セレナータ:そのダイヤモンドは ZWV177
Il diamante, Serenata
編成:SSSSA, soli; SATB, ch.; 2Hn.; 2Fl.; 2Ob.; (2?)Bn.; 2Vn.; Va.; B.c.
作詞:Stefano Benedetto Pallavicini
1737年2月。ドレスデンにて、ポーランド貴族のゲオルグ・イグナティウス・ルボミルスキー(Georg Ignatius Lubomirski)とヨアンナ・シュタイン(Joanna Stein)男爵令嬢の結婚式が行われました。新郎はドレスデン在住でポーランドの有力な家系の出で、新婦の方はザクセンの高位聖職者アレクザンダー・ヨーゼフ・スルコフスキー(Alexander Joseph Sulkowsky)伯爵の義理の妹でした。作中の台詞から彼女はドイツ南部のスワビア(シュバーベン)地方出身と思われます。
この作品はその結婚式で演奏された作品で、セレナータという形式はオペラの舞台抜きみたいなもので、当時のこういった機会にはよく演奏されたそうです。
通常ならこういうことはハッセが担当するはずなのですが、この時期ハッセはイタリアに行って留守でした。そこでまたゼレンカの出番になったのだと思われます。なお実際の演奏はハッセが行いました。
こういう音楽をわざわざ作るだけあって、この二人の結婚は封建国家であるザクセンとしても重大事だったようです。その費用はみんなドレスデンの宮廷が支払い、公記録にも結婚式の記録が残されています。ただその記録にはそこでこのセレナータが演奏されたということは書かれていませんでした。そのことから、これの演奏はマリア・ヨゼファ妃が企画したサプライズイベントだったのではないかと推定されています。
作品の内容ですが、新郎新婦の名前がもろに登場したり、タイトルになっているダイヤモンドも、マリア・ヨゼファ妃が新婦に贈呈したアクセサリーをそのままイメージしていたり、新婦の姓のシュタインがドイツ語で石を意味することから、それに関連した台詞を挟み込んだりと、まさにこの機会のためだけの、今ではちょっと考えられないような贅沢な作品です。
ところでこの作品には面白い仕掛けがしてあって、登場人物はジュノー、大地、イメネオ、アモール、ヴィーナスの5名なのですが、ヴィーナスは最初は登場せず最初の4名だけで話が進んで16曲目のコーラスに至ることです。
この当時のオペラをはじめとするこの手の作品は、こんな感じのコーラスが終曲に来るというのがお約束でした。すなわち聴衆はこれを聴いて「ああ、これで終わりなんだ……」と思ったに違いありません。ところがこの作品の場合それで終わらずに、そこで初めてヴィーナスが登場してくるのです。
多分ここでヴィーナスを歌ったのが、ハッセの奥さんで当時ヨーロッパ随一の歌姫と称えられた、ファウスティーナ・ボルドーニでしょう。要するにエンディングの後に真打ち登場で聴衆は二度びっくりという仕掛けでした。
しかもそれまではジュノーなどのいわゆるお堅い神様が、貞節がどうの忠実さがどうのと説教していたのですが、遅れてやってきたヴィーナスは「喧嘩の仲直りはキスが一番」などと歌ってくれるわけで、拍手喝采全員総立ちだったのはほぼ間違いないでしょう。
これの作品にゼレンカがつけらた音楽ですが、これは多分彼が相当に意識的にハッセ風を狙って作った物なのではないかと思います。特に最初に出てくる大地のアリアなんかは、伴奏スタイルなどを聴いても非常にギャラント風といえるのではないでしょうか。でもそれ一辺倒にならないところがやっぱりゼレンカだと思いますが。
登場人物 | |
---|---|
ジュノー | ソプラノ。ジュピターの奥方。結婚の神でもある。 |
アモール | ソプラノ。愛の神。クピド(キューピッド)のこと。 |
大地 | ソプラノ |
イメネオ | アルト。ローマ神話では結婚式を司る神で松明を持っている。 |
ヴィーナス | ソプラノ。ご存じローマ神話最高の美女。性愛の神でもある。 |
歌詞対訳
1.La sinfonia | 1.シンフォニア |
2.Recitativo | 2.レチタティーボ |
--- Terra: | --- 大地: |
Questa che il sol produce | 私の奥深いところにて太陽が創造した |
nelle viscere mie splendide gemma | この素晴らしい宝石。 |
e in cui lasciò del lume suo gran parte, | その中に多くの光が残されている。 |
Gnan Regina de' numi, io t'offiro in dono: | 偉大なる神の女王よ。私はあなたに贈り物をしよう。 |
degna è che con bell'arte I'industrioso fabbro | 勤勉な熟練工の手になるそれは |
alla corona tua' `innesti e invidia | あなたの栄誉にふさわしく、 |
faccia alle stelle, | 星たちはそれをうらやみ |
onde si mira adorno | あなたの神聖な天国の |
il bel vostro celeste almo soggiorno. | 家を飾ることだろう。 |
3.Aria | 3.アリア |
--- Terra: | --- 大地: |
Alla madre degli amori | 愛の母に |
offra pur sue perle il mare | 海は真珠を贈った。 |
che non sono del mio dono ricche al par, | だがそれは貴重でもなく輝きも薄い。 |
al par lucenti. | 私の贈り物に比べれば。 |
Posti di fronte al lor pallore | その青白さに対して |
troppo avanzan di splendore | 私の宝石のまばゆい輝きは |
di mie gemma i lampi ardenti. | はるかに見事だろう。 |
