2009.3.7 サブプライムローン 
 

サブプライムローンの問題が報じられた当初、日本は影響が少ないとされ、対岸の火事のような印象であった。しかし、ここにきて、日本の国際的な企業の業績が()()落としのように悪化し、093月期通期の大幅減益、赤字転落の見通しの発表が相次いでいる。

私が所有している、日経平均株価に連動する投資信託(ETF)の価格は、50%も値下がりしてしまった。

日本の産業の連結利益は、海外の子会社が占める割合が67割、北米だけで5割を占めている。今度の世界金融危機によって、その利益のほとんどが一瞬にして消えてしまったと考えると、震源地のアメリカのダウ平均の下落率より、日経平均の下落率の幅のほうが大きいことに、日米を比較した企業利益の減少の多寡(たか)が、それに反映されているのではないかという。

 

製造業で、日本や韓国・中国などに追い上げられた米国は、「金融立国」を目指した。その結果、アメリカにおける中心産業となった金融は、全米の就業人口のわずか510%程度しか占めないこの部門が、07年度には、アメリカの企業収益全体の4割を占める収益をあげている。中間層の減少、より一部の人に富が集中し、アメリカでは両極化を生み出している。

089月に経営破綻した投資銀行リーマンブラザーズ。その破綻した原因と経営責任を追及する米議会の公聴会(08.10.6)が開かれたことを、新聞が報道していた。

「証言したファルド最高経営責任者(CEO)の過去8年間の報酬は、48千万ドル(約480億円)。同社が0712月に社員に支給した現金・株式のボーナスの総額は、約49億ドル(約5千億円)」と報じている(朝日08.10.8)。

フリー百科辞典ウィキぺディアに掲載されている、リーマンブラザーズの従業員数28,556人(071130日現在)で割ると、1人平均17万ドル(1,700万円)のボーナスを貰ったことになる。これらからも、アメリカがこれまで金融で稼いでいた実態の一部が見られる。

 

サブプライムローン問題とはどのようなものなのか。私が理解したことを覚え書きとしてまとめてみた。

 

米国では04年頃に高級住宅地のブームがピークに達し、市場を広げる意味で次にサブプライムにランクされる層に、照準を定めて住宅ローンが組まれていった。サブプライムローンとは、信用度の低い消費者(サブプライム層)への融資である。

返済できる可能性の低い人たちにも融資を行う。そのような融資がなぜ可能なのか、どのような仕組みなのだろうか。

カギは「証券化」である。住宅ローンを融資した金融機関は、そのローンを保有することなく第三者に転売すれば、自分のところにはリスクは残らず、儲けだけが残る。この転売システムこそが証券化で、全世界の投資家にリスクの種を転嫁した。

リスクが残らないのだから、ローンを組ませることが目的となる。その目的にそって、消費者に「ローンを組んでみよう」と思わせる、巧妙な仕組みが用意された。

信用度の低い借り手を対象としたサブプライムローンの金利は、当然高く設定される。その金利の設定が、最初の数年間は極端に低く、その後10%前後になるように組まれている。

「これだけ住宅価格が値上がりしているので、金利が高くなる前に、その値上がりした住宅を担保にローンを借り増ししたり、信用力が高い個人向けの“プライムローン”に借り換えを行えば、金利負担が軽減できますよ」と、貸し手はローンを組ませる。

「たとえローンが払えなくなっても、住宅を手放せばローンは消滅しますよ」と、ローンを組ませる。

日本では、住宅ローンが払えなくなって住宅を手放しても、残ったローンはついてまわる。しかし、米国の住宅ローンの多くは「ノンリコース」が基本である。ノンリコースとは、住宅ローンが払えなくなったら家を差し出すだけでよく、それ以上の負担を債務者が負うことはないという制度で、払えなくなっても住宅を失うだけで済む。
  住宅価格の上昇を前提としたこの仕組みの歯車は、住宅価格の上昇の停止、下落に伴って逆に回り出す。そしてバブルが破裂した。

 

証券化とは

住宅ローンを数多く束にして、「証券化商品」を作り、多くの投資家に転売する。証券化商品は、住宅ローンだけではなく、資金回収ができたり、現金収入が期待できる資産が用意できれば、簡単に応用を利かせた商品になる。

