雑録2011.4.19 地震と保険
 311日午後245分ごろ、三階の居間で椅子をリクライニングさせてくつろいでいたとき、ユラリユラリと揺れ始めた。そのうちおさまるだろうと思っていると、部屋が共振するようにグラグラと揺れだし、テーブルの上のビンなどが床に転がり、戸棚の扉が開き、本や薬箱などがバラバラと落ちてきたが揺れはいつまでも続いた。これはただ事ではないと思いながら成り行きを見守るだけであった。揺れがおさまってから隣の部屋を覗くと、床一面に本などが散らばっている。高い棚類は固定していて倒れることはなかったが、低い棚やキャスター付きの棚は、倒れたり移動した。

外に出てみると、幅4メートルほどの道路一面に隣家の(かわら)が割れて落ちている。家の前にあるコインランドリーの配水管からは水が勢いよく漏れ、そして辺りにかすかなガスの臭いが漂う。まもなくお巡りさん二人が、一軒一軒安否の確認に廻ってきた。夕方、消防自動車がとまりお巡りさんたちが見守るなか、ガス会社の人が、道路の縁石を壊しながらガス漏れカ所を見つけ修理を行っていた。我が家の猫は地震と同時にどこかに隠れ、妻が何回か家の内外を捜したが見つからなかった。12時間後の夜中の2時過ぎに姿を現した。

ラジオ体操にいく道沿いには、ブロック塀がかたむいている家、「瓦の落下に注意」の貼り紙をした家、一階が駐車場で2階を支えている間口の梁が「逆への字」に折れている家などが見られた。明治神宮宝物殿の切り妻屋根の上端付近、横24列目の瓦がところどころ落ちていた。

三陸沖を震源とするM(マグネチュード)9の巨大地震は、1カ月を過ぎた今も余震が続く。気象庁のホームページには日別の余震の回数が載せられている。414日現在、その余震の累計はM5以上が417回、M6以上が71回、M7以上が5回とある。揺れに対して鈍感になったのか敏感になったのか、揺れていても揺れていなくても、どっちなんだと感じることがある。

 

19941月に起きたロスアンゼルス地震では、高速道路が倒壊した。日本の高速道路は耐震構造なのであのように倒壊することはない、と専門家の語る神話が、翌19951月に起きた阪神・淡路大震災によりもろくも崩れた。今回の東日本大震災では、原発の安全神話も砂上の楼閣であった。

瓦が落ちた近所の家では、保険会社に連絡すると翌日には調査にきたという。私の家も今まで長期間保険に入っているが、内容について良く知らなかった。保険の契約更新がこの5月である。契約更新に来た保険代理店の人などから聞いたことなどをもとに保険について、また今回の地震についても備忘録としてまとめてみた。

火災保険と地震保険

ここで書く保険についての備忘録は、契約している保険会社独自のものが含まれるかもしれないので、注意していただきたい。

まず地震保険は単独で契約はできず、火災保険とセットで契約する。

火災保険をかける場合、保険金額には新価評価額に対する契約と、時価評価額に対する契約がある。これは新価では新しく建てなおす金額が支払われ、時価では現状相当の金額が支払われる。ただし、新価契約は3年契約か5年契約で、それ以上の継続契約はできないと言われた。

ここに築20年で150uの家があるとする。この家の新価と時価はどのようにきめられるのであろうか。

国土交通省が出す資料などにもとづいて、保険会社は木造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、その他、それぞれの1u当たりの建築単価を毎年算出する。新価は、この単価にu数をかけてきめる。時価は、この新価に一定の償却率をかけて求める。

上記の家の場合、建築単価26万円/u、償却率を年に1.5%と仮定する。

新価:15026/u=3900万円 

時価:20年の償却率は、1.5%×20年=30%になり、時価は新価の70%で2730万円になる。(なお火災保険の場合、償却率には時価限度があり50以上にはならない。)

実際には、計算した新価に一定の範囲内(私の家の場合は±30%)で、新価を自由に決めることができる。

 

