犬やしつけされ人馴れしやすい性格の犬で・・・。 「この子、恥ずかしがり屋さんなんですよ。 でもちゃんとお座りします」 と、ゲージの隅っこに隠れてしまっている犬を そっと結子は勧める。 希望者はそっと犬に触れようとするが・・・。 「人間が怖いんだってさ。まだ・・・」 と、ユイ太がつっこみ。 「こら!アンタ・・・」 結子はユイ太をひじついた。 「だって・・・。そいつさ、まだ 人間と一緒に暮らせるか自信がないんだって。 だって、また、いつ捨てられるか、ほうきで叩かれるかって思ったら怖いんだってさ・・・」 だがユイ太の言っていることは本当だった。 その犬は前の飼い主にほうきでたたかれたり、 スリッパで叩かれたりしたという報告書に書いてあったからだ。 「あの・・・。このスタッフがいったことは本当です。もし、この子をご希望されるなら・・・ そういう背景を持つ子だとご理解し、愛情を持って・・・頂きたく・・・」 と、結子が説明していると 少女が涙目でその犬をそっとしゃがんで耳に触れた。 「・・・。かわいそう・・・。叩かれるの、いやだもんね。 私も学校でほうきで頭、叩かれたんだ・・・。いやだもんね、いやだもんね・・・」 少女はそう呟きながら 手を鼻にあてた。 (この子は・・・) 心に何か傷を抱えていると結子は感じた。 犬も少女を恐る恐る・・・、 ぺろっとなめた。 「まい(少女の名前)の友達になってくれるかな・・・。うちの娘、 学校でいろいろあって・・・」 「このうちならいいかもしんないってさ。そいつ」 ユイ太が犬の代弁? 「スタッフさん。家族の一人として責任持って預かります。娘には 心の支えが必要で・・・。だから是非、うちに来て欲しいです・・・。 駄目ですか?」 「・・・いえ・・・。是非・・・。この子を娘さんの 友達・・・いえ、妹さんにしてあげてください。メスなんですよ」 「え?そうなの?じゃあ名前は・・・。私まいだから、 まりちゃんにしようかな?ね?」 ワン! 犬は少し元気よく吼えた。 その犬はこうして少女と新しい家族の下へいった。 (よかった・・・) だが・・・ 必ず何匹かは残ってしまう。 そのうち結子が一番気にしていた あの”ラブ”も・・・ 里親会も終盤を迎え・・・。 「老犬で、病気ももっています。 でも人の痛みが解る、いい子です。手がかかりますが、いい子です。 痛みを知ってる分、いい子なんです」 強引になっちゃいけないと思いつつ、 ラブの家族を見つけたい。 (幸せな幸せな家族の元で・・・) 気持ちが先走る。 ひとりぼっち 病院で。 このまま。 結子の脳裏には 昔、病気になったとき、たった一人で 過ごした夜のことがよぎっていた。 ・・・さみしい ・・・こんなに痛いのに ・・・こんなに苦しいのに ・・・こんなに切ないのに・・・ (・・・誰もそばにいてくれなかった・・・) 結子の気持ちは相手にも伝わったようだが・・・。 「・・・ごめんなさい・・・。その子のことは解るし、飼ってあげたいのは 私も山々なんだけど・・・。」 と希望者達に頼み込むが 「ごめんなさい・・・。本当にごめんなさいね・・・」 と申し訳なさそうに会釈され去っていった・・・。 その後、ラブを引き取ってくれる 里親は結局見つからず・・・ 里親会は終わってしまった・・・。 クワン・・・ ラブが切なそうに鳴く・・・。 「ごめん・・・。ラブ・・・私のせいだわ。 私が・・・。相手に気持ちを強引に言いすぎたせいで・・・ せっかくのチャンスを・・・」 クワン・・・。 「ごめん・・・ラブ・・・。ごめん・・・」 クワン・・・ ラブは切なく ぺロッと結子の親指をなめる。 