「巡る恋歌 9」 早くも朝日が屋敷に差込み、それぞれ眠れぬ朝を迎えた。 秋姫は前晩からずっと、目覚めぬ姉に付き添っていた。 「お姉さま・・・。朝になりましてよ。もう目覚めなければ・・・。 姉さまを訪ねにきたお客さまもいらっしゃるのですから・・・。」 いくら声をかけてもかえってくるのはいつもと変わらぬ、無表情な姉。 それでも毎日毎日語りかけるのは、たった一人の肉親である姉を想うゆえ。 「姫さま。」 ふと、後ろから女房が声をかける。 「・・・侍従・・・。どうしたのです・・・。」 「何を申されますか、姫。姫さまは昨夜からお食事はおろか寝てもいないでは ありませんか・・・。ふだんからの生活もお体に決して良くはございませんし。 このままだと姫さままで・・・・・・」 「放っておいて!」 部屋に秋姫の悲痛な声が響く。 「お願い・・・。私は大丈夫ですから・・・。このままだと、そなたにひどい事を言ってしまう・・・。」 侍従が言葉を発する前に秋姫は姉の方を向いてしまう。 仕方なく侍従はその場を後にし、犬夜叉たちがとまっている北の対へと向かうのだった。 相変わらず姉姫に寄り添い語りかける妹姫。 だが、もう姫の限界はすぐそこにきていた。 普段から陽の光のも浴びずに、常に暗い寝室で過ごし、昨日からは何も食べずに ろくに寝てもいない。 「姉さま・・・、少しあちらに参ってきま・・・・・・」 トサッ・・・ 苦しさと辛さが姫を一気におそい、立ち上がろうとするがふらついてしまう。 「あ・・・・・・」 疲労は突然やってきて、驚きの言葉を発する前に、目がかすみ、周りのものが ぼやけてくる。 「あ・・・わた・・・く・・・し・・・」 言葉を発するごとに苦しさはまし、残された視界を頼りに姉姫に寄り添う。 「お・・・ねえ・・・さ・・・ま・・・」 ”もう限界がきてしまいました”という言葉を心の中で呟き、静かに瞳を閉じてゆく。 とぎれゆく意識の中で、秋姫はこう聞いたような気がした。 とても優しく、しばらく聞いてなかった声で・・・ ・・・秋姫・・・ 泡沫の世界の中で秋姫は問う。 このお声は・・・ まさか―・・・ そこで秋姫の意識は完全に消えた。 「秋姫さんっ!」 しばらくして、勢いよく御簾をのけて一行が入ってきた。 一行が見たものは眠る姉姫に寄り添うように倒れている妹姫。 「秋姫さん・・・まさか・・・。」 かごめの顔がくもるが、法師が妹姫に脈があることを確かめる。 「お顔が大変青ざめていますが、たいしたことはなさそうです。疲れが限界に 達して気を失ったのでしょう。」 法師の言葉を聞いて皆安堵の表情を見せ、女房達に手伝ってもらい、秋姫を 別の場所の寝かす。 「ったく、人騒がせな女だぜ・・・。」 「こら犬夜叉、姉君を想うゆえの行為だったのですから。」 「ねぇ、秋姫さん、何か言ってない?」 二人の言い争いは珊瑚によってとめられる。 誰よりも先にかごめが妹姫のそばにゆき、様子をみる。 「・・・さ・・・ま・・・。」 「ねえ・・・さ・・・ま・・・。」 「秋姫さん・・・。」 涙を流しながら必死に姉をことを呟く。 「秋姫さん。大丈夫よ。お姉さんは必ず目覚めるから・・・。」 と言い、秋姫の手を握る。 「お・・・ねえ・・・さ・・・ま・・・」 ―泡沫の夢幻 儚い夢の中で、かすかに聞こえてくる姉の声を目ざして、秋姫は彷徨っていた。〜一言〜とうとう春姫と出会うも、まだ彼女は目覚めません。けれども妹の必死の呼びかけが 通じたのか、ここで転機が訪れます。雅道、美依、そして春姫。恋の縁により集まった 三人の謎が、春姫の目覚めによりこれからとうとう明かされいきます。