美瑛の丘を訪ねて


 二月下旬、小雪が舞い雪景色の美瑛町を訪れる機会を得た。春から夏、秋にかけては、緩やかに連なる丘一面に色とりどりに咲き誇る花々、新緑、紅葉の木々、はたまた赤麦や、馬鈴薯の白い花などが咲き眼にも鮮やかなコントラストを見せ、多くの観光客が押し寄せる。しかし、訪れた美瑛の連なる丘は真っ白な雪に覆われ、凛とした雪景色を見せ、人っ子一人見あたらない。静かに眠っている。

 町の役場の展望塔から町一帯を眺望する。眼下には、ゆったりとした区画の街並みが雪に覆われている。この日は雪模様で見えなかったが、緩やかな丘の向こうには天候さえよければ大雪山、十勝連峰が望めるとのことだった。

一頻り展望した後、雪道を抜けて「拓真舘」という写真ギャラリーに向かう。同館は、このあたりの風景に魅せられて多くの写真を撮った写真家前田 真三の作品を展示している。廃校になった小学校を利用して、1987年に開館され、広く一般に無料で開放されている。

 先ず入り口に掲げられた「麦秋多彩」とタイトルが付けられた写真を見て、光と色彩のマジックともいうべきか、絵画かと見紛うほど驚かせられた。赤、黄、緑色の麦畑が幾重に織りなし、青い空とコントラストをなす。次いで、夕日が複雑に入り交じる中に佇む小さな教会、見る写真、次から次へと素晴らしいもので久しぶりに心洗われる清々しい想いに浸った。同行の友に、冬は寒く雪に覆われて何もないが春、夏は写真の如くの風景だから是非もう一度その時期に来て下さいと言われた。

信州で生まれ育った自分はこのゆったりとした真っ白な雪景色も好きである。しかし、この写真の如き情景に出会えるなら是非とも別の時期に来たいものである。この寒さ、冬の厳しさがあって、これを乗り越え、色とりどりの世界が一気に迸り人々に感動を与えてくれるのであろう。四季折々に伸びやかな風景を見せるこの美瑛の自然はこれからも是非残してもらいたい北海道の見所の一つである。

 

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