例えば、クレジットカード債権を多く束ねて証券化する。同様に、自動車ローン債権、商業用不動産、企業向け貸出・社債などといったものも多く束ねて証券化する。さらに、各証券化された商品をあつめて、混合した証券化商品(CDO:債務担保証券)を作る。これらを可能にしたのが金融工学だという。住宅ローンに潜んでいたリスクは細分化され、格付けも高く評価されたまったく別の証券化商品となる。

高度な金融工学を用いてリスク計算をし、格付けも高く評価された証券化商品(CDO)であっても、リスクの内容が理解しにくいため、買う方(投資家)は二の足を踏む。そこで投資家に購入しやすくするために、証券化商品(CDO)には、仕掛けとして一種の保険がつけられた。証券化商品(CDO)に損失が出れば、保険会社がその損失分をすべて補償してくれるというCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)と呼ばれるものである。これにより投資家はリスクをとらずに済み、証券化商品(CDO)をより買いやすくなった。

 

CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)とは

CDSについて、中空麻奈著「早わかりサブプライム不況」では、次のように説明している。

CDSとは、社債や国債などの信用リスクに対し保険のような役割をはたすデリバティブ契約のことです。(略)

 例えば、銀行AB社への1億円の貸出金(債権)を保有していたとしましょう。銀行Aは、B社の決算の分析などをしているうちに、B社が本当に貸出金を返済してくれるかどうか心配になってきたとします。(略) そんな場合に、銀行Aの心配を取り除いてくれるのがCDSです。いわば「倒産保険」みたいなものです。

仕組みはこうです。CDSの契約を結ぶのは銀行Aと金融機関Cです。仮に契約期間を5年とすると、銀行Aは金融機関Cに毎年、貸出期間の1%に当たる100万円を「保険料」として払います。B社が倒産しないまま生き残れば、保険料は金融機関Cの利益になります。(略)

銀行AにとってCDSの効果が発揮されるのは、B社が倒産した場合です。仮に契約最終年の5年目にB社が倒産し、銀行A1銭も貸出金を回収できなかったとすると、金融機関Cは「保険金」として元本の1億円を銀行Aに支払うのです。どうでしょう、B社が倒産しても、銀行Aが負担するのは金融機関Cに毎年支払った「保険料」だけで済むことになります。

要するに、銀行ACDS取引をすることで、「B社が倒産した場合に損失相当額を受け取る権利」を手に入れたことになります。この権利を専門用語で「プロテクション」といいます。銀行Aはプロテクションの買い手、金融機関Cは売り手です。(略)

CDS1990年代後半に開発された商品ですが、信用リスクを取引対象とすることが知られるにつれて「投機」の手段としても利用されるようになりました。つまり、先の例で言うと、B社への貸出金が存在しない場合でも、将来的にはB社の信用力が落ちると予想するなら、CDS契約をしようとする投資家が現れるわけです。商品の機能を考えればわかりますね。わずかな保証料を支払うだけで、大きな「元本」を得られる可能性が出るからです。(略)(引用者注: B社が知ることなく、銀行Aと金融機関CだけでCDS契約をする、さらに銀行Aと関係なくプロテクションだけが売買される)

このようにリスクヘッジにもなるし投資商品にもなる便利なものでしたから、CDS利用者は(またた)く間に増えました。ほとんど倍々ゲームのように残高(想定元本)は増え、07年には62兆ドル(約6200兆円)にまで拡大しました。それ以降は若干減りましたが、それでも086月現在55兆ドル(約5500兆円)にものぼっています

 

巨額な公的資金を投入し、米政府の管理下に入り、再建を図っている米大手保険会社のAIGがある。

先の例で金融機関Cに相当し、このCDS取引を大々的に行ってきた金融機関の一つである。2005年には、その保証料によって、AIG全体の利益の17.5%を稼ぎ出していた。しかし、サブプライム危機後、保険金の支払いが急膨張し、一説では、AIGが保証ししていたCDS契約の想定元本は4000億ドル(約40兆円)に達するともいわれている。仮にその全額を、保険金として支払わなければならないとしたら、AIGは破綻をせざるを得ない。こうなるとAIGCDS契約を結んでいた相手側は、それまで信用リスクをAIGに移転していたと信じていたのに、それが移転できなくなったことになる。最悪の場合、AIGが破綻したら、他の金融機関も、支払い不能になる連鎖倒産の可能性さえ出てくる。このため、米当局はAIG救済をきめたのである。

