雑録2010.10.20 おやじの言葉
 

学生の頃に聞いた“おやじの言葉”がある。

「わしの経験では、買うかどうか迷っている時は、()ずは買わない方がよい」。

どういう時に、この言葉をおやじから聞いたかは覚えていない。

人の物を見てほしいと思ったとき、大幅に割引された値段の商品や追加された機能の製品にそそられ、特別限定品だと言われ、あるいは便利さや効能の歌い文句に()かれる。このような衝動買いの誘惑にかられたとき、この言葉を思い出し、本当に必要な物なのかを考えるきっかけとなった。

 

1950年代にアメリカでクレジットカードの使用が始まった。現金を持ち歩かなくとも買物ができ、しかも持つことがステータスシンボルになり、さらに持つことが常識になっていった。日本でも10年後の1960年代に始まったという。

支払方法も、一括、分割、リボルビングなどと種類も増えた。現金を持ち合わせていないので買わない、支払えないという制限がなくなり、本当に必要なものなのか立ち止り、考えるきっかけを低くした。とくに毎月きめられた一定金額を支払うリボルビングなどは、買い増ししても毎月の支払金額が変わらない。このため毎月の支出は一定であることだけに目が向き、支払期間が長くなり、金利負担を含めて負債が増えていることを忘れがちになるのではないか。

 

以前、生活資金を借りる時は質屋から借りていた。借りるには質草というカメラや時計・着物などの担保が必要であり、おのずと借りるには制限があった。消費者金融と呼ばれるようになった“サラ金”が誕生し、無担保で資金を借りられるようになった。これは便利ではあるが、その便利さゆえに、これも必要な物なのか、立ち止り考えるきっかけを低くした。

 

インターネットにはサイト(ウェブサイトの略)がある。これはインターネット上で、特定の目的のためにデータのまとまりが置かれている場所を意味し、さまざまな情報を提供したり、なかだちをする。 “○○同好会サイト”や、悪名高い“出会い系サイト”など、各種のサイトが数多く存在する。クリック一つで買い物をし、不明な事柄を検索し、リアルタイムで株価を知ることなどができる。

アメリカで始まった「クーポン共同購入サイト」がある。この4月に日本でも本格的に取り入れられたばかりだが、そのサイト運営会社がいくつも立ち上がり、また利用者も激増しているという。仕組みは次のようである。

サイト運営会社が店舗などと提携し、通常の4割から9割引きなどという価格で提供した商品などをサイトに掲載する。掲載後1日以内などの時間制限と、あらかじめ設定された人数の申し込みがあった場合には、クーポンが発行される。制限時間内に購入希望者が最少人数に届かなければ、クーポンは発行されない。また条件を満たしても購入できる最大人数が限定される。サイト上には、現時点での申し込み人数が常時表示され、いわゆる“早もの勝ち”、“特別限定品の残りはこれだけだよ”の商法を継いでいる。

通常、クーポンの取得にはクレジットカードにより前払いされ、クーポンの使用期限は36ヶ月、期限を過ぎると原則、返金してもらえない。この「クーポン共同購入サイト」の対象物件が、飲食店、宿泊施設、ヘアサロン、ギフト券、各地の特産品、コンサート、スポーツ用品などなどあらゆるサービス、製品に広がっている。

有名施設やブランド品が、4割から9割引で利用でき、購入できる。その激安感にさらに時間制限や人数制限が加わり、購買欲をせかす。ここでも本当に必要なものなのか立ち止り、考えるきっかけを低くしている。

このサイトにはまり、毎月100件あまり、20万円の支出をしている人をテレビで紹介していた。

 

以前、“先に楽しみ、後で払おう”なんていうキャッチフレーズを聞いたことがある。そのようなキャッチフレーズや、買いやすさの仕組みに(まど)わされたくはない。

()るを(はか)りて、()ずるを()す」という言葉がある。 “収入の額をきちんと計算して、それに応じた支出を行う”という意味である。もともとは(おおやけ)財政の均衡(きんこう)の重要さを指摘したものだそうだが、家庭・個人にも当てはまる言葉である。


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