あまりな美しさに、少女は理不尽にも腹を立てた。豪快に笑う大きく
開けた口腔に握り拳でも
喰わせてやろうかと拙く考えた。
同じ腹から生まれその場所さえ共有していたというのに、
少年は数年前までよく似ていた顔を間延びさせただけでなく手足も伸ばし
腕は一回りどころか二回りも太くなろうかとしている。
以前は同等の速度で駈けたのだ。
等しく跳んだのだ。
Y染色体が有るというだけでこんなにも不公平か。
変わり映えの無い記録を眺めることにも疲れコンコンと扉を叩かれても声はくぐもり無遠慮で
無造作な開け方に他愛なく神経を荒立てられた。
声帯を鳴らすことも億劫でベッドから身体を起こすのは
更に至難の業に違いなかった。
そんな相手方の心内なぞ露知らず風呂上りのランニング姿は目にしたくも無い筋肉を見せ付け、
夏前の太陽の下、水の中を自由に泳ぐ皮膚は色付き始めている。
無駄を省かれた肉付きが妬ましく綺麗だと思った
己にまた酷く苛立った。
私より地上に居ない。しかし私より速く高く遠く跳ぶのだ。
大半を空気の存在しない領域で過ごし冷たく柔らかな水の
住人は僻みも嫉みも
知りはしない。不思議に見返してくる混じり気の無い澄んだ眼は
やはり美しくて、憤りそして安堵した。
勝手にCDを物色し始めた背中にパーで張り手かグーでど突くか
それとも思い切り尻を蹴り上げようか、気晴らしになるかと考えた。
すいちゅうぜっとじく 2003/05/07
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