夜月 第三話 血の繋がり 作:露乃 「兄上って・・・犬夜叉、どういうこと!?」 そんなかごめの問いに犬夜叉は答えず、少女に問い掛けた。 「夜月・・・本当に夜月なのか?」 犬夜叉は目の前にあることが未だ信じられずに混乱していた。 ――生きて会うことはない・・ずっとそう思っていた。 思い出す度に夜月は死んだのだと、ずっと自分に言い聞かせてきた。 あの夢はこのことを暗示していたのか? 犬夜叉に夜月と呼ばれた少女は、目に涙を浮かべて犬夜叉に抱き付いた。 「っ兄上!よかった・・・・。生きていたんですね!」 「ほ、本当に夜月なんだな!?お前こそよく生きて・・・・」 かごめ達は突然の展開に頭がついていかず黙って二人を見ていたが、かごめはもう一 度、犬夜叉に問い掛けた。 「い、犬夜叉・・・・この子・・あんたの・・・」 「あ、悪い。こいつは・・・夜月は俺の妹だ」 と、犬夜叉はあっさり答えた。 先程の会話で予想はしていたが、かごめ達は瞬時に固まってしまった。 「「えーーーーー!?」」 「何じゃとーーーーー!?」 「何ですとーーーーー!?」 犬夜叉と夜月以外の声が大音量で小屋中に響き渡る。 その声がとっさに耳を塞いだ夜月と違い、出遅れた犬夜叉の耳にみごとに響いた。 「〜お〜ま〜え〜ら〜。いっきなり大声だすな!!耳が飛ぶかと思ったじゃねえか !」 「い、犬夜叉・・・あ、あんた妹なんていたの!?」 犬夜叉抗議を無視してかごめは言った。 「あ〜びっくりした。兄上、この人達は?」 耳を塞いでいた手を放して夜月は犬夜叉を不思議そうに見上げる。 「ああ、俺の仲間だ。夜月、かごめ達に謝れっ。かごめの腕の怪我はお前がやったん だろ?」 何があったかはよく犬夜叉には分からなかったが、この騒ぎの原因は間違いなく夜月 だった。 ――夜月はその刀でかごめに怪我をさせた。 それを見過ごしておくことはできない。 「え?あ・・・・はい。」 夜月が犬夜叉の側から離れると、先程落とした刀を鞘に収めてかごめ達の側に行き、 頭を下げた。 「兄上の仲間の方達とも知らずに、先程無礼を働いてしまってすみませんでした。・ ・・あの・・・怪我は大丈夫ですか?」 刀を向けてきた時とは全く違う少女の様子。 かごめ達はそれに目を見張るばかりだった。 その夜月の言葉遣いなどは丁寧で、とても礼儀正しいものだ。 先程の殺気に満ちた雰囲気は跡形もなく消えている。 かごめ達に謝るように促した犬夜叉もこれには少々驚いていた。 「だ、大丈夫だけど・・・・犬夜叉、本っ当〜〜にあんたの妹なの?」 「だからさっきから、そう言ってんだろが!おめえらそんっなに信じらんねえのか! ?」 かごめが疑り深い目で聞いてきたので、犬夜叉は怒鳴った。 「信じられん!」 七宝は間髪付かぬ間に即答。 「さっきはともかく、こんな礼儀のある者が犬夜叉の妹などと信じられる訳ないじゃ ろ!」 それはかごめ達の共通した心の叫びをさらりと代弁したもの。 夜月の雰囲気は犬夜叉とは全く違う。 犬夜叉の口調や性格とはかけ離れているものだ。 はっきり言えば・・・犬夜叉と夜月の精神年齢が逆なのではと疑わせるほどに。 その直後、犬夜叉のげんこつが七宝の頭に降った。 「どういう意味だ、七宝!てめえ俺に喧嘩売ってんのか!?」 「っ〜かごめぇ〜犬夜叉がおらをいじめる〜〜」 七宝は痛む頭を押さえながらかごめの側に行く。 「けっ。こんな時だけ子供ぶりやがって」 「七宝ちゃん大丈夫?ちょっと、犬夜叉!」 「兄上!いくら何でもこんな子供を殴るなんて大人気ないじゃないですか!」 かごめだけではなく夜月にまで言われる犬夜叉。 だが懲りた様子は全くない。さらにそこで聞き覚えのある声が聞こえた。 