『変わりゆく心』
(第1話)

                                            
しっか様


「桔梗・・・もはやこれまでだな・・・」

「くっ・・・奈落・・貴様、何をした・・・」

「教える必要はあるまい。もうすぐ桔梗・・・お前は二度と目覚める事がないのだからな・・・」

「何・・・っ」

ここは深い森の中。桔梗の結界を通り抜けた奈落を見据える桔梗。奈落の気配に桔梗は気付いていたが、
四魂の欠片によって奈落の力は増大しており、桔梗の攻撃は通用しなかった。

「まずいな・・・」

この侭では…私の霊力も効かない…・か…)

「もう、観念するんだな…。桔梗、わしの手であの世へ送ってやろう…。」

「くっ・…。」

―トスッ・・―
手を付いたのは骨食いの井戸。かごめの時代とこの時代を唯一結ぶ通り道。

かごめは私の生まれ変わり…ならば、私もこの井戸を通れるかもしれない…。魂が同じなら・…平気な筈だ)


「桔梗・・・お前は何を考えてるのかは知らんが、もうお前ははここで朽ちる他・・・何!?」

桔梗は、古井戸の中へ飛び込んだのだ。
そして奈落が井戸の中を見たときには桔梗の姿は消えていた。

「ふっ・・・まぁいい・・戻ってからでも遅くはない・・・」

桔梗、お前がこのわしを甘く見ていた事何れ貴様は後悔する・・・)

そして奈落は去っていった。


一方、井戸の中へ飛び込んだ桔梗。

「・…う・・っ…」

体に特に外傷は無く、ゆっくりと起きあがる。

「とにかく・・ここから出るか・・・」

桔梗は井戸の中から出た。すると偶然、祠の中に居た草太がブヨを抱えたまま驚いた表情かお)で立ち尽くしていた。

「あの・・・おねーさん誰?」

「私か・・・?私の名は桔梗だ。お前、かごめを呼んできてくれるか?」


「わ、分かった。ちょっと待ってて」

草太はかごめを呼びに家へと戻った。

「ねーちゃーん!」


草太はかごめの部屋のドアをいきおいよく開けた。

「もう、あたしは今勉強で忙しいって言ってるでしょ!それにドアは静かに開けてよ」

「それどころじゃないよ。ねーちゃんにお客さんだよ」

「私に?誰?」

「桔梗・・・っていう人。祠にいるから呼んできてくれって・・」

「桔梗が?分かった。行ってくる!」

かごめは祠の方へ向かった。向かう間、何故桔梗がここに居るのjかという疑問が浮かんでいた。

(どうして、桔梗がこっちに来てるの・・・?)

そして、祠に着くと草太の言っていた通り桔梗が立っていた。


「桔梗・・・あなた、どうしてここに・・・」

「奈落に・・・殺されそうになってな。」

「奈落に?どうして…あなたが殺されそうになるの?」

「奈落は・・私の霊力では倒せない程までに強くなってきている。奴は四魂の欠片をほぼ手中にしている。ふん、
私が欠片を渡したのが裏目に出たのだろう。私の誤算だ…奈落に四魂の欠片を集めさせ、完全な玉になった時、私が奈落を葬る筈だった。」

「だからあの時あたしから四魂のかけらを奪ったの?」
「そうだ。あいつが完全な四魂の玉を手にしたとき、私が玉ごと消し去ろうと・・・」

「そう、だったんだ…」

だからあの時犬夜叉あんな事言ったんだ。)

悟心鬼に鉄砕牙を砕かれて、初めて妖怪に変化してしまった時…傷ついた体で死魂虫を追いかけた犬夜叉。

あんな目にあったのに桔梗を庇うなんて…腹が立ったけど…それなら言ってくれれば良かったのに。

肝心な事何も言わないから誤解しちゃうじゃない…バカ。

「…とりあえず私の部屋に行きましょ?立ち話もなんだし・・ね」

「そうだな…」

そして、かごめは桔梗を連れ自分の部屋へと移動した。

「そういえば…桔梗もあの井戸・・通れたのね。やっぱり、魂が同じだから…とか?」

「…そうだな、お前は私の生まれ変わり。皮肉な事だが、だからあの井戸は私でも通れたのだろう。」

「そう…でもあなたが無事で良かった。もし、あなたの身に何かあったら…犬夜叉きっと自分を責めると思うから・・。」

笑顔でそう話すかごめに、桔梗は不思議でならなかった。

「何故…そんな風に笑っていられる?お前にとって、私は邪魔な存在ではないのか?」

「そりゃ、そう思った事もあったけど…あなたと犬夜叉が会ってる所見るのは辛いし、2番目なんだって思い知らされる。
二人の絆を断ち切る事なんて絶対出来ないって分かってるから。でも、今は邪魔だなんて想った事は無いわ。どうしてかなんて・・分からないけど」

