第12話  [ 潔癖 ]

 

 

 

 

 

 

 

 

大変ビックリだった。

おれが探していた……大好きな女性……あのアスカが……。

 

セカンドチルドレンだった……。

 

しかも、ドイツから日本に来るそうだ。

そう、会えるって事。

衝撃的だった。

 

 

で、今はなぜかマヤさんとデート中だったりする。

「シンジ君…………あの、いつ頃お暇ですか? 約束……したから……」

と頬を染めてやってきたマヤさんを見て、断れるはずもなく、今日デートすることになってしまった。

 

そして今、落ち着いた雰囲気の喫茶店でコーヒーを飲んでいた。

「うん……美味いな」

「ええ、ほんとに」

いや、マヤさん何も飲んでないし……。

「…………」

「…………」

「あー、落ち着くね」

「ええ、ほんとに」

「…………」

「…………」

なんだろ……すごく落ち着かないんですけど…………。

「先輩がね……言ってたの……」

「ん? ……ああ、リツコさんね」

「うん……前までは、シンジ君は警戒しなさいって言われてたんだけど……」

…………だろうね…………。

「なのに、今は全然違うの……すごく明るくなったし、シンジ君のことばかり話すし、なんか変なの……」

「…………はあ……」

「もしかしたら、先輩……シンジ君のこと好きなのかもしれない……」

「…………いや、それは無いだろう」

「だって、急に変わっちゃったんだよ! シンジ君は先輩をどう思ってるの!」

「え? あー……可愛いと思うけど……」

「……え? 可愛い……?」

「ああ」

「……先輩のこと、そう言ってあげる人って初めて……」

「そうなの?」

「だって、解剖されるかもしれないんだよ」

「……え? されるの?」

「あたりまえじゃない!」

「…………あたりまえなんだ……」

「あ、でも、解剖されたらどうなっちゃうのかな?」

「へ?」

「シンジ君が解剖されて……スーパーシンジ君になっちゃって……」

「……はは……なんだよそれ……」

「きっと、空も飛べるわ」

「いや、飛びたくないです……」

あれ? マヤさんってこんな人だったっけ?

「空も飛べるなんて、やっぱりシンジ君ってすごい……」

「いや、マヤさんの脳みそがすごいと思うよ……」

「…………あ! ……」

その時、一匹のハエがマヤさんの右手にとまった。

「い……いやぁああ!!」

「うぉ!!」

突然大声を上げるマヤさん、周りの客や店の人も、何事かとこちらを見ている。

「ちょ、マヤさん、どうしたの?」

「あ……あ、な、なんでもないの……ちょっと、お手洗いいってくるね……」

「あ、ああ……」

マヤさんは小走りでトイレに向かった。

つか、今のなんだったんだろう?

ハエが嫌だった? にしても、大げさというか……。

マヤさんか……変わった人だな……。

おれはタバコに火をつける。

「……ふー……」

よく考えたら、まだ親父と会って話したこと無いんだよな……。

何度か顔は見たけど、一度話してみるかな……。

話さないことには良くわかんないし、探ってみなきゃな……。

あいつが、一体何を考えているのか……。

リツコさんを殴ったのも許せないし……。

まあ、おれのことを気にしてはいるだろうから、会ってはくれるだろう。

でも、なんか理由が欲しいな……。

…………まあいいや、とりあえず会って考えるか……。

つか、マヤさん遅いな……。

おれは心配になって様子を見に行った。

さすがに女子トイレに入れないので、今トイレから出てきた見知らぬ女性に声をかける。

「すいません」

「あら? なに?」

「トイレにショートカットで高校生ぐらいにしか見えない可愛い女の子いませんでしたか?」

「…………ああ……いたけど……ちょっと変だったわね」

「変?」

「ええ、なんか一生懸命手を洗ってたわ……見てて怖いぐらい……ずっと……汚い汚いって呟きながら……」

「…………そうですか……すいません、ありがとうございます」

「いいえ、じゃあね」

…………これって…………病んでる系?

なんというか、ネルフの人たちって病んでる人多くない?

おれはとりあえず席に戻ってマヤさんを待った。

結局、30分以上も時間をかけて洗っていたようだ。

右手を見ると、洗いすぎで赤くなっていた。

潔癖症か……。

この前手を握った時の反応はこういうことか……。

おそらく、ここで飲み物を飲まなかったのは、衛生管理が心配だったから。

きっと、食事に誘っても、それならお家でって返事がかえってくるだろう。

いまも、まだ右手を気にしている。

洗い足りないって事だろう。

何度、手を洗っても、まだ、汚れているような感じがして、気が済まない。

強迫行為……

その強迫行為を行えば行うほど、逆に余計に気になり、恐怖さえ感じるようになってしまう。

おそらく、本人も潔癖症なのは気づいている。

そして、自分でも異常だと気づいている。

他の人でも汚いと感じて当然のことまで異常として捉えてるんだろう。

まずは、汚いものは汚いんだってわからせてやるのが良いだろう。

そうやって、線引きをさせてやらなきゃいけない。

まいったな……結構めんどいぞ……。

「マヤさん……」

「……え? なに?」

「マヤさんは、キスしたことあります?」

「……えぇ! な、ないよー……そんな事……」

「汚いって思うから?」

「……! あ……シンジ……君」

「例えば、一週間風呂に入らず、着替えもしてなかったら、汚いですか?」

「あ……それは……まあ……そういうこともあるのかな?」

「汚いかどうかだけ答えて」

「あ……一般的には……汚くないのかな?」

「いや、それ不潔だよ……汚いよ」

「あ……そ、そうだよね……」

「キスはどう?」

「あ……どうなのかな?」

「じゃあ、そこら辺のよくわからんオヤジとキスするのって汚い?」

「…………キスは……みんなしてるんだよね?」

「まあ……してる人はそうだろうね」

「じゃあ…………汚くない?」

「嫌じゃないの?」

「あ……それは……なんか嫌だけど……」

「うん……おれも嫌! キモイって思う。いわゆる、汚いって感じる」

「……う……うん……」

「でも、大好きな人だったらどうだろう?」

「え……」

「おれはうれしいと思う。もっとしたいって思う」

「…………うん……そうかもね……」

「汚いものは汚いよ。皆そう思ってる。でも、マヤさんは過敏に反応しちゃってるんだね。手だってそんなに洗ったって意味ないよ」

「で……でも……」

「まだ汚いって感じる?」

「う……うん……」

「マヤさんは……すごく綺麗だよ」

「ふぇ!」

「汚いものは、汚いって感じて当然なんだよ。それを受け止めるようにして、少しずつでいいからさ、慣れていこうね」

「……シンジ君……」

「まずは、おれと手を繋いでみよっか?」

「ええっ……!」

「それとも、キスのほうが良かった?」

「はうあうあ……」

「……プッ……やっぱマヤさんは可愛いね」

その日、おれとマヤさんはずっと手を繋いでいた。

少しでも改善できるように、手助けしてあげたいと思った。

 

 

 

ちなみに……。

「そっか、シンジ君は汚くないんだ! 大丈夫な人なんだ!」

そんな声が聞こえてきた。

なんか違うぞ……。