第15話  [ 再会 ]

 

 

 

今おれはヘリに乗っている。

となりにはミサトさんがいる。

なんと、アスカを迎いに行くそうだ。

アスカは、何隻もの大きな船でエヴァ弐号機と共にこちらへ向かってる。

国連軍が誇る空母、オーバーザレインボー。

弐号機とそのパイロット、アスカを受け取るためおれらはそこへ向かっているわけだ。

圧倒的な青を誇っている無限とも感じる海。

太陽の光が海に反射し、宝石のようにギラつかせる。

……青い海はいいね……」

意味不明な発言が飛び出すほどに綺麗だった。

しかし、おれはそれどころじゃない……。

そう……むっちゃ緊張してます……。

 

「あらーシンちゃんどうしちゃったの? なんかいつもと違うわよー」

「なんでもないです……」

とりあえず、おれは会った時にどう話をするか、シミュレーションしているのだ。

ちなみに、何も思い浮かばない。

「もっしかっしてー、アスカに会うのが楽しみーなのかな?」

ミサトさんが絡む。ムカついた。

「ミサト! ウルサイ! 黙れ! 落とすぞ!」

「…………し、…………シン……ちゃん……」

これで黙るだろう……おれはいま忙しいのだ!

「……し、シンちゃんに……嫌われちゃった……きら……われ…………うっ……う、うわーーーん!」

…………え?

「し……シンちゃんにーーー!! きーらーわーれーたーあぁあーーー!!」

「おまえは一体いくつだぁあ!!」

やっぱり二十九歳とは思えなかった。

とりあえず、何も思い浮かばないので、おれは一眠りする事にした。

 

 

 

 

ドキドキ……。

おれは今、緊張がマックスを超えそうだ。

挨拶は……とりあえず、初めまして……いや、それだと普通すぎるな……。

ヘリが着陸する。

おっと! 待ってくれ! もう、もうなのか!

お……向こう側に誰かが立っている。

まさか、あれが…………!!

なんか、はろーミサトーとか調子こいて挨拶している。

やっぱり、あれがそうなのか? 本物なのか!

ビックリしたよ。

あれでエヴァに乗れるのか……。

目を疑ったね……。

目の前にいるセカンドチルドレンと呼ばれる少女は……。

 

 

 

おれの5倍以上の横幅があった…………。

 

 

超デブだぁあああーーー!!!

 

 

 

 

 

 

「という夢を先ほど見ました」

 

 

 

――シーン

 

 

 

「えっと、シンジ君?」

 

「どうした? ミサトさん?」

 

「いや……」

 

「ん? ああ、そうか、名前言ってなかったな。おれは碇シンジ。これからヨロシク」

おれは華麗に、自己紹介をした。

 

あれ?

 

なんか変だぞ?

 

ちょっと待て……。

 

……誰がぁ……」

目の前の女の子が下向いてプルプルしてます。

……誰があぁ……」

もしかして……これって……。

……誰がデブだぁああああ!!!!」

 

おれは、どうやら寝ぼけていたようで……。

緊張のあまり、最悪な自己紹介をしてしまったようだ……。

ああ……せっかくやっと会えたアスカ……。

懐かしいな……この強烈な突っ込み……。

おれ……バカだなぁ……。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ。ミサト! マジでこれがサードなわけ?」

「えっと……シンちゃん、たまに変なのよ」

おれは何とか身体を起こし、目の前にいる女の子を見た。

おれが好きな女の子。

守れなかった女の子。

それはとても綺麗で、素敵な女の子だった。

「悪い……寝ぼけてたみたいだ。改めてよろしくな」

…………フンッ!」

まいったな……目の前で動いているよ。

胸の奥が破裂しそうだ。

……あ……アスカ……会いたかった……。

…………あんた……なんて顔……」

ん? あ! ヤベ! 超意味深な顔しちまってる!

目の前のアスカもおれの顔みて……顔赤くね?

一目ぼれ?

いや、いきなりまじめな顔したからだろう……きっと。

つか、まずいな……このままだと……おれはアスカを抱きしめてしまいそうだ。

身体が震える。

目頭が熱い。

まずい……このままじゃ……おれはとても変な人と思われてしまう!

いや、もう思われてるかもしれんが。

なにか別のことを考えろ!

そう、たとえば……楽しいこととか……なんかこの感情を抑えれるものを!

なにか……なにかないのかぁ!

 

――僕が番長です。

 

…………ぶはっ……」

やっちゃった!

