トンネルの向こうは、無力なる者への転落であった。

 

おれの名は春野サクラ。

趣味は料理と音楽と酒。

気がついたら意味不明な世界にいた。

おれは変な家庭に生まれた普通の男だった。いや、普通とは少し違うかな? 微妙に普通……ああ、そんな感じだな。

1つだけ、他の奴らとは違う能力がおれにはあった。

簡単に言うと霊能力ってやつだ。

そういう能力者が生まれる家系だった。

まぁ、一般人にはバレてはいけなかったし、裏で幽霊さんの成仏やら退治やらを数百年繰り返してきた伝統ある家系らしい。

実際は、よく分からん。

人によって力量は違うが、霊能力ってやつは身体の強度を高め、攻撃力すら上げることができる。

全体的な身体能力アップだ。

これは霊の攻撃の抵抗力も上がり、霊視で霊を見るのは勿論、視力アップや透視も出来、霊術を唱えれば霊を操ったり、封印したり、衝撃波を飛ばしたり、別の場所へ瞬間移動したり、相手の考えを読み取ったり、物質を手も使わず宙に浮かすなど、いろいろだ。

人によっては、この霊能力は超能力とも呼べるだろう。

一般的に全く別の能力として知られているが、実は同じで、超能力者ってやつは霊能力者って事と同じ意味。

ちなみに、おれは霊能力の力が弱く、変に偏っている。

まず、霊に触れる事すらできない。

この時点で致命的、霊への抵抗力すらほとんど無いおれは、無能と言って良いだろう。

とりあえず、おれが出来る能力……中途半端な能力を紹介しよう。

まずは瞬間移動……テレポートって言ったほうが分かりやすいか? まぁそれができる……といっても目で見える範囲限定の短い距離しかテレポートできない意味の無い能力。

使い道なんて全くなかった能力だ。

霊退治が出来ればそれなりに使える能力だろうが、それが出来ないからね。

役に立つのは、攻撃可能な……生きている、そこで存在している人に対してのみだ。

だが、そんな能力人前で使うわけにはいかない。

能力者とバレてしまうから。

あとは、物を浮かしたりもできたが、軽いもの限定……って所だな。

ちなみに、俺の妹は、タンスも冷蔵庫もなんでも霊能力で浮かすことが……いや、吹き飛ばせる……。

ありえねぇ……。

だが、2つすんごく便利な能力がおれにはある……いや、おれにとって便利なだけだが、まずは、重力操作だ。

自分の身体を軽くしたり、持ち物を軽くしたり……楽できるって素晴らしいってな能力だな。

うん、空飛んだり、重いものまで浮かす事ができたり、相手の動きを止めたりするやつらと比べたら、劣化版みたいな感じだ。

んで、もう一つが集中力操作。

単純に集中力を上げる事ができる能力だ。

普通の人は意図的に集中力を引き上げるなんて難しいだろ?

これが出来るおれは……手先が器用なんだ……。

うおー! なんか微妙だ!!

いや便利なんだぜ? この能力があれば、喧嘩に負けねぇし……まぁ人間相手ね。

相手の攻撃全部丸見えだからな。

ちなみに、この2つの能力は、親戚中でおれ一人。

そのせいもあって、よりおれは無視され続けてきた……能力者の中の異能者で落ちこぼれだからな。

親戚中が、誰もが俺を見ようとはしなかった。せめて、能無しだって目でもいいから、おれを見てほしい! そう思うようになっていた。

たまに、待ち望んでいた過激ないじめもあったね。普通は嫌なんだろうけど、おれは喜んだ。おれはここにいるって存在を認めてもらったような気がしたから。

まぁそれで何度も死にかけたけど……。

無数の石が音速でおれ目掛けて飛んで来た時はヤバかった。

下手な鉄砲より威力あるしな。

集中力強化と重力操作の能力無かったら、今頃あの世行きだった。

ま、相手も殺すのは拙いと思って手加減してたっぽいけどな。

……ただ他よりおれの能力が弱いってだけにしては過激だな。

そして、おれは、そんな相手に何度も報復として罠を仕掛け病院送りにしてやった……かまってほしかったから。

おれという存在を無視してほしくなくて。

憎しみでも良いから、おれを見てほしかったんだ。

親でさえ、おれという存在を無視していたから……。

だが、そんなおれを唯一しっかり見てくれた存在がいた。おれの妹だ。

おれの妹は、天才だ。

はっきり言って、最強クラス……誰も敵わないぐらいに霊能力が高かった。

まぁ……悔しかったね。

ちなみに、妹は基本可愛い……だが、あれは悪魔だと言いたい!!

おれの事『兄様はやればできるんです! わたくしよりすごいんです! みんなそれがわかって無いんです!』と言って、修行という地獄に突き落とされるのが日課だった。

特に、実験台にされるのがきつかった。

んで、ある日そいつにとある能力を試されたってわけだ。

なんか、妙に暗い顔で……そうそう、切実なお願いという感じで頼まれたんだったな。

いつもは悪魔のような笑みを浮かべているのに……。

ちなにみ、その頼みとは、おれの眠っている能力を目覚めさせるために術をかけるって事らしい。

悲しそうな目でおれを見つめる妹は気になったが、そんな眠った能力があるなら、是非試してみたいし、おれを白眼視するやつらを見返してやりたいと思っていたので、その甘い言葉に乗ってしまった。

うん……それが原因だった。

結果、どうなったかと言うと……まぁ、冒頭で出てきた春野サクラってわけ。

え? 意味分からんか?

おれも分からん!

だが、男だったおれは、その妹の術で転生しちまったんだよ!!

