第6話 [ 命令 ]
「どうして私の命令を無視したの?」
ミサトさん怒ってるなあー……。
戦闘終了後、おれはミサトさんとリツコさんに呼び出された。
まだ、お腹痛いんだけどな……。
「もしあのまま使徒を倒せなかったらどうなってたと思うの?」
「…………まあ、おれらみんな死んでますね」
「……っ! ふざけないで!」
「いや、ふざけてないし、それ事実でしょ?」
「なら、ならなんで、あんな無茶な……命令を聞かずに突っ込んだのよ!!」
「理由……ちゃんと話すから、落ち着いてください」
「……っく! 落ち着いてられるわけないでしょ!」
まいった……マジで怒ってるな……こういう時は、なにか1つ笑わせて和ませ……いや、その行動空気読めてないな……。
「ミサト、とりあえず落ち着きなさい。シンジ君の話、興味あるから」
「リツコっ! …………ふぅ…………わかったわ」
「シンジ君、理由、聞かせてくれるかしら?」
リツコさんのおかげで、なんとか話せる状況になったな……。
まあ、ミサトさんは本気でおれが心配なんだろうな……エヴァは玩具じゃない。
おれが勝手な行動で好きにしていいものじゃない。
見た目がガキのおれが勝手な行動する……それははっきり言って危険だ。
そして、その行動でおれが負ければ……世界が終わる。
今のうちに、修正しないと大変なことになるから。
その重さを、重大さを、命という大事さを、ミサトさんはおれに教えようとしているんだ。
普段はおちゃらけのどうしようもない人だけど、やっぱりおれにとって大事な人だ。
「な……なによ……そ、その顔……」
なんだ? ミサトさん顔赤く……。
あ! ついこの気持ちが顔に出ちまってた……。
「あ、すまん。なんか嬉しくてさ」
「はあ? お、怒られてるのよ? そんな時に……」
「うん。ありがとう。ミサトさんの言いたいことわかってる。だから、嬉しいんだよ」
「……シンジ君……」
「もちろん、命令違反したんだから怒るのは当然。それによって世界が滅ぶ可能性もあるからね。でも、ミサトさんの場合ちょっと違う。世界が滅ぶからじゃない……おれが心配だから……考えてくれてるから……そんな気持ちのほうが強く感じる。だから、うれしかったんだよ」
「ちょ……シンジ君……」
更に真っ赤になったな……。
「なに? 急にこの甘々な空気への変化は……」
リツコさんは呆れたように言う。
確かに、急に変わりすぎだな。
「で、それを理解しているなら、理由あるんでしょう?」
リツコさんが腕を組みながら聞く。
ギラギラした目線だ。
「そうだな。命令は絶対。それは当たり前であり、当然だ。ではリツコさん、後退の命令が下ったとき、確実に敵を倒せると分かっていたらどうします? ちなみに、後退した場合は、その後倒せるかは不確定になるって分かってる状態でね」
「…………それが、今回だっていうの?」
「そうです。命令は絶対だ。しかし命令されたものは駒ではない! 自分で考えることが出来る。考える事をやめてしまったら、人は成長しない。もし、自分が正しいと思ったなら、命令された人に進言すればいい。おそらくは経験値的に命令された側が間違っている場合のほうが多いだろう。しかしそこから学ぶことが出来る。だが、今回はそれとちょっと違う。確実だったんですよ。現場にいないと分からない、確実に倒せる方法があった」
「確実……」
「そう、1つはシンクロ率です。おそらく高かったでしょ?」
「! ……ええ、2人の民間人を乗り込ませた瞬間は下がったけど、その後すぐに上がったわ、最初に乗り込んだときの倍までね」
「本当なの? リツコ?」
「ええ、間違いなく……シンクロ率は80パーセントを軽く超えていたわ」
「……あの状態で…………そんなに……」
なんだ……そんなにすごいことなのか? ま、別にいいけど……。
「で、あともう一つ、実はこれが一番の理由です」
「それは? なに?」
リツコさんの目が鋭くなる。
「集中力です。モノクロの世界というか、全てがスローモーションになってて、相手の動きが面白いように分かったんです。こんな世界、意識して作り出すなんて無理だからね。だから、あの時しかなかった」
「なるほど……ね……」
「そういうこと。ただ、命令違反したことは認める。その罰は受けますよ」
「いえ、その必要はないわ。ミサトもかまわないでしょ?」
「え、ええ」
「そうそう、A.T.フィールド……ちゃんと使えていたわよ」
「え? ほんとに?」
「ええ。最後の攻撃の時にね……集中力のおかげかしら? A.T.フィールドを展開し、位相空間を中和していたわ」
「……へぇ……自分ではさっぱりでしたね」
「……そう……」
無我夢中だったというか……ABSOLUTE TERROR FIELDか……直訳で絶対恐怖場? なにそれって感じだよな。
なにが恐怖なのか理解できたら、自由自在に使えるようになれるんかな?