強力なの思い出しちゃった!!

いきなりだったから、耐えるまもなく吹き出しちゃった!

なぜに、こんな危険な言葉がぁ!!

でも……強力なだけあって感情は抑えれたな……。

あれ? アスカのやつプルプルしてるぞ?

もしかして、僕が番長ですがそんなにウケタ?

……サードぉ……」

あれ? なんか……怒ってらっしゃる?

「人の顔見て笑うってどういうことよぉお!」

……あ、なるほど……」

 

 ドゴーン!!

 

最悪な出会いだった。

 

 

 

おれは結構広めな船内の『Mess room』で唸っていた。

やっと会えたアスカは、やっぱりアスカだった。

そして、とても可愛かった。

少々暴力的だが……。

ちょっぴり小さな可愛いアスカ……。

 

…………。

 

…………。

 

……ちょっと待て。

 

なんかおれ、ロリコン発言してないだろうか?

 

ああ……会った時……ドキドキしたよ……。

僕はロリコンです。

……ぐぅ! もう一人の声が聞こえてくる気がするぞ!

違う! 断じて違う! 確かに抱きしめたくなった……たまらないほど……。

僕はロリコンです。

ちがぁう!

違うぞ! おれはロリコンじゃない! 違うんだぁ!

ただ…………下手したらキスを……。

…………アスカ………。

あれ? これロリコンじゃね?

 

違うよ……違うんだよ……きっと……僕は普通さ……。

 

あぁああぁあああぁぁああぁぁぁぁ………………。

 

 

「ねぇ、ミサト……サード何やってるの?」

「あはは……シンちゃんったら……いつも以上に変だわ……」

…………あれ? 加持さん?」

え……!?」

 

よく考えたら、おれは見た目、十四歳なんだから、ロリコンじゃないんじゃねえか?

……しかし……うがあがあああ!!

……碇シンジ君ってキミかい?」

おれは如何すればいいんだ!

最近マヤさんも良い感じだし……。

綾波も……いやいや!

つか、ミサトさんも……リツコさんだって……。

うおおお! 俺は最低だぁああ!!

……あれ? シンジ君? だよね?」

まあいい……あまり考えないほうがいい! そうだ……何も考えなきゃ良いじゃないか!!  現実逃避という素晴らしい言葉があるじゃないか!!

……えーと……」

つか、なんかおれ声かけられてない?

…………。

あれ?

……あ!」

「おっと、気がついてくれたかい?」

うわ! 加持さんだよ……若いよ! つか、なんでいるの!?

「改めて、キミが碇シンジ君でいいのかな?」

ニヤニヤしながら、まるで『僕? 迷子になったのかい? どれ、俺が一緒にお母さん探してあげよう』とか言いそうな表情で、おれを見つめている。

カッチーンっときた。

加持さんって人はさり気なく人を分析するようなゲス野郎だ。

まあ、おれと同じタイプってやつ。

しかし、いまの加持さんは……あきらかにさり気なくじゃない。

ニヤッとした唇、興味津々だと言わんばかりの視線、ヘラヘラしたこの顔殴りてぇ! 探る気満々って感じ。

なんだ? おれはすっごく良いお兄さんだぞ〜とか言いたいのか!!

おれを子供だと思って馬鹿にしているね……。

おれの知ってる加持さんなら、必ず警戒しつつさり気なく接する……特に最初はね。なのに、この態度!

まったくおれを警戒してない……どうとでもなる、興味があるだけのただのガキだと思われてるって事だ。

ああ……そういやこの感じ、おれ見たことあったな。

前の世界の記憶……加持さんが仕事でターゲットの息子に情報を聞き出した時だ!!

あの作戦、確かに子供は警戒するまでもないただのガキで、いきなり『俺は君の味方だよ』とかうさんくせ〜セリフで騙して……つか、いきなり知らないおっさんにそんなこと言われて誰が引っ掛かるんだよ! って思いっきり突っ込みたかったのに、そのガキ、まじで引っかかるし……ああ、あのガキはアホだ……アホ過ぎだ! 『お前アホだな』って今度は突っ込みたくウズウズしたほどだ! つか、その後『どんな相手でも油断は禁物だ』って逆におれが注意するってどういう事だ? あんた俺の師匠だろうが!!

……そう、基本加持さんは子供に甘い。

つい甘さが出る人だ……まぁガキで警戒するほどの奴って居ないに等しいからな……例外はあるけどね。

そう、加持さんに感化されちまったおれは、油断して、その例外のガキに殺されたんだもんな……。

……ん? …………ちょっと待て……。

おれは今ガキ扱いされている。

そう、おれは……アホだと思われてるってことなのか!!!