「・・・ラブはありがとうって言ってるぜ」 「・・・ユイ太・・・」 「結子の気持ちはラブもわかってんだ・・・。必死だったって」 「でも・・・。私のせいで、ラブを引き取ってくれそうな人を・・・」 結子の目に涙が滲む。 「・・・それにこいつ、”このままでもいいって。 ここでみんなに撫でられるだけで幸せ”だって言ってるぜ」 「・・・撫でられるだけで?」 「ああ」 ユイ太は結子の手からひょいっとラブを抱き上げた。 「俺らってさ・・・。こうして体に触れてもらうだけで 淋しいとか不安とか結構、薄まるんだ・・・。ああ、オレ、優しくしてもらってるって・・・」 それに賛同するように ラブのちっちゃなおっぽがくるんと振った。 「・・・結子の撫で方が一番お好みらしいぜ。上手だって。 オレもそう思う。体験談だ」 「・・・ユイ太・・・」 悔しいけど ユイ太の言葉に 励まされてしまった。 しかし・・・現実は厳しい。 事務所でラブを飼うとなると他の犬の世話もあり、 人手がさらにいることになる。 このままでは、 結局、動物病院の長期入院させるしかなく・・・。 それにも費用がかかる・・・。 (ボランティアさんたちに負担をかけせるわけにはいかない・・・) ラブの今後を話し合いをしていた最中、結子が事務所長に 手を上げて申し出た。 「所長、ラブ・・・。私が引き取ってはいけないでしょうか?」 「・・・。結子ちゃん・・・。でもラブの世話は大変だよ・・・? ほとんと介護のようなものだよ?」 「私・・・。体力ならありあまってるし、それに 私・・・。いずれ、獣医になりたいって思うんです」 「・・・」 所長はだまって結子の話を聞く。 「ラブの世話を通して・・・。色々学べると思うんです。 学びたいんです・・・!お願いします。ラブを・・・どうかラブを 私に預からせてください・・・!」 「情熱は分かるけど・・・結子ちゃんのおうちにはおばあちゃんしか いないのでしょう?お世話はやっぱり大変じゃ・・・」 と、所長が言いかけたとき、ユイ太が席を立った。 「・・・オレがやる。オレはガッコーとかも いってねぇし、世話できるぜ?」 「ユイ太・・・」 「それにな、ラブも結子がいいっていってるぜ? 結子が一番マッサージうまいって」 ワン! ラブが元気に吼えた。 「・・・。結子ちゃん。本当に本当に大丈夫? 生半可じゃないよ・・・?世話は・・・」 「大丈夫です!体力と犬大好きな気持ちは 半端じゃありません!!人間より愛してます!!」 と、もう思いっきり赤面せず言ってしまった・・・。 「おうっ!!オレはそんな結子が大好きだぜ!! 愛してるぜッ!!」 「・・・ちょっ///な、何言うのよッ」 ぶわっと事務所に笑いが起きた・・・。 そして・・・。 「じゃあ結子ちゃん・・・。貴方の情熱にお預けすることにします。 でも何か、困ったり分からないことがあったらすぐ・・・ ここへ連れてくることが条件です」 「・・・はい!分かりました!!」 結子は深々と所長に頭を下げて・・・ ・・・ラブを引き取ったのだった・・・。 「・・・。さぁラブ。ご飯だよ。今日はね、 ○○カロリーで、味はラブのすきな甘めだよ」 ラブの餌つくり。 カロリー表と料理表をつくって 一週間分、一日に食べる分に小分けして、 作り溜めしておく。 「お薬も飲もうね」 餌のなかに薬を混ぜて。 苦味が出ないように色々工夫して。 結子は事務所の指導の元、ラブの世話をちゃんと 取り組んでいた。 だが。 それが気に食わないのが・・・。 (・・・けっ。なんでい。ラブばっかり・・・) ラブにばかりかまうので ユイ太はちょっと後悔していた。 (預かっていいって言わなきゃよかったかな) けど・・・。 必死にラブを世話をしている 結子の横顔。 ラブの手足をマッサージする結子の優しい顔が・・・。 (・・・オレは大好きなんだ・・・) 昔自分がされたようで・・・。 「・・・ってアンタ。何じっと見てんのよ」 「・・・。ラブばっかり・・・マッサージして・・・」 とぷいっと頬をふくらませるユイ太。 「妬いてるの?ったく・・・。 アンタね、ラブは病気で・・・」 「悔しいけど・・・。結子は綺麗だ」 急にしおらしくなるユイ太。 「オレが大好きな結子の優しい顔がいっぱい見られる・・・。 ラブには悔しいけど・・・オレ、結子の優しい顔がみられるから 我慢する・・・」 「・・・///い、いきなりなんか・・・しおらしく なられても・・・」 「結子の優しい顔が一番好きだ。大好きだ」 「///お願いだから連発しないで頂戴・・・」 (素直なトコは・・・ユイと似てる・・・) ラブを片手に抱く結子のもう片方の手が そっとユイ太の頬を撫でていた・・・ 「ごめん・・・。今は片手だけど・・・。余裕が出来たら また撫でてあげるから・・・」 「結子・・・」 (嗚呼・・・この手だ・・・。世界で一番優しい手・・・) ユイ太は頬を撫でる結子の手を握った・・・ 「・・・大好きな手・・・。結子の優しい・・・。 オレの・・・一番・・・一番・・・」 (ちょ、ちょ、ちょ・・・) ユイ太は愛しそうに・・・。 そのまま 結子を抱きしめる・・・。 「・・・ああ・・・アッタカイ・・・。 結子の匂いが・・・。いい匂い・・・。幸せだ・・・」 「・・・ちょ、ちょっと!ラブが 潰れちゃう・・・」 「・・・大丈夫。力抜いてるから・・・。 ラブはオレと結子の子供だ・・・」 (なっ) 「嗚呼・・・結子とハグ・・・ずっとしてたい。 もうこのまんまお布団直行して眠りたい・・・」 「ば、馬鹿いってんじゃないわよ。と、とにかく 一旦離れて・・・」 「結子・・・。オレの幸せ、全部・・・」 (///) ユイ太の声が あまりにも 甘くてせつなかったので ちょっと・・・ (ドキドキしちゃうでしょっ・・・) それでも 結子も 安心感に満たされる。 (まぁいいか・・・。なんか・・・。あったかいし・・・) 庭でそっと 抱きしめ合う・・・。 二人の間で小さなラブがクワン・・・! と可愛くひとつ鳴いた。 まるで ”あっかいよ!” というように・・・。 こうして・・・。 結子の家に新たな家族が増えたのだった・・・。
私は子供の頃から アレルギー体質だったので動物を飼ったこと(金魚とカブトムシ類程は有)があまりなくて、無知識ままに 軽々しく”飼い犬猫達の厳しい現実”って分からず書いてしまいました。なのでなんんか (ちょっと不安です) ペット屋さんの窓越しに可愛い子犬たちがいて、立ち止まる人たちは愛らしさに 微笑んでいく。しかし窓越しには”30%オフ!○○の純血種で血統書付”なんて 赤いマジックペンで書かれた”値札がはってあって・・・。 ・・・同じ命にバーゲンセールしていいのかなぁなんて 思ってしまいまして・・・。 命に値段をつける、命だけじゃなくて、その命(魂)に値段をつけられるっていう ことへの抵抗感が・・・。 人も同じで、人の心や命を数字や名称で分類するような傾向ってまだまだあるし。。 (学校の通知表とか年齢とか特に女性は色んな方面で年齢で左右される・・・って 違う論に) 動物を飼ったこともない人間が偉そうなこと言いますが、 ”飼う”というより、新しい命と心が家族になるって 責任を持って受け入れてあげてほしいなぁと思いました・・・。