第11話 [ 甘心 ]
入院した……。
ヒマだ……ヒマだ……ヒマだ……ヒマだ……ヒマだ……ヒマだ……。
今日目覚めたら、病院だった。
おそらく、歩くことすら出来ないほど怪我したと思う……。
…………ギブスしてないのか? 骨折れたと思ったんだが……。
まあいい……それより……タバコ吸いたいなー。
くそ……なんだか死にたくなってきた……。
「ヒマで死んでしまう!!」
「そんなんで死なないわよ」
「……あ、ミサトさん」
「無駄に元気みたいね……」
ミサトさんはそう言っておれを抱きしめた。
「……ちょ! ど、どうしたんだよ!」
「バカ! あんな無茶して! 心配したんだから!」
「……あ…………」
ミサトさんの肩が震えていた。
「シンちゃん……ごめんなさい……」
「……なにが?」
「ポジトロン・ライフルよ……」
「……えーと……なにが?」
「だから……充電途中でエラーが起きちゃって、二発目が撃てなくなったから……」
「………………あ、そういやそうだったな」
おそらく、敵の加粒子砲での爆発で壊れちゃったんだろうな……。
かなり近くで爆発したし。
スレスレだったからな……。
「……でもいつもあんな無茶……そんなんじゃ、いつかシンちゃん死んじゃうよ……」
あー……なんか空気重いな……。
「……あ! そうそう、おれっていつ退院できるのかな?」
「…………」
う……ミサトさんが暗いです……。
「おれは……守りたいんだよ……大事な人が守れないと、おれはおれじゃなくなる……」
とりあえず、まじめな話をしてみる。
「……自分は守らないの?」
「ん……いや、死なないように努力するさ、ただ、優先順位が大事な人の命より低いってだけだ」
「そうかな? ……シンジ君は死なない努力してるとは思えないよ。まるで、その大事な人さえ守れれば、死んでも良いって聞こえるよ……」
それは、ミサトさんも同じだ。
まぁ、おれほど病的でもなさそうだけど。
「……死なない努力してるって。今はまだ死ねないからさ」
「……守りきったら死ぬってこと?」
「おれは死なないよ。守りきっても死にません! 信じろ」
と、言っておく。
「……なんで…………そんなのおかしくない? あなたに何があったの?」
やっぱり、過去が気になるのか? というより、おれが一体何者なのかが気になるって事か……。
ミサトさんは、真剣な顔でおれを見つめる。
「…………おれは……大好きだった人を守れなかったんだよ……」
「…………シンジ君…………それが、あなたの隠してる事なの?」
手が震えてくる。
「肝心なときに…………おれの目の前で…………いや、悪い……なんでもない……」
危うく暴露するところだったぞ。
「……そう。なんだかつらそうな話だし、話したくなったら聞くから、それまで待ってるわ」
「……ウソっぽい話だよな」
「ううん……わたしはシンジ君を信じてるから……」
「ウソなんだけどね」
「…………」
「…………」
「…………シンジ君……わたし、いますっごく試し撃ちがしたくてたまらないのよ」
「……あ……あはは……何の試し撃ちかな?」
あ、ヤバイかも……。
「ふふふ……何だと思う?」
そう言って、ミサトさんはゆっくり銃を抜く。
「これ……すごいでしょ? デサートイーグル44マグナムよ」
「なぜに、そんなごっついものを……」
「そうねー、デカクて重くて、すぐジャムるし、使い勝手悪い銃だからねー」
「いや、ジャムるのは、単純に腕のせいかと……」
「へー詳しいんだー……でもわたし女性だしー、そんなに筋力無いもの」
「いや……だから……なぜそんな銃を……」
危険だ……いまのミサトさんは危険だ!!
