太極拳の実戦上の特徴は沾(接触)であるという(松田隆智著「太極拳入門」から)。
沾とは飛び込む間合いをつくらない、つくらせないことである。
太極拳には推手と呼ぶ組み手の一種がある。套路(型)が一人で学ぶものであるのに対して、推手は二人で行う。相手の力を接触した手によって感じ取り、防御を攻撃に転じ、攻撃を防御に転じる、攻防一体の技術である。これが武術としての太極拳が「柔能く剛を制す」と言われ、腕力・体力に勝る相手に対しても戦うことができる技法であるという。松田隆智氏は、次のように記している。
< 他派の拳法の多くは敵に対したとき、敵と離れた間合いから隙をみつけて飛び込んで攻撃するのがふつうである。太極拳のばあいは、敵と対したとき、敵が手を出したと同時に接触してしまい、そのまま離れず敵が早く動けば、自分はそれ以上に早く動く。敵が遅くなれば自分も遅く動き、敵の動きに合わせつつ、けっして離れないで敵の重心をくずす。
たとえば敵が自分に向かって攻撃してくれば、敵の力に逆らわず引き流し、敵が手を引っ込めようとしたら、自分はそのままついていって敵の重心をぐらつかせ、即座に攻撃に転ずるのである。
このように、敵に粘着させることを沾という。この沾の練習は少林拳にも他派の拳法にもあって、部分的には行われているが、太極拳はすべての技法が沾からはじまる。>
参考
松田隆智著「太極拳入門」産報社
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