送り狼 ルカ編 「あんま、さわんな」 (”どうして?”) という顔で俺を見る。 必要以上にオレの体にツンツンと触って来る彼女。 一緒にいるだけでドキドキしてんのに彼女はオレの気も知らず、 無邪気な顔で、手でオレに触れてくる。 (近すぎる!) 夜道。二人きりで歩くと余計に俺の中の自制心が制御できなくなっちまうのに・・・。 「え?」 彼女は自然にオレの手を握った。 そして立ち止まった。 いや、ずっと握って歩いていたけど、妙に力が篭った気がしたのは気のせい? 「・・・!!」 理由がすぐにわかった。 道路の脇に止めてあった車の中で・・・。 濃厚なラブシーンを俺達は目撃してしまった。 スーツ姿の男と女。 男と女は顔の角度をお互いに代え、もうそれは余計な空気を入れないという 程に長く深い口付けで・・・。 助手席にいた女のスカートがもそもそとなまめかしく動き・・・。 (・・・) (・・・) オレと彼女はそれ以上の鑑賞には耐えられなくなり、 ダッシュで歩道を駆け抜けた。 お互い、顔は真っ赤だ。 目を見合わせずにただ、走った・・・。 彼女の家まで・・・。 握り合うその手はさっきより一層熱を帯びていた。 そして彼女の家に着いて・・・。 「・・・」 「・・・」 押し黙って俯く俺達。 見てはいけない、いや、今の俺達には刺激が強すぎた。 ・・・特にオレは何だか変な気分で目の前にいる彼女がまともにみられない・・・。 「あ、あの・・・送ってくれてありがとう。それじゃ・・・」 「あ・・・」 彼女が家の中に入ろうとしたとき・・・。 思わず、オレは彼女の手を掴んだ。 「・・・な、何・・・?ルカ君・・・」 「え、あ・・・えとその・・・」 何を言うとしているだろう。俺は。 「・・・あのさ。やっぱその・・・。あんま、俺達、 その・・・。過剰なスキンシップは・・・」 「え、あ、う、うん。ご、ごめんね。なんか 私、一人舞い上がって・・・」 頬を染める彼女が可愛らしい・・・。 ヤバイ・・・。 なんか・・・。 「お、オレもそうだよ。”過剰”はやだけど・・・」 「・・・!!」 ぎゅっと彼女を一回抱きしめた。 そして彼女の耳元で呟いた。 「・・・。今度からは”全身こちょこちょ”だからな」 彼女は耳まで真っ赤にして深く頷いた。 「・・・じゃ、じゃあおやすみっ」 ガキっぽすぎる・・・。 オレらしくない台詞をはいてしまった。 あれじゃ、ただのスケベじゃないか。 ・・・彼女も嫌がってなかったそうだったのが救いだけど・・・。 あれが精一杯。 ”送り狼”になるにはオレはまだまだガキで。 彼女を守る強い心もないくせに彼女をもっと知りたいだなんて おこがましい。 ・・・オレ自身強くならなくては・・・。 ふっとコウの顔が浮かぶ。 コウならきっとどんな奴からも彼女を守れるだろう。 (・・・) まだまだ弱い俺。 ”狼”どころか、子犬以下かもしれない。 見上げたら月が優しく光っている。 彼女の笑顔みたいだ。 (彼女も見上げているだろうか・・・) 月のように優しい笑顔の彼女への想いを強さに変えて・・・。 オレは携帯から彼女へおやすみのメールを送った。 今度、デートするときはもっと健康的な場所を選び、 明るい歩道を通っていこう。 (・・・しかしやっぱ至近距離は・・・ヤバイかも・・・) ガキのオレは自制心とまだまだ弱いナイト気分を心に刻みつつ。 ・・・けど・・・。彼女の熱がオレの手の中にまだしっかりの残っている・・・。 (今日は寝れなさそうだ) 狼にはなれなくとも・・・。彼女を支えられる男になりたい。 そう思いつつ コウの待つ家へ帰った。