雑録2005.12.14 耐震強度偽装
 

マンションやホテルの耐震強度偽装問題が、大きな社会問題になっている。ヒドイ話である。被害者には同情を禁じ得ない。今回、耐震強度偽装されたマンションやホテルは、テレビで見る限り、立派な外観をしており、エッ!こんなビルが強度不足なのかと、驚かされる。

 

自宅付近には、建築中のマンションやビルが多く見られる。現場に貼られている建築確認や施工者の表示を見ると、これらの中には、話題になっているイーホームズの名前が3件、日本ERIの名前が2件、確認済証交付者として書かれているのがあった。世田谷の実家近くの分譲マンションも、耐震強度偽装されていると報道されていた。これらの名前を身近で接すると、耐震強度偽装問題は人ごととは思えない。

 

住宅は、一生に一度あるかないかの買い物である。その買い物が運任せであったり、命にかかわる構造欠陥物であったのではたまらない。それだからこそ、国は建築にかかわる人には、専門的知識や技術のある者にのみ、その資格を与えている。ちなみに、“建築 土地 国家資格”でパソコン検索すると、建築士・測量士・各施工管理士・土地家屋調査士・不動産鑑定士など17種類の国家資格が出てくる。そのほかの公的資格を含めると更に多くなる。

 

特定行政庁の建築主事が行なってきた確認および検査業務が、1998年に建築基準法の改正により、民間の指定確認機関でも行えるようになった。この民間でも行うことが出来る制度変更に対して、議論はあるが、この制度が今回の強度偽装問題を明らかにした一因になったのだと思う。特定行政庁のみが確認および検査業務を独占していたならば、今回のような問題が起こった場合、いわゆる“隠蔽(いんぺい)”され、内々に処理されたかもしれない。

警察、検察の不正経理問題が、内部告発に近い形で出されたが、これらの捜査機関が否定すると、真相の解明が困難になるのが現状である。

今回の偽装問題が報道された時、以前読んだ本に書かれた、次の箇所を思い出した。

 

1999年に出版された「コンクリートが危ない」(岩波新書)の中で、著者 小林一輔氏(東京大学生産技術研究所教授を経て千葉工業大学教授)は、次のようなエピソードを書いている。

「十数年前に、ある生コン会社の技術者から聞いた話である。

試験体の強度があまりにも低かったので、驚いてゼネコンの担当者に連絡したところ、ゼネコンのほうでもあわてて発注官庁の出先機関に報告した。技術者はとうぜん、構造物のチェックが行われ、結果しだいでは相当なペナルティが課されることを覚悟していたらしい。ところが、発注官庁の出先機関担当者からの指示は、データの書き換えであった。

生コンの強度試験は、コンクリートが打ちこまれてから28日後におこなわれる。一ヶ月も工事が進行してから構造物のコンクリートの強度を調べた場合、結果によっては部分的な取り壊しという事態にも発展しかねない。責任はゼネコンにとどまらず、発注担当者にもおよぶのである。完工検査は書類審査によっておこなわれるので、書類さえ整っていれば、なにも問題はおこらない。たとえ、強度が設計基準の約二分の一であったとしても、大きい地震がおこらないかぎり、その影響があらわれるのは10年も先である。

発注官庁の担当者はほとんどが土木工学科の卒業生であるが、これらの人々は実質的には事務屋であって技術者ではないと考えれば、この行動は納得できるであろう」

 

さらに、小林氏が東大技術研究所で、その後の研究活動にはかり知れない影響を与え、コンクリート構造物の早期劣化に関する重要な知見を生み出すきっかけになった話を述べている。

1984年5月のある日、私が関係していた学会の専務理事から電話がかかってきた。『埼玉県下の公団分譲の団地で、建設後数年足らずのあいだに、建物の雨漏りやひび割れなどのトラブルが大規模に発生している。居住者は公団に補修を頼んでいるが、いっこうに改善される気配がなく、不安に駆られている。外部の専門家に調査を依頼したいので、誰か適当な人を紹介してほしいという。なんとかめんどうを見てもらえないか』というのである。『建物の調査だから、建築の先生にお願いするのが筋ではないか』と言ったところ、『何人かの先生にあたってみたが、どうも反応が思わしくないとのことだ』と言う。分譲者が日本住宅公団であり、しかも居住者のクレームにこたえて、そのつど補修などをおこなっていたのであれば、この依頼に応じることは、公団の技術陣、場合によってはその後ろ盾の建設省の技術陣を相手にまわす覚悟が必要となる。建築の先生方がしり込みするのもとうぜんのことと思われた」

 

なるほど、小林氏の経歴をみると、運輸省運輸技術研究所から東京大学生産技術研究所に入っている。建設省とは無関係である。

その後、「アルカリ骨材反応が原因である」との調査報告書を団地の管理組合に提出すると、公団は猛然と反発し、公団の調査役らの関係者が、勤務する東大生産研に押しかけてきて、所長に面会を求めたとのことである。

 

今回の耐震強度偽装問題について、新聞や週刊誌などに記事があふれ出し、時間と共に、それ以外の問題についても、建築業界の闇が浮かび上がる様相を示している感じである。

多摩ニュータウンで旧・都市基盤整備公団が200億円かけて建築し、分譲したマンション郡がある。このマンション郡が構造欠陥により、4年前から取り壊しと建て替えが進行中であることを、週刊誌アエラの05.12.19号では、解体現場の写真を付けて報じている。しかし公団は、被害に遭った住民の意向として、今もって、所在地・マンション名・詳しい状況の説明を避けている。その解体、建て替え費用などが400億円になるとささやかれているという。

 

今回の偽装要因を検証して、更なる法律と制度を改正し、不正の発生を、“抑える仕組み”を構築するチャンスとすべきである。さもないと、日本の建築業界への不信が拡大し、収拾がつかなくなる。

今後、確認検査機関のあり方、検査体制などが議論されることになると思う。設計事務所・建築会社に対して、確認検査機関は、独立し、牽制する仕組みにしなければならない。また例えば、第三者による、確認検査機関の格付けをし、その格付けされた確認検査機関から、その建物が確認されたことをセールスポイントにできるほどに、確認検査機関の権威を高めるのも方法ではないか。

 
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