雑録2008.8.1 相続 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
先日、たまたまNHKテレビにチャンネルを合わせたら、“相続”について、クイズ形式の番組が放映されていた。視聴者の一人がゲスト出演し、次のようなことを語っていた。 「先年、夫が亡くなった。亡くなった夫は、財産を私だけが相続するように、遺言書を残しておいてくれた。私には子供がいない。その遺言書がなく、もし夫の兄弟から法定相続分を要求されたら、住んでいる家を売って用意するほかなかった。ほんとに遺言書があって助かった」 夫婦で築き上げた財産を、子供がなく、遺言書もないと、夫の父母、夫の兄弟姉妹には、その順序で財産の一部を要求する権利ができるという。父母はともかく、兄弟姉妹からの要求で、老後を過ごそうと思っていた家を、手放さねばならないことも、でてくるかもしれない。 もう一組のゲストは、再婚者どうしの夫婦である。それぞれ子供を連れて再婚した。そして夫婦それぞれに財産がある。子供たちの了解を得て、残された配偶者の生活のために、それぞれの財産を、残された配偶者だけに与えるという遺言書を、それぞれが書いてあると語っていた。 子供のいない夫婦や生涯独身者、法定相続分以上に財産を譲りたい人がいる、法定相続人以外の世話になった人に財産を残したいなど、とくに自分が亡くなったあとのことに、不安がある人や希望のある人は、遺言書の形で、自分の意思を示すべきだと思った。 この番組を見て、相続についての本をかじってみた。内容を 遺言がない場合 亡くなった人(被相続人)が遺言を残さなかった場合、遺産の法定相続人は、配偶者と被相続人の子供(直系 <相続の順位>
優先順位は、例えば、亡くなった人(被相続人)に、配偶者と子供いる場合は、第二順位以下には相続権はなく、配偶者と子供が相続する。子供がいない(第一順位に相当する人がいない)場合は、配偶者と第二順位の直系尊属(父母)が相続する。第二順位に相当する人もいない場合は、配偶者と第三順位の兄弟姉妹が相続する。また、配偶者がなく兄弟姉妹しかいない場合は、兄弟姉妹が相続する。
<法定相続分の割合> ケース1 配偶者と子供が相続・・・配偶者は遺産の1/2、子供は残りを等分 ケース2 配偶者と直系尊属(父母)が相続・・・配偶者は遺産の2/3、直系尊属は残りを等分 ケース3 配偶者と兄弟姉妹が相続・・・配偶者は遺産の3/4、兄弟姉妹は残りを等分 ケース4 兄弟姉妹が相続・・・兄弟姉妹は遺産を等分 遺言がある場合 亡くなった人が遺言書を残していた場合は、その遺言内容にしたがって、遺産を分ける(指定相続という)。法定相続分を無視した相続分が書かれている場合や、法定相続人以外に遺産を与えると書かれている場合でも、その指示にしたがい、法定相続に優先して取り扱われる。しかし、「財産のすべてを愛人に」などと書かれては、残された家族にはあまりにも酷であり、生活にも支障を来すことになる。 遺族の生活を保障するためにも、一定基準の遺産を、遺族に残すように定められている。これを「遺留分 <遺留分権者> 遺留分を請求できる相続人(遺留分権者)は、配偶者、直系卑属(子や孫)、直系尊属(父母)に限定され、兄弟姉妹には遺留分はない。もしも、配偶者と兄弟姉妹が相続人で「財産はすべて妻に」と遺言されたら、兄弟姉妹の取り分はゼロとなる。 なお、遺留分は、侵された本人が正式な手段を通して、申し出なければならない(遺留分 <遺留分の割合> 配偶者や直系卑属(子供)が相続人の場合は、遺産の1/2、直系尊属(父母)が相続人の場合は、遺産の1/3が遺留分となる。 ケース1 配偶者のみの遺留分は遺産の1/2 ケース2 配偶者と子供のみの遺留分は遺産の1/2(配偶者1/4 子供1/4) ケース3 配偶者と父母のみの遺留分は遺産の1/2(配偶者2/6 父母1/6) ケース4 子供のみの遺留分は遺産の1/2 ケース5 父母のみの遺留分は遺産の1/3 ケース6 配偶者と兄弟姉妹の場合は、配偶者のみに遺留分として遺産の1/2。兄弟姉妹には遺留分はない ケース7 兄弟姉妹のみの場合は、兄弟姉妹には遺留分はない。遺産は、兄弟姉妹の特定の人や、兄弟姉妹以外の人にも、遺言で自由に処分することができる 相続税 遺言書の有無や実際の各相続人の相続額は考慮せず、最初に、法定相続人となる人数から基礎控除を計算する。相続額からその基礎控除を差し引いたものが、課税遺産総額になる。課税遺産総額を、法定相続分の割合で比例配分し、各相続人の仮税額(算出税額)をだす。その合計が相続税となる。その後、実際の相続分割合から、各相続人の納税額を決める。 なお、相続額が基礎控除以下の場合は、相続税はかからない。また、配偶者控除として、配偶者の相続額が1億6000万円以下の場合は、配偶者には相続税はかからない。さらに、相続額が1億6000千万円以上の人の場合でも、それが配偶者の法定相続分以下であれば、たとえ何十億円であろうと非課税である。 ―計算例― 妻(配偶者)と子供二人が相続し、相続額が2億円とする。 