しかも女だぞ! そして……なんか世界観が全く違うんですよ。

妹よ、悲しそうな目をしていた理由って、もしやこうなる事知ってたんでしょうか?

しかも、『お元気で』という意味深な最後の言葉……さっぱりだ! もうさっぱり分からん!

で、おれは暗闇に飲み込まれていった。

 

 

 

 

SAKURA − 異能者 −

                             ――上巻

 

 

 

最初は泣いたよ。

ああ、毎日が恐怖だったね。

思い通りに動かない身体、まるで自由を奪われてしまったようで恐ろしかった。

親父だと名乗る男にキスされた時も凹んだね。

いや、まぁそれはそんな大したことなかったけど。

そう、まず赤ちゃんって時点で怖いでしょ! 意味が分からない、夢なら早く覚めてほしいと何度も願った。

あり得ない状況で何度も何度も叫んだよ……助けてくれって、狂いそうだって……。

だが、いつしかおれは受け入れていった。

永遠と思えた不自由な時間が、おれを癒していった。

ちなみに、乳飲むのはドキドキしたとだけ言っておこう。

あ、すっげーまずかったね。

やっと頭の中が落ち着いて、冷静になれた頃、あれ? これ、おれの両親? って理解できるようになった。

そう、生まれ変わったって事なんだと。

んで、全部妹のせいだと……。

で、俺が今まで生きてきた世界と違うって事を……。

最初は過去かと思ったんだよ。

忍者ってどういう事ですか? ってのは驚いたが、昔そういう里とかあったっぽいしね。

よくは知らねーけど。

だが、忍術ってのを初めて見たとき、ああ……絶対異世界だコレ……と納得してしまった。

あれ、もう魔法と同じだよ! 霊能力かとも思ったが、あんなの無理!

能力で発火能力ってのもあるが、レベルが違う。特大炎を吹くんだよ。

しかも、分身ってなんだよ! 人として間違ってるね。

ああ、ファンタジーだよ。

 

 

というわけで、2歳になりました。

おれが、男口調なのはしょうがない。 男だったんだからな。

まぁこっちの両親はとっても嫌がってるけど。

現在精神年齢が22歳だな。

うむ……天才少女とか言われちゃってます。

 

おれは諦めた。

良く言うだろ? 人間諦めが肝心だって。

当初元の世界に帰りたいと願っていたが、今はどうでもいい。

まぁ、毎日生きてるのかどうかわかんないような生活してたしね、あまりにも恥ずかしいが、親がしっかりと親をやってくれるのは、嬉しい。

だから毎日がハッピーだね。

あと、忍術ってのを使ってみたいんだよ。

ちなみに、チャクラってのが体内にあるみたいで、良くわかんないが、霊能力とは違うみたいだ。

んで、俺は人間離れした力を手に入れた。

絶対2歳じゃねー動きが出来る。

この世界は重力が軽いのか? とも思ったが、そうじゃないようだ。

この身体……基本的な力が強い。

鍛えればその分どんどん強くなれそうだ。

え? なんで強くなりたいのかって? そんなの決まってるだろ。

前の世界じゃ……まぁ説明しなくてもわかるだろ?

おらワクワクしてきたぞ! とまでは言わねぇ……が、せめてこの……葉っぱみたいな名前だったな……葉っぱ隊? まぁいいや、その里に、おれ という存在を知らしめてやりたい。

無視されるのが恐怖だから……。

まいったな。おれはここまでコンプレックスを感じていたんだな。

ああ、おれは無視されたくないんだよ。どんな目でも良いから、たとえ無能でも、無能としてのおれという存在を見てほしかった。

存在を無視されるのが嫌なんだ! 意地張ってとんがって、誰も友人がいなくて、でも、そんなの気にしていないって嘘の仮面被り続けて、いつか、いつか見返してやるって……おれはここにいるって、そう叫びたくて……いつもいつも思ってて……。

いつかって、一体いつだよ……。

結局は、何も変わらず、繰り返しの日々……ああ、おれは諦めていたんだ……知らずに、諦めていたんだ。

だから、おれはこれがチャンスだと思う事にした。

努力、そう、自分を誇れるように努力しよう。だから、強くなろうと思う。

ああ、なんだかようやく前向きになれたようだ。

生きぬいてやる!!

 

 

 

――――――

 

 

1年経った。おれ3歳。

いやはやまいったね。

あれから色々チャクラなるものを増やしていこうと思ったんだよ。

まぁ霊能力の才能がなかった分、忍術ってのを極めてみるのも面白いと余計に思っていたんだろう。

いや〜、おれやっぱ才能無ぇみたい。

同い年のやつらを見てそう強く感じたね。

どう考えても周りの奴ら修行なんてしちゃいねぇ……てーか、遊んでばっかだ。

んで、おれは一人黙々と修行した。

その結果、確かにこのガキ達よりは強いと思うぜ。いや実際強いさ。

だって、同い年でチャクラ練れるやつ居ないし……。

そう言った意味でも、おれは天才少女ってよばれてるんだろうけど、いつか周りのガキ達も強くなっていくだろう。

んで……このクソガキどもが修行しだしたら……すぐ追い抜かされるんだろうな……。

まぁ、そんぐらいしか差をつけれなかったってわけだ。

とりあえず、忍術とか邪道だと思う事にしよう。

そうそう、要はコブシさ!

殴っておれの存在を知らしめてやれば良いわけだ。

霊を相手するわけじゃないし、そういった家系でもないし、要は人様に対して強ければ良いんだからな。

よし、チャクラはもう良いや。身体鍛えよう。

まずは腕立て伏せかな。

え? なんでおれってチャクラ練れるようになったんだろうかって?

