雑録2014.6.1 サプリメント 

サプリメントの広告が、ここ何年か、多くの時間帯と多くのチャンネルで放映されるようになったと感じる。サプリメントは効能を(うた)ないため、どのサプリメントの広告も、画面のすみに一様に「これは個人の感想であって、効能を(うた)うものではありません」と表示されてはいる。しかし広告を見ていると、サプリメントを飲めばひざ痛が(なお)り起こらなくなり、肌がきれいになり、血圧やコレステロールが下がり、目の疲れがとれ、体重まで減量ができるような錯覚をさせる。さらに必要な栄養素を食事から摂るには、大量に食す必要があるが、サプリメントはこれを補うなど、サプリメントを飲まなければ健康を害する気持ちにさせる。

サプリメント市場は、今や2兆円規模1ともいわれる巨大産業であるという。(注1は、田村忠司著『サプリメントの正体』1より)

 

サプリメントとは

独立行政法人「国立健康・栄養研究所」のホームページには、サプリメントについて次のように書いている。

<< ほとんどの人が知っている健康食品やサプリメントという言葉ですが、実はその用語に行政的な定義がありません。一般に、健康食品とは「健康の保持増進に資する食品全般」が、またサプリメントとは「特定成分が濃縮された錠剤やカプセル形態の製品」がそれに該当すると考えられています。しかし、明確な定義がないため一般の消費者が認識している健康食品やサプリメントは、通常の食材から、菓子や飲料、医薬品と類似した錠剤・カプセルまで極めて多岐にわたります。>>

同上のホームページには、「保健効果や健康効果を期待させる製品」として、サプリメントを含む分類を載せている。このなかで大きく二つに分け、:国が制度を創設して表示を許可しているものと、B:A以外のもの(いわゆる健康食品と呼ばれているもの)を掲載している。サプリメントは、B分類に入っている。表1にそれを示す。

 1.健康効果や健康効果を期待される製品
 独立行政法人「国立健康・栄養研究所」のホームページ:行政機関発行のパンフレット集より

  

サプリメントは玉石混淆

サプリメント業界やサプリメントは玉石混淆(ぎょくせきこんこう)の世界のようだ。田村忠司著『サプリメントの正体』2では、次のように(しる)している。

<< ビタミンCを例にとってご説明しましょう。今、サプリメント原料の多くが中国製です。ビタミンC95%が中国製です。かっては日本製もあったのですが、今は作られていません。

中国製のビタミンCだから信頼できないというわけでは決してありません。中国にもしっかりした設備と管理体制でビタミンCを製造する工場はあり、医薬品のビタミン剤の原料などとして使われています。

ただし、一方では品質レベルの低い工場で製造されたであろうビタミンCも存在します。もちろん、信頼できるサプライヤーのビタミンCとそうでないものとでは、価格が全く違います。同じビタミンCの原料でも、sあたり数百円で手に入るものから、30万円するものまであるのです。

そうした状況を知ってしまうと、安い価格のビタミンCのサプリメントは、怖くてとても手が出せません。>>

さらに、テレビ通販による信じられない話も載せている。

<< テレビ通販は、原価構造も驚きです。これは私が関係者の方から聞いた話なので、すべてのテレビ通販でこうなっているというわけではないでしょうが、製品の売上のうち、テレビ局が6割を取り、さらにその番組を企画した企画会社が残りの半分を持っていきます。

たとえば1万円のサプリメントであれば、6000円がテレビ局、その残り4000円の半分の2000円が企画会社の取り分です。残り、つまりメーカーの取り分は2000円となります。となると、原価はいくらかけられるでしょうか。

さらに、大々的に番組を放送して、いざ電話してみたら「品切れ」ではこまるというので「欠品は絶対にNG」ということが多く、「最低でも一万本は用意してください」などとおおきなロット数を要求されます。しかも売れ残った分はメーカー持ちです。

そうなると、メーカーとしては、たとえ売れ残っても赤字にならないように原価をおとすしかありません。こんな条件では、1万円の商品価格に対して、原価は数百円しかかけられないでしょう。>>

 

私の周辺にもサプリメントを飲んでいるおかげで、体調が良くなったという人もいる。私に関していえば、以前、妻にすすめられて某メーカーの「黒酢ニンニク」の入ったカプセルを飲んだことがある。飲み始めてしばらくすると、軟便が続いてしまった。黒酢ニンニクの刺激が強すぎたのか? 効果が良すぎたのか? それ以来、サプリメントは飲んではいない。

医薬品の効能検査では、偽薬(プラセボ)を使った治験法がある。被験者を二つのグループに分ける。一つのグループには本物の薬を、他のグループには色・形・臭いを似せた偽薬(プラセボ)を与える。時には担当医にも知らせずに行う(これを二重盲検法という)。するとどんな薬でも302くらいは偽薬でも症状が改善するという。これはプラセボ効果といわれる。(注2は、山本啓一著『グルコサミンはひざに効かない』3より)

サプリメントのプラセボ効果については、先の『サプリメントの正体』で次のように(しる)している。

<< 確かにプラセボ効果というのはあります。被験者を二つのグループに分けて、両方ともデンプンのプラセボ(偽薬)を渡し、一つのグループには「これは1カ月3万円分のサプリメントです」と告げ、もう一つのグループには「これは1カ月1000円分のものです」といって飲ませます。すると3万円と伝えた方に、明らかに健康増進効果があったそうです。