4.Recitativo | 4.レチタティーボ |
--- Giunone: | --- ジュノー: |
Del gentile tuo dono, amica Terra, | あなたの優しい贈り物は、我が友大地よ、 |
oh, qual uso far voglio. | 驚くほどにすばらしい。 |
Dove tumido I'Elba in sen riceve | エルベの水の中に |
I'ombra d'augusto soglio | アウグストの王座の影を受け入れた場所で |
lavoro d'Imeneo compirsi deve, | イメネオの役割が果たされた。 |
nodo felice e degno | 幸せで価値ある同盟にとっては |
o di cui fia questa gemma auspicio e pegno. | この宝石が良い兆しを示すことになることだろう |
5.Aria | 5.アリア |
--- Giunone: | --- ジュノー: |
Mira come sue candide piume | 注目しなさい。いかにその神が |
fastoso quel nume | 私の合図を受けて |
al mio cenno a spiegar si prepara. | 白い翼を厳粛に広げようとしているかを。 |
La sua grata, dorata faccella | 彼は喜んでいる。その黄金の松明が |
mai non arse di luce più bella, | これほどまでに魅力的な輝きで燃えたこと |
mai non arse di fiamma più chiara. | これほどまでに透明な炎をあげたこともなかった。 |
6.Recitativo | 6.レチタティーボ |
--- Terra: | --- 大地: |
Prima di scioglier il volo | あなたが飛び立つ前に |
non ti sia grave, oh, degli sposi Dio, | おお、結婚の神、美しく優しい神が、 |
vago Imeneo cortese, | 私に親切にも教えてくれた。 |
di far a me palese | この華々しく偉大な結婚が |
quale a stringer t'appresti | エルベ川の畔で行われ |
in riva d'Elba illustre nodo e grande. | あなたがそれを祝福しようとしていると。 |
A che ché le vermiglie | そのために私は準備した。 |
rose produco e odorata pesca | 朱色のバラとかぐわしい桃の花を。 |
onde godi compor le tue ghirlande? | どちらであなたの花輪を飾るのをお望みだろうか? |
--- Imeneo: | --- イメネオ: |
Novello onor del Lubomirsco sangue, | ルボミルスキー一族の新たな誉れ |
Giorgio, che dentro al petto | ジョージオ、その胸の内に |
tutto degli avi eroi chiude il valore: | 勇敢なる祖先たちの剛勇を秘めたる者。 |
quegli è cui far beato brama Imeneo. | このイメネオが幸せを望む者である。 |
--- Terra: | --- 大地: |
E seco a gara Amore. | そしてアモールが彼と競っている。 |
--- Imeneo: | --- イメネオ: |
Germe di nobil cello | その名家は年代記にて |
di cui nei fasti suoi Svevia s'onora | スワヴィアの誉れとを称えられている。 |
tenera sposa a lui destino al degno, | その若き子孫こそが、私が彼に |
fortunato disegno. | 価値ある幸福を与えようとしている花嫁である。 |
Oh, come il genio arrise | おお、このようにして守護神は人々の運命を統べる。 |
che de' popoli i fati in ciel governa | 天上の笑みとともに |
e Sarmati e Germani unir desia | サルマティア人とドイツ人が |
con armistade eterna. | 永遠の友好関係を結ぶことを願って。 |
7.Aria | 7.アリア |
--- Imeneo: | --- イメネオ: |
Coronato di ghirlande | 花輪で飾られた王冠を頂いて |
dove l'Istro l 'urna spande | ドナウ川はその水を流し出し |
lieto al nodo applaudirà. | その団結を祝うだろう。 |
E la Vistula giuliva | そして偉大なるウィズワ川が |
tra l'alloro e tra l'uliva | 月桂樹とオリーブの間の |
fiori al crin s'aggiungerà. | その豊かな髪に花を添えるだろう |
- ウィズワ川とはポーランドを流れる大河。
8.Recitativo | 8.レチタティーボ |
--- Amore: | --- アモール: |
Arbitro del destino | この私が、運命を担うものとして |
io quello fui che di Sarmazia tnissi | サルマティアから |
del magnanimo sposo | この偉大な心を持つ新郎を旅立たせ |
in riva d'Elba i passi. | エルベ川の畔まで来させたのだ。 |
Ei non sapea sotto un vago sembiante | 彼はまだアモールによってどんな不意打ちが |
