第5話  [ 使徒 ]

 

 

 

 

 

 

 

 

中学校……すっごくつまらなかった。

 

ガキばっかりだし、いちいちうるさいし……というか、おれはモテた。

 

顔は悪くないし、昔みたいにオドオドしていないからだろう。

 

だが、うれしいと思えない。

 

だって、みんなガキなんだもん。

 

女を感じないというか……キャーキャーうるさくてムカつくというか、おれ性格最悪じゃね?

 

おれが中学だった頃は……アスカがいて…………あと誰も思いだせないや。

 

そっか、おれ友達いなかったもんな。

 

そうそう……あいつらも…………。

 

って、あいつらって誰やねん! あータバコ吸いたいなー……。

 

なんか、おれ記憶ちょいオカシイかもしれないな……。

 

変な夢見るしなー……。

 

「シンジ君! 聞いてるの!!」

 

そうそう、授業中いつもぼーっとしてて、ミサト先生に注意されて……いつもおれを見てくれてた。

 

こんな暗くてキモイおれを、気にしてくれてた。

 

うれしかったな……。

 

「ちょっと! シンジ君!!」

 

そういや、ファースト。綾波だっけかな? なんか表情が読みづらい子だった。

 

いきなり声かけられたのは驚いたけど、それ以上に、クラスのやつらのほうが驚いていた。

 

おそらく、彼女は普段喋らず、人と距離を置き、自分だけの小さな世界で満足している……そう、檻の中に入れられて、それが当たり前……いや檻の中の世界しか知らない、そんな少女だ。

 

どう育てたら、ああなるんだよ……。

 

 

「こらぁああ!!! シンジぃ!!!!」

 

 

「……うおっ! ……ミサトさん?」

 

「あんたねぇ……なにこんな時にぼーっとしてるのよ」

 

「あ、あはは……考え事してた……」

 

「んもう! 今から使徒と一戦交えるってのに、集中しなさい!」

 

「ははっ……わかった。倒してくるよ」

 

「……え、ええ……頼んだわよ」

 

そうだった、おれは今エヴァ初号機の中だった。

 

……あれ?」

 

「どうしたの?」

 

 

……うわっ!」

 

 

「ちょっと、シンジ君! 何があったの?」

 

これにはマジで驚いた。

 

「知らぬ間に、水の中に!!!」

 

 

……は?」

 

 

「水攻めってどういうことだ!!」

 

そう、おれはなぜか水の中にいた……。

 

 

……え? もしかして……今頃気づいたの?」

 

 

「ミサトさん! どういうことだ!!!」

 

まじで、どういうことだ! って感じだよ。

 

考えてみてくれ、気がつくと……そこは水の中でした……。

 

こわっ!

 

 

……いや……それは、L.C.Lといって……」

 

 

「なんじゃこりゃああぁぁ!!」

 

人生二度目の変な叫び声……。

 

 

……ちょ、今度はなに!」

 

 

「おれ……人間じゃないのかもしれない…………」

 

ああ、この事実…………マジでショッキングだったぜ。

 

 

…………は?」

 

 

 

……なぜか、水の中で呼吸が出来るんだよ……

 

 

 

…………シンジ君…………シンクロテストしたでしょうが……頼むから真面目にやって…………」

 

なんだか、誰かのズッコケた音が聞こえた気がした……。

 

 

 

 

 

「シンジ君、敵のA.T.フィールドを中和しつつ、パレットの一斉射撃よ。あせらないで、撃ち過ぎたら弾着の煙で見えなくなる可能性もあるから気をつけて」

 

「へ? …………ああ……任せろ」

 

「エヴァ初号機! 発進!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おれは初めてエヴァに乗って使徒と戦ったわけだが。

 

さすが人外といえよう。

 

あの光の鞭……ありえないスピードでした。

 

人間のように腕で振り回すわけじゃないから、予備動作がまったく無い。

 

気がついたら鞭が飛んで来るんだ。

 

直感を信じて避るしか方法が無い。

 

「くそったれ! まずA.T.フィールドをどう中和すんだよ!」

 

そう、その変なバリアのせいで、銃はまったく使い道が無くなっていた。

 

あるとすれば、銃でかく乱させて、隙を作って接近戦に……。

 

と考えたはいいが、鞭が邪魔すぎる!

 

ゾクッ!