そりゃ、赤ちゃん時代、何もできないあの超暇具合時に覚えていったわけ。

変な違和感……チャクラだったんだが、それを感じ取り、試行錯誤した結果なわけ。

理性がしっかりある赤ちゃんなんて、おれしかいないだろ?

 

 

――――――

 

 

よう! また一年経ったぜ。

つーわけで4歳ってわけだ。

そして、悲しい事実が発覚した。

確かに鍛えれば鍛えただけ成長する身体だったが……それは前の世界と比べての話だった。

所詮女は女ってことさ。

周りの男ども……今はおれより力無いさ。

だが、これもいつか抜かされるね……ああ、この世界の人間全員がオカシイ身体だったからだ。

つーわけで、おれには何も才能がなかったようだ。

ああ……おれ、なんでこんななんだろう……。

ちなみに、この春野サクラという俺の身体……うむ、おそらく将来美人になる。

これは少し嬉しかったね。

やはりブスより美人の方がいいだろ?

はぁ……虚しくなってきたな。

つーか、最近気づいたことがある。

忍者って、目立っちゃいけなくね? おれはそういうもんだと認識していた。

なのに、俺の髪の毛ピンクって時点でアウトでしょ?

自己主張の激しい忍者になりそうだな……。

ちなみに、両親はおれが忍者になることに反対らしい。

まぁ、わからなくもない。

おれは才能ないし、忍者に憧れがあるってわけでも……いや憧れはあるけど、そこまで執着心は無い。

ただ、おれより強い奴がいるってのが許せない……ってのもあるかな?

まぁとにかく、一つの方向性を見出して頑張ろうかと思ってる。

忍者になるかどうかはどうでもいいや……とりあえず、努力はしていこう。

ちなみに、最近両親が変な服を買ってくる。

いわゆる女の子っぽい服だ。

おれは好んで男っぽい……黒をベースにした服を着ている。忍者なら黒だろ?

だが、両親にとって、それはNGのようだ。

先日、沢山の服がプレゼントされた。

おれは速攻で「いらない」と答えたら、両親泣いちゃった。

……泣くなよ……。

「母さん……わかったよ。貰っとく」

おれが仕方なくそう答えると、母さんはニパっとした笑顔で喜ぶ。

ああ……可愛いな〜こんちくしょう!

現在おれが好んで着れる服が今着てるものしかないってのが痛い。

はぁ〜……まぁしょうがない。

「んじゃ、この服全部売ってくるわ」

売った金で新しい服を買おうという事だ。

おれがそう答えたら、また泣き出した。

結局、親父が「これで好きな服買ってきなさい」と渋々お金をくれた。

ああ……どうやらやっと諦めてくれたようだ。

すまない……いくらこの世界での両親であっても、譲れないものがある。

それは……おれがおれであることだ!

うむ……なんかどっかで聞いたことあるようなセリフだ。

 

服を買いにきた。

……正直に言おう……ダサい。

なんだこれ? なんでこんなダサい服しか売ってないんですか??

アクセサリーすら殆ど無いぞ。

布買って自分で作るか? いやいや、そんなスキルおれには無い。

「お譲ちゃん、何をお探しかな?」

そんな時、店員のおっさんが声をかけてきた。

「服に決まってるだろ?」

「あ……ああ、そうだよね」

なんというか、こっちが服を選んでいる時、店員に話しかけられるのウザいって思わね?

まぁ、たまに店員と仲良くなって話しこんじゃう事もあったが……。

「あ〜ここは男性用だよ? お譲ちゃん?」

知ってるよ! つかお譲ちゃんとか言うな!

「……ダサい服ばっかりだな」

つい本音が出た。

「あ、あはは……ちなみにどんな服をお探しかな?」

おお、結構耐えるね。まぁお客様だしな、ただ、いかにも子供扱いみたいな態度は気に入らないな。

「書くものあるか?」

「はい?」

自分で服を作るスキルが無いなら、代わりに作らせればいい。

そう思ったおれは、このオッサンに今描いたデザイン画を渡し作ってもらう事にした。

「これは……斬新と言いますか……」

うむ……この世界ではそうなのだろう。

ブーツカットのパンツで足の形を綺麗に見せるようなシルエット。これ、足が長く見えるのよ。

シャツは黒で統一し、体のラインがしっかり出るように指示する。

そして、その上から羽織るコートは薄めのロングコートで黒や茶色、焦げ茶などの細いラインを縦に入れてもらう。

靴はブーツ型でデザインに凝りつつも動きやすいように指示。まぁバッシュとブーツを足して2で割ったような感じ?

あとはアクセサリー。

銀は普通にあるみたいなので、それを加工。ネックレスは十字型のシンプルなデザイン。

指輪も数点作ってもらう事になった。

ああそうそう、ちなみにベルトも作ってもらう事にした。

色は白で革製。こっちの世界って、ベルトは紐で縛るタイプばかりだったから……。

留め金の説明に手間取った。

んで、総額……ああ、まったく足りねぇよ。

しかし、オッサンは「金なんていらねぇ! 作ってみたい! もし良かったら、他にも案が欲しい! そしてこの店の目玉にしたい!」と言われた。

まぁ、そのほうが嬉しいってのはあるね。

今後も服を買うのにいちいちオーダーメイドだと金がもたないし。

んで、その画期的な服は「洋服」という名で売り出すことになった。

「桜」というブランド名でね。

その後、様々な洋服をデザインした。

中でも、ゴスロリ系はオッサンのハートを射抜いたらしく、おれにモデルとして写真を撮らせてほしいと頼まれた。

当たり前だが、断った。

うむ……4歳で仕事が決まった。

デザイナーサクラの誕生である。

 