quali insidie al suo core Amor tendea. | その心に仕掛けられたかを知らない。 |
9.Aria | 9.アリア |
--- Amore: | --- アモール: |
Cosí per la foresta | そう。森の中では |
sicuro ernir si crede | ライオンは安全だと信じていた |
e preso al laccio il piede | しかしときおり自分の足が |
sente il leon talor. | 罠に捕らわれたと感じるのだ。 |
Avvinto quindi oblia | 囚われの中で彼はすぐに |
la ferita natia | その生まれ持った獰猛さを忘れた。 |
e di sé gioco e festa | 自分自身が狩人のための |
appresta al cacciator. | 娯楽の対象となってしまったことも。 |
10.Recitativo | 10.レチタティーボ |
--- Giunone: | --- ジュノー: |
Fido Imeneo, non più dimora: | 忠実なるイメネオよ。これ以上遅らせるな。 |
il dono del lucido diamante | 輝けるダイヤモンドの贈り物を |
porta all 'illustre amaante. | 輝かしい恋人に与えることを。 |
Egli quella ne adorni | 彼にそれをつけさせよ。 |
che il cor gl'incatenò destra vezzosa | その心を虜にした者の |
e a titolo di sposa, | 魅力的な右の手に。 |
di pudor virginal dipinta in volto, | 今は花嫁である高貴な女性の、 |
la nobile donzella | その表情は無垢なる謙遜にあふれ |
oggi diventi agli occbi altrui più bella. | 誰の目から見ても今日はより美しい。 |
11.Aria | 11.アリア |
--- Giunone: | --- ジュノー: |
Veder aspetta | 期待せよ。 |
che al suolo i lumi | 彼女がはにかんで |
vergognosetta | 地の上に |
inchinerà. | その目を伏せるのを。 |
E in quell'onesto | そしてこの素直で |
atto modesto | 慎ましい行為が |
i bei costumi | 彼女の育ちの良さを |
paleserà. | 示しているのだ。 |
12.Recitativo | 12.レチタティーボ |
--- Imeneo: | --- イメネオ: |
Gemma tal che in durezza ogni altra avanza | このように何よりも硬い宝石は |
simbolo è di costanza; | 忠実さの証である。 |
fausto è l'augurio, e già col dono in pegno | 私の贈り物で良き兆しがすでに現れている。 |
esecutor del tuo divin comando | 私は幸せな新郎に向かって飛び立とう。 |
ver lo sposo beato i vanni io spando. | お前の神聖なる願いをかなえるために。 |
--- Amore: | --- アモール: |
Pietra di maggior prezzo (e non a caso | ヨハンナにより高貴な石を与えなさい。 |
trasse di pietra dai natali il nome) | (彼女が偶然持っていた石という意味の名字ではなく) |
fa che in Giovanna egli possegga; | その石がここにあって、 |
e quale gemma si dà che vanti | 彼女の魅力的な眼差しに匹敵するほどの |
a quel de' suoi begli occhi un lume uguale? | 輝きを誇っているのではないか? |
Germania, tu che la nutristi in seno, | ドイツ人よ。お前はその胸で彼女を育てた。 |
oh, con quanta ragion superba vai! | そのことを誇るがよい。 |
Oh, Polonia felice, oh, lieto sposo, | おお、幸福なポーランドよ、おお、幸運な花婿よ |
che di gemma sí rara acquisto fai! | かくなる希な“石”を得るとは。 |
- 花嫁の名字がシュタイン(ドイツ語の石)だったらしく、そのことと石、宝石をかけている。
13.Aria | 13.アリア |
--- Amore: | --- アモール: |
Di quegli occhi, astri d'amore, | お前たち、愛の星たちよ |
imitate il bel chiarore, | その目の輝きを模して |
stelle, voi che in ciel girate. | 天を丸く取り囲む星たちよ |
E di là spandete a gara | そこから互いに競い合うのだ |
sovra coppia a me sí cata | 私の愛しいこの二人に |
influenze fortunate. | 恵みを与えんがために |
14.Recitativo | 14.レチタティーボ |
--- Terra: | --- 大地: |
Tu che al mondo presiedi, eterna Giuno, | 世界を統べる永遠のジュノーよ |
con benefci sguardi | あなたの好意を授けて |
miralo, e 'l genial letto feconda. | この偉大な同盟を実り多い物にせよ。 |