「………………この銃、シンジ君にあげるわ」
「は……?」
「私は実戦で使おうと思わないし……まあシンジ君も使えないと思うけど、これをシンジ君に持っててほしいの」
「……えっと……それって……」
「これは人を撃つための銃じゃない、威力は十分だが実戦で使うには少々でか過ぎる。でも自分の嫌な部分を吐き出してくれる銃だ。だから辛くなったら射撃場で吐き出しなさい。いつでも前を向けるように、そう願ってこれをキミにプレゼントする」
「……ミサトさん?」
「昔わたしの恩師がそう言ってくれたの。鬼教官でね、すっごく厳しい人だったんだけど、それ以上に優しかった」
「その人から、もらった銃なのか?」
「ええ……訓練兵卒業した時に、頂いたの……」
「そんな大事な銃を……なぜおれに?」
「シンジ君だから……もらってほしいの……嫌なこと全部吐き出せるように……」
そういって、銃をおれに手渡す。
「…………ありがとう」
おれはミサトさんの想いを受け止めた。
「……おれの予備用ってとこかな?」
「え? そんなにでかくて重いと邪魔じゃない?」
「いや……なんていうか、ずっと持っていたいからさ……」
「ふふっ……」
「あ、ちなみにその教官って今は?」
「ああ、今同じネルフにいるのよ。特殊任務部隊長、井上ユキジ一尉よ」
「……特殊任務……?」
「ええ……あれ? どうかした?」
「…………ははっ…………おれその人知ってたりして……」
「…………はぁ!?」
「いや、身体鍛えたくてさ……訓練場に顔出した時に会って……いまいろいろお世話に……」
「…………さすがに、訓練場を利用していたとしても特殊任務部隊と関わってるなんて知らなかったわ……」
「……向こうから声かけてくれてさ……付き合えって……」
「……はは……あの人らしいかも…………」
「保安部にもまともな人いるんだなーって思ってたら、特殊任務部隊だったんだな……」
「……保安部は、警察上がりの人が多いからね……」
「そっか、まぁ、この銃、大事にするよ。ありがとう」
「ええ……」
「で、おれいつ退院できるんかな? できればもう退院したいんだけど……」
「……シンちゃんって、本当に病院嫌いなのね……」
「まあ、ヒマだし……」
「怪我というか、身体は大丈夫みたいよ? 筋肉痛が酷い程度かしら?」
「………………え!」
絶対アキレス腱断裂したと思ったんだが……骨だって、折れたような……。
「……ん?」
「いや……おれ確か、使徒の攻撃まともに食らった記憶あるんだけど……」
「ええ……強力なA.T.フィールドを展開して攻撃をほぼそらしていみたい」
「……どういうこと?」
「んー……A.T.フィールドを斜めにして上手くそらしてたわ。自分でやったんじゃないの?」
「……あー……あんまり記憶に無いというか……いっぱいいっぱいだったから……」
「……すごかった……」
「へ?」
「今思い出しても鳥肌が止まらない……シンちゃんが突っ込んでから、使徒殲滅されるまでの数秒間……わたしは見てるだけしか出来なかった。気がついたら……泣いていたわ。息を吸うのも忘れるぐらいに見入っちゃった」
「……ミサトさん……」
「…………お帰りなさい…………」
「…………あ…………うん……」
おれはまたミサトさんに抱きしめられた。
とても柔らかくて暖かくて、良い匂いがした。
この温もりを守れて、本当に良かった……。
「……つっ……」
少し筋肉痛が残る。
まあ、骨が折れてると思ってたんだが、実際はたいしたことが無くてよかった。
おれは、ミサトさんから貰った銃を使ってみたくて、射撃場へ向かっていた。
――ガシャン!
