雑録2011.5.31 原発とCO2 | ||||||||||||||||||
福島第一原発事故から2カ月半が過ぎたが、いまだ予断を許さない深刻な状況である。
これまで大きな地震があった場合など、安全装置が働き原子炉が自働停止し、放射能事故が回避されたことをメディアはよく報じていた。 私は原子炉が停止さえすれば、一件落着だと思っていた。福島第一原発には6基の原子炉が設置されている。3月11日の震災日には1号機から3号機が稼働中であり、残りの4号機から6号機は点検停止中であった。稼働中の1号機から3号機は、地震直後に自働停止した。しかし水素爆発を起こし制御不能におちいった。停止中の4号機も水素爆発が起きた。これはどういうことなのだろう。 “自働停止”とは、単に制御棒が挿入され核分裂連鎖反応が停止することをいう。そして核分裂連鎖反応が停止しても、核分裂連鎖反応時よりも格段に小さいが、それまでの核分裂反応で生じた放射性元素が自己崩壊し、崩壊熱を半永久的に放出し続けるという。 広瀬隆著『福島原発メルトダウン』には、電気出力100万kWの原子炉が自動停止し、核分裂連鎖反応停止後の、崩壊熱の温度変化をグラフで示している(図1)。1日後でも1万5560kWの熱を出している。1kWの電気ストーブ1万5560台分である。
燃料の入った圧力容器は、厚さ16センチの鋼鉄製容器でできている。さらにそのまわりには厚さ3センチの鋼鉄製の格納容器で囲まれており、二重構造の閉空間を形成している中に、燃料が置かれている。そのため核分裂連鎖反応が停止したとしても、熱の逃げ場がなく、水でどんどん冷やさないと高熱になり、数千度にも達するというが、想像するのは難しくはない(図2)。
フリー百科事典ウィキペディアによると、安全な状態の冷温停止(100℃未満)になるには通常約1週間、冷却し続けなければならないと書いてある。今回、この水を循環するポンプの電源がすべてなくなり、炉心溶融が始まり、水素爆発が起きたという。 先日、話題になっている映画「100000年後の安全」を見た(監督・脚本:マイケル・マドセン)。 これは、フィンランドの高レベル放射性廃棄物(使用済み核燃料など)の地下貯蔵所の建設の様子を描いたドキュメンタリー映画である。フィンランドは現在5基目の原子力発電所を建設中であり、電力の三分の一を原子力発電が占めている。 映画館でもらった資料には、フィンランドは旧ソ連から国土を占領されたり奪われたりしている歴史があり、ロシアへの恐怖がトラウマとして潜在的にある。そのロシアに電力や天然ガスを依存している。エネルギー源を確保することは、ロシアのクビキから解放され、フィンランドにとって最大の安全保障になると書いてある。 原子力発電のネックのひとつは、高レベル放射性廃棄物の最終処分の問題である。フィンランドでは、この高レベル放射性廃棄物を地下に閉じ込める世界初の施設を2004年から建設をはじめ、2020年の完成をめざしている。場所は、首都のヘルシンキから240kmにあるオルキルト島。地下500メートルの地層に横たわる18億年前の頑強な岩盤を削って、何キロにも連なる巨大な貯蔵所を造っている。映画はその建設現場にカメラを入れ、記録に残すことも目的の一つとしている。完成する2020年から100年分の廃棄物を貯蔵したのち、貯蔵所は封鎖する。その封鎖期間は、放射性廃棄物が生命にとって無害になる10万年間だという。 旧人のネアンデルタール人と、現代人につながる新人が共存していた時代から3万年しかたっていないとう説を読んだ。また造られてから5000年も経ていないピラミッドでさえも、その造られた本当の意義は忘れられ、想像するばかりである。映画の中で、10万年もの間、この危険な場所に立ち入れないようにするには、どうすべきかが話されていた。 監督は、「地球は6万年ごとに大氷河期に襲われています。その時にすべての人類の記録が失われてしまいます。その後の断絶した世代と文字とか記録とかで私たちは交流できるのだろうか。出来ないのではないか」と疑問を投げかけている。 