気とは?(09.4.21
 

「気」という字のつく言葉は、日本語には数多くある。例えば、元気、生気、精気、天気などの熟語のほかに、気が強い、気が利く、気に病む、気が触れる、気まずい、気が通る、気をもむ、気が散る、等々いくつも挙げられる。

ためしに広辞苑でひくと五つに分類している。@天地間を満たすものと考えられるもの。また、その動き。A生命の原動力となる勢い。精気。気勢。B心の動き・状態・働きを包括的に表す語。Cはっきりと見えなくても、その場を包み、その場に漂うと感ぜられるもの。Dその物本来の性質を形作るような要素。特有の香や味。

では、中国ではもともと「気」とは何を意味し、どのように考えているのかが“気にかかり”、“気にとめたことを”、そして“気がすむまで”、“気がる”にまとめてみた。

 

気について

世界気功フォーラム2007実行委員会編『気功の力』の中で、「気」について次のように語っている。

<< 「気」の作用は古くから知られており、何千年にもわたって哲学者、医学者、科学者たちの間で注目されてきました。

古代中国では、宇宙ができる前に「気」があり、「気」から宇宙が生まれ、地球上の万物はすべて「気」でできていると考えられていました。「気」は生命の根源であり、「気」が常に体内を(めぐ)ることによって、体の機能が正常に活動すると考えられていたのです。逆に「気」が(とどこお)れば病気になり、離散すれば死を迎えることになります。

これが「気」の基本的な考え方で、それは今でも変わりません。現代においても「気」は“生命エネルギー”、“宇宙エネルギー”などと形容されることが多いようです。

また、科学者によれば「電磁波のようなもの」という人もいますし、「微粒子流」という人もいます。いずれにしても、「気」は目に見えないものであり、その見解は必ずしも一致していないのが現状です。

このように、いまだ「気」というものが明確にとらえられていないために、「“気”なんて存在しない」と否定する人も少なくありません。しかし、それでも「気」は確かに存在するのです。>>

 

中国では、西洋医学を「西医学」、中国伝統の医学を「中医学」(日本では東洋医学)と呼ぶ。1949年に誕生した新政権の方針により、中医学は、現在も中国医療においてひとつの柱となっている。

中医学も日本の漢方や鍼灸(しんきゅう)も、気の存在を前提とした診断であり、治療である。長い歴史のなかでつちかわれ、経験的に実証されてきた理論・技術である。

体内の気は、「経脈(けいみゃく)」と呼ばれる幹線と、その支線で経脈間をつなぐ「絡脈(らくみゃく)を流れているという。経脈は漢方でいう五臓(ごぞう)(心臓・肝臓・肺蔵・腎臓・脾臓(ひぞう))や六腑(ろっぷ)(大腸・小腸・胃・胆・膀胱(ぼうこう)三焦(さんしょう))に直接的に関連しているといわれる。

中国では経絡について、生物学、解剖学、物理学などからの研究が長期にわたって続けられ、これまでに神経に関連づける説、体液説、類伝導系説、生物電気説などの仮説が出されている1

(はり)(きゅう)指圧、マッサージなどで、ツボを刺激して病気を治療するというが、このツボは経絡上にあり、体の表面近くにある気の集まったポイントとされ、経穴(けいけつ)と呼ばれる。ほかに気穴(きけつ)腧穴(ゆけつ)孔穴(こうけつ)穴位(けつい)などと別称されてもいる。なお、解剖学的には、経穴には血管も神経もないという。2006年のWHO(世界保健機構)国際会議で、361カ所の経穴(けいけつ)の位置がしめされている。

経穴(けいけつ)のなかでもとくに「気」が集中する部位を「丹田(たんでん)」といい、上丹田、中丹田、下丹田の三つがある。丹田はいわゆるツボではなく、もう少し広い部位を表している。一般的には、上丹田を眉間(みけん)、中丹田を心臓の下、下丹田を臍下(せいか)三寸(9センチ)のあたりをさす。単に丹田といえば一般に下丹田のことをさし、気功の鍛錬において非常に重要な部位とされている。

 

外国旅行の直前に腰痛になったことがある。このとき、知人から鍼灸師(しんきゅうし)を紹介され診療を受けた。明後日に旅行に行くので、今日と明日で歩くときに痛みが軽くなるようにしてもらえないだろうか、と無理なお願いをし、希望がかなった経験がある。こういう実体験からも、気の存在は否定できない。