 

寒気を感じる。

 

おれは右側へすばやく移動する。

 

すると、すぐさま光の鞭が通り過ぎる。

 

ゾクッ!

 

「……く!」

 

今度は後ろへ一歩下がる。

 

右側からしなる様に飛んでくる鞭をかわす。

 

連続攻撃……。

 

おれはその直感力で全てをかわす。

 

もちろん完全にかわしきるのは無理だったが、それでも十分といえよう。

 

身体を鍛えといて正解だった。

 

鍛えていなかったら、おれはもうへばって、あの鞭に捕まっていただろう。

 

しかし、このままではジリ貧だ。

 

そう、攻撃ができないんだ。

 

だが、手はある……。

 

あるが、タイミングが難しい。

 

闇雲に突っ込んだら、ただのバカだ。

 

リズムを掴め……あいつも生き物なら!

 

「シンジ君、もう二十分以上経ってるわ、無理しないで一度引いて! ミサイル用意したから、それで隙を作るわ」

 

「……く! 了解!」

 

もうそんなに時間が経ってたのか、くそっ!

 

おれは勢いよく後ろへ飛び跳ねる。

 

「……いまだ! ミサトさん!」

 

左右から発射されるミサイルの嵐。

 

その全てがシャムシェルに直撃した。

 

まあ、A.T.フィールドで効いてはいないだろうが、いい目暗ましにはなったはずだ。

 

おれは、着地後すぐに左へ移動する。

 

おそらく、おれを見失ったはずだ。

 

光の鞭でまた攻撃されてしまう前に、おれは懐へ潜り込むべく飛び出した。

 

「……くそ、もっと速く動きやがれ!」

 

イライラする……エヴァの動きがおれの動きと微妙にズレる。

 

遅い、遅い、遅い、遅い!!

 

「シンジ君! 足元!!」

 

エヴァの動きにいらだっていたおれは、完全に集中を欠いていた。

 

ミサトさんの叫びのおかげだろう。

 

おれはその声に反応し急停止することで、最悪の危機を免れた。

 

シャムシェルは、光の鞭を地中に刺し、エヴァの足元から攻撃してきていた。

 

あと数歩止まるのが遅かったら、下から串刺しになっていただろう。

 

しかし、その鞭は、アンビリカルケーブルを断線させ、エヴァの左足を捕まえていた。

 

「……くっ! 巻きつけられた!」

 

「シンジ君! 活動限界まで、あと4分53秒よ! 早く倒さないとヤバイわ!」

 

ミサトさんの焦り声が響く。

 

こりゃ、きっついね……。

 

「うおっ……!」

 

左足に巻きついていた鞭に引っ張られ、おれは宙に投げ出された。

 

「く! マジかよ!!」

 

やられた……くそ! エヴァの動きが遅いんだよ!

 

おそらく、シンクロ率がまだ低いのだろう。

 

どうやったらシンクロ率を上げれるんだ……シンクロするのは集中するとはまた別のなにかが必要なんだろうか。

 

おれは近くの山まで投げ飛ばされ、意識を刈られるような衝撃を背中に受ける。

 

「シンジ君! 大丈夫!!」

 

「……く……」

 

まいったね、仕方が無い……。

 

おれは、普通の人間ではやらない戦法をとることにした。

 

それしか手が無いから。

 

エントリープラグ部分だけを両手で防ぎ、突っ込んで殺す。

 

そう、エヴァだから出来る戦法、死なないからできる無茶な戦法。

 

これは、当初の考えていた戦法と似ていた。

 

相手の攻撃のリズムを掴み、直線的な攻撃が来た瞬間、わざと腹で受け止め、鞭を無効化し相手を殺す。

 

これが当初の作戦。

 

だが、相手が人とは異なるためか、動きを読みきれず、かわすだけで精一杯だったのだ。

 

そして、今やろうとしている作戦。

 

下手をすると、胴体が綺麗に切断される可能性もある。

 

やっかいな鞭を完全に無効化することも出来ない。

 

しかし、やるしかないのだ。時間が無いから。

 

 

――ビビーッビビーッ

 

 

その時、変なアラーム音が鳴り出した。

 

「おいおい……なんでいるんだよ」

 

飛ばされた場所、エヴァの指の間に、先ほど学校で殴りかかってきたクラスメートとその友人だと思われる2人が怯えてこちらを見ていた。

 

