「アッと言う間に蔵が建つ樹」

                                                                 

 岡山に赴任して半年あまり。休みの度に、県内各地の名所、旧跡を巡り、次いでは隣接する鳥取、島根、広島、四国に触手を伸ばし、いろいろ見て回っている。

 そのためか、お膝元の市内については後楽園、烏城周辺を除き知らないことが多く、これからの宿題となっている。その中で、昼食に出掛ける通りの一つに「あくら通り」がある。一筋違いの通りに「けやき通り」がある。この通り沿いには欅の樹が植えられておりこれが通りの名称となっていることが伺われる。

 「あくら」と言う言葉は、これまで聞いたことがなく、通りの意味が分からず、聞いてみたところ、「岡山市の木」に選定されているあくらの樹が植えられているからとのことである。身近な植物図鑑を見ても「あくら」では掲載されておらず、インターネットで調べて初めて「モチノキ科のクロガネモチ」が正式名称で、ここ岡山の地での別名であることが分かった。「あくら」−なかなか響きのいい言葉である。謂われは何であろうか。市役所、植物園等に聞いてみると、どうも確たるものはないようである。昔から言われている説は岡山の人々に、あくらの樹、これも丁度今頃見られるが、赤い実がつく雌の樹が好まれていて、この樹を庭に植えたら家が繁栄して「アッと言う間に蔵が建った」と言うことから「アックラ」、「アクラ」と呼ばれるようになったとのことである。クロガネモチに由来するのであろうか、縁起のいい樹である。ちなみに後楽園の千入の森の土手に「あくら」の老木があり、市内の三名木の一つとされている。

 先日、郊外の植木センターを訪れた際、このあくらの樹の盆栽があり、家で養生している。また、街路樹になっている実を数粒頂戴して種を取り出し、事務室のプランターに植え、芽が出てくるのを楽しみにしている。謂われもさることながら、その響きの良さに惹かれてのことである。

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