自分が痛そうな顔をして、君は僕の手を取った。
僕の手を引いて歩き出す。夕日が長い影を作っていた。
川沿いの土手は、風を受けて緑が揺れ、水と虫の音と葉のさわさわ柔らかな音を流して、僕は、君の少しの鼻声を知らないふりをした。
僕達の手はまだ子供のふっくらとした柔らかな感触をもつ温かなもので、力を入れずとも形を変えてしっかり重なった。
君は知っているだろうか。
僕はあのときの感触を思い出すたびにあの幸福を思い出すことが出来る。
君は僕の手を引いて、君の家の縁側で殴られた僕の切れた口を手当てしてくれた。いつも、
親に殴られた僕の顔を見て君の方が泣きそうな顔をした。
僕の手を引いて、他愛のない話をして、それが鼻声ででも君は泣かなかった。
かわいそうだと人から言われたことがある。
けれども、君と手をつないで歩いたあの幸福がわかるだろうか。胸から腹の底まで全身を満たす熱いほどの幸福感を。僕はちっとも可哀想なんかじゃないと思った。
親でも親戚でも環境でもない。
君と離されたことが、僕を絶望させたんだ。
君の手が生きる糧だった。川べりを歩く、あの時間が僕のすべてだったんだ。
memo 2005/10/11 改稿 2006/05/26
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