雑録2008.6.14 コレステロール 

友人が血液検査で、中性脂肪(トリグリセライド)の数値が基準の2倍以上あるといわれ、中性脂肪を下げる薬を処方され、最近、服用しているという。

私のまわりで、コレステロール値を下げる薬が関連していると疑われる副作用で、3人が苦しんでいることを伝え、薬に頼るだけではなく、食事や運動などの生活習慣での改善をすすめた。

1人は私の姉である。会社の健康診断で、総コレステロール値が253あり、高いと指摘された(コレステロール値の単位はmg/㎗)。その後、病院で「高脂血症」と診断された(当時、220以上を高脂血症とされた)。自覚症状などはなく、本人はいたって健康であったが、コレステロール低下剤のスタチン剤(商品名:リピトール)を処方され、2003年に服用を始めた。3年後に、担当医から血液検査の結果、数値が下がりすぎているということで、リピトールの服用量を半分(5mg)に減らした。その半年後の20074月ごろ、下肢や上肢の筋肉痛がおこりはじめ、その後、助けなしにはベッドから立ち上がれなくなるほど、症状が悪化した。その時の総コレステロール値は204であった。当初、原因が不明で、脳のMRI検査まで行ったが、3ヶ月後の7月に「リウマチ性多発筋痛症」であると最終的に診断された。現在、症状は軽くなったが、それでも痛み止めの薬を、毎日1錠服用している。姉は、コレステロール低下剤の副作用であると疑っている。

浜六郎著「コレステロールに薬はいらない」には、次のように書いてある。

<< スタチン剤で人工的にコレステロールを下げると、確実に免疫力を低下させます。

このことは、臓器移植の際に、コレステロール低下剤(スタチン剤)を使用することで、拒絶反応(免疫反応)を抑えることが証明されていることからも確認できる事実なのです。

臓器移植では、拒絶反応が起こらないようにしなければなりません。拒絶反応というのは、移植した臓器を、異物として認識して破壊しようとする免疫反応です。

がん細胞の場合は積極的に異物を退治すべきですが、臓器移植の場合は逆に、移植した臓器を異物として認識させないようにする必要があります。そのため、免疫を抑制することが行われます。その免疫抑制によく使われるのが、ステロイド剤と抗がん剤系の免疫抑制剤と、もうひとつがスタチン剤なのです。・・・略

臓器移植手術の場合はスタチン剤も必要でしょう。しかし、健康な人の免疫力をわざわざスタチン剤で抑制する必要がいったいどこにあるのでしょうか。 >> 

フリー百科事典『ウィキペディア』には、「リウマチ性多発筋痛症の原因は不明であるが、免疫異常が関与していると考えられている」、と記されている。

2人目は私の妻である。20045月の血液検査で、総コレステロール値305、中性脂肪値350の数値がでて、「高脂血症」と診断された。コレステロール低下剤のベザトール、続いてリポバスが処方され、1年後の20056月には、総コレステロール値229、中性脂肪値202となった。その後、心電図で軽度のST-T異常が指摘され、また欠伸(あくび)もよくしていたが、8月頃から、時々、胸が締め付けられる症状が出るようになった。20061月に胸の締め付けが続き、救急車を呼ぶ事態にもなった。その後、近くの総合病院を紹介され通院した。そこで狭心症薬アイトロールを処方された。アイトロールを服用した日に頭痛があり、翌日には、頭痛、両腕と肩から肘にかけ痛さとだるさが混じった痛みがおこり、両ひざから下がしびれ、トイレなどには、()っていくようになった。4日目には服用を中止したが、痛みが治まるまでに1週間を要した。担当の医師は、妻の症状の激変に驚いたというが、詳しい説明はされなかった。

3人目は知人の女性である。一昨年、心筋梗塞で緊急入院し、内視鏡手術で事なきを得た。しかし、その後、処方されたコレステロール低下剤の副作用と考えられる筋肉痛で、ひどい目にあったと話していた。

コレステロールや中性脂肪は、血液によって全身に運ばれる。しかし、血液の成分は主に水であり、コレステロールや中性脂肪は脂質であるため、そのままでは、血液に溶け込まず、スムーズに流れない。先の「コレステロールに薬はいらない」の中で、運ぶ仕組みを次のように例えて説明している。