「シンジ君! 起きて!!」

 

ミサトさんの叫び声が聞こえる。

 

シャムシェルは、おれの目の前で攻撃をしかけてきていた。

 

そして、エヴァの指の間には2人のクラスメート。

 

迷うことは無い。

 

こんな場所にいるクラスメートが悪いのだ。

 

運がよければ生きているだろう。

 

おれはどんどん頭が冷えていった。

 

目の前にいるシャムシェルの攻撃、光の鞭が近づいてくる。

 

すごく、遅い……止まってるとしか思えないようなスピードで、徐々に鞭が近づく。

 

スローモーション……。

 

とても静かな、モノクロの世界。

 

究極なる、集中力の世界。

 

それは止まることなく加速する。

 

時間という存在すら無くなったような感覚。

 

全てが灰色に溶けて、いつしか真っ赤に染まっていく。

 

一瞬の時間……まばたき程度の短い時間……そんな一瞬を、この時おれは永遠に感じたんだ。

 

その永遠と呼べる場所で、おれは確かに誰かと会話をしていた。

 

 

 

 

 

 

――おい、大事な人たちを守るんだろう?

 

ああ、そうだ。

 

――なら、彼らは違うのか?

 

ああ、他人だからな。

 

――覚えてるだろ?

 

なんのことだよ。

 

――クックッ、なにを恐れる?

 

恐れる? 意味がわかんねーよ。

 

――この地獄を、思い出したくないんだろ?

 

……っち! どの地獄だよ!

 

――もちろん、コレだよ。

 

うるさいよ! そんなもんは知らねぇ!

 

――そうかい。まあいずれ思い出しちまうさ。おれがおれである限り。

 

うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい!

 

――クックックッ、少しは思い出したようだな。

 

ああ、覚えてるよ! クソッタレ! 

 

 

 

 

 

 

目を開ける。

 

襲い来るシャムシェルの光の鞭。

 

永遠から戻ってきたおれは、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい! エヴァ!! おれに力を貸しやがれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしておれは、その鞭を両手で掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンジ君! 聞こえてる!? 二人をエントリープラグに乗せなさい!」

 

ミサトさんの声……まったく無茶な命令だ。それ減俸ものじゃないのか?

 

だが、それしかない……な。

 

おれはエントリープラグを開き、外部スピーカーのスイッチを押して、叫ぶ。

 

「おい! トウジ! ケンスケ! 早く乗れ!!」

 

 

 

…………。

 

……………………。

 

「な、水!」

 

「カメラ! カメラがぁ!」

 

二人がエントリープラグに乗り込んだことを確認すると、おれは目の前に集中する。

 

「……転校生!」

 

「トウジ! すこし黙ってろ!」

 

「んなっ!」

 

「シンジ君! 後退して! 回収ルートは34番、山の東側へ後退するのよ!」

 

ミサトさんの命令……悪いが今回は聞けない。

 

……これがシンクロか……2人を乗せた瞬間気分が悪くなったが、一瞬だけだった。

 

おそらく、今シンクロ率はかなり高いはずだ。

 

おれは……大丈夫、冷静だよ。相手の動きが手に取るようにわかるんだ。

 

乗せてるトウジとケンスケの心音までしっかり聞こえるほど集中している。

 

いま戻れば、この心地良いほどのシンクロも、怖いぐらいに敏感な集中力も消散してしまう恐れがある。

 

だから、今しかないんだよ。確信しているんだ。

 

今なら確実に……目の前の……アイツを……倒せるって事を……。

 

 

 

 

 

 

……おれは……ヤツを…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィードバック……けっこうきついね。

 

痛みがそのまま伝わってくるわけだから、光の鞭が腹を貫通したときは、まいったね。

 

あれ、シンクロ率が上がれば上がるほど、より危険そうだ。

 

おそらく、百パーに近くなれば、脳が勘違いして本物の怪我としてダメージを受ける可能性がある。

 

難しいところだね。

 

今も痛むし、血も吐いたし……。

 

それにしても、あの集中力……あそこまでは初めての経験だ。

 

かなり苦戦はしたが、とにかく倒せてほっとしたってところかな?

 

 

 

こうしておれは、第四使徒シャムシェルを自分の腹を犠牲に光の鞭を無効化させ、プログレッシブナイフの攻撃により殲滅させた。