「そうですぞ犬夜叉さま!夜月さまが生きておられた上に、こんな立派に成長されて いるというのに、何故犬夜叉さまは成長されぬのじゃ!?」 「は?いてっ」 かすかな痛みを感じて犬夜叉はそこをたたく。 ばち! ブチ! 犬夜叉の手の上に何かが落ちた。それはノミ妖怪の冥加だった。 「冥加さま、いつの間にここへ?刀々斎さまの所におられたのでは・・・」 「つい先程じゃ。刀々斎から夜月さまが生きておられるかもしれないとの話を聞き、 犬夜叉さまに知らせに来たんじゃ。しかしこんな所で会えるとは・・・」 「みょ、冥加おじいちゃん!?冥加おじいちゃんも生きて・・」 夜月は冥加に話し掛けるが、それは途中で犬夜叉に遮られた。 「こら、冥加じじい!それはどういうことだっ、俺は初耳だぞ!そういうことはもっ と早く・・・・。」 「そ、そう申されても、わしもこの前聞いたばかりでして。刀々斎が夜月さまに会っ たのはかなり昔だったようで、刀々斎も忘れていたらしく・・・・・」 「あ〜の〜じ〜じ〜い〜」 沸沸とこみ上げてくるのは、怒り以外の何物でもない。 (次に会った時はただじゃおかねえ!) 犬夜叉は心の中で固くそう決意した。 弥勒は犬夜叉が握りこぶしを作っているのを見て、軽くため息をついて言った。 「まあ落ち着きなさい、犬夜叉。とにかく説明してくれませんか?この少女のこと を」 「そうだよ、犬夜叉。あたし達はあんたに殺生丸以外に兄弟がいるなんて、聞いたこ ともないんだから」 「それにかごめの腕の怪我の手当てをせねば」 突然現れた犬夜叉の妹という少女。 けれどかごめ達は、そんな話を犬夜叉から聞いたことは一度もない。 兄弟は殺生丸のみだと思っていたのだ。 いきなり妹と言われても、すぐに納得することはできない。 「あ、ああ。そうだな」 犬夜叉達はかごめの腕の怪我の手当てを終えてから、囲炉裏の周りに腰を下ろした。 「さて、話を始める前に少々自己紹介をしましょう。夜月・・・といいましたね。私 の名は弥勒。法師です」 「あたしは珊瑚。妖怪退治屋だよ。で、この猫又妖怪は雲母」 「おらは狐妖怪の七宝じゃ」 「かごめよ。少し風変わりな着物を着てるけど気にしないでね」 夜月は兄の仲間の妖怪と人間というめずらしい組み合わせに少々驚きながらも、己の 自己紹介をした。 「妹の夜月です」 「では夜月。お前に一つ頼みごとがあるのですが、四魂のかけらを持っていますよ ね。それを渡してくれませんか?我々はそれを集める旅をしているのです」 夜月の持つかけらは奈落が持たない残り少ないかけらの一つ。 これ以上奈落に奪われるわけにはいかない。 「・・・あの妖怪も言ってたけど、何のことですか?そのかけらって」 「は?お前知らずに持ってたのか?」 「はい。兄上、あたしはそんな物知らないんですけど・・・何かあるんですか?」 犬夜叉はこの時頭痛を覚えた。 (・・本当に知らずに持ってたのかよ。) 四魂のかけらは、持つ妖怪の妖力を高める物。それを狙う者は多い。 かけらを持っていると妖怪が知れば、たちまち狙われるようになるだろう。 ――知らずに持つなんざ危ねえじゃねえか。 ただでさえ半妖は狙われやすいのに、こいつは・・・・。 犬夜叉は無意識のうちに深いため息をついていた。 その間にかごめ達は夜月に、四魂のかけらがどういう物なのか説明していた。 「・・・だから妖怪の体内から出てきたんですね。綺麗だったから拾って、ずっと 持っていたんですけど・・・・」 夜月は四魂のかけらを入れた小袋を見る。 妖怪が欲する力を秘めている、見た目はただの小さい石のかけらがあった。 「とにかく夜月ちゃん、それを渡してくれないかな?かけらを狙う妖怪は多いし・・ ・」 「え?あ・・・はい。