体にはコレステロールを運ぶための特別な船が用意されています。この船にコレステロールや中性脂肪を積み込み、各細胞に届けるという仕組みなのです。

船の外側には血液などの水と親和性があり、内側には脂を積み込めるという非常にうまい仕掛けになっています。この仕組みがあるために、コレステロールは脂肪でありながら血液に均等に溶け込むことができ、全身に運ばれるようになっています。体の仕組みというのは、本当に素晴らしいものです。

船は肝臓から出発します。まず、肝臓で作られたコレステロールが船に積み込まれます。このとき中性脂肪(トリグリセリド)も一緒に積み込まれます。中性脂肪も、そのままでは血液中をスムーズに流れないので、コレステロールと一緒に積み込まれるのです。中性脂肪は主に細胞のエネルギー源として使われます。

たっぷりとコレステロールや中性脂肪を積み込んだ船は、たんぱく質の比率が少ないので、水よりずっと軽いものです(極めて低比重、つまりVery Low Density)。肝臓を出発した輸送船(VLDL)は血液に乗って各細胞を回り、少しずつその積み荷を降ろしていきます。

それぞれの細胞は、エネルギーの元になる中性脂肪と、あらたな細胞を作ったりするために、船に積み込まれたコレステロールを受け取ります。その細胞にとって必要性の高いものを多く受け取るのです。

積み荷からは、先に中性脂肪が多く使われます。中性脂肪が減って、積荷にコレステロールが多くなると船全体は小さくなりますが、それでもまだまだ比重は軽いのでこの状態の船をLDL(低比重リポたんぱく)といいます。これが「悪玉コレステロール」といわれのない悪名で呼ばれているものです。この船は、主に細胞にコレステロールを送り届ける働きをします。・・・略

一方、別の種類の船があります。この船にはたんぱく成分が多いので、比重が高く、高比重(High Density)のリポたんぱく(L)すなわち、HDLと呼ばれます。

HDLは、全身の各細胞から古くなったり余ったりしたコレステロールを回収し、肝臓に戻します。そして肝臓ではコレステロールが再利用され、一部は胆汁酸の材料として使われます。

HDLはなぜコレステロールを回収して、肝臓で再利用するかお分かりでしょうか。つまり、それだけコレステロールは貴重なものだからです。

今でこそ、日本やアメリカをはじめとするいわゆる先進諸国は飽食の時代にあり、美食や過食による肥満が社会問題になっています。しかし、人類は歴史上、飽食をほとんど経験したことがなく、飢餓の時代がずっと長く続いたのです。

そこで、体にとって大事なコレステロールを無駄なく再利用するシステムが体の中に構築されたのでしょう。これは動物も同じです。この再利用のシステムがしっかり働いてくれたおかげで、動物も人類も生き延びてきました。特に人類はあらゆる動物の中で最も長寿になったのです。ところが、この大事なコレステロールの循環のシステムを断ち切ってしまうのが、コレステロール低下剤なのです。 >>

なお、中性脂肪は主に細胞のエネルギーとして使われる。またコレステロールは三つの主な働きがあり、@全身の細胞膜や細胞内の構造物の材料になる。A男性ホルモンや女性ホルモン、抗ストレスホルモンなどのホルモンの材料になる。B胆汁酸の材料になる、という。

1997年に、日本動脈硬化学会が「コレステロール220以上を高コレステロール血症とする」と発表し、それ以来、コレステロール値220以上の人は「患者」となり、治療の対象となった。

先の「コレステロールに薬はいらない」の著者 浜六郎氏は、この数値に異議をとなえている。著者によれば、コレステロール値が高いことでかかりやすくなる病気は「心筋梗塞」だけである。逆に、コレステロールが低くなることで、脳卒中(特に脳出血)や肺炎などの感染症、ガンなどはより多く発生する傾向があることを、各機関が実施した追跡調査結果を図表などで示し、説明している。

