西洋発祥の格言に「健全なる精神は健全なる身体に宿る」があります。古代ローマの詩の誤訳で、本来は「不健康な身体には健全な精神は宿らない」との意味を持ちませんが、由来を知らなければ、そう解されても仕方ない表現です▲この格言をそのまま引用して国会で質問をした議員がいます。不適切との指摘に、同議員は健康増進が必要との立場から使用したのであって問題ないと言っています。本当に問題はなかったでしょうか▲強烈な爆風で半分を破壊された原爆遺構、山王神社の二の鳥居は、かつては「片足鳥居」と紹介していましたが「片足」と言われ傷つく人もいることから、現在は「一本柱の鳥居」と言い換えています▲言葉は言霊(ことだま)とも云い、一言が励ましにもなり、危険な刃にもなります。古い諺には差別語が含まれていることがあります。悪意がなくても「自分の言葉がひょっとすると相手を傷つけているかも知れない」を時々省みることが必要ではないでしょうか▲先の国会で「差別は許されない」の文言に横槍を入れ、LGBT(性的少数者)法案提出を自民党が見送りました。党内では「種の保存に背く」等の侮蔑的発言もあった由。無知だけではなく、明白に悪意を持った、差別を当然とする確信的発言は許せません
明治財界の重鎮、渋沢栄一の生涯を描くNHK大河ドラマ「晴天を衝け」。今、栄一が尊攘派志士から一橋慶喜の家臣になり活躍を始めているところ▲渋沢の青年期、1859年6月2日は、前年の日米修好通商条約に基づき、長崎はポルトガル船来航以来の第2の開港(安政の開国)を迎え、新たな国際都市として再出発しています▲この4年前の1855年6月9日、オランダから幕府にスンピン号が寄贈され、日本は初めて蒸気船を所有します。観光丸と命名されました▲当時、観光の意味は、現在のツーリズムとはニュアンスが違い、他国(他所)の優れた制度や文物を観察し学び知識を広めると解されたようです。新時代への意欲を示す命名だったのでしょうね▲観光丸は、幕府が士官養成の為に、旧長崎県庁の場所に設立した海軍伝習所の練習船一番艦です。二番艦は幕府購入のヤパン号、日本初、日米間の太平洋を往復した咸臨丸です▲伝習所の教師はオランダ軍人、生徒は幕臣以外も含まれ、航海術、造船、化学、医学等の諸科学を学びました。勝海舟、佐野常民、本木昌造、松本良順、五代友厚等、伝習所は多彩な新時代のリーダーを生んでいます▲閑話を記しつつ思うこと。誰もが明日に希望を持って生き、努力が報われる社会を残したい
「水無月」を迎えます。「水の無い月」ではなく、(無)は(の)にあたる連帯助詞で田に水をはる「水の月」です。暦の入梅より今年は3週間も早い実質の梅雨入りでした。1日は衣替えです▲「0円市場」「きぼう市」「もってけ市」等、名称は様々ですが全国各地で、コロナ禍で困窮する学生への食糧・日用品支援の活動がひろがっています。行っているのは民主青年同盟の若者たち。支援を受けた学生があらたにボランティアに参加している例も少なくないとか▲紀元前、中国の戦国時代の儒家、孟子は惻隠(同情する心)差悪(悪を憎み恥じる心)辞譲(謙譲の心)是非(善悪を判断する心)を四端と呼び、天が与えた人間の本性は善であると唱えています(性善説)▲同時に、為政者や教育者には、善の源であるこの四端を育成・開花させ発展させることが必要とも。コロナ禍の対応や、数えるに枚挙のいとまない傲岸不遜の発言をみても、残念ながら我が国の為政者たちには孟子の教えは全く届いていません▲惻隠(そくいん)は、たんなる同情心ではありません。その人の心や思いに寄り添い、その気持ちを共有することです。思えば、民商・全商連運動の歴史の中に脈々と受け継がれてきた精神と重なりませんか。そして青年たちの支援の活動の中にも