「で、シンジ君には他にも質問があるの」
ん? なんだ? ちょっぴり空気が変わったな……。
「なんですか? リツコさん」
「あなた……何者?」
うは! いきなりすっごい質問だな。
「ちょ、ちょっとリツコ! あんた何を!」
「ミサトは黙ってて」
なんか、いろいろと納得できない部分が膨らんで、爆発しかけてるって感じか?
どうすっかな……今はあまりそういう話したくないんだよな……ムカついてるから。
「おれは碇シンジ。それ以上でもそれ以下でもない。そうだな……仮に、おれになにかしら秘密があったとして、なんでも聞けば答えが返ってくるとでも? 博士は自分で調べるって事できないのかな?」
「……っく!」
「ちょ、ちょっとシンジ君、言いすぎよ」
「いえ、何者かって聞いてくるほうが、失礼じゃないかな? リツコさん、あんた、病んでるよ」
「……っつ! も、もういいわ、帰って良いわよ」
青ざめちゃって……おれに見透かされてるような気でもしたのか?
っと、その前にやりたいことあったんだった。
「あ、そうそう、民間人の二人と話がしたいんだけど、かまわないか?」
「え……ええ……悪いけど、ミサト案内して……わたしは戻るわ……」
「……え、ええ……」
おれは、ミサトさんに案内され、二人がいる別室に入室した。
「よう、お二人さん。あー、番長にメガネザルだっけ?」
「おれはトウジや! 鈴原トウジ!」
「相田ケンスケだよ。……メガネザルは酷いんじゃないか……な……」
反省は……しているようだが……実際はどうかな?
あんな場所にいた理由……。
おそらく、きっと死なないという、勝手な思い込み。
信号無視をするような感覚で外に出たんだろう。
きっと轢かれない……おれは大丈夫……そんな軽い気持ちで。
赤信号……みんなで渡れば怖くないってか? みんなで渡ったら集団自殺だっての!
ふむ……赤信号、みんなで渡れば集団自殺……おれ、こっちのほうが好きだな……。
まぁいいや、とりあえず理由でも聞きますか……。
「それで、なぜあんな場所にいたんだ?」
「……すまん……」
「いや、トウジは悪くないんだ! おれが誘ったんだよ……」
「いや、謝られてもね……」
「な、何でもする! だから……トウジは見逃してやってほしいんだ……」
ケンスケ……オマエは憧れという夢から覚めなきゃいけない。
今後変な気起こさせないためにも……だから、悪いな……。
「へー、なかなかいえない言葉だね。そういえば、相田君はネルフに……いや、エヴァに興味があるんだよね?」
「……え? う、うん、そうだけど、なんで知って……」
「ネルフに所属して、その後今回の責任を取ってもらおうかと思ってね」
「ちょっとシンジ君、そんな勝手に!」
「はい、ミサトさんは黙っててね」
そりゃ、こんな発言したら、ミサトさんでも驚くよな……実際おれにはそんな権限ないし。
「そりゃ……あこがれはあるけど……でも、いいの?」
「うん、ちなみに、ネルフに所属したとして、キミは何がしたい?」
「そりゃあ、パイロットが一番の憧れで……あ、ごめん」
一瞬目を輝かせる……か……。
先ほども怖い思いしたと思ったんだがな……やはりアレぐらいじゃダメか……仕方が無いな。
「ううん。いいよいいよ。ただ、ネルフは生半可な気持ちでは、すぐ死んじゃうよ? 特にパイロットなんて前線なんだから、死んでしまう可能性高いんだけど、覚悟あるの?」
「うん。なんでもする。大丈夫だよ」
「そっか、んじゃ、ネルフ入る? とりあえずおれの部下って形だけど、そして、まずは今回の責任を取ってもらうよ」
「え、本当に!? うん。が、がんばるよ!」
「えっと、本当に理解できたのかな? ここは軍隊とは少し違うけど、似たようなものだよ。知ってると思うけど、命令は絶対だ。理解できるかな?」
「え? あ、うん。何でもするって言ったろ」
「そう、じゃあ、今から相田ケンスケをネルフ所属の階級三士に任命する。最低階級ではあるが、がんばってくれたまえ」
「は、はい! 了解です」
いつも練習してるのだろうか、なかなか慣れた仕草で敬礼をする。
ミサトさんは、どうやらおれがしようとする事がわかったようだ。
「では、まずは貴様に尋ねる」
おれはケンスケを睨む。
「え……あ……はい」
なんだ? これぐらいの圧力で、もう足が震えるのか?