映画から、我々は原発からエネルギーを得る代わりに、高レベル放射性廃棄物という取り扱いの難しい、とてつもない副産物を造り出していることが伝わってくる。 日本では、高レベル放射性廃棄物が蓄積され続け、いまだそれをどうするのかは未解決である。そして日本の原子力発電は“トイレの無いマンション”だと 原子力発電では、発生する熱エネルギーの三分の一が電気に変えられ、残りの三分の二が熱として放出されるという(図2)。 広瀬隆著「原子炉時限爆弾」には次のように記述している。 <<実に勿体ないことだが、電気にならなかった熱は、図の右側にある復水器と呼ばれる熱交換器で、引きこんだ海水に熱を与えて、すべて捨てているのだ。浜岡5号では276万キロワットという膨大な熱量を熱水として捨てている。これが温排水と呼ばれて、日本全土の海を加熱し続け、同時に沿岸の生物を根絶やしにしている。そもそもこのように重大な欠陥を持つ装置が日本全土で54基、4911万キロワットもある。したがってその排熱すべてを合計すると二倍のほぼ1億キロワット、つまり毎日、広島原爆の100発分の熱を海に捨てている発電所が原発だ。こんなものが地球温暖化防止であるとか、環境保護の切り札になるはずがないのだが、・・・>> と断じている。 炭酸ガス(CO2) 原子力発電を推進する大きな理由の一つが、原子力発電は炭酸ガス(CO2)を発生せず、炭酸ガスによる地球温暖化防止に貢献しているということであった。しかし、この炭酸ガスと地球温暖化の因果関係には、大きな疑問が出始めた。 大洪水や干ばつ、暖冬といった世界的な異常現象を契機に、国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)が共催する国際機関ICPP(気候変動に関する政府間パネル)が1988年に設立された。これまで4回にわたり報告書を出している。赤祖父俊一著『正しく知る地球温暖化』によると次のような内容である。 1990年の第一次評価報告書では、自然現象として温室効果が存在すること、そして人類活動による炭酸ガスの放出は、その温室効果を増加させ、自然現象の温室効果による温度上昇を増し、2100年に気温上昇は1〜3℃程度であるとしている。 その報告書には、過去1000年間の地球気温の変化を載せている(図3)
2001年の第三次評価報告書では、1990年の第一次、1995年の第二次の報告書とは異なり、その形からホッケー・スティックと呼ばれる、気温変化の図を載せ(図4)、地球気温が1900年頃から急上昇しているように見える印象を強調している。1998年に起きた高温は人類活動による炭酸ガスの放出のためとし、また、2100年における気温上昇は1.4〜5.8℃としている。さらに、地球温暖化研究の進歩により気温上昇の推定が正確になったとしている。
この報告書に対して、気候の研究者・専門家が相次いで異議を唱えている。 先の『正しく知る地球温暖化』の著者、赤祖父俊一氏もその一人である。赤祖父俊一氏は、13年間(1986〜1999年)にわたって米国唯一の総合的北極圏研究の拠点であるアラスカ大学地球物理研究所の所長として、地球温暖化問題や北極圏の地球科学全般にわたり研究を続けてきた人である。 この中で、地球の気候変動に関する研究は始まったばかりである。地球は気候の大変動を繰り返してきたがその原因には諸説あり、断定できる段階ではない。原因は不明としているが、炭酸ガスを原因とする温暖化論には反証をあげている。例えば <<IPCCの研究によると、地球の温暖化は1900年頃突然温暖化に転じたというものである。それを示す図がアイス・ホッケーで使われる棒の形に似ているのでホッケー・スティックというあだ名がついている(図4)。ホッケー・スティックには、大体1400〜1800年頃まで地球が経験した寒冷期である「小氷河期」が示されていない。(略)現在の温暖化は炭酸ガスが急激に増加し始めた1946年頃に始まったものではない。温暖化は1800年前後から現在まで連続的に進行しているのである。IPCCは彼らの政治目的のため、小氷河期を軽視または無視した。