雑録2016.10.16 『2020年 マンション大崩壊』を読んで

自宅(渋谷区代々木)の周辺で犬を散歩に連れて歩くと、一戸建てだった住宅が、3階や4階それ以上の階数の共同住宅に建て替えられ、建築中の共同住宅があり、更地にした土地に共同住宅の建築を知らせる「建築確認」の表示看板が立てられているのが、最近特に目立つ。家のまわりだけでも10軒以上はあるだろう。こんなに共同住宅ばかりが増えて、入居者はいるのだろうかと他人事(ひとごと)ながら気になる。

2015年(H27)相続税の基礎控除が大きく減額されたことと、戸建てを賃貸併用住宅にかえると相続税の節税が図れることが大いに関係しているという。また、折からの超低金利に加え、有力な貸出先が少ないため資金がダブつき、大家の資金調達が容易になっていることも背景にある。

 

2016811日の朝日新聞に、「家賃保証」トラブル多発の記事が一面に大きく掲載されていた。土地の所有者が建てたアパートなどを業者が一括で借り上げ、入居者に借し出すサブリースといわれる契約である。

記事では何件かの事例を取り上げていたが、その中の一つの事例である。

<< 大家の女性(66)は14年前、大手賃貸住宅管理会社の営業マンに勧誘された。

30年の一括借り上げ保証です」と繰り返しアピールされたが、「家賃は下がる」との説明はなかった。女性は「家賃は30年変わらない」と思いこんだ。相続税対策も兼ね、銀行から1億円借入れ、2棟を建てた。

当初の家賃収入は毎月約126万円。しかし、8年が過ぎたころから「周辺物件の家賃より高い」などと値下げを2回求められ、今は約106万円。契約書を見直すと、「状況に応じて家賃変更を協議する」といった趣旨の記載があった。女性は「あまりにも知識不足で、業者の言うがままに従ってしまった。更に減額されるとローンが返せず、アパートを手放さざるを得ない」と嘆く。>>

 

住宅メーカーのX社は、新聞の全面広告で、相続税対策を兼ねて30年一括借り上げによる家賃保証を(うた)い、建て替えることをすすめている。よく読むと、2年ごとの家賃の更新や築15年を目安としたX社によるメンテナンスを前提としている。

 

総務省は5年ごとに「住宅・土地統計調査」を公表している。

最近読んだ牧野知弘著『2020年マンション大崩壊』では、この「平成25年住宅・土地統計調査」をもとに次のように記載している。

<< 総務省が発表した「住宅・土地統計調査」によれば、2013101日における日本の総住宅数は6063万戸。その時点における日本の人口が12729万人。日本の国民約2.1人に1戸の住宅が存在することになります。

日本の人口は減少に転じており、2013年(H25)で前年同時期に比べて217000人も減少しています。単純計算でも年間で約10万戸近くの住宅が不要となる勢いです。

ところが、日本ではあらたに毎年約100万戸近くの新築住宅が着工されています。人口が毎年200万人増加する国であれば、増加する人口のために年間100万戸の新しい住宅供給が必要だというロジックは成り立ちますが、この状態では空き家が増加するいっぽうなのは誰が見ても明らかです。>

 

また、『週間朝日』1014日号では、あと17年で3軒に1件が空き家に! の副題で「実家の持ち家が、ヤバイ=vという記事を掲載している。

この記事には、総住宅数・空家数と空家率を、先の総務省「平成25年 住宅・土地統計調査」が出した2013年(H25)までの実測値と、野村総合研究所による2033H45)年までの予測値をグラフとして示している。

2013年(H25)では実測値として、総住宅数6063万戸、空家数820万戸、空家率13.5%。2023年(H35)の予測値として住宅総数6646万戸、空家数1404万戸、空家率21.1%。2033年(H45)には総住宅数7126万戸、空家数2167万戸、空家率30.4%と予測値を出している。

7年後の2023年には10軒に2軒が空き家になり、13年後の2033年には10軒に3軒が空き家になる計算である。

上記の数値は、全国を(なら)した値である。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者の仲間入りをする2024年以降、首都圏郊外でも多くの家が「空家」になり社会問題化する恐れが高い。

実家のある世田谷でも、空き家であると思われる一軒家が、目立つようになったという。ただマンションの空家は一見してわからない。

 

分譲マンションの維持・管理

維持・管理を適切に行っている建物と行っていない建物では、その耐用年数(寿命)に差がでる。

我が家は軽量気泡コンクリート(ALC)製で築30年である。これまで外壁塗装を2回行っている。初回は塗装をするのが遅かったため、北側の一部の外壁面にカビが発生し、それが内壁部まで浸透していた。ALC結合部や窓サッシ周りのコーキングは、定期的に増し打ちか打ち替えをする必要があるのだが、それを知らず、また指摘もされなかったために、1回目の外壁塗装後何年かして、サッシ枠周辺の劣化したコーキング部から雨漏りを生じた。私の経験からも、定期的な維持・管理は欠かせないと思う。

分譲マンションの維持・管理に関しての問題点を先の『2020年 マンション大崩壊』の著者は、――老朽化マンションが抱える「スラム化の恐怖」――の章で次のように指摘している。

<< 建物の老朽化の進行とマンションの管理費・修繕積立金の滞納には、どういった関係が存在するのでしょうか。国土交通省が発表した「マンション総合調査」(2013年)によれば築年数が30年を超えるマンションとなると、管理費・修繕積立金を1年以上滞納している区分所有者が存在すると答えた管理組合の数は調査対象の23.5%、なんと4分の1にも達しています。

10年以下の組合ではその割合が8%です。築年数が20年を超えると、すでに滞納が3カ月以上の区分所有者数の4割にも及んでいることは、相当数の滞納が発生していることがうかがえます。これらのデータからも築年数と管理費・修繕積立金の滞納状況には相関関係があると考えられます。>>

管理費・修繕積立金の滞納が多いと、大規模修繕はもちろん小規模の修繕も難しくなる。築年数が多いほど、マンションの区分所有者の年齢や年収などの構成が変化する。分譲当時は、管理費・修繕積立金が払えた区分所有者も、年月を重ねるごとに、定年、リストラ、事業の失敗などで年収が減少し、管理費・修繕積立金を払えなくなる区分所有者が多くなる可能性が高まる。区分所有者の高齢化も進み、管理費・修繕積立金の負担がつらくなることも考えられる。

また、著者は次のような事例が増えていることをあげている。マンションを相続したが、住戸は痛みが激しく、賃貸するにしても相当額の費用がかかる。欲しくもなかった住戸を無理やり相続した相続人は、その相続した事実を管理組合に連絡せず、結果として管理費・修繕組立金が滞納となってしまう。仮に、管理組合が相続人を割り出しても、外国に住んでいたり、相続人が複数存在しているため思うように徴収できないケースも増えているという。

 

前述のデータ等は、近い将来、空家の増加とマンションのスラム化の加速が避けられないことを示している。先の『週間朝日』は、

<< 親が住んでいた実家や、苦心して買ったマイホームが家余りの時代に突入する。放置すれば、資産はリスクに変わり、倒壊や火災の恐れや、犯罪の温床にもなりかねない。>>

と警告している。

 

 

参考

牧野知弘著『2020年マンション大崩壊』文春新書

『週間朝日』20161014日号


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