「貴様はなぜ外に出たのだ?」
「あ……そ、それは……」
「どもるな! 声が小さい! 姿勢が悪い!」
「あ、す、すいません!」
「……答えろ」
「はい! 自分はエヴァに憧れておりまして、どうしてもカメラに……その……は、反省しております」
ビデオカメラと写真……ね。つか、ガチガチだな……顔が青ざめてる。
つーか、どもるなって言っただろ?
「なるほど、だが人とは、簡単に変わることはできない。今はいい、罪悪感があるんだろう。反省しているのだろう。ただ……人はすぐ忘れる」
「えっと……」
「今回で全人類の命が失われていたかもしれない。お前の命1つと全人類、どちらが重い?」
「そ、それは……」
「……では最初の命令だ」
「え、は、はい!」
「死んでくれ」
そう言って、おれは拳銃を取り出し、ケンスケの額に押し付けた。
「……え……ひ……ひぃ……」
「なぜ、怯える? なんでもするのではなかったか?」
「……そ、そんな……なんで死ななきゃ……」
「それが命令だからだ」
「そんな命令!」
「そんな? 貴様が死ねば、今後このような事態を予防できる。貴様の死は意味のある死なのだ。よかったなぁ」
「……ひぃ……」
「転校生! もうやめてくれ!」
トウジが止めに入る。
「安心しろ。民間人であるお前には、手は出さない。どんな理由にしろ、民間人に手を出しては、後々面倒だからな」
「……そ、そうじゃない! ケンスケを殺さんでくれ!」
「それこそ、民間人には関係の無いことだ」
「関係ないことあるか! ダチが殺されるのを黙って見てろと言うんか!」
「そうだ……おまえにも責任がある。目を逸らさず自分の罪の深さを味わえ」
「……んな……」
「では、さようならだ」
――ダァーン
おれは、引鉄を引いた……。
…………
………………
……………………
「うっそぴょーん!」
「…………」
「…………」
「…………」
「あれ? 反応なし?」
「……シンジ君…………洒落になってないわ……」
おれは撃つ瞬間、ケンスケの額から銃先を背後へずらしていた。
まあ、脅し撃ちってやつだ。
「あー、相田君? ……白目向いて気絶しちまいやがった」
ま、それもしょうがないだろう。
「シンジ君……なにをするかは理解してたけど……さすがにあの威圧感は……わたしでさえ本気かと思ったわよ……ってか、なんで拳銃持ってるのよ!!」
「え? ……リツコさんから拳銃所持の許可はもらってるんだけど。証明書もあるぞ」
「…………中学生に…………リツコ……なにかんがえてるのよ…………」
「それはあとで説明するよ…………で、意識のある鈴原君。随分無口になっちゃったけど、どうかした?」
「…………ど、どうかしたやない……なんでこないなこと……すんのや…………」
「あー、むかついたから」
「な、なんやと……」
「戦争になんの憧れを持ってるか知らないが、また同じような事繰り返したら、今度こそ死ぬよ……」
「…………」
「こいつは遊び半分で、自分の欲望を満たすだけのために、命賭けてる人達を汚したんだよ」
「……それは」
「今回の件、おれから言わせてもらえば、極刑並み……いや、それ以上の罪だね。それをこいつに理解させなきゃ、いつかまた繰り返す」
「反省しても……いつか忘れる……か」
「そう、人は罪を忘れる……その罪への意識が薄れていくんだ……だから、その罪をより深く刻み込まなくてはいけない」
「……なんや、重みのある言葉やな……」
「ああ、経験談ってやつだ」
「……そんな経験あるんか…………」
……あれ……? ……そんな経験……あったっけ?