く……くっくっく……まいったねぇ……こいつは笑っちまうなぁ……。

これははっきり言って、おれへの挑戦だね。

……あんた誰? 曲者?」

…………えーと、加持リョウジだ。シンジ君は……なんか変わってるね……」

なに! アホだと言いたいのか!

……ミサトさんほどじゃない」

そう、アホはミサトさんだ!!

「ほう、なるほどね」

……まぁこの発言は加持さんも納得か。

……シーンージークーーン……どういう意味かしらぁ」

変なミサトさんが現れた。

「よう! 久しぶりだな」

「ていうか、なんであんたがいるのよ!」

「アスカの随伴でね……ドイツから出張さ」

なるほど、こっちでも二人は良い関係なのかな?

「加持さーん! もーいままでどこにいたんですかー」

アスカが加持さんの右腕に絡んで甘える仕草をする。

どうやら、かなりなついてるみたいだな。

なんか、ムカっとするな……。

「で? 加持さんとやら……なぜおれの名前を知ってる」

殴りてぇ……殴りてぇ……殴りてぇ……。

「あー……この世界じゃ有名だからね。何の訓練もなしで実戦でエヴァを動かし、三体もの使徒を倒してる」

「なるほど、それでおれが気になるってわけ?」

……そうだね……やはり面白い子のようだ」

随分好奇心旺盛のようだな……その目……ちょっとムカつくなぁ……」

マジでムカつく!! なにが面白い子だ! アホだと言いたいってのはわかってるんだよ。

アホだと言うやつがアホだ! そう、あんたがアホだ! アホ! アホ! 

……まいったな……そんな変な目してたかい?」

「ははっ! 白々しいな。そうだね、今のおれと同じ目をしてるよ」

アホを見る目だ。

…………へぇ……おどろいたな……」

へぇ……目が鋭くなった。

やっと警戒しはじめたかこんちくしょう!! だが、まだ甘い。

「そんなに見つめるなよ……もしかしてその気でもあるのか?」

「おっと……今度はそうくるかい?」

あらあら、そんな不用意におれに顔を近づけちゃってまぁ……。

そんな加持さんに殺気を漏らさないよう、おれは懐の銃を素早く抜いて加持さんの額に押しつける。

「バイバイ」

お別れのセリフとともにニヤリと笑いながら引鉄を弾いた。

 

――ガチンッ

 

「…………うぁ……」

「な〜んちゃって」

銃の弾は抜いてある。

おれは冗談っぽい口調で、だけど表情は崩さない。

まぁ、『大成功!!』という言葉が大きく頭に響いてガッツポーズしながら小躍りしたい気分だったが。

加持さんはすぐに動けず驚いてる。

いつもなら対応できるんだろうが、ほら、やっぱりおれをガキ扱いしてた。

「加持さん……あんた、どんな相手でも油断は禁物だぜ……たとえ見た目ガキでもな。」

加持さんの目が大きく開く。

まぁさすがに自覚はしていただろうけどね。

「もしおれが敵だったら、今ので加持さん死んでるね」

「……そう……だな……」

「んで、分析結果は?」

…………さすが……だね」

「そりゃどうも」

おれはすっきりして目線を緩ませた。

うむ。余は満足じゃ!

まだ加持さんは驚いてるみたいだな。

つか、周りが随分静かだな……。

……どうした? ミサトさん……」

とりあえず目が点になってるミサトさんに声をかけた。

「え! ……って、どうした? じゃないでしょう! いきなり何してるのよ!!」

うげ……むちゃくちゃ怒ってる……。

…………」

アスカも黙っちゃって驚いてる。

……反応ないな……放心状態?

