秋風
 
作・霞姫様



太陽が輝いた夏も終わり、この頃は秋一色になった

山の木々は真紅に染まり、秋風が紅葉を運ぶ 



そんな秋の始まり、一行は山の麓の町中にて妖怪退治で疲れきったその身を癒していた







「お食事の用意が出来ました。」

屋敷の者だろうか。食の準備が出来たと伝え、犬夜叉たちを案内する。

運良く今日はたくさんの店や宿が連なる街中で妖怪退治をし、

裕福な家に泊まらせてもらったのだ。





「いや〜、今日は誠に良かったですねぇ。こんな家に泊まれて。」

早くも酔ってよれよれな法師が言う。



元々ここに泊まれたのも、この法師が提案したからであった。本当に妖怪退治をしたかは

別として、とりあえず今日は良かったものだ。

「本当ね。これも弥勒さまのおかげよ。」

「・・・今日ばかりはね。」

嬉しそうに言うかごめに対し、ぼそっと珊瑚が言う。

昼間町の女たちと戯れていたことが、まだ気にかかっているらしい。

「珊瑚・・・お前は・・・。」

と、法師が少し声を細めて呟く。









今日は天候も快晴で、夜には数々の星と真紅の紅葉が人々の目をひいた。

「ここはご飯もおいしいのねぇ。さすがは名家の屋敷。」

「そうだねぇ。それに今日は雲ひとつないから、星が綺麗だし、紅葉も綺麗。」

「まったく申し分ないですな。これも私のおかげ。」



ここまで自分のおかげと称する法師に、かごめも珊瑚も苦笑い。





今日はとりあえず安心といえ、皆にはただ一つ、気にかけなければならないことがあった。







―――犬夜叉が昼、妖怪退治をしたあとに森にいったきり、帰ってこないのであった。



法師は“鼻の利く犬夜叉ならここいても分かる”といいあまり気にしてなかった。

珊瑚もそれほど気にしたようすもなく、ただ犬夜叉が突然消えたことに少し怒っていた。

かごめも・・・当初は気にかけてはいなかった。このごろ犬夜叉が突然消えることが

しばしばあった為だろうか。









しかし夜。



いくらなんでも遅すぎると、仲間たちもそろそろ心配してきた。

しかしにかごめは、もう確信した様子で・・・待っていた。

そのかごめの様子を見て、法師たちは悟らずにいられなかった。





もうそこにいたもの全てが分かった。

七宝でさえ。





この世に未練だけを残し、死に甦った彷徨いし巫女に・・・会いに行っているのだと。











「かごめさま。」

真夜中に声が響いた。



あれからずっとまっていたが、案の定、犬夜叉は帰ってこず、

一行はもう睡眠をとっていくらかたっていた。



だかかごめは、一睡もせずに、いつ帰ってくるかも判らぬ者の

帰りを待ち続けていたのであった。



それには仲間も心配する。







「かごめさま。もうお休みください。明日も早いのですから。」

かごめのことを気遣い、寝るように説得する。



「ごめんないさ・・・。あたし、犬夜叉が帰るまで絶対寝ないつもりなの・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

寒さを帯びた秋風が、二人を沈黙へ誘う。

「しかし・・・・」

またもや言葉を発した法師であったが、かごめは微動だにしない。



ただ、犬夜叉の帰りを待ち続けている。





「かごめさま・・・・・・・。」















いくつもの紅葉たちが舞い落ちたのだろうか。

満月がかけはじめたとき、少し急ぎめの足音が聞こえた。





やっと、もどって来た・・・。



心の中で呟いた。







「かごめ・・・・。」

「犬夜叉・・・。」



二人をただ秋風だけが、取り巻く。



冷たくて、寒くて、淋しい秋風が。











「おかえり。」

かごめが言った言葉は、ただこれだけだった。



「眠れなかったの。こんなお屋敷、なれてなくてさ。」

判りきった嘘を一生懸命つく。



そんなかごめに犬夜叉は何も出来なくて・・・。

ただつったっていることしか出来なくて・・・。



そんな己に、どうしようもない後悔の想いが積みあがってきて・・・。





「お前・・・・ずっと待っててくれてたのか・・・。」



冷たい秋風にすっかり冷やされたかごめの頬に触れる。

自身の手も、とても冷たくて、かごめの頬を暖めてやることは出来ない。

まるで、自分の無力を感じるようだ・・・。





「ほっぺた・・・こんなに冷てぇ・・・・・・。」

「犬夜叉こそ・・・・・手、冷たいわね・・・・・。それに・・・・・頬だって冷たいじゃない。」

「お前だって・・・・・・・。」





しばらく、二人を沈黙が取り巻く。

そして



「これからもっと、もっと、寒くなるのよ・・・・・・・・・・・。」

犬夜叉の頬に触れ、静かに吹く秋風を見ながら言う。



「・・・・・・寒くなったら、暖めて・・・・・・。」

寒さで凍りつきそうなその手で、犬夜叉を力いっぱい抱きしめた。



「かごめっ・・・・・・。」

そのかごめの身体から伝わってくるのは、無数の愛と、暖かさ。

現実をありのままに受けとめて自分のそばに居てくれる。

そんなかごめの愛と暖かさ。





「犬夜叉ぁ・・・。」

その姿は見えないが、かごめが泣いていることが手にとるように判る。

そんなかごめを、犬夜叉も力いっぱい抱きしめた。













二人の間には、言葉も時間もいらない。

必要なのはただ、愛と暖かさだった。







伝えてないけど伝わっている。

気が付けば通じ合っている。



二人を・・・結んでいる。























ふと気が付いた時にはもう、太陽が出ていた。



目をあければお互いの顔。

身体を離しても残るぬくもり。





「犬夜叉・・・おはよう。」

秋の朝、笑顔であいさつをする。

犬夜叉も笑顔で返し、そっとかごめの手をとった。



そこで、気づいたことがあった。



「・・・手・・・いつまにか暖かくなってるな・・・・。」

「手だけじゃなくて・・・頬もよ・・・・。」

人差し指で犬夜叉の頬に触れ、またその手を犬夜叉の手に戻す。







「ずっと手、離さなかったもんな・・・・・。」



「うん・・・・。」





ただ言葉だけが響いて消える。









だけど繋がれた手のぬくもりは・・・消えなかった。















山の麓の町中。

気のせいか、秋風が昨日より暖かくなっていた。











                     〜あとがき〜 

秋・・・恋とか想いとか、いろいろありますよね。そんなことに悩んでぶつかって、最後にはぬくもりをもって決意をするかごめを書きたかったんです。何もしないで、ただ苦しくて辛いだけでそばいることを決意するだけじゃつまんないと思ったんです。

それともう一つ。人を想い、愛することには必ず、「暖かさ」があるんじゃないかと思います。そのことに気づくかごめも書きたいと思い、表現してみました。

まだまだ修行のたりないこんなものですが、これからもどうぞよろしくお願いします。

                                                  2004.10/9