……まじでまいったな……。

左腕が……全く動かねぇ……。

 

 

第18話  [ 左腕 ]

 

 

 

 

やっと帰ってきた我が家。

とりあえず、左腕はどうにも動かなかった。

……まじか……全然……ピクリともしねぇ……。

肩は動く……問題ない。だから腕を振り回すことは可能だ、だけどその下から……まったく反応がなかった。

一時的なもんだと思うが、まぁ利き手じゃなくて良かった。

普通なら、ここで『腕が動かない? うそだろ? ……なんで! おれは……うっ……』みたいに落ち込んだりするんだろうが、おれは一味違う!!  まぁ死ぬわけじゃねぇしな。

つか、いちいち落ち込む奴ってムカつくんだよね。

なんていうか、嫌悪感を感じちまう。

昔おれがそうだったから……うん、確かすっごくムカつくガキだった記憶がチラホラ思い出してきている。

だからこそ、余計そう感じるんだろう。

はっはっは! まぁ、なんとかなるだろう!!

と、思ったのが数時間前だ。

 

「……うがぁああああ!!!」

叫んだよ……ああ、叫んださ! だって、すっげー不便なんだよ!!! 侮っていたぜ……まさか、ここまでとは……。

片手で料理できるかぁああ!!!

トイレも一苦労なんだぜ!! ありえねぇえ!!!

良く考えれば、車の運転すらできなくねぇか?

バイクだって……いや、なんとかなるか?

……というか、これ、みんなに内緒で暮らすのって、むちゃくちゃ無理がある……。

おれは落ち込んだ……。

 

「シンちゃん……なに黄昏てんの? 変な遊び?」

ミサトさん……あんたには……そう見えるのかよ!

 

とりあえず、さすがにこのままだと不便なので、病院……すっごく行きたくないけど見てもらおうかと考えていた。

んで、左腕が動かないことは、みんなには内緒の方向で頑張ってみよう。

アスカに知られたくねぇからな……。今ばれたら、絶対自分の責任とか言いそうだ。

とりあえず、時期を見て……適当に事故ったことにすればいいだろう。

もしかしたら、その頃には動くようになってるかもしれねぇし。

うむ……つーことで、とりあえず……まずは学校行くか……めんどいな〜。

 

おれはこっそりバイク通学。

うむ、ちょっと不便だが、まぁなんとかなった。

少し慣れは必要だな。

教室に入ると、番長……いや、トウジが声をかけてきた。

普通の朝の挨拶……周囲は、ホモ説が流れているせいか、変な目で見るやつも多い。

「まぁ! またあの二人よ〜」

「どっちが攻めかしら? やっぱり……きゃぁ!」

……うぜぇ……。

 

 

 

「転校生?」

「ああ、そうなんだよ。今日、とびっきりの美少女が転校してくるんだ!」

自慢げに言うケンスケ……まったく、どこでそんな情報を仕入れたのか……。

まぁ間違いなく……アスカだろうな。

そういや、あれから会ってないな。

ちなみに、ケンスケとは友人ではあるのだろうが、少しおれにビビっている。

ちょっとでも睨むと青ざめた顔で謝ってくる。

この前は土下座されて参ってきた。

クラス中の視線が……。

――ガラガラ

「席に着けー……」

教室の扉が開き、先生がダルそうに入ってくる。

そしてその後ろからついてきた女性……アスカが堂々と、背筋を伸ばしておれたちの前に現れた。

……同じクラス……ね。

 

 

――――――

 

 

アスカは一瞬にして人気者になった。

外面が良いというか……あの短気でわがままな性格は隠しているようだ。

世渡り上手というか……すっげー違和感だ。

「シーンジ!」

……随分と明るい声だ……。

うむ、可愛いぞ!

「ちょっと聞いてるの?」

「なんだよ」

照れ隠しでぶっきらぼうに返答する。

ああ……おれってツンデレじゃん!

「ファーストって誰?」

ん? 綾波を知りたいのか……挨拶でもするのか?

