―― 002 Halkeginia mythology
― 異世界 ―
「これが……世界地図?」
「ああ、そうだ」
「…………まいったな」
その世界地図は、おれが知ってる世界とまるで違っていた。
まさか、嘘の地図を用意し見せるわけない。
そう、やはりココは、おれがいた世界とは違う。
そして、未来でもなさそうだ。
ここまでの地形変化はありえない。
「……1ついいか?」
アニエスに質問する。
「なんだ?」
「この地図……一部分だけのようだが?」
「…………何の話だ?」
「いや……全ての世界が書かれてないだろ?」
「……は?」
「…………もしかして、人跡未踏の地があるのか?」
「そりゃあ、あたりまえだ!」
まいったな……ここの文化レベルはかなり低い……。
「クラウド……だったな?」
「……ん? ああ」
「約束どおり、地図は見せた。ここに居る理由、どこの誰なのか……詳しく話してくれるんだろ?」
「……めんどうだが……約束だしな……」
「めんどう……もしや、それが理由で話さなかったのか?」
「ああ、それしかないだろ?」
「……ぐ……ぐむむ……」
さぁ、どう説明するかな……。
まずは、召喚されたらしいってところから……だな。
…………。
………………。
「まさか、東方のロバ・アル・カリイエからの人間であったとはな……」
話していくうちに、その人跡未踏の地から召喚されたって事になった。
ちなみに、ここの魔法はマテリアを使っていない事もわかった。
なんというか、やはり別世界ってやつだな……。
おれが今いる場所は、先ほどいたブルドンネ街の奥にあるトリスティン宮殿内部。
その一室だ。
どうやら、この世界では大まかに貴族と平民でわかれているらしい。
貴族はメイジとも呼ばれ、魔法が使える。
そして、貴族は平民に対し絶対である。
人権というものすら皆無である支配階級だ。
魔法は、火、水、風、土の4系統で、複数の系統を使いこなし、または混ぜ合わせることも出来るそうだ。
扱える系統が増えるにつれドット、ライン、トライアングル、スクウェアの使い手と呼ばれる。
たとえると、火と、風の2つを混ぜ合わせるようになれば、ラインと呼ぶ。
また、同じ属性を加えることも可能で、その場合は威力が増加するそうだ。
おれを召喚した、サモンサーヴァントという魔法は、ゲートを発生させそのゲートから自分の使い魔となる生き物を召喚する魔法。基本的には自身の属性に近い生物が召喚されるそうだ。
また、一度使い魔と契約するとその使い魔が死ぬまでは新たに召喚することはできない。
そして、その召喚された生物を元の場所へ帰す魔法は存在しないということだ。
しかし、帰る可能性は無い……とは言い切れない。
ハルケギニア、アルビオン、エルフの国、東方の各地域からなるこの世界。
そして、その中でエルフの国とその向こう側……東方……地図を見る限り、東方はかなりでかいと予想できる。
そこへ行くことが出来れば、帰る情報が得られる可能性もあると思う。
問題は、エルフの国。
恐ろしい存在として知らされているようだ。
その国を通過しない限り、東方へはいけない。
まぁ、まずはおれの力がどこまで通用するのか見極めなくてはいけないということだ。
おれを不審人物として見ていたアニエスであったが、話していくうちに、おれを多少理解してくれたようだ。
逆に、申し訳ないと謝られたぐらいだ。
「アニエス……ありがとう」
おれはさまざまな情報をくれたアニエスに礼をする。
「そ、そんな礼など…………」
「いや、貴重な情報を得ることが出来た。だから感謝している」
「……そ、そうか……いや、なんか……」
「どうかしたのか?」
「い、いや! なんでもないんだ。それより、これからどうするんだ?」
「……そうだな……まずは金が必要だろう……生活するためにな……」
「うむ……そうだな……」
「適当に……傭兵でもして金を稼ぐよ」
「……クラウド……おまえの剣の腕……見てみたい」
「ん?」
「見た感じ強いのはわかる。ただ、実際はどうかわからん。それなりの腕だとわかれば、仕事を紹介してやっても良い」
「なるほどね……ただ、いいのか? おれが不審人物なのには変わらないだろう?」
「いや、あんたの目……透き通った青い目……なんとなくだが悪いやつじゃないってのはわかる」
「そうか……」
そして、おれは訓練所まで連れて行かれた。
―― ◇
私はクラウドと名乗る青年と話してるうちに、不思議な気持ちにさせられていた。
彼の優しいまなざしは心を騒がす。
私はいつのまにかクラウドに魅了されていたようだ。
いや、最初から魅了されていたのかもしれない。
あの瞳に見つめられると、いつもの自分で居られなくなる……。
なのに、心地良いと感じてしまっている。
そして、おそらくは強い。
どこまで強いのかはわからないが、もしかしたら自分以上かもしれない。
そう思うと、いてもたってもいられない。
その強さを知りたい。
そう感じてしまったら、もうとめられなかった。
私は剣士であるから……。
「では、クラウド……おまえの腕前見せてもらおう」
「……ああ」
クラウド……彼 の強さは対峙してより理解する。
私以上に死線を潜り抜けてきたと思われる。
それほどに、彼の纏うオーラが異常だ。
一瞬恐怖で塗りつぶされそうな感覚、それでもそれ以上に興味が尽きない。
「本気で……こい!」
私は叫んだ。
自分に活をいれるため。
相手のオーラに負けぬため。
静かに……構える。
…………。
クラウドが武器を抜き、そして構えた瞬間。
彼の纏っていたオーラがより強大となって私を射抜く。
「……ぐっ!」
思わず声が漏れた。
ただ対峙しているだけで、私は負けを認めそうになっている。
強いどころじゃない。
まるで、ドラゴンに睨まれているような気がする。
彼の青く澄み切った綺麗な瞳が、今は恐ろしくて見ていられなかった。
だが、私は見たかった。
どれだけ強いのか……。
私は知りたかった。
地面を勢いよく蹴り、一気に相手に詰める。
まるで自殺するような感覚で、私は飛び出した。
勝負は一瞬だった。
剣を突き刺したと思った瞬間……彼の剣が私の首元で止まっていた。
そして、私の持っていた剣は、見事に折れていた。
「おれの……勝ちだな」
「…………ああ…………」
何がどうなったのかさっぱりわからなかった。
「…………質問いいか?」
「なんだ?」
「……どうやった?」
「特には……刀で剣を斬って、そのまま首に……それだけだ」
「…………斬る?」
「ああ」
こいつは普通じゃない。
剣を斬るとは……しかも普通にそれを成し遂げ、さも何でもないことのように……。
はっきりわかった。
私は井の中の蛙だということが。
「クラウド……おまえ私の隊に入らないか?」