構わないですよ。どうぞ」 かごめに言われて夜月は、小袋ごと四魂のかけらを渡した。 「兄上、一つ聞きたいことがあるんです」 「ん?何だよ」 「殺生丸の兄上は・・生きているのですか?」 一瞬ではあったが犬夜叉の顔が引きつった。 「・・・・・生きてるぜ。しぶとくな」 夜月はこの犬夜叉の言い方に少し首を傾げたが、安堵した。 かごめはしみじみと考え込む。 (この子・・・やっぱり犬夜叉の妹とは思えないのよね〜) ――外見は確かに犬夜叉に似ている。 白銀の髪と犬の耳、それに金色の瞳。 髪は自分より短いくらいの長さだ。 刀を手にしていた時の様子は、以前の犬夜叉を思い出させるほどに似ていたように思 う。 けれど、今よく見ると幼さのある大きくて丸い瞳。 そしてどこか意志の強さと少し大人びた雰囲気を感じさせる少女。 かわいらしさを感じさせるその表情は犬夜叉とは全く違うものだ。 (殺生丸のことも兄上って呼んでるみたいだし・・・・。) どうして兄弟なのに雰囲気がこんなに違って・・・・・・あれ? そこまで考えてかごめは、ふと疑問が沸き起こる。 「ねえ犬夜叉。夜月ちゃんも殺生丸みたいに異母兄弟なの?それとも・・・」 「いや、夜月は実の妹だ。俺が夜月と生き別れた原因は・・・・・」 それから犬夜叉はぽつりぽつりと話し始めた。 その話を要約すると、こういうことだった。 夜月も犬夜叉も幼い頃、母親と共に湖へ遊びに行った。 けれどその帰りに野盗に襲われ、その時に夜月は野盗と共に崖から落ちた。 それで犬夜叉は、夜月は死んだと思い込んでいたらしい。 「が、崖から・・・よく無事だったわね、夜月ちゃん。」 「あたし運良いですから」 夜月は大したことでもないというように明るく答えた。 いや、そういう問題じゃないだろうとかごめ達は心のなかで思ったが、口にはださな かった。 それから夜月は、崖から落ちた後のことを話した。 あの時夜月は川に落ちて気を失い、気が付いた時には見知らぬ場所にいたこと。 それから、生き別れた母達を捜している時に刀々斎に会い、亡き父の遺した刀:護闘 牙(ごとうが)を貰い、母の死と兄達の生存を聞いたこと。 妖怪との戦いで、死にまぎわの妖怪に何十年も眠る呪いをかけられて、二ヶ月前に目 覚めたことをすべて話した。 「呪いって・・・お前何やってんだ!危ねえじゃねえかっ、少しは気をつけろよ!」 犬夜叉に怒鳴られた夜月は少しむっとしたのか、犬夜叉に言い返した。 「なっ・・・兄上だって似たようなものでしょう!?普通に生きてきたのなら成長が 止まったにせよ、もっと大人のはずじゃないですか!」 夜月の言葉は的を得ていて、犬夜叉は言葉に詰まりかけた。 「うっ・・・。お、俺は巫女に五十年間封印されただけだっ。とにかく気ぃつけろ !」 犬夜叉は顔を背けて言った。 「・・・はい」 その時二人を宥めるように弥勒が口を開いた。 「まあ、ともかく夜月。お前はこれからどうするつもりなのですか?」 「え?」 夜月の側に行く弥勒に、かごめと珊瑚は嫌な予感がした。 「ねえ、かごめちゃん。法師さま・・・・・」 「だ、大丈夫よ珊瑚ちゃん。いくら弥勒さまでも・・・・・」 半妖なので本当の年齢は分からないが、夜月の見た目年齢は九つ、十くらいの子供 だ。 それに夜月は紛れもなく犬夜叉の実の妹。 小春が十一の時に言われたということはあったが・・・・。 (弥勒さまだって、そのくらい分かってるはずよ) そう・・・・きっと分かっているはず・・・・・・・。 しかし、二人の考えを打ち消すように予感は的中した。 「夜月お前さえ良ければ私の子を産んでっ」 ゴン!!! バキ!! 弥勒は夜月にお決まりの口説き文句を言いかけるが、それは珊瑚の飛来骨と犬夜叉の 鉄拳が頭に直撃したことによって遮られた。 