いきなり分子結合したいとか言われたら誰だって驚くだろう。当たり前だ。
花がぎゅむと雑誌を読んでいるテツの背中に抱きついてくる。ひとつになりたいなどというのは色っぽい誘いなんかではなく、単なる本気の独り言らしいので、テツもいい加減 適当な返事をするということを学んだ。水素結合だろうと共有結合だろうとなんでもいいですよ。花さんとなら、なんでも。
「適当な返事」
ぐきりと後ろに首を曲げられ、上から見下ろされた。電球の光が花の顔の横に見えて、まぶしい。明るすぎて一瞬視界が真っ白になる。思わず寄った眉間のしわにちゅうと吸い付かれた。
「水素結合はゆるいからやだなあ」
「じゃあ共有結合で。分子結合より強いですよ」
「ダイヤモンドとか?」
「そうそう」
しかし花は不満らしい。硬い透明な石。
「もっと、どろでろなのがいいな」
どろでろ、って、と笑うと今度は唇にキスされる。濡れた舌を合わせて、まあつまりこういうことだよなと妙に感心してしまった。全然、本当はぜんぜん足りないから、行為だけでは満足できないから妙なことを言い出すんだろうけど。どろどろのでろでろに溶け合ってしまえたら、と、解らないわけではない。テツだって、ほんとうは思うことがあるのだ。