雷が鳴った。
「なぁ、外に出ちゃダメ?」
「駄目だ。」
即答する。彼は拗ねた表情でぷくりと頬を膨らませた。
「嫌だったら早く術を上達させるんだな」
「大丈夫だってば」
オレの術はすっごくすごいんだ!と嘘にしかならない大口を利く。
「水に濡れただけで解ける術のくせに」
態と馬鹿にした言葉でもって見遣れば、悔しさに目の縁が赤くなる。単純だ。
心配なのだと本当はその一言で良いのだろうが幼い彼には優しさより自尊心の方が身に染みる。
以前勝手に地上に降りて周りがどんなに心配したか、
しかしそれは彼の預かり知らぬところであるようだ。
子供らしい視界の狭さでもって興味の対象だけに気付く。
もうすっかり降りる準備として仕舞いこんでいた羽根をばさりと出し、
その牙を剥き出しにして邪魔な門番へ威嚇した。
はぁと溜息で新たに怒りが湧き上がったらしい。
「向こうは梅雨なんだ」
「つゆ?」
きょとんと見返してくる。
そんなで行こうというのだから命知らずだと言うのだ。
「雨が何日も何日も止まずに降り続ける」
「え…」
いまいち理解しない彼を手招きして下界を映す鏡を見せてやる。
大きな雨雲に続いてざあざあと降る雨に覆われぼやけた世界。
水を苦手とする種族の彼にはさぞかし恐ろしい光景に見えるだろう。
術の才能はずば抜けているがそれ故コントロールが難しく水への反動も大きい。
未だ水如きを克服出来ずに一番歯痒い思いをしているのは彼なのだ。
「ふん、これを見せればオレが怖がるとでも思っているんだろう」
自分を誤魔化す虚勢。
「止めてみろ!」
半ば癇癪のように雷を落とす。
やれやれ。仕方がない。彼の退屈に付き合ってやるか。
ふぃと風を起こす。安定しない羽根に当てれば一発だ。案の定重心がずれた。
完全に腹を立てた彼はただひたすら雷を連続で放つ。
細やかな調節のいらない光は彼にとって一番楽なものなのだろう。
大暴れして気分が高揚し浮上していくのが見て取れる。
楽しそうに雷を呼ぶ。
やはり単純だ。
ひょういひょういと避けながら彼の声に応え獰猛な声を上げる光を眩しく眺めた。
雷が鳴れば、梅雨は明ける。
夏はすぐそこまで来ているのだ。
2003/07/12 かみなり
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