弥勒の後ろには怒りを露にし、殺気立っている二人の姿があった。 「ほ〜う〜し〜さ〜ま〜」 「弥勒、てめえよっぽど地獄に行きてえみたいだな〜」 「〜じょ、冗談ですよ。私だって早死にしたくないですから。」 痛む頭を押さえている弥勒に、かごめと七宝はあきれるばかりだった。 「み、弥勒さま・・・・・」 「アホじゃ」 雲母もかごめ達に同意するかのようにしっぽを振る。 「このスケベ坊主は放っといて、夜月・・・これからどうするつもりだ?それとその 堅苦しい敬語やめてくれねえか?変な感じがすんだよ」 「あ、うん。兄上、これからどうするって決まってるじゃない。」 夜月は側に置いた刀の一つを鞘から少し抜き、その刃を見つめた。 「・・・・おい、夜月?」 夜月は先程の様子と一変して、殺気を感じさせた。 「・・・・あの妖怪達に借りを返す!」 「なっ・・・まさか妖怪って今日お前と戦った奈落達のことか?」 「そいつらに決まってるじゃない。あたしのことをバカにして、絶っ対に見つけ出し て百万倍にして返す!」 手を強く握り締めて怒りを燃やす夜月にかごめ達は、この時初めて納得した。 ――確かに犬夜叉の妹だ・・・・と。 「夜月、それはおそらく無理です」 今度は真面目に言ってきた弥勒に夜月はきょとんとする。 「何故ですか?」 「奈落は常に結界を張っていて、匂いで見つけることはできないんですよ」 「・・・・・・・・」 黙り込んだ夜月に、いつの間にか、かごめの肩の上に移動していた冥加が言った。 「夜月さま行く所がないのなら、しばらくの間犬夜叉さま達とおられたらどうですか ?犬夜叉さまと積もる話もあるでしょうし・・・・」 「・・・でも・・・」 夜月はちらっとかごめの怪我した腕を見た。未だ気にしているのだろう。 「あ、別に怪我のことなら気にしなくてもいいから。ね?」 「じゃあ・・・・しばらくお世話に、なります・・・・」 夜月は俯いて犬夜叉の方を見やる。 この時・・・犬夜叉達は夜月の複雑な思いに気付くことはなかった。 そして、この様子を見ている者がいることに誰一人として気付く者もいなかった。 夜月の手は膝で強く握りしめられていた・・・・・。 「くっくっく・・・・」 何処かの城で妖しく笑う者がいた。 「一体何を見て笑っているんだい?奈落」 神無の鏡を見て笑っているのは奈落・・・・犬夜叉達の宿敵だった。 「神楽・・・面白いことになりそうだぞ。しばし様子を見るか・・・くっくっく・・ ・」 (面白いこと・・・・ね) 奈落が企むことに興味などないが、面倒くさいことになりそうだ。 どうせろくなことじゃねえんだろと思いながらも、口に出さずに神楽はその場を離れ た。 不気味に笑う奈落は、鏡に映る夜月の姿を見ていた。 〜続く〜 あとがき こんにちは!この物語の今までの副題を簡単に説明します! 書かなくてもいいかなと思ったのですが、前にも書いたので一応書いておきますね。 第一話:犬夜叉と夜月、生き別れた時に止まった二人の間の時間が動き出した・・・ というような意味です。以前、抽象的な題をつけることに憧れていたのです。 第二話:『新たなる灯火』とは夜月のことを指しています。今の犬夜叉にとっての大 切な居場所が、新たに増えたというような意味。 第三話:これはそのままで、犬夜叉と夜月が兄弟だという意味です。 やっぱり、微妙な感じです。考えたのが二、三年前というのもあり、訂正とかあまり うまくできないんですよね〜。 一度、頭の中で物語が完成していますし・・・・・・・。 でも、付け加えとかしてるとすごく懐かしいです。 これは私が初めて書いた小説なのですよ。ではまた次回で!