おれは隣を指さす。

そこにはいつもと変わらぬ無表情な綾波がちょこんと座っていた。

「……暗そうね……」

そいつは……否定はしねぇけど……むちゃくちゃ明るい綾波……想像できないな。

「あなたがファーストね。私は惣流・アスカ・ラングレーよ。よろしく!」

アスカは綾波の前に立ち、自己紹介を始める。

「……」

綾波はその言葉に首を傾げる。

……なぜ傾げるんだ?

「……聞いてるの?」

「……命令ならそうするわ……あなたは誰?」

「ぶっ!」

おれは噴き出した。

そういや、忘れていた……そのセリフ……ここで使うのはナイスだぜ綾波!

アスカはプルプル震えている。

そりゃそうだろう。

「く! ちょっと! 馬鹿にしてるの? 私は惣流・アスカ・ラングレーよ!!」

「馬鹿にしてないわ……あなたは誰?」

「ぶはぁっ!」

さらに噴き出した。

繰り返しのギャグ……こりゃきっついぜぇ。

「ぐ……ぐぐ……ぐぐぐ……」

あ〜……アスカのやつ、怒り心頭って感じだな。

つか、やっぱりこのセリフ……面白いと感じるのはおれだけなんじゃないだろうか?

うむ……どう考えても相手に嫌われるぞ……。まいったな……綾波、そしてアスカ、すまなかった!! そして、とても楽しかったぞ!!

満足したおれは、ここで綾波を止めた。

「綾波、もうそのセリフは卒業だ。おめでとう!!」

「……コクリ」

――タララタッタター♪

遠くでめでたそうな音楽が聞こえた気がした。

今度は別パターンを考えてやるべきだな……そうおれがウンウン唸ってたら、いつの間にかアスカは怒ってどっかに消えてった。

うむ、なんかしらんが、二人の関係、最悪じゃね?

おれのせいだった……。

 

 

―――――

 

 

学校が終わると、おれは急いでネルフへ向かった。

向かう先は、オッサン……井上さんね。

腕のことで、信用できる医者を紹介してもらうって事。

あとは、リツコさんにも説明しておいたほうが良いだろう。

ミサトさんは、ドジっ子だから止めておこう。

「オッサン!」

「ああ? おお、シンジか。なんだ、子供でも出来たか?」

「出来るかボケ」

そう、このオッサンは……基本アホなんだ。

「なんだ。独り身の俺に自慢しにきたんだな! 俺も女が欲しいっちゅーねん! この際、誰でもいい! シンジ、同居人でも良いから薬で眠らせておれの前に連れてきてくれないか?」

「アホかぁ!! ミサトさんはあんたの教え子だろうが!! しかも犯罪じゃぁ!!」

おれは思いっきりぶん殴った。

「……ふっ……カッコつけて、おれの宝物である銃までプレゼントしたってのに、やらせてくれないなんてなぁ〜」

駄目だ……このオッサン……。

つうか、銃をプレゼントした思惑が……それなのかよ!

ミサトさんも、この本性を知ったら……ショックで気絶するかもな……。

「で、その銃を、なぜシンジが持ち歩いてるんだ!!」

「貰ったから」

「……く! シンジ……おまえ、まさか……」

「頼むから……変な想像しないでくれ……つか、マジな話があるんだよ」

「俺はいつだってマジだぞ!」

ああそうですか……。

 

…………。

「……そうか……とりあえず信頼できる医者を紹介してやるが、あまり落ち込んでないな?」

「ん? まぁ、不便だけど、特に落ち込むことでもないだろ?」

「……やっぱりシンジは……危険だよ」

「そうかい?」

「ああ……変態だ」

おい……変態って……。

「……あんたに言われたくないな」

「おれは自分が変態という事実を受け入れてる」

「そうか……自覚してたんだな」

「シンジは基本失礼な奴だ。やはり娘は紹介できないな」

「……いや、何の話だよ。つか娘いたのかよ!」

「シンジが俺の娘を狙ってるのは知ってるぞ! フン! 娘のパンツは俺のモノだぁ!!」

……本気で変態だ……。

「ふふん、娘は俺に似て素晴らしいぞー」

似てるのかよ……最悪じゃねぇーか。

「なんだシンジ、頭抱えて……もしや! 貴様! 娘だけじゃなく女房にまで!!」

「待て……何の話だ」

「ああ、数年前に出てった女房……最後の言葉は『もう疲れた』だったな」

おっさんは、突然遠い目をしてシリアスに答えた。

「……すまん、いきなりシリアスに答えられても、ギャグにしか聞こえねぇ。しかもそんな事おれは聞いてない」

思ったままを伝えた。

「マリア……くっ」

なんだ? まだ嘘っぽいシリアス続くのか?