問題は、AIGだけではない。CDS取引では、欧米の有力金融機関が軒並み上位に名を連ね、特に投資銀行においてその傾向が強いといわれている。

 

CDS相対(あいたい)取引が中心で、当事者以外は、どこでだれがどんなCDS契約を結んでいるのか正確にはつかめない。どれくらいのCDS契約をしているかを情報開示している金融機関はなく、結局、AIG危機の時に起きたような信用リスクの悪循環が、起きる可能性が残るという。

55兆ドル(5500兆円)にものぼる、ばら()かれたCDS契約書”は、場所も所有者も規模も不明な“紙の地雷”に化け、金融市場に疑心暗鬼の相互不信を持ち込み、信用収縮(貸し渋り)の連鎖の大きな原因になった。

 

先の「早わかりサブプライム不況」で中空麻奈氏は、サブプライムローン問題の流れを次のように述べている。

金融マーケット全体から見ると、サブプライムローンの市場はそんなに大きなものではありませんでした。2005年末の米国のモーゲージ(住宅ローン)市場は約10兆ドル。そのうちサブプライムは1.2兆ドルで1割程度を占めているに過ぎませんでした。

このため問題発覚間もないころは、最悪のシナリオでさえ予想純損失は約1800億ドル程度で済むと考えられていました。これは米国全体の純資産56兆ドルからすると、わずか0.32%です。国全体をみかん箱にたとえれば、たとえサブプライムによる損失部分が忽然(こつぜん)と姿を消してしまったとしても、その影響は「みかん1個程度」にしかならない――その程度の小さな問題と見られていたのです。

しかし、腐ったみかん一つを使って証券化商品を作り、それを世界中に販売したことがすべてを狂わせてしまいました。(略)

米国の大手金融機関の損失処理だけでも088月現在で5000億ドルを超えてしまいました。証券化によって全世界の投資家にウィルスが蔓延(まんえん)したためです。

金融機関が巨額損失を計上するにつれて、今度は新たなマグマが蓄積され始めました。

損失処理で自己資本が減少したため、米国の金融機関が「貸し渋り」を始めたのです。銀行がマネーの供給を絞り始めると、経済は途端に「金詰まり」に見舞われてしまいます。専門用語で言う「クレジットクランチ」の発生です。サブプライム関連では、欧州の金融機関も同様に巨額の損失を計上していましたから、「金詰まり」は一気に世界中に広がっていきました。そして、その蓄積されたマグマは日本にも容赦なく襲いかかって来たのです。

ダイヤモンド・オンラインで、安藤茂彌氏が「シリコンバレーで考える」という記事を連載している。【第16回】200939日付けで「赤字でも億単位のボーナスを支払い続けた米銀の腐った資本主義」と題して、次のような文章を載せている。

< 最近、投資銀行メリルリンチの報酬の実態が明らかになった。こうした情報開示は今までなかったが、ニューヨーク州司法長官が役員・社員に支払ったボーナス36億ドル(3600億円)の内訳を開示する命令を出したことで初めて明らかになったものだ。昨年9月に、メリルリンチは単独での経営継続は困難と判断してバンク・オブ・アメリカに吸収された経緯がある。メリルの2008年の売上高は33億ドル(3300億円)、純損失は276億ドル(27600億円)であった。驚くべきことに売上高を上回るボーナスが支払われていた。>

さらに同記事には、メリルリンチが294000万円を支払ってスカウトした人物が、3ヶ月後に他社へ転職してしまった話などが出ている。アメリカ金融界を、責任を負わずに高給をむさぼるドロボー社会だと断じている。

 

 

参考

神谷秀樹著「強欲資本主義ウォール街の自爆」文春新書

水野和夫著「金融大崩壊『アメリカ金融帝国』の終焉」NHK出版生活人新書

中野麻奈著「早わかりサブプライム不況」朝日新書

中谷巌著「資本主義はなぜ自壊したのか」集英社インターナショナル



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