Sorgan dal grande innesto | この傑出した夫婦の契りから |
sublimi pace e guerra. | 平和もしくは途方もない戦争が起こるかもしれない。 |
E poi novelli ad adornar la terra | そして祝福された大地に |
vantin di Giorgio e di Giovanna i figli | ジョージオとヨハンナの子供達が行くかもしれない |
valor, beltà, che ai genitor somigli. | 彼らの両親の姿にある勇気と美とともに。 |
15.Aria | 15.アリア |
--- Terra: | --- 大地: |
Del volto della sposa | この光り輝く花嫁の |
s'io miro al vivo raggio, | 顔を見つめたら |
non men che al sol di maggio | 花が咲き乱れるように感じる |
sento nel seno mio | 私は胸の中に |
spuntar i fiori. | あたかも五月の太陽に暖められたように。 |
All'alma generosa | 私が自らの心を |
del nobile guerrier | この寛大な魂を持つ |
se poi volgo il pensier | 高貴な戦士に向けたなら |
già di produr desio | 衝動にかられてしまう |
palme ed allori. | 椰子と月桂樹を差し出そうという |
16.Coro | 16.コーラス |
Godete che lice, | 楽しみなさい。幸せに思うのが当然だ。 |
bell'anime liete, | 偉大な魂たちよ。 |
la sorte godete | そしてあなた方が天に |
che in cielo vi diè. | 選ばれた運命を喜びなさい。 |
Oh, nodo felice, | ああ、幸福な同盟よ |
catena beata | ああ、この上なく幸福な絆よ |
cha Amore ha formata, | それはアモールに形作られた |
che stringe la fè. | 忠誠なのだ。 |
- 当時はこういうコーラスはエンディングだった。
17.Recitativo | 17.レチタティーボ |
--- Venere: | --- ヴィーナス: |
Dove amor si festeggia | 私は多分忘れていた。 |
il nome mio forse posto è in oblio? | どこで愛が祝われているのか。 |
Vostra felicità render perfetta | 輝かしい恋人たちよ。私だけがあなた方の |
io sola posso, illustri sposi, | 幸福を完全な物にできる。 |
e scendo dal terzo cielo | そして私はこの偉大なる役割を果たすために |
al bel disegno accinta. | 第三天国より下ってきた。 |
Vanti Giuno il suo dono, | ジュノーにはうぬぼれさせておけ。 |
ché ella da me con più bei doni è vinta. | より優れた贈り物でもって彼女に打ち勝つために。 |
Vengon meco il piacer, gli scherzi arditi, | 私は歓びと、そして奇抜な冗談をもたらす |
non meno dolci e men cari, | それは快くもなく高価であるあるわけでもない |
quei che sembran ripulse e sono inviti. | それは拒絶しているようだが、真実はそこにある。 |
Io sol porgo gli affetti, | 私一人でその感情を支配し、 |
io sol fecondo i letti, | 私一人で同盟を実り多きものにしている。 |
devesi a me quanto respira e vive; | すべての生きとし生けるものは私に依っている。 |
e se cosa leggiadra il mondo abbella, | もし良き心が世界をよりよい場所にするのであれば |
tutto è virtù di mia benigna stella. | それは私の恵み深い星のためなのだ。 |
- 第三天国とは古い神様を一緒くたに放り込んだ天国。
18. Aria | 18.アリア |
--- Venere: | --- ヴィーナス: |
Qui piegate, qui posate, | ここで羽をたたんで休みなさい |
mie colombe, i vanni erranti. | 私の鳩たちよ |
E alternando e morsi e baci | そしてこの恋人たちに教えなさい |
dolci sdegni e dolci paci | 噛みつきあう代わりに |
insegnate | キスすることで |
alla coppia degli amanti. | 喧嘩してもいかに甘く仲直りできるかを |
19.Coro | 19.コーラス |
Godete che lice, | 楽しみなさい。幸せに思うのが当然だ。 |
bell'anime liete, | 偉大な魂たちよ。 |
la sorte godete | そしてあなた方が天に |
che in cielo vi diè. | 選ばれた運命を喜びなさい。 |
Oh, nodo felice, | ああ、幸福な同盟よ |
catena beata | ああ、この上なく幸福な絆よ |
cha Amore ha formata, | それはアモールに形作られた |
che stringe la fè. | 忠誠なのだ。 |
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