 

 

完成したおれの洋服。

うむ……ガキにはガキらしい服装が良いかもしれないと気づいた。

コートが……なんかこのガキ調子コイてね? 的な感じに見えてしまう。

ただ、実は実用性がある。

コートの裏には様々な武器などを仕込んである。

ちなみに家に帰ると、両親は驚いていた。

「まぁ! サクラったら男らしくてカッコいいわ!」

……どうやら、気にいってもらえたようだ。

 

 

――――――

 

 

また1年が経った。

5歳だ。

デザイナーとして頑張りつつ、修行の毎日だ。

ちなみに、洋服のデザインはネタが尽きてきた。

おれ、そんな才能無いし……全部パクリだからな……。

そんなおれに、友人ができた。

いや、あまり友人とは認めたくない……まぁアホと、暴力的な姉ちゃんだ。

まずアホ……そいつの名は、シノブってやつで、14歳の男だ。

まぁ年は離れちゃいるけど、馬鹿でアホで面白い……ああ、退屈しない奴だ。

現在下忍として働いてるそうだが、あんなアホでも下忍になれる、この国の忍者としてのレベルの低さがわかるね。

出会いは、奴が女性……といっても子供だが、その子に告白というか……ナンパというか……襲いかかっていた時だな。

あれは……確か……。

 

「ねぇねぇそこの君〜! ほうれん草みたいな顔色してるけど、どうしたの〜? キスして良い?」

 

ああ、このセリフだった……。

おれは少しはなれた場所でその場面に出くわした。

初めて道端で出会った女性に、『一発目のセリフがそれかよ!』と心の中でツッコミつつ、ずっこけていた。

なぜにほうれん草なんだよ。

まぁ無視されてたけど……それでもあいつは……諦めなかった。

ああ……あれはキモかったな。

ちなみに女の子……推定10歳はプルプルと怒りで震えていたな。

 

「ところで、君は納豆が好きだ! 僕も嫌いじゃない、あのネバネバ……まるで君のようだ」

 

何言ってるのか分からなかった。

時間が止まるとはこの事だとしみじみ思ったね。

まず、なぜ納豆好きだと決めつけるのだ! しかも、それ絶対口説いてないよね?

ああ、この男、マジで変だ……あ、女の子からすっごい殺気が漏れ出してるよ。

そりゃそうだ。おれなら、殺してるね。

しかし、その男は、まだ止まらなかったんだ。

 

「実は……ゴホゴホ……た……大変なんですよ」

 

なんか、変な演技を始めやがった。

同じ相手に……すっごく不自然だ。よっぽど気に入った女の子なのだろうか?

 

「実は……息子が……死んだはずのあなたの息子が……突然現れて……グハッ! 血が!!」

 

血なんて吐いてなかった……というかマジで意味不明だ。

まず、その演技の結果、おまえは何を得たいのか……ああ、疑問だ。ある意味凄いやつだ。

つか、あなたの息子ってなんだよ。年齢考えろよ! 初めて会った女の子に、何をして欲しいんだよ。

で、なんで最後に血を吐くんだよ! それ何の意味あるのかさっぱりだ! というか、ツッコミどころ多すぎだよ!!

気づいたら、おれはその変態をぶん殴っていた。

と同時に、その声を掛けられていた女の子も変態をぶん殴っていた。

ああ、仕方がないよね。

変態は、数メートルぶっ飛んでいった。

 

ちなみに、もう一人の……友人と言うか、暴力的姉ちゃんは、その声をかけられた女の子。

名前をみたらしアンコという。

ああ、なんかすっごいネーミングだ。

親は何を考えてその名をつけたのだろう? イジメられたりしなかったんだろうか?

いや、まぁそれはいいや。

これが切欠で、二人と仲良くなった。

基本はおれとアンコがツッコミで、シノブがボケだな。

 

 

 