>>さらに <<過去1000年間の気候変動をとってみても、現在ほど暖かかったとされる中世期の温暖化(約1000年前)、1400年頃から始まった寒冷化(図5)、さらに最も最近の1910年頃〜1940年に起きた温暖化(現在の温暖化量とその率と同程度であった)、そして1940〜1975年まで続いた寒冷化(図6)などがあったが、その原因はわかっておらず、充分な見解に至っていない。1910〜1940年の期間に起きた温暖化は炭酸ガスの放出が急激に増加し始める以前の現象なので、自然変動による可能性が高い。それさえ究明されていないのに、1975年からの温暖化を炭酸ガスによると結論するのでは早計ではないか。>>と書いている。
<<地球温暖化問題はまだこの学問の初期段階であり、国際政治、政策にかんする段階ではないことを強調するためである。こんな若い学問に振り回され、しかも何一つ合意に達することができず、時間とエネルギーを費やす会議を重ねている各国の官僚に一日も早く目を覚ましてほしいものである。 もう一つの理由は、地球温暖化問題を日本を離れて国際的観点から眺めてみると、政官民一体となって「地球温暖化問題」を騒ぎ立てているのは日本だけではないかと思われるからである。祖国日本国民の皆さんに目を覚ましていただきたいために不遜ながらあえて極限することを許していただければ、日本の現在の状態は「米国前副大統領アル・ゴアを救世主として温暖化狂想曲で踊っており、報道はその調子を鼓舞して太鼓を叩いている」とでも表現しようがない。>> とまで述べている。(太字は原文のママ) この本の出版からほぼ1年後の2009年11月に、米国ニクソン大統領が辞任する原因となったウォーターゲート事件とクライメート(気候)をもじって、「クライメートゲート事件」と呼ばれることになった、スキャンダルが発覚した。この事件を雑誌『化学』で、東京大学生産技術研究所・渡辺正教授が『 世界の気象データは、おもに米国海洋大気圏局の国立気象データセンター(NCDC)と世界歴史気候学ネットワーク(GNCN)、英国気象庁・ハドレー気候変動研究所(Had)が収集する。その元データを、英国ではイーストアングリア大学(UEA)の気候研究所(CRU)、米国では航空宇宙局(NASA)のゴダード宇宙研究所(GISS)が解析して公表する。イーストアングリア大学(UEA)・気候研究所(CRU)とゴダード宇宙研究所(GISS)は、「地球の気温はどう変わってきたか」につき、世界で双璧をなす情報発信源である。国際機関ICPP(気候変動に関する政府間パネル)は、CRUやGISSの情報を使い、第三次(2001年)と第四次(2007年)の報告書で、20世紀後半から人為起源CO2が世界の気温をかってない勢いで上げたと、ほぼ断じてきた。 イーストアングリア大学(UEA)・気候研究所(CRU)のジョーンズ所長は、IPCC報告書の内容を決める有力者の1人である。2009年11月17日、そのCRUのサーバーから、電子メール1073通と、コード(演算プログラム)を含む3845点のファイルが流出した。 それには「気候科学が大問題となった今、もう隠してはおけない。・・・通信文と計算コード、文書の一部を公開する。気候科学の実態と、背後にいる人物の素顔を見抜く一助になろう」との告発文も付いていた。(いまや流出メール注1も関連文書注2もネット上で読める) メールの日付は1996年3月7日〜2009年11月12日に及ぶ。実行者は不明であるが、イーストアングリア大学(UEA)当局は、流出情報が本物だと確認したという。 渡辺教授が流出ファイルからメールを取り出し、その解説をしている一部を示す。 1.温暖化説に合わせ気温データを改ざん ★1999年9月22日のブリファーのメールには、「今の気温が史上最高だという美しい話にしたい、それなら政治家もわかる」と書かれ、温暖化説の「人為性」を疑われることになった。 ★1999年11月16日のジョーンズからマン宛に、「マンのNature論文と同じトリックを使い、温度計データと年輪からの推定気温データをうまくつなげて、後者の低下傾向を隠した」と取れるメールを送っている。 