地震保険金額は、火災保険金額の30%〜50%の範囲内で、かつ上限は5000万円である。上記の例で、3900万円の新価評価額で契約したとすれば、地震保険金額は1950万円が限度額となる。

地震保険の補償内容としては、地震・噴火またはこれらによる津波を原因とする火災、損壊、埋没、流失によって保険金は支払われるが、損害の程度によって支払額が決められている。
地震保険の補償内容

 損害の程度  支払われる保険金 
@全損のとき  地震保険金額の全額(時価限度) 
A半損  地震保険金額の50%(時価の50%限度) 
B一分損  地震保険金額の5%(時価の5%限度) 


損害の認定基準

 損害の程度  認定基準(@、AまたはB)
 @主要構造物(軸組み、基礎、屋根、外壁等)の損害額  A消失または流出した床面積  B床上浸水
 全 損 建物の時価の50%以上   建物の延床面積の70%以上             ―
 半 損 建物の時価の20%以上50%未満   建物の延床面積の20%以上70%未満            ―
 分損 建物の時価の3%以上20%未満              ―           建物が床上浸水または地盤面より45cmを超える薪水を受け損害が生じた場合で、全損・半損・一分損に至らないとき


  地震保険は1964年の新潟地震をきっかけに、1966年に法制化が行われ、政府と保険会社で運用している。1回の地震等による損害保険会社全社の支払保険総額には5兆円(平成1741日現在)の上限ある。5兆円を超えた場合、保険金額は減額され案分比例される。なお、1995年の阪神・淡路大震災での地震保険の支払額は782億円であった。案分比例して支払われる保険金は次式による。

支払われる保険金=全損、半損または一部損の算出保険金×(5兆円/算出保険総額)

  保険金は申請しないと支払われない。保険証書が紛失しても保険会社には原本が保存されており、支払いには問題はない。しかし、契約した本人が死亡したりして、どこの保険会社と契約しているのかが不明になったとする。この場合、保険会社全社の加入者を網羅(もうら)して管理している協会などはなく、保険会社を片っ端から調べるしか方法がないという。


  地 震

日本の周辺で起きる地震は、年間10万回から20万回、体に感じる地震だけでも年間2000回は起きている1。内閣府ホームページの防災情報ページでは、19942003年に世界で発生したM6以上の地震回数は960回、そのうち220回が日本周辺で発生し、全体の22.9%を占めているという。世界には、生涯地震を経験することのない人がおり、地震が起きたことのない国もある。それはそれで不思議な気がする。

地震では「マグニチュード」は規模を表し、「震度」は揺れの程度をあらわす。これはよく光源と机の上の明るさにたとえられる。

光源の強さはマグニチュードに相当し、机の上の明るさは震度に相当する。光源の強さ(単位:カンデラ)が一定でも、光源から出るの届く机までの距離によって、机の上の明るさ(単位:ルクス)は異なる。このように、同じマグニチュードでも、震源からの距離によって震度は異なり、さらに地震の場合は距離が同じでも地盤によっては震度が異なる。また同じ地盤でも建物の構造によっても揺れの程度は異なる。

これは今回の原発事故で問題となっている、放射能と放射線との関係にもあてはまる。光源にあたる放射性物質がだす放射能の強さ(単位:ベクレル)と光に相当する放射線によって人の受ける影響の度合い(単位:シーベルト)との関係である。

阪神・淡路大震災でのマグニチュードはM7.3であった。今回の東日本大震災のマグニチュードはM9.0であり、その差1.7より地震の放出エネルギーは、阪神・淡路大震災のときの放出エネルギーの約350倍になるという(式2による)。

以前から南関東では、今日や明日を含めて、今後30年以内にマグニチュード7クラスの大地震が70%の確率で発生すると予測されていた1。今回の想定外と言われるM9の巨大地震により、南関東で予測された地震の規模を含めてその発生確率や地域は変化するのだろうか。
                                                    (1土井恵治著『地震のすべてがわかる本』)