「なぁ、サクラ〜……おまえ女攫ってこない?」

ああ、シノブ……おまえマジで死んでくれ。

おれの修行場所に、暇さえあれば訪れるようになったシノブ。

まぁ、半分以上は殺したくなるが……なんか嫌いではなかった。

アンコは、嫌ってはいたが、良いストレス解消できる相手として扱っていた。

ちなみに、シノブは最初こそアンコに惚れているようだったが、現在はアンコ=悪魔。

ああ、シノブに対しては、とても納得できる言葉だ。

アンコのツッコミは……激しいというか……殺人に近いからな。

この前、クナイがシノブの頭に刺さってたし……。

……そういや、シノブって、よく考えたら3人の中で一番年上なんだよな。

まぁおれの方が精神年齢は高いけど、やっぱありえないな……。

「なぁ、シノブ。アンコと初めて会ったとき、ほうれん草みたいな顔色とか言ってたろ? あれ何?」

「ああ、朝ほうれん草の味噌汁だったんだ」

「は? ……へ、へぇー……じゃぁ、なんでアンコが納豆好きだって決めつけたんだ?」

「自分が納豆大好きだからだ」

「…………んじゃー、最期の息子とか血吐いたりとかって演技は何?」

「つり橋効果だ」

「………………おまえアホだな」

「……えっ!!」

いや、ビックリするなよ。

「なぁ、アホでも下忍ってやっていけるのか?」

とりあえず、思った事を聞いてみた。

「はぁ? んなの無理だって! 忍者はある意味エリートみたいなものだからな」

「じゃぁ……なんでシノブ忍者なんだ?」

「……あれ? なんか僕がアホって言ってるように聞こえる」

「いや、だからアホだろ」

「ぐはぁ! 超ストレート!!!」

しかし、こいつのリアクションとか笑えるな。

ヘタレっぽい顔とかも、すっごく見てて退屈しない。

「シノブ……やっぱ忍者って大変なのか? 任務とかさ」

こいつに聞くのはどうかとも思ったが、とりあえず聞いてみた。

「んー……大変だけど、やりがいはあるかな?」

とっても予想外の答えが返ってきた。

ありえない……こいつがそんな真面目な答えを返すなんて……。

「お前誰だ!」

「えぇーーーー!!!!」

あ、そのリアクションは間違いなくシノブだ。

よし、さっきのこいつの発言は、聞かなかった事にしよう。

「んで、そこでガックリしているシノブさん。下忍ってどんだけ危険なんだ?」

「……別に、下忍ならそんな危険な任務は無いよ……って、アンコの事?」

「ああ、心配でね」

アンコは、最近下忍になった。

やはりこの世界で初めて仲良くなったやつだし、将来なかなか可愛い子になりそうだし、いろんな意味で心配だった。

そして、その心配は現実となり、アンコが任務中怪我を負い、入院した。

 

 

――――――

 

 

「アンコ……」

「なぁに? ……サクラ」

怪我は結構酷く、顔色も悪い。すごく辛そうだった。

折れてしまった腕と足、肋骨も折ってるらしい、顔も醜く腫れ上がってて、とても痛々しい。

喋ることすら辛そうだ。

おれはこの世界に来て、初めて現実感を感じた。

どこか夢のように感じていたんだ……。

だけど、これは現実で、アンコは……命も危なかったらしい。

ああ、この世界は、死がすぐ隣にあるんだ。

衝撃だった。

すごく、泣きたくなった。

「サクラ……そんな悲しい顔しないで……」

「あ……」

「いつもの口が悪くて元気いっぱいのサクラはどこに行ったのよ?」

それは優しい声。

いつものハキハキしたアンコの声とは違い、とても弱々しく、儚い……耳に痛いほどに静かな声。

でも、それは優しい声。

そう、包んでくれるような、温かさを持った声だった。

「アンコ……おれ強くなるな」

急に強くならなくてはいけないと思った。

今までおれは、周りに自分を認めさせたいから強くなろうとした。

まぁ、かなり捻くれてるっぽいけど。

でも、目の前のアンコを見てると、何か違うような気がしてきた。

不意に、最期の悲しげな妹の顔を思い出す。

そう、理由がない……もしこっちの世界に飛ばしたのが妹の意思だったのなら、なぜあんな顔をしたんだろう?

いつものように面白がってやったようじゃなかった。

辛そうだった……。

そりゃそうだ、もう会えなくなるかもしれないんだ……辛そうなのは当たり前……?

じゃぁ、なぜおれを転生させたんだ?

そうしなきゃ……おれと会えなくなるより悲しい事があったからじゃないのか?

ああ、なんだ……きっとそれが理由だ……何かは分からないけど……おれが原因で、妹を悲しませたような気がする。

違うかもしれないけど、たぶん、それが正解だ。

今頃……気づいたのか……アホだな……。

そして、気付かせてくれたのは……アンコ。

「アンコ……おれは強くなって、おまえを守るから……だから少しだけ待っててくれ」

「サ……サクラ……」

おれの名前を全国に……って気持ちは失っちゃいないが、やっぱ、まずは強くなろう。

そして、おれは強くなるため旅に出る決意をした。

急すぎだって? ほら、思い立ったら即行動ってやつだ。

旅の資金もデザイナーの仕事で儲けてるから問題ないしな。

という事で、親に置手紙を残して旅立ちました。

 

 

[ 旅に出る。 探すな危険(笑) ]

 

「イーヤァァアアーーー!!! サクラがぁぁあああ!! カッコ笑いって何よーーー!!!」

母親の叫びが響き渡ったそうな。

 

 

 

――――――

 

 

 

「暑いな……砂漠なんて初めてだぜ」

おれ、サクラ! 現在自分探しの旅……いや修行の旅途中だ。

ちなみに、ここまで来るのにかなり苦労した。

ああ、里からどう出るか……まずこれね。

まぁ悩んだ結果、おれには瞬間移動が出来ることを思い出し、連発して脱出。

忍者にはなってないから、普通出入りは出来るんだが、見た目が5歳児だからね。

いやー瞬間移動をあんなに連発するのはじめてだったんで、お花畑が見えちゃいました。

その後、いろんなヤロー共に襲われるなんて事もあったが、急所蹴り上げて逃げました。

ただの5歳児だと思って甘く見てたから助かったね。

んで、現在砂漠。

ああ……死ねる。

現在鍛えるため重力操作で自分の身体を重くしている。

んで、この灼熱地獄……。

ああ……クーラーの効いた部屋でごろ寝したい……。

旅に出なきゃよかった……ああ、おれは後悔している。

うわ、おれってヘタレだ!

幾分歩いていると、やっと街っぽいものが見えてきた。

うむ、あそこで酒でも頂こう。

急いで酒屋へ向かった。

 

「おっさん、カンパリソーダ1つ」

「あいよ」

……え? カンパリあるのかよ!