日本人で心筋梗塞になる人の割合は、欧米人に比べ10分の1から5分の1と少なく、ガンで死亡する人の方が圧倒的に多い。そして、心筋梗塞で死ぬ人が日本の510倍もいる欧米でさえ、高コレステロールの診断基準は240以上という。日本は、なぜ220以上を治療基準としたかの背景を、次のように述べている。

<< コレステロール低下剤の開発の歴史は、そのまま失敗の歴史です。またこの種の「コレステロールを下げようとする薬剤」が惨憺(さんたん)たる薬害事件を引き起こしてきたことを知りました。・・・略

スタチン剤の登場によって状況は一変しました。前章のデータでも見てきたように、スタチン剤は非常に強力なコレステロール低下効果を発揮します。その威力は抜群で、よく効く人の場合、一気に100ほどもコレステロール値を引き下げるのです。

そして、イギリスの大規模疫学調査(95年発表)で、スタチン剤は動脈硬化の発生を減らすことができたという科学的裏付けが登場しました。コレステロール値を下げることを「効果」というのなら、確かに効果抜群です。しかも、さしあたって目立つ副作用が少ない(と当時は思われていました)。医師にとって、非常に使いやすい薬であり、心筋梗塞の発生を減らせるということで、心筋梗塞の専門医たちは躍り上がって喜んだのです。

そして、日本全国の人に心筋梗塞の予防のために、できるだけ低く危険値を設定して、より多くの人に薬を飲んでもらい、心筋梗塞を予防しようと考えたのでしょう(好意的に解釈すれば、ですが)・・・略

健診施設でも、正常(基準値)の上限を240250から220に引き下げるところが増えてきました。やがて、心筋梗塞の専門家だけではなく、それまであまり高コレステロールの「患者」を扱いたがらなかった一般内科医までもがコレステロール低下剤を処方するようになりました。・・・略

このガイドラインが発表されて以降、高脂血症の「患者」と診断される人は一気に数百万人増え、薬は数千億円の販売増になりました。>>

さらに付け加えて、40歳以上の生活習慣病健診受診者の場合は、220以上を基準とすると「患者」は約半数にも達する。しかし、この基準を240以上に緩めると治療対象者は半滅し、260以上で4分の1280以上なら10分の1になる。220にした理由が、コレステロール低下剤の年間3000億円にものぼる売り上げと無関係とはいえない、と書いている。

著者自身は、次のように主張している。

<< コレステロール値は220280の人がむしろ元気で長生きであり、この値こそ正常値なのです。・・・略

コレステロール値が高い人でも、心筋梗塞にかかったことがあるとか、家族に心筋梗塞になった人がいるなど、心筋梗塞のリスクがかなり高い人以外は、コレステロール低下剤は必要ありません。さらに、狭心症や心筋梗塞などの心臓病にかかったことのある人でも、統計的に200240程度が最も長生きです。 >>

 

また、医療関係者の中には、著者のこれまでの意見に強く反発し、異議を唱える意見も少なからずあると十分承知しているとしながら、日本ドック学会の意見を紹介している。

 

<< 医学界の他の学会から、この基準に反対意見が出ています。日本人間ドック学会は20009月に、「日本動脈硬化学会の基準は実質的ではない」として、「高脂血症のガイドラインは、疾患別の学会が独自に作るのではなく、多くの学会が力を合わせ、国レベルで作成していくべきではないか」との意見を示し、「女性は260まで治療は不要」としています。>>

コレステロールという言葉と数値が独り歩きして、私自身もその内容が不明であった。妻と姉がそのコレステロールで一喜一憂している。少しでも、役にたてればと思いまとめてみた。

この文章を書くことで必要を感じたことは、医療機関名、薬品名・服用時期・期間・服用量・症状などは、記録を残すことが大事である。例えば他の医者(セカンドオピニオン)に経過を話すとしても、記憶だけではあてにならない。

なお、日本動脈硬化学会は、昨年(2007年)4月に「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」を公表した。新ガイドラインでの主要な変更点は、次の通りとしている。