その理屈でいけば、高いものの方が、効果がでやすいともいえます。>>

価格が高ければ高いほど、効果が大きいだろうと勝手に思い込む。なんとなくわかるような気がして他人事とは思えない。最近見たサプリメントの錠剤は、光沢があり、透明感があり、いかにも効果のありそうなにおいと形状であった。「このサプリメントはよく効いたよ」、と断言的に言われれば、見た目や匂いの感覚だけで効きそうな感じがした。

 

サプリメントの効果

カプセル内視鏡といわれるものが、最近、保険適用されるようになったという。このカプセル内視鏡は、口から飲み込んで、肛門から排出されるまでに、小腸や大腸の内部を撮影しながら送信する。このように、口から肛門まで続く消化管は、体内を通っているが、何の仕切りもなく、その内腔は外界と同じ環境にあるともいえる。

この管を通って行くのは、食物ばかりではなく、人体にとって危険なものもふくまれる。これらの危険なものが管から体内に入らないようにしなければならない。このことについて山本啓一著『グルコサミンはひざに効かない』3には次のように述べている。

<< 咀嚼(そしゃく)され、唾液(だえき)と混ぜ合わされた食物は、胃に送られます。胃壁には塩酸を分泌する細胞があり、胃のなかはpH1という非常に強い酸性になっています。胃のなかが強酸性になっている理由は二つあり、その一つが殺菌です。()

食物中には、細菌や原生生物以外にもさまざまな毒素が含まれていることがあるので、消化管の細胞は、隙間をつくらないように隣の細胞と密着しています。このため、身体のなかに入ることのできる物質は、小さく分解され、消化管細胞の膜にある輸送体という特別なタンパク質によって選別されたものだけになるのです。>>

食べた物が体内に入るには、消化管細胞に吸収できるだけの大きさに分解される。例えば炭水化物(デンプン)やタンパク質、脂肪などの高分子は、強酸性の胃酸で変質されたのち消化管のなかで各種酵素によって、その構成成分であるブドウ糖やアミノ酸、グリセリン・脂肪酸などの低分子に分解され吸収される。

関節を(なめ)らかに動かす軟骨成分の主要成分であるグルコサミンやコンドロイチン(正式名はコンドロイチン硫酸)、お肌をプリプリにすると宣伝しているコラーゲンやヒアルロン酸などのサプリメントを飲んでも、これらは高分子であるため、これらの構成分子であるブドウ糖やアミノ酸などに分解されてから体内に吸収される。

このことを先の『グルコサミンはひざに効かない』には次のように記している。

<< 人間の身体は、食べたものがそのまま細胞などの一部になるようにはできていません。結論からいうと、グルコサミンやコンドロイチン硫酸を毎日飲んでも関節の動きが滑らかになったり、痛みがなくなったりはしません。

2012年の米国リウマチ学会でも、グルコサミンに膝関節症の発症を予防する効果はないと報告されています。グルコサミンを毎日摂取したグループと摂取しないグループとで発症状態を調べたところ、両者に差は見られなかったそうです。

そもそもグルコサミンが「医薬品」ではなく、「栄養補助食品」に分類されていることからも、医療効果はないということがわかります。では、グルコサミンはどんな役目をもつ成分なのか。その名のとおりグルコース(ブドウ糖)にアミン(アミノ基)がついたもので、ブドウ糖とほぼ同じカロリーがあるので、カロリー源であるブドウ糖が足りなかったときに、その補助になるといった程度のものなのです。

訴訟王国アメリカでは、グルコサミンの医療効果をはっきり書いた企業の一つが訴えられて200万ドルを支払わされました。そのほかの企業に対しても同様な訴訟が起こされ係争中だそうです。

とりわけ問題なのは、グルコサミンの()り薬です。関節の上から()っても吸収されるはずがないのですが、あたかもグルコサミンがしみ込んで関節を温め、痛みを和らげるかのように宣伝しています。塗り薬にホカホカ効果があるのは、グルコサミンではなく、一緒に入っている唐辛子(とうがらし)の成分であるカプサイシンによるものなのです。>>

さらに、動物実験では、(えさ)にコラーゲンを大量に混ぜても皮膚のコラーゲン量は増えないという実験結果が出ているという。

なおコラーゲンは、(けん)靭帯(じんたい)に多く含まれていて引っ張る力が強い性質をもったタンパク質である。このコラーゲンが、仮にサプリメントによって皮膚に多くなったとすると、プルプルになるどころか、足の裏のようなゴワゴワの皮膚になるそうである。

 

(しん)始皇帝(しこうてい)は不老不死の薬の製造を命じた。しかし、その薬は辰砂(しんしゃ)(水銀)も原料としたため、死期を早めたと言い伝えられている。薬効も不明、さらに質の悪い原料を使ったサプリメントのために、かえって老化や死期が速まる可能性が無いとは言えないのではないか。

半世紀近く前に見た雑誌であるが、それに載せられた風刺画(ふうしが)を思い出す。首から下は(しわ)だらけでおっぱいは垂れ下がり、背中は曲がり(つえ)をついているまったくの老婆である。しかし顔だけは高価な化粧品の使用により若々しく描かれている。そのアンバランスな強烈な印象は今でも忘れない。人は誰でも老い、そして死んでゆく。外面にばかりにとらわれ飾るよりも、内面(精神面)を磨き豊かにして若さを保ちたいものである。

 

 

参 考

独立行政法人「国立健康・栄養研究所」のホームページ https://hfnet.nih.go.jp/ 1

山本啓一著『グルコサミンはひざに効かない』PHP新書2

田村忠司著『サプリメントの正体』東洋経済新報社3

 
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