冗談でカクテルの名を言ってみたんだが、どうやらあるらしい。

日本っぽいとは思っていたが、どうやら余計にこの世界が分からなくなった。

「坊主、つい酒を作ってしまったが、飲めるのか?」

「ん?」

ああ、そういや見た目5歳児だったな。

しかも、服装や口調で男に見えてしまうんだろう。

「ああ、問題ない。おれは25歳だ」

「へぇ……お見事! うまく化けてるね……って、なぜ子供に?」

おお、この世界、変化の術もあるのかよ! すげーなー。

「ああ、趣味だ。気にするな」

と言っておこう。

「……さいですか」

飲んだ……飲みまくった……そこで気づいた。

この身体に酒はキツイな。

酔いが速すぎる。

だが、関係ねぇ! 飲めば飲むだけ酒に強くなるだろう。

「おっさん……ジントニック1つ」

「……なんだそれ?」

え? それは無いの?

「あージンって酒は?」

「あーあるぞ」

それはあるのか……。

「じゃぁトニックウォーターは?」

「なんだそれ?」

……ああ、無いものもあるのね。

「んじゃ、ジンと炭酸で割って、そこに……ガムシロでも入れてくれ」

「あいよ」

……ジントニックっぽい飲み物だ。

飲んでみた。

「……ああ、これ、味が微妙だな……」

くそ、ジントニックが飲みたかったのに!!

「くそ! おっさん! ジンバックだ」

おれの好きなカクテルの一つだ。

「なんだそれ?」

……まじか……。

どうやらジンジャエールは無いらしい。

その後、どの飲み物があるかを聞き出し、その中から俺の世界であるカクテルをオリジナルとして作らせた。

「へぇ、コーラにカンパリが合うなんてなぁ、小僧……じゃなかったんだったな、あんたすげぇぜ!」

コーラはあるらしい……。

つーか、カンパリは、ロックかソーダ割りしか無かった。

いや、とりあえず色んな飲み物混ぜて試してみようぜ!

オレンジジュースとか混ぜてみようよ! つかカシスオレンジも無いのかよ! カシスロックなんてありえねぇよ!!

この世界変だな。

この後、おれを気に入ってくれたおっさんはおれの提案したカクテルをお店で出したいと言い出す。

おれは、提案したカクテル名におれの名、サクラという文字を使うって事で承諾する。

ああ、名前が売れていくぜ!!

んで、気付いたらこの店のバーテンダーとして働くことになった。

見た目が5歳なのも店の宣伝になるらしい。

あとは、そうだな、せめてジンジャエールは欲しいな……作るか?

こうして、第二の仕事が決まった。

バーテンダーサクラだ。

 

 

「これは美味いな……まさか生姜を使うジュースなんて……」

作り方知ってて良かったジンジャエール……。

名前どうするかな……ジンジャエールサクラで良いや。

おっさん驚いてるね。

それにしても、トニックウォーターは苦労した。

だって、作り方よく知らねーもん。

とりあえず柑橘類の皮のエキスとか薬草とかいろいろ混ぜて飲み比べてみた。

なんとか完成したが、実際のトニックウォーターと比べたら、違うかもしれない。

でも、これを使ってジントニックを作ってみたら、美味かったので問題ないだろう。

これはサクラトニックと名づけた。

あとは、この世界、いろんなリキュールはあるくせに、果実酒が殆ど無い。

んで、梅酒、杏子酒、などなど、他にもリンゴやブドウ、ミカンなど様々な果実酒を作った。

うむ、これによって、毎日が大変忙しくなった。

バーテンダー辞めたくなった。

というか、良く考えよう。

おれの旅の目的はなんだった?

半年して、弟子が出来た。

今後はこいつらに任せようと思う。

 

 

適当に散歩してると一人の少年と出会った。

どうやら他のガキどもから苛められてるような雰囲気。

昔のおれを見ているようだ。

……ん? 砂?

ちょっと驚いた。

なんか苛められてたひょうたん? を背負った少年がやってるのか、砂が動く動く。

ああ、なるほど……化け物として扱われてるってわけね……きっついね。

「おい、そこのガキ!」

おれは優しく声をかけた気でいた。

「え? ……誰?」

あ……こいつ可愛いな……。

うむ、こういう目……苛めない? って感じの目、子供ってうるさいのはムカつくけど、やっぱ可愛いね。

「おれと遊ぶか?」

「え? 良いの!!」

ああ、やっぱ寂しかったんだろうな……泣いてたし。

ただ、何して遊ぶ……おままごと? いやいや、ありえねぇ。

かくれんぼ? いやいや、二人でやるのかよ!

ああ、何も思いつかねぇ……。

うーむ……さっきの砂……使えるかな?

「よし! さっきの砂でおれを捕まえてみろ! おにごっこだ」

ああ、良い訓練になるかもしれねぇ……。

「うん!」

ああ、なんて良い返事なんだ。

「んじゃ、来いよ!」

さぁ、始まりました!! 命がけの鬼ごっこ!!

ああ、甘く見てたよ……これ死ぬじゃん!!

四方八方から襲いかかる砂、捕まったらやられる。

ちなみに、その砂で先ほど堅そうなコンクリートの壁が一瞬で消え去りました。

おれは重力操作で身体を軽くし、集中力を引き上げる。

この能力なかったら死んでたな。

てか、これいつ終わるんだ? あれ? もしかしておれが捕まるまで終わらない系?

やばい! せめて時間制限とかあればよかった!

スタミナが切れた時が……おれの死ぬ時か……ふっ、このまま遠くに逃げようかな……。

「……っと!」

あぶねぇ、考え事してたら逃げ道無くなってた。

仕方なく瞬間移動で脱出!

おお、あの少年驚いた顔してるね。

だがな、『よ〜し、がんばって捕まえてやる〜!』 みたいなキラキラした目でより攻撃的に攻めないでほしいな〜。

ああ、もう20分は経ってる気がするぞ……いい加減疲れてきたな。

「おい! そろそろ! うわっ!」

駄目だ! 喋ってる暇がない!!

