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TRANSPARENT SUBSTANCE


 好きなのね、と問えば素直にうんと返ってきた。
 (なか)(あき)れて(にが)く笑う花に気がついて、テツは訳が分からないといった様子でぱちぱちと邪気(あどけ)なく目を(またたか)せた。髪も眉も黒々として、なのに虹彩(こうさい)だけが褐色(かっしょく)に透き通るテツの目が、無防備に(さら)される。素直とはすなわちそのまま心を差し出す行為であって、人間の本能としては警戒すべき事柄(ことがら)なのに、(なん)なく(さら)すテツが恐ろしい。花によって傷付けられる可能性など想定(そうてい)もなく、保護のない淡色(たんしょく)の目がもう一度ぱちりと瞬きをする。その行為が痛みと幸福を生み出して、もどかしさのあまり頬を(つま)まんで伸ばした。そうよ、ただ莫迦(ばか)なだけなのかもしれないけれど、花や由希にはそんな勇敢(ゆうかん)真似(まね)は出来ない。こんな真っ直ぐな目なんて。 きゅうと強く引くものだからテツの片目は痛みに(にじ)んで、深く黒味を増した。欲情したときにだけ見られる黒々と()れる眼球(がんきゅう)、今現在、できればこの先も花だけが目にすることを許された色。花に自由にさせつつも痛いと遠慮がちに()げるテツに、やっと花は満足をする。
 ちゅっと鼻の頭に音を立てて口付ければ大層(たいそう)困った眉をして、そうよそうよ少しは戸惑(とまど)いなさいよと花は笑った。


END.
memo 2006/07/11
改稿 2009/01/17
UP 2009/05/22


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