この一年を振り返って


 亡き両親が余生を送った地、松本に戻る
 昨年3月、職を辞し、亡き両親が余生を送った地、松本に戻り第二の人生をスタートさせる。多分人生最後になるであろう引越し、3月31日に名古屋の住まいから荷物を送り出し、その足で松本に向う。翌1日朝、トラックターミナルで茨城の犬舎から送られてくる生後二ヶ月足らずの子犬(コロ:片手に載る大きさ)を引き取り改築の終わった自宅に向う。程なく引越し荷物が到着、搬入、据置きと慌しい作業の連続。一通りの片付けを終え落ち着いたのは一週間後。その後も、厨房機器の搬入・据置、駐車場・庭の整備など次から次へとやらなければならない作業が続く。一息つき、改築した家屋、整備した庭等を眺めるにつけ亡き両親の想いを改めて感じ、これからの日々、夢に向って悔いを残さぬようかつチャレンジ精神を忘れることなく、泰然自若と過ごしていきたいとの想いを新たにする。

 店を始めた想い
 そもそも第二の人生においてこのような店を始めようと思ったのは、他人との出会いを通じて己を知り、これまで知らない世界を知り、人との繋がりの中で充実した人生を過ごしたいと思ったからである。その意味では、これまで過ごした世界と全く異なる世界にチャレンジしたかったのである。組織の中に身を置いての構えての出会いではなく、何らかの縁で店に来ていただいた方と出会い、いろいろ学ばせていただく、共に楽しまさせてもらう、こんなふうに時を過ごせたら何と楽しいことだろうとかねがね思っていたところである。また、お客さんに寛ぎのひと時を過ごしていただき、コーヒーなりランチが美味しかったと喜んでいただき、また寄らせてもらいますと声をかけてもらえること、この満たされた気持ちは何ものにも代えがたい。だからと言ってなんでもかんでも多くの人に来てもればいいということではない。朝から晩まで厨房に立ちっ放しで、ただコーヒーを淹れているのはご免である。時にお客さんと一緒にコーヒーを飲みながら趣味、人生観などについて談義したり、陶房で土ひねりを共に楽しんだり、こういうひと時を通じて一日、一日充足感を感じながら過ごしていければと常々思っている。

開店に向けた準備と開店
 当初開店はゴールデンウィーク明けにしようと思っていたが、設備・什器の整備や保健所の講習やなんやかんや慣れない準備作業に追われ、5月29日に何とか開店を迎える。まったく初めてのサービス業経験、ランチやコーヒー出し、お客さん対応に戸惑うことばかり。それでもお客さんが来てくれれば紛れもあるが、時にはお客さんが一人も来ず、ドアチャイムの音に一喜一憂する時も、また、段取りに慣れない中、複数の異なる注文にあたふたする時も。開店については、ホームページでの案内や近隣へのチラシ配布のほかタウン紙に開業のことを取り上げていただいたものの立地上、通りに面していないため、通りすがりに寄られる方も殆どなく、また訪ねて来られる方にも場所が分かりづらく、よくお客さんから通りに看板を出したらとご忠告いただいたりもした。看板の一つもと考えたが、店を始めた想いに立ち返って人の繋がり、口コミで来ていただければとの方針を貫く。こんな身勝手な考えにもかかわらず共感いただき、足を運んでくれるお客さんが一人、二人と増えていってくれたらいい。

来店していただくために
 何とかお客さんに来ていただき、寛いでもらおうと無いは無いなりに知恵を絞る。先ず、住居裏の物置の一部を改修して陶芸ができる環境を整え、お客さんにマイカップなどを作ってもらったり陶芸の楽しみを味わっていただくこと。この企画は、現在も継続的に何人かが楽しまれており今後も充実させていきたいと思っている。それから、営業時間外の貸切営業のスタート。バーベキューや串揚げ、さらには冬季の鍋料理と取り組んでみるもののまだまだ思うようにはいっていない。次いでランチメニューの充実についてもいろいろと試作を試みたが、何せ限られた手間での対応、当初からの三品にパスタの一品を加えるだけで精一杯、これらは今後の課題。工夫ではないが、お客さんに教えていただきながらの山菜採り、山野草の植栽、自然薯掘り、さらには渓流釣り(これだけは釣果があがっていない)を自ら楽しみその恵みをお客さんにも味わっていただきながらいろいろと談義を弾ませることの意義はかなり大きいものがあったと思っている。何はともあれ先ずは気軽に立ち寄っていただいて声を掛けていただければと思っている。

二年目に向けての小さな夢
 お蔭様で「あくら」も二年目に突入することになったが、少しこれからの夢を語ってみたい。ここ数年で多くの「団塊の世代」が社会の第一線を退き、少年期を過ごしたふるさとや自然豊かな田舎での生活を求めてやってくる。今まで、組織の一員として多くの仲間とともに過ごしてきた生活も一変、今浦島ではないが戸惑うことも多く、また、他人との繋がりも一から構築し直さなければならない状況となる。こういう方々と共に住む地域の一員、仲間として手を携え、心身とも充実した生活を送れればと思っている。おこがましいがこの店がそんな人々のための一つの小さな拠点になれればというのが夢です。そしてこの夢の実現に向けて少しずつでも情報発信ができればと願っている。次いで、楽しみの共有、仲間作り。自分自身これまでろくに経験したこともなかった山菜取り、あるお客さんを通じていろいろとお教えいただき、採ること、味わうことを含めて実に楽しい経験をさせてもらった、このような楽しみを一人でも多くの人と共有し充実感を味わいたいということ。山菜採りだけでなく一人ではどうしたらいいか分からずやるにやれない渓流釣りや蕎麦打ちなどいろいろなことを教えあい、学びあい仲間で楽しみたい。このほかにもまだまだやりたいことはあるが、無理せずスローの精神で徐々に取り組んでいきたい。

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