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   コール




トゥルルルル、トゥルルルル。 がちゃ。


「はい。」
「あ、お母さん? 私」
「あら」
「元気?」
「元気よ〜。そっちはどう?」
「元気」
「そう。良かったわ」
「お父さん、胃が痛いって言ってたけど」
「あの人のは気の病だから」
「お母さんが冷たい冷たいって言ってたよ」
「んま、こんなに優しくしてるのに」
「どこが?」
「心の中で。」
「本人に伝わってなければ仕方ないじゃない」
「かまってほしい病なのよ」
「何それ」
「娘に心配かけて、まったく」
「優しくしてあげてね」
「あー、ハイハイ」
「適当な返事」
「ふふ」
「………ねぇ」
「なぁに?」
「お父さんのこと好き?」
「なあに? 唐突に」
「いいから。 好き?」
「好きデスね〜」
「…ホント?」
「自分でもビックリ。よそのオヤジが腹が出てたり油っこくハゲてたりするともう絶対イヤ! て思うのに」
「お父さんは? …愛しい?」
「いとしいデス。びっくり。」
「びっくり。」
「コロコロしてるな〜とか、まん丸だなぁとか。なんか可愛くて」
「ふふ」
「びっくり。」
「お父さん最近 会社の方に出てるんだって?」
「現場が終わったからね。なぁに? お父さんと連絡取ってるの?」
「酔っ払うとメールが来るの」
「まぁ」
「お兄ちゃんも来るって言ってた」
「まあ。仲間外れだわ」
「背広着て行ってるんでしょ?」
「そう、久しぶりに」
「ちゃんと選んであげてる?」
「あげてますよ〜。あの人センスないんだもん」
「若い女の子達に舐められないよーに?」
「そ。ばっちりセンスのいいのを、ね。 今日のネクタイはこれ!って」
「あはは。格好いい?」
「コロコロしてて可愛い」
「あはははは」
「背広着たりすると精悍でキリッとしていいわよ」
「それは欲目」
「欲目かしら」
「欲目ね」
「そ?」
「………」
「………」
「……………」
「………どうしたの?」
   
「なあに」
「……………」
「なにがあったの」
「……っ」
「ん?」
「……………」
「……………」
「……かんない、て」
「え?」
「だ、…だいじに…しかた、わかんない、て」
「大事に、仕方…? …大事にする方法が、判らない、って?」
「………」
「恋人?」
「した、いけど、わか、ない、て」
「乱暴されたの」
「ちが…」
「されてないの」
「そ、ことするひとじゃ…」
「そう」
「………でも、わからない、て」
「……そう」
「……………」
「あなた、どうしたいの」
「……………」
「好きなのね?」
「……………」
「将来のことを話し合ってるの?」
「……………」
「彼は不安がってるのね」
「………」
「あなたを傷付けそうで、不安なのね」
「………ん」
「そう…」
「……………」
「……………」
「……いいね、て」
「ん?」
「私、今までそんなこと考えたこともなかったけど…。 好き?って訊いて、好きって返ってくるのって、すごく、…。 何十年経っても、好きって、お互いに、…いいね、て」
「…そうね」
「でも、俺は出来ないかもしれないって」
「どうして?」
「喧嘩して…、彼、酷いことを言ったわ。 もちろん傷付いたけど…彼の方が傷付いたような顔して…」
「………」
「彼、泣いてしまった。ごめん、て。大事にしたいのに、て」
「………」
「こんなふうに壊してしまう、きっと壊してしまう、……怖い、て」
「…そう…」
「こんな、罵り合う関係を…、でも、それを見てきて、その方法は判るのに、 大事にするのは…難しい、て」
「……………」
「……………」
「………そうね」
「………」
「………難しいわ」
「………」
「簡単じゃない」
「………」
「ちゃんと覚悟しなさい。」
「…?」
「簡単だと思う方がおかしいわ」
   
「必ず、幸せな夫婦になる、と、誓いなさい。 二人で、よ? 一人では成り立たない。 簡単じゃないわ。手に入れたいのだったら、努力しなさい。二人とも、よ」
   
「どちらか一方でも諦めたら、終わり」
「……ん」
「頑張んなさい。」
「…はい」
「………あ、もちろん」
「?」
「すぐに会わせてもらえるんでしょう?」
「え」
「じっくり観察してあげるわ。私と、お父さんで」
「…げ」
「お父さんが駄目って言ったら、駄目よ」
「ええ!?」
「なによ、自信ないの」
「や、そういうわけじゃ…」
「私たちを唸らせるほどの男を連れてきなさいよ」
「うーん…」
「お兄ちゃんも会いたがるかもね」
「やだ」
「ふふっ」
「もう」
「……………相手に対する思いやり。要は、それだけ。」
「ん」
「今度の日曜は待ってるからね」
「今度の!?」
「そ。身体には気をつけなさいね〜」
「お母さんとお父さんも、身体には気をつけて」
「は〜い」
「…会いに行くから」
「待ってるわ」
「じゃ」
「またね」

 プツ…、ツー、ツー、……………







こーる  2003/07/10






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