まあ…………いきなりこんな事したら驚くか。

「まあ、とりあえずよろしくお願いします。加持……リョウジさん」

……ああ、こちらこそ……」

と、握手。

まあ、このぐらいで許してやろう。敵にしたくない人だしね。

尊敬してる人でもあるし……。

 

 

―――――

 

 

「加持さん……ちょっと良いかな?」

「ん?」

おれはその後一人になった加持さんに声をかけた。

理由は分からないが、なぜか今話をしなきゃいけない気がしたからだ。

「話がしたいんだけど」

「……ああ、なら俺の部屋にくるかい?」

「そうだね……襲わないなら」

「まいったな……じゃぁ、こっちだ……シンジ君」

加持さんはそう言って警戒しながら部屋へと案内してくれた。

 

「さ、そこにでも座ってくれ」

「ああ……ああそうだ、コーヒーブラックで良いぞ」

「……くくっ、了解だ」

おれは案内された部屋をぐるりと見渡しながら近くの椅子に座る。

……普通だよな……なぜ、おれはこんな行動をしなきゃいけないのか……。

なんか、脳が疼くな……。

「インスタントしかないが、いいかい?」

「ああ、濃くしてくれ」

加持さんはおれの返答を聞いて備え付けの電子ポットでお湯を沸かす。

……とりあえず、何の話すればいいかな……。

そう考えながら、おれはタバコを取り出し火をつけた。

「ふぅ〜」

「おっと……シンジ君ってタバコ吸うのかい?」

「え? ……ああ、まぁ……やめられなくってね」

「そうかい……」

「まぁ、やめる気もないが……」

「ははっ……さっきは本当に驚いたよ……でも、シンジ君のしゃべり方、いいね。あんな事があったのに、なんだかとてもリラックスできるよ。じゃ、俺も一服するかな」

そう言って、加持さんもタバコに火をつけた。

まだ警戒心はあるが、自分と同類だと感じ取ったらしい。

おそらく、加持さんには砕けて会話できる同等の友人が居ないんだろう。

……確かに、おれもこの空気好きだ……。

「そういや未成年だったな」

おれは今気づいたかのように言ってみる。

「今更な発言だね」

確かに今更だ……ははっ。おれは考え過ぎていたせいか、それともこの空間の雰囲気が良かったのか、つい何も考えずにタバコを吸ってしまったわけだ。

「しかし、未成年ならタバコを買うのも一苦労だろう?」

そう、とにかくお店では絶対売ってくれない。

もちろん自販機も認証みたいなものが必要であり買えない……。

まったくメンドイ話だ。

「頼んでるんだよ。確か特殊任務部隊長だったか? その、井上ユキジ一尉ってオッサンにね」

「へぇ……あの人と知り合いか……」

加持さんの目つきの色が変わる。

どうやら、加持さんもあのオッサンと知り合いか……。

「それにしても、オッサンとは……怖いもの知らずというか……」

「面白い人……いやアレはどうしようもない変態だよ……まぁ確かに怖い人だけどね……だが、信用できる人物だ」

「変態かぁ〜……毒舌だね。井上さんは、昔仕事で一緒になってね……随分世話になったよ……まさかそんな井上さんとシンジ君は繋がりがあったなんてね」

「……加持さん……おれは……できれば加持さんも信用したいんだよね」

「……君は本当に十四歳なのかい? 全く信じられないな……で、本題ってとこかい?」

どうすっかな……ぶっちゃけ、本題なんか全くない。

ただ気になったから……それだけだ。

だが、今会わなきゃいけないというあの感覚……無視はできない。

直観力だけは、自信もって信用できる……おれの唯一の能力だ。

おれは、タバコの火を消しながら、もう一度部屋の周りを見渡す。

そこで、ふと目に入った黒いアタッシュケースに気付いた。

別に、おかしいところはない……だか、目に入った瞬間、無視できないプレッシャーを感じとった。

間違いない……厳重に鍵をしてある……あのアタッシュケース……きっとこれが答えのようだ。

つか、不用心だな……恐らく大事なもの……わかりやすい場所に普通に放置するなよ……。

まぁ、そこも加持さんらしいけどな。

「加持さんは、何しに日本へ?」

おれは、加持さんへ目線を戻した。

「……言ってなかったかい? 俺はアスカのボディーガードでね、今回は随伴って事さ」

「表向きじゃなく、裏を聞きたいんだが?」

おれの発言に加持さんは一瞬目を大きく開く。

……一瞬の変化だけど、驚きで目を大きく開く人は多い。

どんな訓練をしても、なかなか修正するのは難しい。

たとえ、加持さんでも……。

さっき銃を突きつけたときもそうだ……あの時はあからさまだったが。

