好きなのね、と問えば素直にうんと返ってきた。
半ば呆れて苦く笑う花に気がついて、テツは訳が分からないといった様子でぱちぱちと邪気なく目を瞬せた。髪も眉も黒々として、なのに虹彩だけが褐色に透き通るテツの目が、無防備に曝される。素直とはすなわちそのまま心を差し出す行為であって、人間の本能としては警戒すべき事柄なのに、難なく晒すテツが恐ろしい。花によって傷付けられる可能性など想定もなく、保護のない淡色の目がもう一度ぱちりと瞬きをする。その行為が痛みと幸福を生み出して、もどかしさのあまり頬を摘まんで伸ばした。そうよ、ただ莫迦なだけなのかもしれないけれど、花や由希にはそんな勇敢な真似は出来ない。こんな真っ直ぐな目なんて。
きゅうと強く引くものだからテツの片目は痛みに滲んで、深く黒味を増した。欲情したときにだけ見られる黒々と濡れる眼球、今現在、できればこの先も花だけが目にすることを許された色。花に自由にさせつつも痛いと遠慮がちに告げるテツに、やっと花は満足をする。
ちゅっと鼻の頭に音を立てて口付ければ大層困った眉をして、そうよそうよ少しは戸惑いなさいよと花は笑った。