マリアさんが逃げられた女房か……とりあえず、そのマリアさんって人の事を聞いてやればおっさんの気は済むんだろうか?

めんどくせぇ……。

「マリアさんね。イイ女だったのか?」

仕方なく聞いてみる。

「……シンジ……おまえ……」

おっさんがプルプルと震えだす。

え? 何? 

「貴様ー! 娘、女房ときて、更には俺の母親まで手を出したのか!!!」

「ちょっと待て!! 何の話だぁ!!」

「しかも貴様……なぜ俺の母親の名を!」

……おい。マリアってのはおっさんの母親かよ!

つか、あの場面で何故母親の名前なんだよ! 意味わかんねぇーよ! しかも呼び捨てかよ!!

「おっさん……もうアンタ疲れるよ」

「ぐほぁあ! 女房と同じセリフを!!」

あぁ……納得だ。

そりゃぁ疲れて逃げるよ。

しかし、マリア……聖母マリアってか? このおっさんの母親やってこれたって事は、名前通りだね。

とりあえず、凹んでるおっさんを蹴り飛ばしておいた。

 

 

 

―――――

 

 

とりあえず、医者に診てもらったが。

4時間もかかりやがった……。

マジで疲れたよ。

これは、リツコさんも検査に参加したからだ。

まさか、あんなに心配させちまうとは思わなかった。なぜにあそこまで……たかが左腕が動かないだけで……悪いことした気分になるな。

とまぁ、地獄の検査が終わり、結果待ち。

予想通りというか……二度と左腕は元に戻らない……との事だった。

ほとんどの神経はブチ切れて、手術すれば、逆にもっと酷くなる可能性が高いとの事。

今は全く動かない左腕ではあるが、いずれ赤ちゃん並みぐらいは回復するそうだ。

ただ、それ以上は無理。

うむ、それだけあの時のダメージが酷かったってことだろう。

確かにあれは痛かった……。

ちなみに、弐号機の左腕は、千切れかかっていたそうだ。

そして、その状態でのシンクロ率は……200を超えていたそうな。

単純に言うと、倍の痛みってことらしい。

しかもその痛みは全ておれに……まぁ、アスカが痛い思いしなくて済んだのは良かったけどな。

しかし、まいったね……まぁ慣れると思うけどさ。

だか、引っかかる部分がある。

おれが骨を折ったと思っていた戦闘……あれからも考えてはいたが、やはり折れていたはず……それは間違いない。

なのに、エヴァから降りたら治ってた……筋肉痛だけ残して。

そこから導き出されると言えば……恐らくはエヴァ……。

エヴァの超人的な回復力でおれも同時に回復されたということ。

違うかも知れないが、それが妥当な気がする。

なら、なぜ今回は回復しなかったのか?

……マジでわかんねぇ……シンクロが高けりゃ、その分パイロットにもフィードバックにより怪我をする。

ただ、外傷は無い……。

ダメージは残るが、怪我としての結果は出ない……確証はないが、今までを考えるとそうだと言える。

今回は、そのダメージで神経に?

骨は結果として出ないということか?

なるほど、その可能性もあるか……シンクロでのダメージは、骨折などの怪我には影響が出ない。

ただ、折れたようなダメージを負うだけ。

だが、神経系は別ということか?

んでもなー……断裂しちまうってのは変な気がするな。

ダメージという記憶のせいで、神経が麻痺し正常なのに異常だと勘違いしてしまい腕が動かせない。

これならわかる。

なのに、断裂……。

おれ……弐号機に乗ったとき……そう、噛まれたとき腕はどうだったっけ?