「……ん……?」
突如廊下に響き渡る音。
おれは気になって、その音の方へ足を向けた。
「……ここ……だよな……?」
プレートには、E計画開発部技術一課と書かれていた。
中に入ってみた。
――プシュ
「……だ、だれ!」
ドアの開く音に反応する一人の女性がいた。
思いつめた顔で、充血した目は、さっきまで泣いていたと思わせる。
左頬が赤い。
おそらく、だれかに叩かれた痕。
赤木リツコだった。
「…………シンジ……君……」
「……ああ」
「……鍵してなかったみたいね……」
「みたいだね……」
「…………なんのよう? またわたしを攻めにきたのかしら?」
「……リツコさん……」
おれは、その弱々しいリツコさんに近づき、優しく抱きしめた。
気がついたら、おれはそうしてたんだ。
「……ごめんね……リツコさん……」
「…………な…………なにを……」
抵抗は無い……ただ、驚いている。
優しく頭をなでてやる。
父親が子供にしてあげるように……優しく、優しく……。
「この前は、イラだってしまって酷いことを言ってしまった」
「…………」
リツコさんは何も言わない。
「誰にだって闇はある……」
ビクッと身体が震える。
「……なにが……あったの?」
「…………」
リツコさんはおれのせいでこうなった訳じゃないだろう……きっと、ほかに何かあったんだ。
彼女を苦しませてる何かが……。
「……いえない……かな?」
震えている。
とても小さな女の子のように、おれの胸の中で震えている。
見ていられなかった。
「……わたしは…………わたしはぁ! ……」
言いづらそうだ。
よく考えてみたら、そうかもしれない。
おれは、見た目がガキなんだから……。
でも、それでも……。
「……言えない…………言えないわよぉ!! ……こんなことぉ!」
考えての行動じゃなかった。
気がついたら、おれはそうしていたんだ。
リツコさんの左頬を優しくなで上げ、おれはまぶたに優しくキスをした。
「リツコさんは頑張りやさんだね。ほんとに頑張った。リツコさんの気持ちは、実際おれにはわからないけど。自分が醜いとでも思ってるの? その強さも弱さも、おれはとても素敵だと思う」
「…………なにを……」
「どう思おうが、おれの勝手だ。リツコさんは綺麗だよ。尊敬してる」
「……あなたに……なにが……」
「言っただろ? わからないって。勝手にそう思ってるだけ。でも、リツコさんは少し肩の力を抜いたほうがいい。壊れちゃうよ? 疲れたら休む。これって当たり前だろ? 温もりがほしいなら、いつでもおれが抱きしめてやる。もう寒いのは嫌だろ?」
「……どう……して? 私は最低で……」
「そうしたいからだよ。りっちゃんは可愛いから」
「な! ……」
「おれが子供だから、甘えるのに抵抗感じちゃうのか?」
「…………う……」
「でも、りっちゃんは女の子なんだからさ……」
「……女の子……?」
「ああ、だから甘えたって良いだろ? おれは気にならないぞ?」
「…………私は……あなたの父親が……好きなの……」
「……うん」
おっと、ちょっぴりビックリだ。
「でも……彼は私を見ていない……あなたの母親しか見ていない」
「……うん」
「それはわかっていたのに……なのに私は……嫉妬で狂いそうなの」
「……うん」
「彼がほしいのは、私じゃない……私の能力だけ……」
おれは痛々しい左頬を、また優しくなでた。
「おもいっきりね…………叩かれ……ちゃってね……」
「……うん」
「あなたに言われた言葉で、私は寂しくなったの……確認したくなったの……私は愛してほしかったの!」
それで、クソ親父に殴られたってわけね……。
まいったな……元はおれのせいじゃん。
「私……なにしてたんだろ…………しかも、こんなこと、息子であるあなたに言うなんて……ね」
「……ばーか」
「……え……?」
「それでいいんじゃないの? ズルズル引きずるよりさ……スッキリするだろ? おれの事気にするな。言ったろ、別におれに甘えて良いって」
「…………シンジ…………君……」
「頑張ったな!」
おれは頭を撫でてやる。
リツコさんが、これからも頑張れるように。
小さな女の子を褒めるように……。
「……あなた…………すごく変ね……」
その後、おれはリツコさんを食事に誘った。
ここは小さなバーで客も少ない結構穴場になっているおれお勧めの場所。
なんでそんな場所知ってるのかってのは、訓練場で知り合った例の井上一尉の知り合いの店だから。
そんなわけで、おれのような未成年でも飲めるってわけ。
ちなみに、数少ない客ってのは全員井上一尉の知り合いらしい。
ぶっちゃけると、ここはただの飲み屋じゃないって事。
ま、それは今はどうでも良い話だけどね。
「変…………だよね……うん……おれもそう思う」
「……ふふっ……まさか、シンジ君に慰めてもらえるとは思わなかったわ」
「ちなみに、ここでは耳やら目など全くないんで、好きな会話を楽しめますよ」
「……へえ…………まあ、シンジ君が堂々とお酒飲める時点で普通の店じゃないわよね」
「で、リツコさん……おれに聞きたいことあるんでしょ? 言えないこともありますが、なるべくお話しますよ」
「…………その前に、敬語はいいわ……シンジ君には私に普通に話してほしいから」
「…………ああ、…………わかった」
「……ふふっ……りっちゃんって言ってくれないの?」
「……う…………いや、さすがに……ねぇ?」
「そうねぇ。ちょっとビックリしたかしら……」
ちょっぴり意地悪な顔でおれを見つめる。
なんか、こういう仕草可愛いと思う。
「ま、とりあえずリツコさんで…………でも、どうしてもって言うなら、りっちゃんって呼んでもいいぞ」
おれも意地悪く返す。
「……あ……う……」
ははっ……顔が赤くなってる。
「冗談だよ。んで、何聞きたい?」
「……ええ……まずは……」
おれが記憶喪失とは思えなく、別人としか思えないって事。
子供とは思えないって事。
肉体の成長が早すぎるって事。
シンクロ率の急上昇の切欠が知りたいとの事。
そして、おれの戦闘技術。
まあ、疑問だらけだよな……。
つか、答えられるのって、シンクロに関してだけじゃね?