どうする? ここはやっぱり、瞬間移動連発で遠くへ脱出しかないな……。

身体大丈夫かな?

「何やってるんだい!!!」

ん? 誰だ?

そんな時、一人の少女が大声で止めに入った。

やっと砂が攻撃を停止してくれた。

……誰だか知らないが、ありがとう! 助かったぜ。

「我愛羅! 大丈夫かい。苛められてたのかい? もう大丈夫、姉ちゃんがこいつ殺してやるから」

おいおい、物騒だな。

「おい、譲ちゃん……どう見たらおれが苛めてたように見えるんだよ」

「……問答無用!!」

マジですか……って、襲いかかってきやがった!

「死ね! この野郎!」

うわ、この子怖!! つか話聞けよ!

おれは彼女の攻撃をかわしつつ、説得する。

「おい、遊んでただけだ! だから……」

「くっ! 遊びでうちの弟を殺そうとしたんだな!」

「違げーよ!!!」

うむ、なかなか鋭い攻撃だ。

だが、さっきの砂に比べたら、まだまだだね。

おれは少女の拳を左手で掴み、捻りあげた。

「ぐぁ……」

「ふー……とりあえず落ち着いてくれ……おい、少年、ちょっくら説明してくれ」

「あ……う、うん」

今までこの状況についてこれなかった少年がやっと行動してくれた。

いやはや、めんどくせーな。

 

――――――

 

「す、すまなかった! まさか、本当にあれが遊びだったなんて!!」

盛大に謝られた。

「あー……いや、気にすんな……」

「しかし!」

この謝り続ける少女は砂のガキ……あ、我愛羅って名前らしい。その姉で、名前をテマリっつーらしい。

あれ? なんかどっかで聞いたことある名前のような……。

いや、そいつはどうでも良いや……だって、すっごく可愛い女の子だったから。

さっきは怖かったけど。

しかも、自分の事を『あたい』とか言うの反則……可愛すぎ!!

「あたいは……どうすれば……」

ぐはぁ! またきた! 『あたい』ってヤバいって!

おれはロリコンではないから、性的なものは全く感じられない。

だが、やっぱ無垢な子供ってのは……なんというか、頭をなでてやりたくなっちまうと言うか、お持ち帰りして自分の子供として育てたくなるというか……あ、それ犯罪だな。

「い、いや、よく考えたら危険な遊びだった……もう少し違う遊びをするよ……おれのほうこそ悪かったな」

とりあえず小さな子供に悲しい顔はさせられないので、おれが謝ってみた。

「え……あ、いや、でも……」

……いい子だな……普通子供ってこういったことに対し気にするものなのだろうか?

おれのイメージは、楽しければ何でもいい! みたいな感じだ。

手のかかるというか……うるさくて、しつこくて、わがまま……うん、そんな感じだ。

でも、この子は違う。

悪い事を、しっかり悪いんだって分かっている。

まぁ、いきなり殺すってのはすげーけどな。

ふむ、どうすっかな……。

おれは思案しつつ、テマリの頭を無意識に優しく撫でていた。

「あ……う……あ」

「ん? ……ああ、すまん」

どうやら恥ずかしかったみたいだな。

子供ってこんなことでこんなに恥ずかしくなるもんだっけ?

「じゃぁ、キスして良いか?」

「はぁ?」

冗談で言ってみた。

反応が面白いからって理由でだ。

うん……明らかに顔が真っ赤に染まっていく。

純情なんだろうけど……こんな子供が、ここまでそういう系に反応するものなんだろうか?

自分に子供が出来たら、こんな子供が良いな……。

……あれ? そうなると母親っておれ?

いやいや、絶対無理!! つか、男とそういう関係? 死ぬ。絶対死んだほうがいい。

今更だが、なぜおれは女なんだろうか……。

「い……いいよ」

……は?

いま何て言った?

『今時の子供は』って言葉が頭に一瞬浮かびあがる。

キスねぇ……可愛いけど、こんなガキとキスしても面白くないというか……いや、面白かったら逆に怖いけど。

ま、いいか。子供だし。

おれは固まっているテマリに優しくキスをした。

そして最後に優しく瞼とオデコにキスをする。

テマリは、放心状態だった。

とりあえず、そんなテマリは置いといて、横でちょこんとこちらを伺って、何が起きたの? って顔してる我愛羅に声をかけた。

「おい、お前……我愛羅だったか?」

我愛羅? 砂? なんか引っかかるな……。

「あ、うん……」

「おれのこと、サクラと呼んで良いぞ。せっかくダチになったんだしな」

おれのこと、なんて呼んで良いのか困った顔してたからな。

「ダチ?」

「ああ、友達って事だよ」

「あ……う、うん!」

うわー! すっごい笑顔だ! やべぇ、お持ち帰りしたいぞこんちくしょう!

「あ、あの!」

お、テマリが放心状態から戻ってきたようだ。

「甘えたくなったらおれのところへおいで。よしよし」

おれはテマリの頭を撫でてやる。

こいつら、おれの子供にしたいぞ……。

「え! あ……う、うん……いや、そうじゃなくって! あ、その……」

なんだ? 

「あ、あの……気になることがあって……その、女の子みたいな名前だよね?」

ああ、そいつは気になるよな……キスした相手が男なのか女なのか……。

いや、この場合気にする事か?

ああ、でも男だったら嫌ってことかもしれないな。

よく女性は友人同士で手をつないで便所いったりするし……。

男同士だと……キモスギだよ。

なら、女だよって言ってやったほうが。

だが、おれは女だという事を言いたくない。

実際おれは女だが、それを口に出してしまうと、なんかいろんなものが壊れちゃう気がするんだ。

おれは男……そう、男だと言いたいんだ!!