そのときの鍼灸師(しんきゅうし)から興味ある話を聞いた。その鍼灸師は、以前、ある大学病院に勤めていた。その当時、中国では麻酔薬を使わず、針麻酔(はりますい)だけで手術を行った様子がテレビで放映され、日本でも話題になっていた。大学病院の外科医から日本でもやってみようという話がだされ、そのチームの一員として加わったそうである。針麻酔だけで、患者が痛むことなく手術は終えることができたが、問題があったという。それは、麻酔薬を使ったときの手術では、内臓もそれなりに麻酔薬の影響でおとなしくしている。しかし、針麻酔の場合は、内臓は活発に動き、飛び出してくるほどだったそうだ。このため、手術箇所によっては実用的ではないとの結論になったそうである。これは論文にして学会で発表したとの話であった。

 

気はどこから

「気」はどこからくるのか、先の『気功の力』では次のように述べている。

<< 「気」は生命の根源であり、体中を(めぐ)っていると考えられていますが、それでは「気」はいったいどこからやってくるのでしょうか?

これには、おおきくふたつの「気」があるとされています。ひとつは、生命の誕生とともに父母から授かるもので、「先天の気」と呼ばれています。もうひとつは、生まれた後に自然界から()り入れるもので、「後天の気」と呼ばれています。

先天の気は、別名「真気」、「元気」、「内気」ともいい、生命の誕生と成長を(にな)う根源的なエネルギーと考えられています。そして通常、生まれてから年齢とともに減少していきます。気功を修練すれば消耗を少なくできますが、大事にしなければ早く消失し、なくなれば病死することになります。中医学では五臓(肝・心・脾・肺・腎)のうち腎に蓄えられるとされています。

一方の後天の気は、別名「水穀(すいこく)の気」ともいい、呼吸と食事を通して自然界から体内に()りこまれます。後天の気は、修練によって増やすことが可能で、これが先天の気を補います。中医学では五臓()に蓄えられるとされています。>>

 

この「後天の気」を鍛錬によって高めることを気功という。気功という言葉は、1953年に河北人民出版社から劉貴珍著『気功療法実践』が出版され、これ以降に統一用語として広く使われるようになった。それまでは、吐納(とのう)導引(どういん)行気(こうき)煉丹(れんたん)玄功(げんこう)静功(じょうこう)内功(ないこう)座禅(ざぜん)内養功(ないようこう)養生功(ようじょうこう)などの名称で呼ばれていた。

生命の根源である「気」を鍛錬することにより、健康の維持、増強、回復をはかる。その鍛錬は、姿勢・呼吸・意識の調整を行うことが基本原則になっている。それぞれ「調身(ちょうしん)(姿勢を調える)」、「調息(ちょうそく)(呼吸を調える)」、「調心(ちょうしん)(心を調える)」の三調と呼ぶが、この三調のそれぞれに調え方があり、またその組み合わせ方も異なる。それにより、気功法には数千種類の鍛錬法があるとされる。

 

気功の種類

町好雄著『「気」は脳の科学』では、気功を図に示すように目的別に分類している。ここでは気功を、硬気功(武術気功)、軟気功(医療気功)、特異功能の三種類に大別し、軟気功をさらに、自分自身で体の中の気をコントロールする内気功と、気功師が自分の気を体外に出す外気功とに分けている。

 

気と科学

先の町好雄氏は、東京電機大学の教授で電子回路や半導体の研究が専門である。1986年、あるテレビ局から、中国の高名な気功師を招くので、気功を科学的に測定してもらえないかと頼まれたのをきっかけとして、20年以上にわたって「気」の研究にたずさわるようになったそうである。

『「気」を科学する』、『「気」は脳の科学』を出版されている。これらの本には、気功師が外気を出したときの、気功師と外気の受け手の興味ある測定結果も示している。

 

気功師が外気を出し始めると、気功師の手のひらや体表面にある気穴を中心に、35度くらい体表面温度が上昇する。離れた場所にいる受け手も、それに同調するように気穴を中心に体表面温度が上昇する。ほとんどの気功師は、外気を発すると気穴を中心に体表面温度が上昇するが、体表面温度が下がる気功師もいる。なかには、体表面温度を上げたり下げたりできる気功師もいる。受け手の体表面温度もその変化に同調する。

気功師が外気を発し始めると、気功師の脳波は、活発な精神活動をしているときのベータ波が瞬時に弱くなり、リラックスしたときに現れるアルファ波が広がる。同調するように受け手の脳波も瞬時にベータ波が弱くなり、アルファ波が広がる。さらに、気功師が何かの意思(イメージ)を持って外気を発する場合は、右脳に瞬間的にベータ波が現れ、意識的に気を制御している様子が見られる。離れた受け手を同調させるものは何か、教授は次のように推測している。