まいったな……。
「シンクロに関しては、無理やり……かな?」
「……どういうこと?」
「怒鳴りつけるというか、無理やり言うこときかせるっていうか……」
「…………」
「あれ? どうした?」
「いえ……あまりにも想像外の答えが返ってきたものだから……」
「……あのエヴァってさ……心……みたいなのあるよな?」
「……え? ……なんでそう思うの?」
「おれに好意を持ってる気がするんだよ…………」
「…………」
「雰囲気として、あれっておれの子供ってイメージかな?」
「子供?」
「愛情を欲しがってるってのかな? なんかおれに対し、当たり前のように寄り添ってくるイメージ?」
「…………」
「ただ、おれより前に出ようとするんだよ」
「どういうこと?」
「うーん、おれに力を貸すんじゃなくて、自分でどうにかしようとしてるってのかな? 良い意味で、おれを守ろうとしてる感じ。実際は余計なお世話! おれを無視して好き勝手やろうとしてる子供みたいな感じだ。だから叱って黙らせて主導権を渡さない。わがままな子供を叱ってやるイメージだ」
「…………すごいわね……」
「なかなか言うこと聞かないんだけどな……」
「それで、あなたに従った時に、シンクロ率が上がるって事?」
「ああ、そういうことだ」
「でも、それってエヴァに身を任せてやればシンクロ率は上がって、そんな苦労もなくなるんじゃないの?」
「それは違う。確かにシンクロ率は上がるかもしれないが、的確な判断や集中力が薄まる。そうだな……感覚的には戦闘狂みたいになる感じかな? 強くはなるが、冷静じゃなくなるんだ。戦闘ってのは冷静にならなきゃ死んじまうからな……どんなに怒り狂っても、頭で冷静に判断できなきゃいけない。熱さは活力をあたえるが、それだけだとただの死にたがり……だろ?」
「……そう…………でも、第五使徒の時、あなたは突っ込んだわ……あれはある種のカミカゼと同じよ」
「まあ、確かにあの時は熱くなってたのは否定しないよ。だが、無茶をしなきゃいけない時ってあるだろ? それにただ突っ込んだだけじゃない、冷静に相手の攻撃を見てたよ。じゃなきゃかわせなかった。まぁ、最後のほうは冷静じゃなくなってたっぽいけど」
「……そう……ね……。あの動きは…………震えが止まらなかったもの……シンクロ率も180オーバーだったしね」
「……100超えるんだ……」
「ええ……180の場合、1.8倍の動きが可能なのよ」
「……ふむ……なるほどね」
自分の限界以上の動きだったから、身体にダメージがあったってことか……。
筋肉痛ぐらいに収まってたようだけど……エヴァって何なんだろな……。
つか、絶対骨折れてたと思ったんだけどなー……。
「とりあえず、シンクロに関してはそんな感じだよ」
「……大変貴重な話を聞かせてもらったわ……、で、ほかの質問は?」
「ああ……おれもよくわかんないんだよね……」
「……ほんとうに?」
「…………うーむ」
「例えば、第4使徒との戦闘で、敵の鞭をかわしてたわよね?」
「……ああ」
「あれ、音速超えてたのよ?」
「へー……どおりで速いと思ったよ」
「しかも、あの時のシンクロ率は36パーセントしかなかったの……それでかわせるなんて普通じゃないわ」
「直感力だよ」
「……前に言ってたわね」
「なんとなくだけど、この場所に居たら危険だってのがわかるんだ。危険信号ってのかな? 感じるんだよ。だからその感覚に従って避けただけ。さすがに目で確認しながらじゃ避けれないさ」
「…………あなたって…………すごいわね……本気で解剖したくなっちゃった」
「…………ちょっと待て……」
「ふふふっ……冗談よ……半分はね」
「半分…………かよ……」
「まあいいわ、あとは…………なんて言ったらいいかしら?」
「ん?」
「一番気になる部分は、あなたが子供に見えないって事……」