首都圏が直下型地震に見舞われた場合、日本の機能はそれこそ想定できない混乱がおこることだろう。大阪府の橋本知事は、首都機能を分ける大阪都構想を提唱している。詳細は知らないが、東京一極集中を見直しリスクを分散することは必要なことである。

 

今回の地震で本棚から本が落ち、棚扉が開いて中に入っていたものが飛び出てしまった。泥縄(どろなわ)ではあるが次のような対策をおこなった。

 両面開き扉の開放防止金具 扉を開けたところ 
   
片面開き扉のチェーンによる開放防止   チェーンを利用した本の飛び出し防止
   


参考1. 気象庁の震度階級(これは5年ごとに見直される)

震度

階級

人の体感・行動   屋内の状況  屋外の状況
 0 人は揺れを感じないが、地震計には記録される。              ―
 1 屋内で静かにしている人の中には、揺れをわずかに感じる人がいる              ―
 2 屋内で静かにしている人の大半が、揺れを感じる。眠っている人の中には、目を覚ます人もいる。  電灯などのつり下げ物が、わずかに揺れる。       ―
 3 屋内にいるほとんどの人が、揺れを感じる。歩いている人の中には、揺れを感じる人もいる。眠っている人の大半が、目を覚ます。  棚にある食器類が音を立てることがある。 電線が少し揺れる。
 4 ほとんどの人が驚く。歩いている人のほとんどが、揺れを感じる。眠っている人のほとんどが、目を覚ます。 電灯などのつり下げ物は大きく揺れ、棚にある食器類は音を立てる。座りの悪い置物が、倒れることがある。 電線が大きく揺れる。自動車を運転していて、揺れに気付く人がいる。
 5 大半の人が、恐怖を覚え、物につかまりたいと感じる。  電灯などのつり下げ物は激しく揺れ、棚にある食器類、書棚の本が落ちることがある。座りの悪い置物の大半が倒れる。固定しない家具が移動することがあり、不安定なものは倒れることがある。 まれに窓ガラスが割れて落ちることがある。電柱が揺れるのがわかる。道路に被害が生じることがある。
 5 大半の人が、物につかまらないと歩くことが難しいなど、行動に支障を感じる。  棚にある食器類や書棚の本で、落ちるものが多くなる。テレビが台から落ちることがある。固定していない家具が倒れることがある。 窓ガラスが割れて落ちることがある。補強されていないブロック塀が崩れることがある。据付けが不十分な自動販売機が倒れることがある。自動車の運転が困難となり、停止する車もある。
6  立っていることが困難になる。  固定していない家具の大半が移動し、倒れるものもある。ドアが開かなくなることがある。 壁のタイルや窓ガラスが破損、落下することがある。
6 立っていることができず、はわないと動くことができない。揺れにほんろうされ、動くこともできず、飛ばされることもある。 固定していない家具のほとんどが移動し、倒れるものが多くなる。 壁のタイルや窓ガラスが破損、落下する建物が多くなる。補強されていないブロック塀のほとんどが崩れる。
 7 固定していない家具のほとんどが移動したり倒れたりし、飛ぶこともある。 壁のタイルや窓ガラスが波損、落下する建物がさらに多くなる。補強されているブロック塀も破損するものがある。


参考2. 地震のエネルギー

マグニチュードMとそのエネルギーE(ジュール)との関係式

LogE=4.81.5M・・・式1

【表 1】

   0.5
   3.5×105  2×106  6×107  2×109  6×1010  2×1012


マグニチュードM1とM2の差に対して、エネルギーが何倍になるかの式は、式1より次式が求められる。

1/E2101.5(M1-2) ・・・式2(ただしE1>E2、M1>M2


【表 2

 マグネチュードの差M-M2  0.5
エネルギーの差   5.6  32  1000  31622  106


参 考

清水香著『こんな時、あなたの保険はおりるのか』ダイヤモンド社

木村政昭監修『なぜ起こる?巨大地震のメカニズム』株式会社技術評論社
1土井恵治著『地震のすべてがわかる本』成美堂出版

勝又護著『地震発生のしくみ』成美堂出版


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