これは、温度計のない時代の温度は、年輪や氷床コアからの推定値(代替指標データ)を使う。温度計データと代替指標の推定気温データのつなぎ目を意図的に変更して、ホッケー・スティックを作ったということだろうと解釈している。さらに、流出した計算コードには、代替指標の推定気温データがホッケー・スティックの形になるように補正されていた(1998年9月7日のメール)。 2.情報の秘匿・破壊 ★マンが提出した最初のホッケー・スティックは、カナダのマッキンタイヤー、とマッキトリックが論破した。両名はCRUが出した新たなホッケー・スティックも疑い、ジョーンズに元データの開示を要求する。 2005年2月2日にジョーンズがマン宛てに、「数年来、MとMがうちのデータを要求中。イギリスに情報公開法があるのを連中が嗅ぎつけたら、ファイルは渡さずに消去する」とメールを送る。 2008年春にはメールも情報公開法の対象になる。 5月28日にジョーンズはマンやブリファーなどの幹部連に「IPCC第四次報告がらみの交信メールは消せ」と指令を送る。 ★2005年には、気温の元データを請求したオーストラリアの研究者ヒューズに、「この仕事をわれわれは25年もやってきた。アラ探し目当ての人間にデータを見せるつもりはない」と返答した。 3.温暖化懐疑派の排除工作の一端 ★2003年3月11日のマンからジョーンズへのメールには、懐疑派の論文を載せたClimate Research誌について、「あれはもう『査読つき論文誌』ではない、ボイコットと引用中止を仲間に指示しよう。編集長シュトルヒは排除すべし」と送る。さらに、2009年8月5日に同誌の査読者を仲間9人で固めようとの提案をするメールを送る。 ★2004年7月8日のメールでジョーンズは、「懐疑派の査読つき論文(現在およそ500編)をIPCC報告書に採用しないように提案」。 ★2005年1月20日のCRUの元所長ウィリーからマン宛てのメールで、Geophysical Research Letter誌が懐疑派の論文を載せたからと「編集長セイアーズは、懐疑派だとわかったから、地球物理学連合の理事会に手を回して奴を排除しよう」と送る。ほどなくセイアーズは編集長を辞めた。 なお上記のメールに出てくる、ブリファーやマン・ウィリーは、ジョーンズとともに炭酸ガスによる地球温暖化説を推進したグループである。 インターネットで、米国在住 H.M博士と署名があり、2009年12月5日付けで「科学史上最悪のスキャンダル」と題した文章を見つけた。事件について詳しく書いている。その最後は次の文章で締めくくられていた。 <<地球温暖化とは、一部の科学者が研究費を取るため“二酸化炭素で地球が温暖化している”と言い出し、環境団体や原発推進派が乗っかり、マスコミが恐怖を 『人間が排出した二酸化炭素による地球温暖化は科学的根拠に乏しい』 アメリカでは“Oregon Petition”に3万人を超す科学者が署名していますし、私も同僚たちと共にサインしました。 “王様は裸だ!” そろそろ叫ぶ時ではないでしょうか。>> 私も、これが真相に近いのではないかと思う。 炭酸ガスの排出量取引をしても、炭酸ガスの全体量は減らないのである。 参 考 広瀬隆著『広島原発メルトダウン』朝日新書 広瀬隆著『原子炉時限爆弾』ダイヤモンド社 広瀬隆著『二酸化炭素温暖化説の崩壊』集英社新書 赤祖父俊一著『正しく知る地球温暖化』誠文堂新光社 近藤邦明著『温暖化は憂うべきことだろうか』不知火書房 武田邦彦著『温暖化謀略論』ビジネス社 スティーブン・モンシャー+トマス・フラー著 渡辺正訳『地球温暖化スキャンダル 2009年秋クライメートゲート事件の激震』日本評論社 渡辺正著『Climategate事件 地球温暖化の捏造疑惑』化学Vol.65 No.3(2010) 渡辺正著『続・Climategate事件 崩れゆくIPCCの温暖化神話』化学Vol.65 No.5(2010) |
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