雪の中の動物園

 

 旭川に行くなら是非、動物園を見みたらとの誘いに、粉雪降る中、ペンギンの園中散歩に合わせて旭山動物園を訪れた。年明け早々、ニュースで上野動物園の入園者数を上回り、北海道、それも旭川の動物園が日本一の入園者数との報が出されて以降、テレビに同園の園長が出演したり、動物達の映像がしばしばトピック的に取り上げられていたので、それなりには承知して興味は持っていたが、しかし、この年になってあらためて動物園に行くことになるとは考えてもいなかった。かつて、同園はお客が少なく廃園まで追いつめられたそうである。その後、どのようにしたらお客に動物の自然の姿を見てもらえ、興味を持ってもらえるか、動物の生態を日々観察している飼育係にプレゼンテーションの仕方について知恵を出させ、今の姿に変えたとたんにお客が徐々に増えてきたとのことである。

ちなみに、同園では、飼育だけでなく展示まであわせて担当することから単なる飼育係、展示係ではなく飼育展示係が設けられているそうである。また、動物が死んだら、飼育舎に「喪中」の張り紙を貼り、お客にその死を知らしめ、これまで可愛がってくれたことに感謝するとともに悲しみも共有してもらい命のはかなさ、尊さを感じてもらう−同園のメッセージ「命を伝える 命を感じる」の実践である。動物を単に檻に閉じこめて平板的にみせるこれまでの手法に変えて、動物の生き様、魅力を如何にしたらお客に見てもらえるか知恵を出し、懸命に取り組んでいる姿勢が評価されての入園者数の増である。動物の数もそう多くなく、また、パンダのような珍しい動物もいないが、ここでは動物たちが、その動物を世話する職員が元気で活き活きとしている。このような動物園側の気持ちがお客に通ずるのである。世の中、まんざら捨てたものではない。

 子供達だけでなく多くの大人が喜々とペンギンのよちよち歩く姿、水中をスイスイ泳ぐ姿やらホッキョクグマの水中での餌を追って泳ぐ姿を追って園内を駆けめぐっている。園内は降り積もった雪に覆われており、自分も恥ずかしながら二度ほど滑って転んだ。その時、ペンギン舎のペンギンたちが雪道に適応性のない人間の姿を見て笑っているような気がした。動物園というものは、人間が檻に入れられた動物を観察するのではなく、動物園という囲いの中を右往左往する人間達を檻の中から動物達が観察して楽しむものかもしれないとの想いがふと過ぎった。                  


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