話し合いにより、2億円のうち、妻は1億4000万円(全体の70%)、長男は4000万円(全体の20%)、次男は2000万円(全体の10%)をそれぞれ相続するものとする。 ●基礎控除=5000万+1000万×法定相続人の数 =5000万+1000万×3人=8000万円 ●課税遺産総額=相続額-基礎控除 =2億円-8000万円=1億2000万円 (注:ここで、相続額が基礎控除の8000万円以下なら、相続税はかからない。計算例では、相続額が2億円であり、相続税がかかる。) この1億2000万円を法定相続分によって、各相続人に振り分ける。 妻の法定相続分は1/2だから、1億2000万円×1/2=6000万円 子供の法定相続分は、それぞれ1/4だから 長男 1億2000万円×1/4=3000万円 次男 1億2000万円×1/4=3000万円 相続税の速算表
相続税の速算表から各相続人の仮税額を求める ●税額の計算=法定相続分に応ずる取得金額×税率-控除額 妻の仮税額=6000万円×30%-700万円=1100万円 長男の仮税額=3000万円×15%-50万円=400万円 次男の仮税額=3000万円×15%-50万円=400万円 相続税の合計=1100万+400万+400万=1900万円 この1900万円が、この一家で支払う相続税の総額である。 実際の相続割合から、各相続人の相続税額を計算する。 ●各相続人の相続税=相続税の合計×実際の相続割合(%) 妻の税額=1900万円×70%=1330万円 長男の税額=1900万円×20%=380万円 次男の税額=1900万円×10%=190万円 各相続人の納付税額を計算する。 妻の納付税額・・・0円 (配偶者の相続額1億4000万円は、配偶者控除額1億6000万円以下のため、納付税額はゼロとなる) 長男の納付税額・・・380万円 次男の納付税額・・・190万円 なお、配偶者と第一順位(子供がなければ孫)以外の相続人が含まれる場合、その人たちの納付税額は、上記で計算する納付税額に、さらに二割増しの加算を行う。
★平成16年度中に亡くなった人で、相続税を納めた人の割合は4.2%。また、納めた相続税を相続人の数で割ると、1人当たり約800万円だそうである。 参 考:贈与税 配偶者への、居住用の不動産か購入資金の贈与には、配偶者特別控除がある。また子供や孫への住宅取得資金贈与の特例などがある。これらの控除・特例はないものとして、計算例の相続額を贈与するものとして、贈与税だといくらになるか計算をした。 妻の贈与額・・1億4000万円 長男の贈与額・・4000万円 次男の贈与額・・2000万円 ●基礎控除後の課税価格=贈与額-基礎控除額(110万円) 妻の基礎控除後の課税価格=1億4000万円-110万円=1億3890万円 長男の基礎控除後の課税価格=4000万円-110万円=3890万円 次男の基礎控除後の課税価格=2000万円-110万円=1890万円 (注:年間の贈与額が110万円(基礎控除額)以下の場合は、贈与税はかからない。毎年、基礎控除額以下の贈与を続ける場合は、毎年贈与税の確定申告をし、贈与契約書を作成することなど、確実な証拠で説明できるようにすることが必要とのこと) 贈与税の速算表
贈与税の速算表から各人の納付税額を計算する ●納付税額=基礎控除後の課税価格×贈与税の税率-控除額 妻の納付税額=1億3890万円×50%-225万円=6720万円 長男の納付税額=3890万円×50%-225万円=1720万円 次男の納付税額=1890万円×50%-225万円=720万円 ★2億円を相続したときに支払う相続税(合計570万円)と比較して、2億円を贈与したときに支払う贈与税(合計9,160万円)の大きさがわかる。 追 記
2008年7月23日付け朝日新聞朝刊の一面で、「政府税制調査会は50年ぶりとなる相続税の課税方式の改正に取りかかった。今年11月にもまとめる答申に盛り込む」、と報じている。記事からの抜粋である。 <<亡くなった人の遺産総額をもとに課税額を決める現行方式(抜粋者注:法定相続分課税方式)から、遺産を受け取った相続人の受取額をもとに個人単位で課税額を決める「遺産取得課税方式」に改める。・・略
現在の相続税は、同じ額を相続しても支払う税金が異なることがある。遺産総額4千万円のうち2千万円を相続した人は総額が基礎控除額より低いため無税だが、基礎控除額を超える遺産総額1億円のうち2千万円を相続した人は、課税される場合がある。・・略
遺産取得課税方式は、相続を受けた個人の相続額をもとに課税額を決める。相続額が同じなら原則として課税額も同じになるため「現行方式より公平で分かりやすい」とされる。 政府税調は相続税の課税最低限の引き下げなど課税強化も議論する。相続税はバブル期の地価高騰などを背景に課税最低限を引き上げた。その結果、かっては死亡者の10%程度に課税されていたが、地価が下落した現在は4%程度しか課税されていない。・・略>>
参考資料
久野幸一監修「相続と贈与がわかる本」成美堂出版
青木孝・佐藤允史監修「相続と贈与 これで安心」小学館
その他
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