「まさか、随伴って理由だけで、加持さんみたいな目をした人物が日本に来ないでしょ?」

その瞬間、あたりの空気が重くなる。

加持さんは鋭利なナイフのように冷たく研ぎ澄まされた殺気を向けてきた。

まいったね……そんな殺気……おれに対して有効だとでも思ったのかよ。

まだ認識不足なのかな? ガキ扱いしちゃって……。

ただ……まぁおれは実際ガキだ……普通ならそんな殺気を受け流してしまうのが大人なんだろうが、おれって負けず嫌いでね。

そう……その殺気……ムカつくね。

おれは、その殺気を打ち消すほどの……いや覆い尽くすほどの殺意を込めて加持さんを睨みつけた。

空気がピリピリと乾いた音をたてるように緊張感が充満していく。

動けば死……そんな重圧感が部屋中立ち込めていった。

「まいったな……まさか、殺気で返されるなんて……俺はシンジ君を、まだ子供扱いしていたようだ。これは予想以上……大人っぽいではなく……俺と対等であり同類か……その歳で、本当に信じられないな」

耐えられなかったのか、それとも感心したのか、加持さんは、殺気を緩め、タバコを灰皿に押し付ける。

恐らく、両方かな?

「そうそう、おれはガキだよ。加持さんと同類って意味での……ね」

その言葉を聞いた加持さんはニヤッと笑う。まるで面白いおもちゃを見つけたように目をキラキラさせて。

「で、シンジ君は何を知ってるんだい?」

「そこにある、アタッシュケース……中身が気になるな〜」

「おっと。気になっちゃうかい? ……ふぅ〜」

加持さんは『やっぱりね』とでも言いたそうな表情で、ため息を一つ吐いたあと、例のケースを机の上に乗せた。

って、見せるつもりなのか?

間違いなく、中身は重要なものなんだろう。

なのに、そんな簡単に見せれるものなのだろうか? それとも、答えはこのケースの中身じゃないのか?

「さ、待望の中身だ」

加持さんは、鍵を開け、アタッシュケースを開いた。

「これは……」

そこには不気味な物体が一つ。

そう……これは生きている。

だが、その不気味な姿などで驚いたわけじゃない。

そう……その物体から漏れ出るオーラのようなものに、シンジは驚いたのだ。

――ドクン ドクン ドクン ドクン

鼓動が激しくなる。

目が熱くなる。

共鳴? なんだ? これは? 絶望? 失望? 怒りや悲しみ、そして恐ろしいほどの孤独を感じる。

この物体はなんなんだ? なぜ、おれは、この物体と自分を同じものだと認識するんだ?

本当の恐怖……そう、あの孤独を共有しているような……。

あの……孤独?

なんの孤独だ? わからない! いやだ! 思い出したくない!! あれを思い出したら、おれはおれじゃなくなる!!

「ぐぅ!!」

不気味な物体が光りだす。

まるで何かを訴えるように。

なにを言いたいんだ! これはなんだよ! 

頭の中を虫が蠢くような、そんな感触……これは耐えきれない……違う! 違う違う違う!!!

おまえは、おれじゃない!!!!

だからやめろ!! おれに思い出させるな!!!

「ぐ……ぐぁああ!! っくぅ……」

「シンジくん! 一体どうしたんだ!」

「か……加持さん……ケースを……ケースを閉じて……」

「あ……ああ」

加持さんは急いでケースを閉じた。

すると、嘘のように、先ほどまでの感覚が薄れていった。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

くそ……なんだったんだ、さっきのは……。

気分が悪い……。

「シンジ君! 大丈夫かい? 一体どうしたんだ?」

さすがに加持さんも驚いている……つか、驚きすぎじゃね?

まぁ、いきなり苦しみだしたら驚くだろうけど、ちょっと異常だ……今日一番の驚き顔だな。

「ああ……大丈夫だ……それより、さっきのアレ……なんなんだ?」

「……アダム……と言えばわかるかい?」

アダム……。

ああ……知ってる……知ってるよ。

「それにしても、シンジ君は一体何者なのか……より興味を持ったな」

「……だろうね……」

「あのアダムから放たれた光……シンジ君の身体に吸い込まれていくように……」

おいおい! そいつは聞き捨てならない台詞だな。

「おれに、吸い込まれただと?」

「ああ、俺にはそう見えた……」

なんだそれ……。

つか、それであんなに驚いていたってわけか……。

おれの身体……別に変化はないように思える。

不安になってくる。

くそ……おれらしくないな。

ウジウジするのって無茶苦茶嫌悪感があるんだよ。

……なんでここまで嫌悪感があるんだろう?