「・・…。」

「とりあえず、暫く私達と一緒に行動しない?あなたは居づらいかもしれないけど…あなたに何かあったら犬夜叉が守ってくれるから。」

「お前は、それで良いのか?」

「良いのよ、もしかしたら…桔梗も何かが変わるかもしれないじゃない。」

「・・…そういうものか?」

「…え?」

「何故、そんな根拠も無い事が言える?…お前は、何時か仲間に裏切られるなどとは思わないのか?そんなに人を信じられるのか?」

「私は皆の事信じてる。犬夜叉も、弥勒様も、珊瑚ちゃんも・・七宝ちゃんも、皆絶対信頼できて頼れる仲間だもの」

桔梗は黙ってかごめの言葉に耳を傾ける。

「犬夜叉だって…初めて会った時より変わったし・・だから桔梗も、変われるんじゃないかって思ったの。」

「…分かった。どちらにしろ、私の霊力が奈落に敵わぬ事は変わらない。暫くお前達と行動しても構わない。」

「本当?それじゃ、明日の夕方御神木の前で待ってて。私、明日テストだからそれが終わったらすぐに行くから。」

「…ああ。」

「ってもうこんなじゃない。そんなに長話してたっけ・・?あ、桔梗寝る時は私のベッド使って。私は隣に布団敷いて寝るから。」

「だが、お前は・…」

「良いのっ、気にしないで。私…何か、今日桔梗と沢山話せて嬉しかった」


そして、その夜静かな眠りについたのだった。

次の日の朝…

「いってきまーす!!」

かごめはテストの為、学校へと出かけた。桔梗はかごめの部屋で考え事をしていた。

「かごめと居ると…調子が狂う・・」

桔梗は頭を抱え、小さく呟いた。


そして、陽も傾いてきた頃、桔梗は御神木の前でかごめを待っていた。

「この木だけは…変わっていないな…」

犬夜叉と出会い…そして、封印した場所。桔梗の中で、悲しい過去が蘇る。

(ずっと、犬夜叉と共に生きていけると…本当にそう思い、信じていた。…あの日、犬夜叉に腕を引き裂かれた時、信じられなかった。
四魂の玉で人間になると言った・・あの言葉が裏切られた気がした。あの時の犬夜叉の言葉は…今でも忘れる事が出来ない…)


――犬夜叉・・…。


と、その時かごめが戻ってきた。急いでいたのか少し息切れもしているように見えた。

「桔梗、っ・・ごめん待った?何か補習とかあって遅くなっちゃって…」

「いや、別に構わない。私も今来たところだしな。」

「そう?それじゃ、犬夜叉達の所に行きましょ。早く戻らないと犬夜叉も煩いし・・。奈落に気付かれないうちに。」

「そうだな…。」

かごめと桔梗は、井戸に飛び込み楓の家へ向かった。

その頃、楓の家では・・何時もの如く犬夜叉が怒鳴り散らしていた。

「っだ〜〜〜!!・・かごめの奴遅っせーな!3日で帰ってくるんじゃなかったのかよ!!」

「そう吠えるな、犬夜叉。かごめ様にも何か事情があるんでしょう。そんなに気になるなら迎えに行けば良いでしょうに。」

「んな事言ったって…追い返されちまったんだから仕方ねぇじゃねぇか。」

「もう…そんなに怒らなくてもかごめちゃんは帰ってくるだろ?遅れる事もあるけど何時もちゃんと戻ってきたじゃないか。」

「やっぱり、かごめがおらんと淋しいんじゃろ?」

七宝の言葉に言葉を詰まらせる犬夜叉。

「…図星じゃな。」

「七宝・・てめぇ…」

ぼかっ!!

