饒舌の指先 好きだ。声は掠れた。しまったと思った。震えを感じた指先を強く睨む。しかしテーブルに置かれた手は微動だにしていない。安堵の溜息を呑んだ。彼女は食の好みを訊き、彼は答えただけだ。ただそれだけだ。音に現れた感情をまさか読み取りはしないだろう。引き攣れたのは喉の不調で、誰にでもごく自然に起こり得る。彼女は気にしない。予想というよりは希望だった。ゆっくり両手の指を絡めた。動きは緩慢で弱々しかった。祈りに似たその行為も、だが手を伸ばした彼女により遮られた。不自然な空気を彼女は正確に読み取った。 彼は目を閉じる。駄目だ。彼女は軽く聞き流すべきだった。関係の変化を厭うたのは彼女の方だ。自分の意気地の無さを棚に上げて責めた。手首には未だ彼女の指が触れている。顔を上げなくては。そうして覚悟を決めなくては。彼女の爪は次第に圧力を増し彼の皮膚に傷を付けた。 2003/05/23