あれ? おれって昔は……。

なんだ? 記憶が変だ……なんか、全てがぐちゃぐちゃに混ざり合ってて記憶の関連付けができない。

いや、今は深く考えないほうがいいだろう……。

…………知りたくないから……。

「……アダム……なぜこんな簡単におれに見せた?」

「そうだな、そのほうがおもしろそうだと思ったからだ」

……なるほど、加持さんらしいな。

「で、加持さん、そいつ……どうするつもりだ?」

「聞くまでもないだろう?」

「まぁ……そうだな……」

親父……司令へのお土産ですか……。

「シンジ君はどうしたい?」

「……そいつを渡してもらおう……って言ったらどうするんだ?」

「そうだね……シンジ君に渡してみるのも面白いかな」

「ははっ……やめておいたほうが良い。親父に殺されるぜ」

「あ、やっぱりそうかな?」

加持さんは頭を掻きながら苦笑した。

「そりゃそうだろう? あの爬虫類のような視線……うわ、キモッ!」

「……爬虫類って……仮にも父親だろう?」

「……死にたくなるセリフだな……」

「あ……そこまで?」

「……マジで気をつけろよ……あれ、人間やめてるぜ」

真剣な目で、加持さんを見つめる。

あいつは、10手先まで読んでそうだ……あいつは……おっかねぇぞ。

そう目で訴えながら、加地さんに忠告する。

「…………そうだね」

うん。どうやら伝わったようだ。

あのアダムってのを何に使うかわかんねぇ、本当なら、ここで処分するなりして親父に渡らないようにすべきだと思う。

だが、そうすれば必ず加持さんは殺される。

これは、100パーセント間違いない。

せめて精巧なダミーアダムみたいな物があれば良いんだけど、そんなの用意する時間なんてない。

だから、今回は仕方ない。

恐らくだが、アダムが親父の手に渡っても大丈夫な気もするし……あれこれ考えて頭使うのは疲れるし。

何も考えずに……ああ、酒飲みたいなぁー…。

「……で、酒はまだか?」

「え? コーヒーじゃなかったのかい?」

 

 

――――――

 

 

しかし、加持さんまで出てくるなんてなー。

どうやらミサトさんとは仲が良いって感じでもないけど……実際はどうなのかね?

そして……アダムか……。

……くっ! 考えるだけで吐き気がする。

くそ! なんか嫌!! こんなおれ嫌!! さっぱり行こう!! うん、ミサトさんでもからかいに行くかな。

いや、それよりも、アスカだ……。

今後どう接してやればいいんだろうか……。

……いや、だからこういう風に悩むのが嫌なんだっつーの!! とりあえず、『やらせてくれ』とでも挨拶しておこう。

…………殺されるから止めましょう……。

でもなぁー……とりあえず第一印象最悪っぽいんだよなー……。

「サード!」

そそ、なんかサードとか言って名前呼んでくれないし。

「ちょっと! サード!」

てか、こっちのアスカ……かなり情緒不安定じゃね?

なんというか……少し変な気がする。

「サード!! あんたいい加減にしなさいよ!」

「おっと!」

左肩を掴まれる。

………………アスカだ。

どうやら、また考え事して気づいてやれなかったみたいだな。

この癖……どうにかしたいな……。

……で? なんか用か?」

うむ。やっぱり『やらせろ!』とは言えなかった。

……随分な態度ね。加持さんにもあんな態度で……」

「ふむ……まあ、あれはただの探りあいみたいなもんだ」

「その喋り方ムカつくからやめてくれない?」

……なんでそんなに敵視するんだ?」

……くっ!  加持さんにあんなことしといて! あたりまえでしょ!! とにかく、ちょっとこっち来なさい!」

……ああ」

アスカは近くの階段を降りていった。

…………。

…………。

……って! なんでついてこないのよ!」

アスカは走って戻ってきた。

「ああ、なんとなく?」

「むっきー!! あんた何様よ!」

むっきー?

サル?

……ぶっ……」

「ちょ、なに笑ってるのよ! ほんと失礼なやつね。いいからこっち来なさいよ」

そう言っておれの服の袖を掴んで引っ張っていく。

強引なヤツだ。

だが、これでも俺はさっきまで気落ちしてたんだがな……。

さすがアスカだな。

ははっ……やっぱアスカはアスカだな。

 

アスカにとっては、出会い。

でも、おれにとっては待ち望んでた再会。

やっと逢えた大事な人。

今度こそおれが守ってやる。

しかし……抱きしめられないってのは、胸が切ないね……。

胸が……切ない……。

せめて、『胸を揉ませろ』ぐらいなら大丈夫かな?

…………。

いや、ロリコンじゃないっすよ。