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  うらら春の朝




 妻とふたり、忍び込んだ。 まだ薄暗い早朝のこと。 もうすいぶん昔に息子が卒業した小学校は、小さな山に近く、花壇のある裏庭には山の植物が伸びてきている。 春になると、ここへ忍び込み、裏山へ入る近道を通るのが私たち夫婦の行事だった。
 朝の冷え込みは、私の膝に負担を与えたが、それも冬ほどではなくだいぶん楽になった。
「あったか?」
「ええ」
ちょこんと頭を出している蕗の薹(ふきのとう)を見つけて、微笑み合った。 やはり今年もここまで来たのだな、と、そうそうに摘んでしまうのも勿体なく、ふたりでしゃがみ込み、若々しい黄緑の芽を眺めた。
 学校が始まる時期になると、雑草として花壇の周りは一掃されてしまう。 その中に、蕗の薹やつくしを見つけたのは花壇委員だった息子だ。 家族で春のハイキングの傍ら、よもぎを摘んだり草笛を吹いて育った息子はそれらに気がついたのだった。
 春の味覚をあまり好まなかった息子も中年になり、懐かしい、食べたくなると孫をつれて春にやってくる。 気軽にハイキングにいけるような身体ではなくなった私も妻も、そのときばかりはと張り切って出掛けることにしていた。
「採りましょうか」
のんびりと眺めていた私と妻は完全に日が昇る前にと採集を開始する。
 朝露に濡れる柔らかな葉の若よもぎ。背比べをするように伸びているつくし達。山は、春の日差しを受けて目を覚まし始めていた。

 つくしの卵とじ。ふきのとう味噌。むかごごはんに、菜の花の辛子和え。
 よもぎ団子。
 孫たちと一緒にこねて作るのも楽しいだろう。

 今日の午後には訪れる孫たちと息子夫婦を、春と共に待つことにしよう。


 今年も、春が来ましたよ。






memo 2005/03/25
改稿up 2006/03/31














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