血は……出てない……。

やっぱ外傷は結果に出ないってことなのは間違いないだろう。

……もしかして、弐号機だったからか?

あれが初号機であれば、腕は大丈夫だったんじゃないだろうか?

無理やり弐号機にシンクロしちまったから……うん、これっぽいな……。

ふ〜……とにかく、これ以上考えるのはやめておこう。

疲れるから。

 

ま、なんとかなるさぁ〜。

 

 

 

「シンジくん……」

「はい?」

なんか複雑な顔をしているリツコさん。

検査が終わったあと、例の酒場で飲んでいた。

「……なんで、普通にしてられるの?」

「……なにが?」

「……左腕……もう普通に動かせないのよ」

「ああ……逆に邪魔だよな〜……切っちまったほうが良いかもな」

「そうじゃない!! ……うっ……そうじゃ……ないのよぅ」

うっ……なんか、泣きそうだよ……。

「あの……なぜにそんなに……って、やっぱおれの左腕かな?」

「……なんで、いつもと変わらないの? そんなのって……あなたに一体何があったの!?」

何があったとか言われてもだな……。

「いや、たかが左腕動かない程度で落ち込まないって。前向きで良いと思うんだが?」

「普通はそんな簡単に前向きになれないものよ」

「いや……まぁそうかもしれんが、不思議と大丈夫なんだよね。ああ、そりゃ落ち込みはしたぞ! やっぱ今後慣れていくの大変そうだし」

「……」

まさか、なぜ落ち込まないのかって事で悲しまれるとは思わなかったぞ……。

「とにかく、他の人には内緒で頼む……えっと、聞いてる?」

「……ええ……わかったわ。でも、約束して!」

「な、なんでしょう?」

「もっと自分を大事にしなさい」

……なるほど……そういうことね。

たしかに、そう感じるよな〜。

だけど、しょうがないじゃん。これが今のおれの性格なんだからさ。

精神的に異常……うん、その通りだと思うから。

なおしようがない……もしおれが異常者じゃなかったら、とっくに死んでるよ。

 

………まいったな、すっごくシリアスだ……。

 

こういう時こそ笑いが欲しい……。

 

「リツコさん……」

「何?」

「……おれの左腕を、ドリルにしてみませんか?」

「……は?」

…………。

…………。

 

……あれ?

 

なんだろ……すっごく悲しい目で見つめられちゃってるよ……。

なんだかな〜……やっぱ暗いのは苦手だな。

 

「あー……リツコさん、聞きたいことあるんだが……」

暗いなら、そのままシリアスで攻めるか……。

「え? あ、何かしら?」

「……リツコさんは、かなり深い部分まで、ネルフに関わってるよね?」

「…………ええ、そうね……」

リツコさんのおれへの心配の仕方、表情などを見ると、そろそろ攻めていい頃だ。

まだ早いとも思ったが、いい機会だろう。

先に謝っておく……すまん。

「話せる時が来たらで良いから、知ってる全てを話してほしい」

「…………なら……」

そうだ。 リツコさんは、おれに聞きたいことがあるんだろう?