「うわーん!!犬夜叉が殴った〜!!」

「けっ。」

「・・はぁ。あたしちょっと見てくるよ・・これ以上煩くされても困るし。」

「お願いします…珊瑚。」

珊瑚はため息を吐いて家の外に出た。すると、かごめと桔梗がすぐ傍に近づいていた。

「かごめちゃん、どうしたの?桔梗も一緒に居るなんて…」

「うん・・・ちょっと色々あって。詳しい事は中で話すから・・。」

そして、中へ入ると案の定仲間達は二人が一緒にいる事に驚いていた。

「何で、かごめと桔梗が一緒に居るんだ?何か、あったのか?かごめ。」

「うん、実はね…桔梗が奈落に殺されそうになったらしいの。」

「何っ!?桔梗…本当なのか?」

「…あぁ・・。」

桔梗は静かに頷いた。

「それで、ね。暫く…桔梗も私達と一緒に行動した方が良いんじゃないかなって思ったの。その方が、私達も心強いし…
それに・・犬夜叉も近くに桔梗が居れば守りやすいし…ね?犬夜叉。」

「そりゃ・・そうだけど・・かごめは、それで良いのか?」

「だって、しょうがないじゃない。それに、犬夜叉が桔梗を放って置けないの分かってるもの」

「かごめ…」

「しかし、桔梗様はこういう事を好まれる方では無いでしょう?本当に宜しいんですか?」

「私が同意したのだから、気にしなくても良い。」

「・・そうですか。では、桔梗様も暫く旅に同行するという事で・・良いでしょうか?」

「ありがとう、弥勒様。」

そして、その陰で不適な笑みを浮かべる者が居る事にも気づかぬ侭…夜がふけていった。

次の日…。

「なっ…なんだっ、これは〜〜〜っ!!」

犬夜叉の大声で眠っていた他の仲間達は目を覚ました。

「もう〜…どうしたのよ犬夜叉ぁ・・そんな大声出して…Σってちょっとあんた・・何があったのよ!?」

かごめは、犬夜叉の姿を見た瞬間目が冴えた。それ程に驚く光景だったのだ。

「どうもこうもねぇよ。朝起きたらこうなってたんだ・・・。」

犬夜叉の髪はいつもの銀髪ではなく漆黒の色に変わり、爪も牙も消え朔の夜の姿になっていた。

「でっ、でも・・今日は朔の日じゃないでしょ?それに…今日が朔の日でも・・人間になるのは陽が沈んでからなのに…。」

「ったく…一体どうなってんだよ…。」

どうしてこんな事が起こったのか見当もつかず、頭を抱える犬夜叉。桔梗は人間の姿の犬夜叉は見たことが無かったのか、驚きの表情をしていた。

「お前…犬夜叉、なのか?」

「ああ…」

「もしかして…桔梗は、人間の時の犬夜叉って見たことが無いの?」

桔梗の驚いた顔を見、おそるおそる桔梗に問う。

「そうだな…今日、初めて見た。そうか…そういえば、月に一度だけ姿を見せない時があったが…その姿を見られぬ為だったのか。」

「すまねぇ桔梗…俺、迷ってたんだ。この姿で桔梗に会うかどうか…だけど・・何でか分かんねぇけど・・言い出せなかった。」

「…そうか・・。」

犬夜叉…桔梗には人間になってる所…見せた事無かったんだ…)

「ですが、一体誰がこんな事を…」


『くくく…このわしだ…』

突如、聞こえた声に一行は勢い良く外に飛び出した。
するとそこには、頭上から奈落が犬夜叉達を見下ろしていた。

「奈落っ…てめぇ、一体俺に何しやがった!!」

「ふっ・・お前に呪いを掛けてやったのだ。呪い…と言ってもお前自身に掛かる訳ではない。かごめと桔梗に…だ。」

「何ぃっ!?どういう事だ!!」

「七日後…犬夜叉の選択次第で二人の運命が決まるのだ。」

不適な笑みを浮かべながら、奈落は言った。

「どうすれば、元に戻れるのっ!?」

「それは犬夜叉次第だ。…犬夜叉が桔梗を選べば、かごめは琥珀同様…――」

「記憶が消されて…奈落の手下になるって事?」

「そういう事だ。余計な感情も捨て去る・・そしてお前の霊力を利用させて貰う。」

「誰があんたの言う事なんて聞くもんですかっ!!」

かごめは奈落を睨み付けて言い返す。

「ふん…威勢が良いな。そして…かごめを選べば桔梗は否応無く骨と墓土に還る。さて…どうする?犬夜叉…」

「くっ…」

(一体・・どうすりゃ良いんだ…。桔梗を選べばかごめが奈落のモンになっちまうし…かごめを選んだら桔梗が死ぬだと?!)

