巡る恋歌
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屋敷に響き渡った、秋姫の声。 一行は言葉を失い、ただそこに立ち尽くしていた。 一行と秋姫の足元に広がる光景は、布団の上で静かに眠る若い女性だった。 髪を元結【もとゆい】で何ヶ所も束ね、秋姫より少し大人びた表情の美しい女性。 「この人が、春姫さん・・・。」 かごめが口を開くと、秋姫は頷いた。 「なんだ、寝ていたの。だったら別によかったのに。こんな失礼だよ。人の寝てる所だし。」 「そうですよ。いかにも女人【にょにん】の寝姿をこっそり拝見するなど・・・。まぁ、それもいいかも しれまんが・・・。」 そう法師が言うと左方の珊瑚から怒りの視線が突き刺さった。 「ちょっとちょっと・・・。とにかく今はいいわよね。」 そうかごめが切り出すと、二人は頷きその場を離れようとした。 だが、犬夜叉だけは違った。そしておもむろに春姫の前へ行き、その姿を見た。 「犬夜叉。何やってんのよ。失礼でしょ。」 かごめの言葉さえも無視してこう言った。 「何か・・・この女変だな。何てゆうか、生きてる感じがしねぇ・・・。」 「えっ・・・。」 かごめが喋る前に、秋姫が言った。 「・・・姉は・・・、一年前から病気により目を覚まさないのです・・・。」 一行に衝撃が走った。 「一年前・・・ちょうど、雅道さまが戦【いくさ】の為、北国に向かったころからでした・・・。 薬師【くすし】からも、目覚める見込みはないと言われました・・・。」 「そんな・・・。ですが、」 「残念ですが・・・、あなた方の御用ははたせません。ですから、もう・・・・・・」 法師の言葉をさえぎるかのように一言告げ、湧き上がる想いを押さえつつ、その場を去った。 「っておい、秋姫!」 犬夜叉が呼び止めたが、法師は「やめろ。」といい、彼を静めた。 それからというもの、一行は黙りきってしまい、その場を後にした。 その夜、一行は秋姫の屋敷に泊めてもらった。秋姫の女房らしき者たちが一通り一行の 食事や寝床を用意し、あっというまに時は過ぎた。 そして、丑三つ時ともあろう時間に、一行は話し合った。 「しかし・・・どういたしましょう。我々は春姫さまに会うことだけを目的にこの地へやって きました。そしてようやくその方に会えたというのに・・・。」 「いきなり目覚めるってことはないと思うし・・・。」 そう二人がいうと、かごめは立ち上がった。 「ってかごめ。何してんだ。」 犬夜叉を無視し、外に身をのりだして夜空を見つめた。 「やっぱり、あたしはもっと三人のこと知りたい。皆何も知らずに死んでいく前に・・・。」 漆黒の夜に、かごめの想いが響いた。 〜一言〜 とうとう一行は春姫に会いました。だがその状況は思ってもいないもので・・・。 「巡る恋歌」 そろそろ中盤戦に突入です。これからは雅道、美依、そして残さ れた春姫の運命【さだめ】を中心に、そしてその裏で、犬夜叉とかごめの三人 に対するさまざまな想いや葛藤を書いていきたいと思います。