「シンジくんが、何者なのか、話してくれる?」

「…………」

そう、気になってるのはそれだ。話す代わりに聞きたい……当り前の対応。

「言えない? あなたは言ったわ。心を開けば全て教えると……」

おれは悩んだ表情に切り替える……。

「シンジくんの本当の過去が知りたい。一体何をしようとしているのかを知りたい。それを教えてくれるなら、私も話すわ」

「……まいったな、そう返されるか……そうだな……」

たっぷり悩み考えた時間分を測り、頭を抱えて口にする。

リツコさんは、まだクソ親父と繋がりがある。

リツコさんのようなタイプは、一度好きになれば、簡単に諦められない……離れられない人……依存しちゃう人だ。

関係を壊すには、思いきり憎ませてやらなきゃいけない。

ただ、そうすることによって、暴走する恐れもあるから、あまりおれの真実を話したくない。

だから、まずは……。

「……悪いが親父に知られたくない話が多いんで、今のリツコさんには言えない……」

と、絞り出すように言ってみる。

「……でも……私はシンジくんを裏切ったりしないつもり! それに……彼とは……」

つもり……ね。しかも『彼』ときたもんだ。

裏切りたくないけど、親父と二人きりになってしまうと、どうなるか分からない……そう言う事だ。

「それに、もし私が信用できないなら、なんで左腕の事話したの? それも知られたくないんじゃないの?」

「ああ、知られたくないね。だけど、おれが隠してもリツコさんの立場なら間違いなく気づく。その場合、周囲にも知られる危険性がある。だが、事前に言っておけば、そういった心配は軽減される。どっちかしか選択肢が無いんだ……それならリスクの少ない方を選ぶもんだろ?」

「あ……」

辛い顔をしてる……心から信用していないと言ったようなもんだ。そりゃ落ち込むだろうな。

だが、いずれおれか親父か……どちらかを選択しなきゃいけない。

そう……おれを選ばなきゃ、リツコさんをおれは切る……親父を選べば容赦しないって脅してるんだ。

今、リツコさんは、おれを心の拠り所として見てきている。

その居場所を失うのはリツコさんのようなタイプにはキツイだろう。

悪いが、そこを利用させてもらう。

あのクソ親父は……そんなに甘くないから……あれと対峙するには、手段は選べないんだよ。

現在、左腕というマイナス要素まであるんだ。今後もっと利用できるものは利用しなきゃいけねぇ。

だから、悪いけど無理やりにでもおれを選ばせてやる。

「リツコさん、おれはあなたも守るべき人、大事な人だと思っている。でも、親父と繋がりがあるうちは悪いが信用できない。わかるだろ?」

「あ…………」

おれは優しくリツコさんの手を握る。

不安で揺れ動く時、他者の体温は安心させる効力がある。

おれは味方だと……この温もりを失いたくはないだろ? そう意識させる。

本来、この後肉体関係でも持てれば楽だが、恥ずかしいことだが、実はおれは経験したことがない。

間違いなくリードするなんて出来ないし、リツコさん相手には少々厳しいだろう。

彼女は甘えてほしいわけじゃなく、甘えたい人だから。

そこら辺、おれは経験不足というか……そういった系が苦手過ぎるんだ。

「まだ決めなくて良い。急がなくて良い。どんな奴でも好きになったやつを裏切るのはキツイもんだから……でも、おれはリツコさんを信じたい……だから、待ってるよ。そして、全力で守ってやる」

「シンジくん……」

目を逸らさず、リツコさんを見つめる。

真剣な目で……全てを癒すように……。

「リツコさんには、幸せになってほしい」

そして、おれはここで微笑む……。

リツコさんは、きっと自身を冷たい女で酷く醜いと思っている。まぁ、実際否定できないけど……。

だからこそ、疑問が残る。

なぜ自分をそう想ってくれるのか? とね。

自分には価値がない……あるとすれば技術力や、エルフでの立場が高いって事だけ。

間違いなくリツコさんはそう考える。

そして、おれという人物は、自分を見てくれてるのではなく、利用しようと考えていると容易に思うだろう。

いや、もうそう考えているかもしれない。

だが、リツコさんはそれが分かってても、優しくされることに慣れていないのか『それでも手放したくない』と、考える。

だからこそ、漬け込むスキがあるんだ。

だから、おれはリツコさんに温もりを与えよう。

優しさを与えよう。

そして、いつしか歪んだ心を解放させてあげよう。

悩むリツコさんは、よりおれを意識する。

その意識をさらにおれは利用する。

おれは人づきあいは苦手だ。なのに、人の心理……コントロールの仕方を身につけている。

これは嫌いな行為……他人の心を読んで、自分に都合のいいように道を照らし、利用する。

どこで覚えた技術なのか……さっぱり思い出せない、恐らく加持さんとの暮らしで身につけたような気もするけど、まぁ昔から気がつけばそう言った技術がおれにはあった。

なら、目的のためにそれを使えばいい。

本当に、おれって最低野郎だ。