家庭に来ている電気は、周波数が50ヘルツ(関西では60ヘルツ)の交流である。この周波数が高くなると電線の中を通るよりも空中へ飛び出しやすくなる性質をもっている。これを電磁波という。電磁波のなかで30キロヘルツから数百ギガヘルツまでを電波という。我々は、この電波に音や映像のシグナル(情報)を載せて、ラジオやテレビ・携帯電話などで利用している。私たちのまわりは、音や映像のシグナルを乗せた微弱な電波に囲まれている。これをラジオやテレビ・携帯電話などの受信機で変換し、もとの音や映像に変えている。

この世に存在する物体は、すべてその物体の温度に対応した周波数の赤外線を出している。赤外線は電波よりもさらに高い周波数をもつ電磁波である。人の体温が出す赤外線は、遠赤外線と呼ばれる周波数帯域の電磁波である。普通の人がだす体温の遠赤外線の測定では、一定の値を示す。これに対し、気功師が外気を発するときの遠赤外線の測定では、あるシグナル(情報)を含むと思われる周波数の波形(脈動)が記録されるという。このシグナルに対して受け手が受信機となり変換し、気功師に同調した身体的変化を、受け手はおこしているのではないかと推理している。

 

以前、中国でのことだが、会場にいた多くの人たちに気功師が外気を送り、治療を行っている様子がテレビで放映されていた。もし気功師が出す外気が、シグナルを含む電磁波のようなものであれば、多くの人に一度に外気を送り、治療するという、こういう状況も理解できる。

先の『気功の力』では次のように述べている。

<< (外気功は)自然治癒力(ちゆりょく)を高めるので、あらゆる病に有効ですが、(こと)に西洋医学では治しにくい生活習慣病やアレルギー、不定愁訴(ふていしゅうそ)への効果が期待される治療法といえます。

なお、気功の世界では一般的に、「気」の感度というものがあり、先天的に次の4種類にわかれるといわれています。「気」に敏感な人・強い人10%、比較的感度の高い人が40%、それほど感度が高くない人が40%、感度の弱い人が10%で、「気」に敏感な人ほど外気功を受けたときの治療効果が高いともいわれています。>>

このように、同じ外気功を受けても、人により治療効果が異なることが言われている。

 

紀元前、琥珀(こはく)をこすると物を引き付ける力(静電気)があることがすでに知られていた。これはただ「不思議なもの」、あるいは「魔術的なもの」として考えられていた。1600年イギリスのギルバートという学者が、この琥珀の性質について、実験に基づいた科学的研究を行い電気の基礎を築いた。それから300年後に、電気の気の正体が電子であることがつきとめられた。そして完全に見えない電気の気の正体を手中にした時、人類はエレクトロニクス時代という新しい時代を手に入れることができた。町教授はこのように記し、「気」の研究の未来について、「電気」が歩んできた道に重ね合わせて、次のように語っている。

<< 現在の知識で理解できないことに出会った時、それをあり得ないこと、あやしげなこととして排除したり、遠ざけてしまえば、いつでもその正体をつきとめることはできません。今、気功の気を科学的に捉えてみようという試みは、電気の歴史でいえば、やっとギルバートの時代、すなわち1600年代の静電気の研究の段階に入ったばかりだと言えるかもしれません。しかし、電気の歩みを振り返ってみると、気の正体を探ってゆく中に、21世紀の新しい通信手段や情報処理への応用、脳の基礎研究、医療の応用など、計り知れない可能性を秘めている予感がします。>>

教授は、これまで気功師だけではなく、透視能力者、予知能力者、千日回峰経験者、イタコ、イギリス人ヒーラー、ヨーガ者などが、その能力を発揮しているときの身体内で起きる生理的変化なども測定し、その共通点を指摘している。

これまで測定が不可能であった人体内・外の諸現象が、CTMRIPETSPECTなどの診断機器、各種測定器などの進歩・採用により、測定・解析できるようになった。気功の正体がつきとめられ、さらには、ヨーガでいう「プラーナ」と「チャクラ」、気功でいう「気」と「丹田」などを比較し、解明できる日が来ることを期待する。


参考

世界気功フォーラム2007実行委員会編「気功の力」平凡社

五木寛之著「気の発見」平凡社

池上正治著「気の不思議」講談社現代新書

池上正治著「「気」で観る人体」講談社現代新書1

町好雄著「「気」を科学する」東京電機大学出版局

町好雄著「「気」は脳の科学」東京電機大学出版局

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