…………む?
…………ん?
だめだ……知ったかぶりの嘘だった…………。
「……きっつい言葉やな……でも、確かにそうかもしれへん……ほんまにすまんかった……」
「……あ、ああ」
……嘘なんだけどねって言おうと思ったんだけど、言えなくなったな。
ああ……なんかすっごく尊敬の目で見られている……。
そんな目で見ないでくれ!! おおお!! 惨めな気分になるじゃないか!!
「あ、あの、わしを殴ってくれ!!」
「…………はい?」
なんだ? この子頭おかしいんじゃないか?
「せやから、ガーンと、こう一発殴ってほしいんや」
もしかして、罪を深く刻み込みたいってやつ?
ということは、ここでおれが殴ったら、最低野郎じゃね?
「頼む!! 思いっきり頼む」
つか、熱いな…………番長だからか?
…………。
……ブハッ!
ヤバイ! こんなシリアスな雰囲気で大笑いしちゃダメだ!
しかもトウジは真剣なんだ! 真剣に……ブブッ……真剣な顔見たら余計吹き出しそうになった!!!
危険だ!! とても危険だ!! ここで笑ったら、おれはマジで最低だぁ!!
「……すまん、安易に殴ってくれってのは虫のいい話やな……更に怒らせてしもうたみたいやな……」
はぁ!?
………………は!
おれが笑いに堪えてプルプルしてたからだ!!
違う! 違うぞ!! おれは怒ってるんじゃない! 笑いに…………堪え…………。
「…………ブッ……」
しまった! 笑いが漏れた!! どうする! どうする!!
「……ぶ?」
はうあ!! 不思議に思ってる! 聞き返されたぁ! なにか無いか、誤魔化せる言葉が!
ぶ…………ぶ……ぶ………………だめだ! 『ぶ』から続く言葉がなんも無い!
「……どない……したんや?」
「……ぶ……ぶり……ぶら……ぶらじゃー…………ってなんでやねん!!」
…………。
…………。
「………………はい?」
うわー……やっちゃったよー……おれやっちゃったよー。
トウジ……目が点になってるじゃないかー。
あ……ミサトさんも目が点になってるよー。
これって最悪じゃね? …………しかも、よりによってブラジャーってなんだよ!
笑ってしまったほうがまだ良いよ……これ変態だよ……。
これ……誤魔化せれるのか? できるのか? このおれに!
「……トウジ……」
「…………な…………なんや…………」
「……好きだ!」
「…………」
そこには、驚きの顔で、少し顔を赤くするトウジがいた。
「…………シンちゃん?」
そこには、驚きの顔で、少し顔を青くするミサトさんがいた。
「…………って、なんでおれが愛の告白しなきゃならんのじゃぁーー!!」
おれはトウジを蹴り飛ばした。
「つか、トウジ!! おまえなんで照れるんだよ! そこ照れるところじゃないだろ!」
倒れたトウジを更に蹴る。
「……あの……シンちゃん? 彼……気を失ってるみたいよ?」
ミサトさんの声で蹴りを止め、足でつついて確認した。
「………………みたい……だな……」
「……ええ…………」
「…………あ……あはは……」
おれは…………アホだ…………。
「シンジ君……」
「……な、なんでしょうミサトさん!」
「わたし、あなたがわからないわ…………」
「…………そうだね…………わかったらすごいと思うよ……」
おれは本気でそう思った。
それにしても、今回はやりすぎたから無理だと思ってた。
だけど、おれはまた、トウジとケンスケ、二人と友達になったんだ。
なんというか……やはり嬉しいと感じているんだろう。
ただ……話合うんかな?
つかね……笑い堪えたせいもあって、使徒にやられたお腹 が痛いです…………。