「…………」
「まるで、私より年上みたいな……包容力があるのよ」
「そうかな?」
「……相手が同年代でも、あんな話しないわ……ミサトにだってしたこと無いわ……なのに、十四歳の、しかも原因である人の息子なのよ……普通話さないわよ」
「…………ああ……そうかもね」
「なのに、話してしまった……シンジ君に頭を撫でられて……なんか私が子供になっちゃったみたいで……」
可愛かったもんなー……。
「普通じゃない……普通じゃないわ…………だけど、私はもうシンジ君を……」
「信じる?」
「……………………」
うわ、冷たい目でみつめられたぞ! なんでだ! シンジを信じる…………あ! 親父ギャグになってた……。
「いまのくだらないギャグで思い出したわ」
「く、くだらない……っすね……」
「…………もしかしたら、MAGIがあなたを意識してる……のかもしれない……」
「えっと……どういうこと?」
「最近、MAGI内の容量とメモリが無駄に使われるの……」
「……はあ」
「シンジ君がネルフから離れてる時が一番メモリ食うのよ、まるでシンジ君を監視してるみたいなの」
「…………」
なんだ? それ……。
「送り主不明の私宛のメールもきたわ」
「メール……?」
「ええ、『シンジを信じて……これギャグじゃないからね(笑)』ってふざけたメール」
「…………(笑)って…………つか、おれを……信じて?」
あはは……さっきの親父ギャグだ……。
「MAGIを調べた結果、断片的だったけど映像と文章が残ってたわ」
「それは……?」
「映像は……シンジ君だった……場所までは判別できない映像だったけどね」
「なんだよ……それ……」
「そして、文章なんだけど、すごく意味不明だったわ」
「……それは?」
「わたしアリス! いまあなたの後ろにいるの」
ゾクッ
…………。
…………。
怖っ! むっちゃ怖っ!!
これなんのホラーだよ!!
「……えっと……マジで?」
「ええ……どうしたの? 真っ青よ?」
「……いえ…………今夜一人で寝れそうにないなーって……」
「あら……それって、誘ってるのかしら?」
「…………は?」
「ふふっ……」
「えーと、うーんと」
「シンジ君ってプレイボーイさん?」
「え! なんで!」
「あら、マヤも誘ったそうじゃない」
「え? ああ……あれは冗談というか……」
「へー……マヤ、結構本気っぽかったわよ?」
「…………あれ?」
「マヤを泣かしたら……解剖ね」
「うぐっ!」
「ふふっ……シンジ君……ありがとう」
「……え?」
「……ありがとう」
「いや……言ったろ? いつでも甘えてくれ」
「……ええ…………たまにこうやって付き合ってね」
「ああ」
「なんか、一緒に住んでるミサトがうらやましいわ」
「…………そうか?」
「ええ、もう少しシンジ君と歳が近かったらって、本気で思ってるもん」
「…………あ、あはは……」
「だから、私はマヤを応援するわ……シンジ君よろしくね」
「…………あれ?」
いや、マヤさんでも歳はなれてるだろ!
「なんだか、本当にあなたが十四歳と思えないわ……もう子供として見れないんですもん。背の小さい同年代って感じね……実は年齢誤魔化してない?」
「……いや……それはないだろう?」
「まあ、とにかく、MAGIの件ももう少し調べてみるわ。最初シンジ君が何かしてるんだと思ってたんだけどね」
「……まあ……あまり無理しないでね」
「ええ、ありがとう。じゃ、今日は飲むかなー」
「…………うん……そうだ! 飲もう! 怖いから飲もう!!」
なんだか可愛くなったリツコさん。
守りたい人がまた増えちまった。
協力者として考えるのは、今はまだ早いだろう。
でも、少し心を開いてくれた。
もう、彼女は大丈夫だと思う。
そして、マヤさん……どうしよ……。
デートしなきゃならんのかな……?