昼がある限りどこにも等しく夜が訪れる。 夜明け前の長い長い闇を照らすのは光る月と星々。 そして夜の闇は夜明けの光に照らされて消えていく。 たとえ雲が空を覆い尽くしても夜明けは必ずくる。 少年の過去の記憶が呼び覚まされる時、出会う魂。 夜の狭間にいるその魂の行く末は・・・・・・まだ見えてこない。 さまざまな苦しみを抱えている少女は、未来に何を見ているのか。 遠い昔に止まってしまった時が動き出していく・・・・・。 夜月 第一話 回り始めた秒針 作:露乃 「母上、兄上ーーー!」 一人の子供が野盗に抱えられ、刀を突きつけられている。 その幼い少女は平民でもなく人でないようだ。 少し冷え始めた秋のためか貴族の着物の上に緋色の衣を羽織っていて白銀の髪に犬耳 があった。 そしてその少女の瞳の先にいる女性が野盗へ必死に叫んでいる。 「娘を、夜月(やつき)を放してください!」 その女性は少女の母のようだ。黒髪でとても美しい人間の女性。 その横には緋色の水干を着た六つほどの少年がいた。 その少年も白銀の髪に犬耳があった。 また二人の周りには護衛(家来)らしき者達と倒れた野盗達がいた。 「う、動くな!動くとこの子供を殺すぞ!」 この野盗は追い詰められていた。 他の仲間は全員倒れた上に、立っている場所は崖ぎわで逃げ道は残されていなかっ た。 こんな高い崖から落ちれば、普通の人間の命などあっという間に消えてしまうだろ う。 その時白銀の髪の少年が飛び出した。 「夜月を放せ!」 突然飛び出したきた少年に驚き、野盗は刀を少年のほうに向けた。 だがそれを見ても少年は止まらなかった。 己の大切な存在を助けたい。そんな思いが少年を野盗の元へと行かせた。 「駄目よ、犬夜叉戻りなさい!」 母の止める声も聞かずに少年は野盗に向かっていった。 けれどそれは遅かった。 幼い少女と野盗のいた崖ぎわが崩れてしまったのだ。 「うわぁぁーーーー!」 「母上、兄上ーーーーー!」 野盗と少女は落ちていってしまった。 それが最後に聞いた少女の声だった。 「・・・・・夜・・・月?」 少年は崖ぎわで立ちすくんだ。 ――今、目の前で起きた出来事を認めたくなかった。 (・・・・・嘘・・・だろ?) 今、何が起きたのだろう? 確かにさっきまで少女はここにいて、少し前までは隣で・・・・・笑っていた。 それなのに・・・・・・・・・っ。 信じたくない、夢だと思いたい一瞬の出来事を前に少年はただ叫ぶことしかできな かった。 そしてその悲しみの声はその場に響き渡った。 「夜月ーーーーー!」 がば!夜の薄暗さのなかで犬夜叉が起きた。その顔には汗がにじみ出ていた。 「ゆ、夢か・・・」 犬夜叉は他の仲間達が起きていないのを確認してから、一人ぽつりと呟いた。 ――幼い頃よく見ていた悪夢。 最近見ることなどなかったのに・・・。 (くそ!) あまりに嫌な夢見に犬夜叉はいらいらした。 この夢は幼く無力だった頃の自分を鮮明に思い出させる。 出来ることなら二度と見たくなかった。 (どうして今頃、こんな夢を見ちまうんだよっ・・・・) そのときまだ真夜中であったが、犬夜叉は夜が明けても眠ることはできなかった。 晴れ渡った青空の下で森の中の道を犬夜叉一行が歩いている。 犬夜叉達は近頃妖怪との戦いが続いていたので休息をとることになり、楓の村に行く 途中なのだ。 けれど、この日あきらかに様子がおかしい者がいた。 「ねえ犬夜叉、あんた今日どうしたの?」 「は?いきなり何だよ、かごめ」 「朝からずっとぼ〜っとして何か考え込んでるし、今日何か変よ?」 弥勒と珊瑚、七宝も言う。 「そうですよ、犬夜叉。一体どうしたんですか?今日に限って」 「そうそう。今まであんたがそんな風に黙り込んでるなんてことめったになかった じゃないか」 「これは天変地異の前触れかもしれないのう」 「な‘っ」 (てめえら、俺を何だと思ってんだよっ!) 弥勒と珊瑚はともかくとしても七宝の言葉に怒りが込み上げてくる。 けれど、七宝をいつものように殴る気にはならなかった。 あの夢のせいだ。 「べ、別に何でもねえよ。気にすんな!」 仲間の気遣いに犬夜叉はぶっきらぼうに答えた。 けれどそれは全く説得力がなかった。この時弥勒、珊瑚、七宝の思考は一致した。 (・・・重傷だ・・・・) そんな中かごめは犬夜叉を見て少し考え込み始めた。 (昨日は特に変わったことはなかったはずよね) 奈落や四魂のかけらの手がかりを探してずっと歩いていた。 最近これといった手がかりが見付からなかったので、不機嫌になるのならまだ分かる のだが・・・・。 (そうでもないみたいだし・・・って、あれ?) ――そういえば、今朝、起きた時犬夜叉は外にいた。 いつもだったら匂いで気付くはずなのに・・・・・・声をかけるまで自分に気付かな かった。 (ひょっとして・・・・・) 「ねえ犬夜叉、あんた何か嫌な夢でも見・・・」 その時犬夜叉とかごめの動きが止まった。 よく知る匂いと気配が二人の動きを止めたのだ。 「どうしたんじゃ?二人とも」 「奈落の匂いだ!」 「四魂のかけらの気配が・・・」 「「「!?」」」 二人の言葉にみなが顔を見合わせた。 「とにかく行くぜ!」 犬夜叉の言葉を合図に、犬夜叉達は奈落のいる方向へと走った。 「く・・・この・・・」 どさ!一人の少女が倒れた。その瞳は閉ざされて、少女は動かない。 「全くしぶといガキだったねえ」 倒れた少女を見下ろして扇を閉じたのは神楽だ。 そしてその隣には・・・奈落がいた。 「神楽、かけらを取ったらそいつを殺せ」 この少女の持つ物さえ手に入れればもう用はない。あとは目当ての物を取るだけだ。 「奈落!」 その時、茂みから犬夜叉達が飛び出てきて奈落達と相対する。 犬夜叉達の視線は倒れている少女に向けられた。 「ひ、ひどい・・・」 傷だらけで倒れているのは九つか十くらいの少女だった。 奈落達と戦ったのかその少女の側には刀が落ちていた。 「奈落・・てめえ!」 あんな子供に刃を向けた奈落に犬夜叉は怒りを隠せなかった。 「・・・・・・」 そんな犬夜叉達を前に奈落達は状況不利を悟ったのか背を向けて去ろうとする。 「逃がすか!」 鉄砕牙を抜いた犬夜叉は真っ先に奈落達のほうに駆け出した。 そして犬夜叉の行く手をさえぎるように瘴気が発生したのはほぼ同時だった。 「ちっ瘴気!」 犬夜叉は後ろへと飛び退き、奈落達は瘴気と共に姿を消した。 「ちくしょう・・・。かごめ怪我してねえか?」 「うん、大丈夫よ」 「おら達も平気じゃ」 瘴気はかごめ達の所まではいかなかったようで、かごめ達に怪我はない。 「それより犬夜叉、あの子・・・」 かごめの一言で全員の視線が少女に向けられた。 犬夜叉達は少女の側に駆け寄り、弥勒が脈をとる。 犬夜叉は少女の容姿を見たときなぜかあの夢を思い出した。 どこかが記憶のなかの存在と重なってみえてしまったからだ。 そしてその時の犬夜叉のどこか悲しげで辛そうな顔を、かごめは見逃さなかった。 「・・犬夜叉?」 「あ、いや何でもねえ」 (どうして・・・) かごめは少し物悲しさを感じた。 ――どうして何も言ってくれないのよ。 あんな顔して何でもないわけないのに・・・・。 かごめは顔を俯かせて犬夜叉のほうを見る。 そんな二人の様子に七宝は気付かず、おそるおそる弥勒に問いかけた。 「死、死んどるのか?」 「いえ、気絶しているだけのようです」 「法師様、この子もしかしたら半妖じゃないかい?」 この少女は容姿から見て半妖のようだ。 白銀の髪に獣の耳、そして鋭い爪を持っている。 「おそらくそうでしょうな。しかし、奈落は何故この子を・・・」 こんな半妖の子供を狙った奈落の意図が全く分らない。 そんな弥勒の疑問にかごめは意外な答えを返す。 「弥勒様。それはたぶん、この子が四魂のかけらを持っているからよ。」 「え!?この子が!?」 珊瑚は思はず声を張り上げた。 (どうしてこんな子供が・・・) 犬夜叉達はみな同じ疑問を抱いた。 四魂のかけらは邪な妖怪が欲するもの。 半妖の子供が持つような代物ではない。 「・・なるほど。それで奈落に狙われたんですな。」 「弥勒、こやつの怪我の手当てを早くしたほうがよいのではないか?」 七宝が少女の傷を見て言う。どの傷もさほど深くはないが、手当ては早めにすべきだ ろう。 「そうですな」 「薬はもうないから、早く楓おばあちゃんの村に行きましょう。そこで手当てを。い いでしょ?犬夜叉」 「あ、ああ。」 犬夜叉の様子が未だ気になっていたかごめだったが、とりあえず今は何も言わないこ とにした。 「では、急ぎましょう」 犬夜叉達は少女の荷物を拾ってから、少女を連れて楓の村への帰路を急いだ。 〜続く〜 あとがき こんにちは!お久しぶりです。露乃です。 水音様、掲示板では心優しいお返事ありがとうございました。私なりのペースで書い ていこうと思います。 人魚姫はパラレルでしたが、今度は原作版です! 実はこの物語、前にあるサイトさんに投稿して未完結になってしまった私の小説のリ ニューアル版だったりします。 ですから、読んだことがある方がいらっしゃるかもしれませんね。 前に書いたため、人魚姫に比べると文章がつたない所があります。 一部訂正した箇所はありますが、書き直すのは面倒だったので・・・・とりあえずま た長編の作品です。 十話以上の長編になります。未完結にしてしまいましたが一度最後まで書いたのでほ ぼ間違いないです。 ちなみにこれは人魚姫と違い犬かごはあまりなかったりします。 とあるテーマのもとに書いた犬夜叉達とオリキャラのストーリーです。 それでは心優しい方々は最後まで読んで下さると嬉しいです。次の話でまたお会い致 しましょう。