1891(明治24)年5月23日、横浜・函館に続き全国3番目(ダム式では初)に長崎市内で近代的水道の給水が始まりました。英国から輸入され市内に約350カ所設置された共同栓の一つがグラバー園内に残っています▲近代的上下水道設置の先達、長与専斎は大村藩の出身。長崎医学伝習でポンぺに学び、1871(明治4)年には岩倉使節団に参加しました。欧米での見分を基に公衆衛生思想の普及に努め上下水道整備に尽力しました▲長崎では1885(明治19)年、コレラの大流行があり、翌年、長崎区長に就任した金井俊行らが下水道整備に奔走しています。当時エゴと呼ばれた、ししとき川の一部にその折の敷石を見ることができます▲コレラは幕末から明治期、幾度か流行を繰り返しますが、最初の大規模流行は、1858(安政5)年。江戸で約2万8千人もの死者を出しています。同年5月21日、長崎に入港した米国軍艦ミシシッピー号が感染源でした▲今、人類は新たな感染症との闘いの真只中にいます。国内でも政府の対応は後手にまわり、緊急事態宣言が延長され、様々な分野で深刻な事態が続いています▲十分なコロナ対策をおざなりに国民には犠牲・我慢を強いる一方、着々と進む五輪準備。開催の大義はありますか(
島原城跡公園に、著書「まぼろしの邪馬台国」で第1回吉川英二文化賞を受賞した宮崎康平の「碑」があります。同書は、学者・研究者の間だけでなく、多くの古代史愛好家の今なお続く「邪馬台国」は何処かの論争に火をつけました▲同氏の作詞・作曲(元々は島原地方で歌い継がれていた子守歌がベースといわれています)の「島原の子守唄」は、妻に去られた失意のなかで、残された子に歌って聞かせていたとのエピソードが残されています(同氏は島原高校等同地方にある県立高校の校歌も多数作詞しています)▲♪おどみゃ島原のおどみゃ島原のなしのき育ちよ♪の物悲しい子守唄には、「からゆきさん」の哀史が込められています。「からゆきさん」は明治から大正にかけて東南アジアへ売られていった天草や島原地方の貧しい農村の娘さんのことです▲現在の南島原市口之津は、戦国時代にポルトガル船の入港で?栄し、明治になってからは石炭積出港として賑わいましたが、この石炭運搬船の船底に隠され、荷物以下の扱いで彼女たちは売られていきました。忘れてはいけない歴史の一齣でしょう▲県下には本県出身の作家や本県ゆかりの作品の文学碑・記念碑が沢山あります。碑を訪ねると改めて地域の歴史文化の新しい発見があるかも
4月6日は「開発と平和の為のスポーツ国際デー」です。スポーツが相手へのリスペクトやフェアプレーの精神を育み、寛容さや相互理解を深め、そのことが公正な開発と平和を促進するとの立場から制定されました。記念日は、近代オリンピックが初めて開催された1896年4月6日に因んでいます▲東京五輪は「東日本大震災の復興の証」を掲げ招致されましたが、復興は未だ道半ばです。いつの間にか「新型コロナに打ち勝った証」にすり替わっていますが、新型コロナ対策も世界で格差がひろがり、日本政府の対策は迷走と後手にまわって、収束の兆しは見えません▲東京五輪についての国内外の世論は開催反対が圧倒的多数ですが、事態は、先ず「開催ありき」で進んでいます。海外からの観客は中止されましたが、「安心安全」の科学的根拠は示されていません▲五輪開催は政権維持の為の思惑からの声も聞かれます。五輪を目標に頑張っているアスリートや、開催を楽しみにしている人の気持ちを理解しつつも、現状での開催は、平和と友好を掲げるオリンピックの意義に沿っているのでしょうか▲今、政府のやるべき仕事は、なにより国民の命と生業をしっかり守ることです。その為にも、五輪は開催の是非を含めて真摯な検討が必要でしょう