「お前の体はどちらを選んでも、元の姿に戻る。この二人のどちらかがお前の前から消えるだけの事…せいぜい考えるんだな…。」

そう言い残し、奈落は去っていった…。

「ちくしょう・…」

犬夜叉はその場に座り込み、拳を地面に叩き付ける。

「大丈夫よ、犬夜叉!!私が奈落に操られる訳ないじゃない!!」

「けど…」

こんな…人間の体の侭じゃ…かごめも桔梗も、守りきれないかもしれねぇ…)

「大変な事になったね…これからどうするのさ?」

奈落が去った後、珊瑚が問うた。

「そうですな…とりあえず、七日間は動かない方が良いでしょう。犬夜叉が元に戻るまでは…。」

「うん…そうだね…。でも、それまでに犬夜叉がかごめちゃんか桔梗か選ばなきゃならないんだろ?」

「まぁ、向こうから考える時間を与えられたんです。これを機に犬夜叉の答えも見つかるでしょう。」

「・・ああ・・」


―――――…

楓の家の中、かごめはぼんやりと考えていた。犬夜叉がどんな答えを出すのかを・・・。犬夜叉はというと未だ帰ってくる気配は無かった。

犬夜叉…一体どうするんだろう…。犬夜叉が私を選んだら、桔梗が死んじゃうし・・桔梗を選んだら…私が奈落の手下にされる…)

「はぁ・・。」

思わず、かごめにため息が漏れた。


犬夜叉にとっては、自分の気持ちに向き合ういい機会なのかもしれない。

でも…もし犬夜叉が桔梗を選んだとしたら?私は…記憶も感情も消されて…奈落の手下になっちゃうのかな…。

そうなったら…私は皆の敵になるって事よね…。例え、記憶があっても感情が無いんだから同じだし・・。

そんなの、嫌・・っ!!だけど…桔梗が骨と土に還されるのも、其の侭になんてして置けない!!

「かごめ…話がある。」

「話?何・・・?]

「ここでは言えない。外に出よう。」

「分かったわ…。」

そして、桔梗はかごめを近くの森の中へ連れ出した。

「それで…話って何?」

「私は…お前の中に還ろうと思う。」

「ど、どうして?!犬夜叉はあんなに必死になってあなたを助けようとしてるのに…」

「ずっと、犬夜叉を見ていて分かった。私では…犬夜叉の心を癒す事は出来ない。今のあいつは、私と居る時・・何時も辛そうな顔をしている。
だが、お前と居る時は違う…。」

「え・・。」

「犬夜叉は、お前と出会った事で変わった。何も信じようとしなかったアイツが変わったのは・・お前が居たからだろう?本当なら、私が犬夜叉を
癒したいと思っていた。しかし実際に癒したのはお前だった。」

「桔梗…。」

「お前に出来る事は…私にも出来ると思っていたが・・私には何かが欠けていたらしい。」

「欠けているもの…?」

「かごめにはあって、私には無いもの。それが何なのか今の私には分からない。それに…私も、時間が無い。」

『時間が無い』桔梗のその言葉にかごめは不安を覚える。

「時間が無い…ってそれじゃぁ・・もしかして・・」

(もう、死魂で体を支えるのが精一杯って事…?)

「だから、もう良いのだ。奈落に土と骨に還られるのなら・・お前の中に還った方が救われるかもしれない」

「でも…っ・・」

そんな事したら…犬夜叉は・・)

自分の事を・・責めるんじゃないのかな・・。

自分には・・何も言わなかったって…・・。


「今の犬夜叉には、お前が必要なのだ。犬夜叉の心が私を占めているとしても・・それはアイツの優しさと責任感からだろう・・。」

私の本当の願いは・・犬夜叉と共に生きる事だった。だが、もうそれは叶わない。ならば…形は違えどかごめの中で犬夜叉と
生きていけるのなら…後悔はしない)

「…分かった…。」

かごめは小さく呟き、頷いた。



――後書き――

初投稿です!!なんだか、桔梗が凄く素直すぎて別人のようです;;普段の桔梗はこんなに素直じゃないですよね(^^;;
かごめと桔梗が少しでも仲良くなれば良いな〜…と思って書きました。
奈落なんて…何でそんな事が出来るんだろう、と自分でも不思議なのですが(笑)
この続きも頑張って書こうと思ってるので、よろしくお願いします。