だからすまん。

「ああ、おれもそう思うよ」

と濁して返答しておこう。

「あ! その名前って……」

お! もしかして気づいたのか? まぁ半年もバーテンやってたし、有名にもなるか。

「あの洋服やアクセサリーのデザイナーと同じ名前!!」

そっちかよ!

……あれ? ちょっと待て、なんで知ってるんだ?

「そういや、その服も桜のブランドだね。あたいもこの前購入したんだよ。すっごく気に入っててさ、気に入り過ぎてなかなか着るのがもったいないんだよ」

……え? 買ったの? どこで??

「あのー……ちなみに、どこで買ったのかな?」

「ああ、元は木の葉の里らしいよね。1年前かな? 砂の里にもやっと店が出来てさ! 桜4号店らしいよ」

……おい、おれ知らないぞ……つか4号店って!!!

あのクソ野郎……おれに内緒で荒稼ぎしてやがった!

なるほど、お仕置きだな……。

 

 

――――――

 

 

その後、仲良くなったおれに、『是非ご飯でも食べていって』という言葉でお家にお邪魔することになった。

うむ、料理はなかなか美味かった。

ただ、なんというか、我愛羅は特別扱いというか……その兄貴というやつもいたんだが、なんか壁を感じた。

きっついね。

「おい、我愛羅! お前にいい話を教えてやろう」

「え? うん」

「不幸な少年の話だ」

おれは、おれの世界でヒットしたアニメ……まぁ、とある話を聞かせてやった。

「んで、最期は誰もいなくなった……その世界に残されたのは、女と男二人だけ」

「……なんで首を絞めたの?」

「ああ、自分を見てくれないなら、いっそ要らない。そう思ったんだろ? だが一人ぼっちが怖くて殺せなかった」

「…………」

「良いか我愛羅……他人を信じず、ただ自分を見てくれと叫ぶ……もし、少しでもその彼に勇気があったなら、違った未来になってたかもしれない」

「……」

我愛羅は黙って聞いている。

「まぁガキに覚悟を持てとかそんなん無理だし、他者の嫌な部分を知れば壁も作る。それが人間だ……みんな弱いんだよ」

「……」

「おまえは弱い……心が弱いんだ……その隙を突いてくる奴も今後現れるかもしれない。信じた者に裏切られることがあるかもしれない。でもな、それでも強く生きろ! じゃないと、おまえは一人ぼっちになっちまうぞ」

「う……あぁ……」

「いいか、この世の中様々な人間がいる。その人が何を思ってるのか、実際わからん。だが、自分を見てくれと叫んでるだけじゃ何も変わらない、ただの我儘だ。だからその人の本質を面と向かって知る努力をしろ! お前を化け物呼ばわりする奴がいるのは知っている。だが、ちゃんとお前自身を見てくれる奴だっているんだ。怖がられるってのは実際きついだろう。でも、お前が怖がらせているから悪いんだよ。他人を理解しようと努力しないから悪いんだ。わかるか?」

いや、実際おまえは何にも悪くないんだけどね。

「…………でも……」

「人間は弱いんだ……だから恐れる。お前も孤独を恐れてるだろ? それと同じだ、分かり合わなければ恐れられたままだ。だからおまえは強くなれ! 優しい男になれ! それでもお前を恐れる奴がいるなら、おれを思い出せ」

「……サクラを?」

「ああ、おれはお前と友達だろ? 今後何があってもそれは変わらない! どうしようもない奴は無視だ無視! ああ、こいつはそういう人間なんだって諦めろ。その事実によってお前が傷つくことなんて一切ない! いいか、忘れるなよ」

「うん……わかった」

「よし! 良い子だ」

そう言っておれは我愛羅の頭を優しく撫でてやる。

辛いだろうけど、がんばって欲しい……。

というか、珍しく熱く語ってしまった。

うん、恥ずかしいね。

 

おれはその後その場から離れた。

すると陰でグスグスと泣いてる女の子を発見した。

「……テマリ……聞いてたのか?」

そこにいたのはテマリだった。

うわ、死ぬほど恥ずかしいぞ!!

「うん……気になって……その……ありがとう……」

でも、良いお姉ちゃんだな。

どうやらテマリ自身我愛羅の事を怖がっていたようだった。

そりゃ仕方がない……でも、それでも我愛羅の事が好きらしい。

難しい問題ですね。

ちなみに、アニメの話も聞いていたテマリは、「面白かった! 初めて聞いた話だ! その本はどこに売ってるんだい?」としつこく聞かれ、仕方なく「おれのオリジナル」と答えたら、小説家になるべきだ! とおれを褒め称えた。

うむ……それもアリかな?

書くとしたら、ここは忍者の世界だから、忍者系の話とか……。

そういやあったな、有名な……なんだっけ? ……NARUTOだったっけ? ……ああ、内容まったく覚えてねぇや……。

確か……あれ? 俺の名は……春野サクラ……よく考えたらこの名前知ってるような……。

ん?? 我愛羅ってNARUTOに出てきたキャラじゃなかったっけ?

なんか、嫌な予感がする……。

……まぁいいや、深く考えるのは止めておこう。

その日、テマリと我愛羅、2人と一緒に寝ました。

どうやら、二人とも抱き癖があるようだ。

暑苦しいったらなかったが、なんとなく癒される寝顔だ。

ああ、おれはこの二人に求められてるんだってのがわかったから。

愛情が欲しかったんだろうな。

……おやすみ。

 

 

結局、2ヵ月修行を手伝っもらいつつ、お家に泊めてもらいました。