3月20日は「国際幸福デー」3月21日は「国際人種差別撤廃デー」です。21日からは「人種差別と闘う人との連帯週間」が設けられています▲「人種差別撤廃デー」は1960年、南アフリカでアパルトヘイト(人種隔離政策)に抗議する平和的なデモ行進に警官が発砲。69人が殺された事件を契機にしています。残念ながら現在も尚へイトによって犠牲になる悲しい事件が絶えていません▲私たちの身近なところでも、中傷・デマによる差別や外国人嫌悪がSNSで拡散されています。まるで、新型ウイルスの感染が脅威を広げているように。ヘイトは人権への重大な侵害です▲「幸福デー」はブータン提唱の記念日です。幸福とは何か。個々人によって、お金、仕事、家庭、健康、愛情、思い描く価値は多様でしょう。確かなことは有意義な人生と感じられることではないでしょうか▲経済一辺倒でなく、人類の持続可能な発展、貧困の撲滅、幸福の追求のためにはより公平な成長が必要との立場から、幾つかの指標で世界幸福度ランキングが毎年発表されています▲この3年間連続1位はフィンランド。日本は毎年後退し62位です。経済指標は高位ですが、寛容さや主観的満足度が極端に低いのです。改めて日本社会の在り方が問われています
テレビドラマ「にじいろカルテ」が面白い。山奥の小さな診療所で共同生活するスタッフが「男(女)のくせに」を口にすると×印のポイントを付けます▲先月、東京五輪・パラリンピック会長だった森喜朗氏の「(組織委の女性は)わきまえている」等の女性蔑視発言に、国内外から厳しい批判と抗議が相次ぎ、辞任においこまれました▲正月の箱根駅伝では総合優勝した駒大監督の「男だろう」「男ならいけ」の激の連呼と応えた選手という賛辞は、大きな問題になりませんでしたが、不愉快の声もあがっていました▲森発言に笑い声をあげた同席者、政治中枢で擁護した面々の心根と「男だろ」の激も、それを美談にしたメディアも同じ一つの水脈ではないでしょうか▲ジェンダーは社会の中で、社会的・文化的に創り出されたもので男女平等を妨げている根深いものです。「○○らしさ」は「○○のくせに」と裏腹です▲1970年代の米国。親の介護は女性の役目を当然とした時代。「介護費用控除を男性にも認めよ」との男性の訴えを勝利に導いたのは若き女性弁護士ギンズバーグさん(後に最高裁判事)一貫して女性の権利拡大に努めました▲3月8日は国際女性デー。日本のジェンダーギャップは世界153カ中121位。男女平等を改めて考えたい(
今回も長崎が舞台の雑学です▲角力灘を望む長崎市外海に遠藤周作文学館があります。代表作の一つ「沈黙」は、過酷な切支丹弾圧下の長崎に潜入したポルトガル人司祭を主人公に「神の存在や信仰」「人間性」を問うています。主人公のモデルも登場するフェレイラも実在した人です▲フェレイラは、高名な神父でしたが1633年穴吊りの拷問で棄教。「転び伴天連」沢村忠庵となり、日本人女性と結婚して子も設けます。医師でもあった彼は、棄教後、医学書「南蛮流外科秘伝」を著し弟子を育て、娘婿は幕府抱え医師になっています▲フェレイラと共に穴吊にされた中浦ジュリアン(西海市出身・遣欧少年使節の一人だった司祭)は信仰に殉じ、聖人に次ぐ福者に列せられています。「沈黙」発表の当初、カトリック教会からは聖職者が踏み絵をする結末に批判もあったようです▲向井元升もフェレイラにポルトガル語と医学を学んだ一人です。元升は、湯島・多久とともに三大聖廟の一つ、長崎(中島)聖堂を創建し初代学長を務めています。聖堂は孔子を祀る廟であり学問所です。長崎聖堂の大学門が興福寺に残されています▲信仰に殉じたジュリアンに敬意を払うけれど、心ならずも棄教し、命を次代に繋いだ忠庵の生涯にもおおいに心惹かれます(