●広く普及している「高脂血症」という疾患名(しっかんめい)を「脂質異常症」に置き換える方針を打ち出した。

●総コレステロール値を予防や診療の基準にすることをやめた。

●代わりにLDLコレステロール(LDL-C)値と、HDLコレステロール(HDL-C)値を、それぞれ別々に診断基準として設定した。

 

 脂質異常症の診断基準(空腹時採血)

 高LDLコレステロール血症    LDLコレステロール  140mg/㎗以上

 低HDLコレステロール血症    HDLコレステロール  40mg/㎗未満

 高トリグリセライド血症      トリグリセライド   150mg/㎗以上

さらに「この診断基準は薬物療法の開始基準を表記しているのもではない。」と明記している。


追 記

YOMIURI ONLINE(読売新聞)に、2007年4月に変更された「ガイドライン2007年版」について、「コレステロール新基準」と題して記事を載せている。その記事からの抜粋である。

<< コレステロールは、脂質の一つで、血液中に増えすぎると、血管壁にたまって血管が詰まるなど動脈硬化の原因になる。日本動脈硬化学会が診療指針を改定した。

ポイントは、従来の指標だった総コレステロール値を診断基準から外し、「悪玉コレステロール」とも呼ばれるLDLコレステロール値で診断することにした点だ。

総コレステロール値は、LDLと、「善玉コレステロール」とも言われるHDLコレステロールなどを合わせた数値を言う。LDLが全身にコレステロールを運ぶのに対し、HDLは余分なコレステロールを血液中から回収し、動脈硬化を進みにくくする働きがある。

診療指針作成委員長を務めた帝京大教授(内科)寺本民生さんは「日本人には、善玉のHDLが高いために総コレステロール値が高い人もいるので、総コレステロールではなく、LDLで判断したほうが合理的」と改定の理由を説明する。

HDLが低い場合も心筋梗塞につながるため、これまでの名称を「高脂血症」に代わり、「脂質異常症」と呼ぶようになった。

 

従来の総コレステロールの基準値(220以上)には、「日本よりも数倍も心筋梗塞が多い米国の基準値(240以上)より、なぜ厳しい数値なのか」など、疑問視する専門家も少なくなかった。新基準から総コレステロール値を外すことで、こうした批判をかわす効用もある。

もっとも、今回の基準値であるLDL140以上は、総コレステロールでは220程度以上に相当するので、新基準でも、数値の妥当性への疑問は引きずったままだ。

寺本さんは「日本人は心筋梗塞が少ない国民のままであってほしいという願いを込めた基準値」と話すが、科学的根拠は乏しい。

別の問題もある。循環器が専門の佐賀県・ニコークリニック院長、田中裕幸さんは「女性の心筋梗塞は男性の2分の1から3分の1と少ないのに、基準値が男女とも同じなのは不合理」と指摘する。

男女別、年代別にコレステロール値と心筋梗塞など冠動脈疾患による死亡率を示したデータ(図)を見ると、確かに男性ではコレステロール値が高いほど心筋梗塞は増えている。だが、女性ではコレステロール値と心筋梗塞にあまり関係がみられない。

こうした事情から、米国の診療指針では、女性の場合、血圧、血糖値などに問題がなければ、コレステロール値が高めでも治療せず、LDL190以上とかなり高い場合だけ治療する、としている。

ところが日本の指針では、女性で55歳以上の場合、望ましいLDLの値(管理目標値)は140未満とされ、この数値以上の中高年女性は治療される可能性がある。米国なら「治療不要」とされる健康な女性たちに、過剰な治療が行われる恐れがあるのだ。

田中さんは「女性の場合、コレステロールが高いだけなら、心臓病の危険はほとんどない。米国並みの基準値で十分」と言う。

ただし、女性でも糖尿病、喫煙、高血圧などの要素がいくつも重なると心筋梗塞を起こしやすい。日本の診療指針も、これらの要素が多いほど治療の必要性は高いとしている。コレステロール値だけではなく、様々な要素を考えて対処することが大切だ。 (200768日 読売新聞) >>


参考

浜六郎著「コレステロールに薬はいらない!」角川書店

福田実著「私は薬に殺される」幻冬舎

独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ(医薬品添付文情報)

http://www.info.pmda.go.jp



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