雑録2012.10.3 犬
 

8月に入ってから1カ月強、親戚から犬を預かっていた。犬を飼ったのは50年ぶりのことである。預かった犬の種類はヨークシャーテリアで、名前は“銀次郎”。頭からしっぽの根元までの身長は約48センチ、体重は5.1キロ、2歳に満たない。ヨークシャーテリアとしては大きいようで、息子がトリミング(散髪)につれて行ったら、500円の割り増し料金をとられたと言っていた。

  銀次郎

強い日差しを避けて、朝と夕方散歩に連れて行く。私は夕方、ウォーキングを兼ねて毎日のように連れて歩いた。自宅から歩いて30分ほどのところに新宿中央公園と代々木公園がある。どちらかに連れて行ったが、代々木公園のほうが犬の散歩には適している。代々木公園には、犬の体重に応じて3つのドッグランエリアが設けられている。ここで遊ばせたかったが、あらかじめ登録しなければならない。登録には、区市町村の畜犬登録(鑑札)と狂犬予防注射済証が必要でありあきらめた。代々木公園には広大な芝生や林、サイクリングコース・ジョギングコースもある。公園内はリードさえつなげば自由に犬の散歩ができる。8メートルまで自由に伸縮ができ、ストッパーのついたリードを買ってきた。公園ではリードの長さいっぱいに走り行き、走り戻り、樹木などを自由に選んでマーキングに励む。こちらも楽である。

 

この銀次郎、小型犬のわりにはグイグイ引っ張って歩く。前を歩きながら、時たま私の顔を(うかが)うように振り向く仕草をする。電柱、街路樹、万年塀、草むらにはすべてと形容したくなるほど、片足をあげてマーキングをしていく。場所によっては、地面すれすれに鼻をこすりつけるようにして歩き、あるいはほかの犬がマーキングをしたと思われる電柱などには、30秒も50秒も(にお)いを()ぎ続け、ガンとして動かない。とてもスマートとはいえない。しかし、片足を180度ちかくあげ、その体勢を保ちながらマーキングをする姿に、その体の柔軟さがうらやましくもあり、またフィギュアースケートで片足をあげているのに似ていて思い出させる。

良く見ると、途中からはマーキング体勢はとるが一滴も出していない。マーキング体勢をとりながらフンをすることもある。自分のしたオシッコの臭いは()ぐが、ビニール袋にあつめたフンを鼻先にもっていくと、なんだこれはといった仕草で顔をそむけた。

何回くらいマーキングをするのだろうと思い、2回ほどカウンターを持参して回数を数えた。

1回目は、2時間の散歩で143回。この時の私の歩数は、歩数計が8665歩を示す。

2回目は、1時間40分の散歩で149回。歩数は8969歩。

タンクも空になり、オシッコも出なくなるはずである。

マーキングをしたあと、ときに気まぐれに土をかけるマネごとをする。かける方向はいい加減である。土ぼこりが私の顔にかかったこともある。その点、自宅で飼っているネコは、このオシッコやフンをした後、ネコ砂を丁寧に盛り上げて隠し、臭いを嗅ぎそしてまた盛り上げて隠すことを、時間をかけて繰り返す。

道路や公園内で犬を見つけると猛烈な勢いで寄っていく。銀次郎はほかの犬に対しては友好的である。ある時、銀次郎より一回り小さい犬に出会った。おたがいにお尻の臭いを嗅ぎまわっていたが、そのうち相手の犬は仰向けになった。女性の飼い主は、さかんに「起きて、起きて」と言いながら、困った顔をしていた。

また、同じくらいの大きさの犬に合った時、たがいにお尻を嗅ぎまわってから、相手の犬が急に吠えだし飛びかかってきたこともある。同性としての闘争心が湧いたのかもしれない。

大型犬にもよくあったが、どの大型犬もしつけが良いのか? 向っていく銀次郎を一瞥(いちべつ)するだけで関心を示さなかった。

 

夕方の散歩時間になると、格子のガラス戸をガタガタ()らし()える。近づくとガラス越しに眼をジーとみつめ、早く散歩に連れて行けとせかす。伸縮できるリードを手にするだけで、ガラス戸を更に()らし、戸を開けると飛びついてきて喜ぶ。歩数計、LED電灯、ペットボトルを首から下げ、更に犬のフンを始末するビニール袋や給水用セットがはいったショルダーバックも下げ、手足に防虫剤を塗りたくり連れて行く。

妻は2時間近くの散歩はやり過ぎだという。しかし銀次郎は最後まで私を引っ張って歩く。そして自宅に戻ると、エサをがつがつとむさぼり食う。

 

家には野良(のら)出身の“アド”という名の7歳になるオス猫がいる。身長は銀次郎と変わらないが、体格は一回り以上大きい。階段をさかいに、上階の部屋にはアドを下階の部屋には銀次郎と分けていた。この1ヶ月間、アドは神経質になっていた。しかし興味は抑えられないと見え、ときたま下の階に下りて行っては、銀次郎を見たのか、脱兎(だっと)のごとく階段を駆けもどり、部屋のすみに隠れることをしていた。

地震があったときの反応が面白い。アドはさっさとどこかに隠れ出てこない。銀次郎は吠え続けて知らせる? 地震には銀次郎のほうが役立ちそうだ?

 

ネコのアドは妻以外なつかず、私が1メートルも近づくと、逃げるかシャーと威嚇(いかく)する。しかし、どういうわけか私の脱いだシャツやナップザックには、体を押しつけるようにして鼻をこすりつけ時間臭いを嗅いでいる。

ネコも犬も家の中でじゃれるか、寝ているだけだが、気になる存在となっている。


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