長崎港にまつわる無駄話を一席▲長い岬の先端(旧県庁付近)に平戸町・横瀬町・島原町・大村町・外浦町・文知町の町建が行われ、ポルトガル船が入港した年を開港とし、今年は開港四五〇年。この長い岬は長崎の地名の由来ともいわれます▲ポルトガル船との交易は、60余年続きましたが、キリスト教禁教令の後、平戸にあったオランダ商館が長崎に移され、ヨーロッパとの交流は長崎出島が安政の開国迄、唯一の場になります▲ガリバー旅行記は、本来は大人向けの当時の世相を皮肉った内容ですが、こどもの頃に、巨人の国や小人の国を旅する絵本などで一度は目にした記憶があるのではと思います▲ガリバーは架空の国々を旅しますが、この本に出てくる港は作者の故国、イギリスの他は、世界に冠たる大港湾都市アムステルダム・リスボンと、ここ長崎の三つだけです。ガリバーは長崎からオランダ船で帰国します▲この本が発刊されたのは1726年のこと。将軍や絵踏み等、日本の知識源は、出島から持ち帰られた商館員や船員たちの話だと思われます▲古くは国際貿易港として近年は国際観光港として多くの船舶を迎え入れてきた長崎港に、灰色の護衛艦は似合いません。コロナが終息し多くのクルージング船が戻ってくる日が待ち遠しい
「あのことを許したのがすべてのはじまりとわれら悔ゆべし遠からぬ日に」は朝日新聞文芸欄に掲載された和田和弘氏(細胞生物学者・歌人)の新春詠です。「あのこと」は学術会議への会員任命拒否という菅政権の強権的な学問の自由への介入を指しています。このまま見過ごす訳にはいきません▲この短歌を読み直ぐに連想したのは牧師で反ナチス活動家だったマルティン・ニーメラーの「ナチスが共産主義を攻撃した時、私は声をあげなかった。私は共産主義者ではなかったから」に始まる詩です▲次々に迫害の範囲が広がっても見て見ぬふりをし、いよいよ己が迫害されたとき、誰も声をあげてくれなかったという内容です。多数の「他人事」や「無関心」が招いた結果がどんな道を辿ったかを心に留めたい▲昨年、長崎市は「核兵器、環境問題、新型コロナウイルス等に立ち向かう時、必要なのは、自分が当事者だと自覚すること。人を思いやること。結末を想像すること。そして行動に移すこと」と呼びかけました▲皆に受け止めて欲しい言葉ですが、悲しいかな、当事者意識も思いやりも結末への想像力も最も欠如させているのが、それを必要とされている現内閣です▲一人ひとりは微力でも無力ではない。私たちは社会を変える当事者です
謹賀新年。今年が良い年でありますように▲「一つの言葉が時代を明示する時がある」コロナに明け暮れた昨年、米国の辞書出版社は「パンデミック」英国の辞書出版社は「ロックダウン」を選び、ユーキャンの流行語大賞は「三密」でした。漢字一字も「密」こちらの密には密室政治も含んでのことでしょう▲勇気と希望の「言葉」もありました。「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」。テニスの全米オープンを制した大坂なおみ選手が連日犠牲者の名を記したマスクで抗議したことでも話題になりました。人種差別に留まらずあらゆる差別をなくす運動への大きな連帯の力にもなったのではないでしょうか▲「核兵器の終わりの始まり」は、核兵器禁止条約の批准が50カ国に達した時の言葉。ある被爆者は「小さな力だったが絶えずたゆまず訴えてきた。生きていて、叫び続けてきてよかった」と▲被爆国日本の政府がこれに背を向けているのは言語道断ですが、条約は今月22日に発効します。核兵器の時代を終わらせる新たなステージの幕開けです。▲今年は否応なく総選挙が闘われます。全商連創立70周年を迎える記念の年、なんとしてもアベ・菅政治を終焉させたいものです。拙い文章ですが、本年も宜しくお願い致します