「旨いもの+5選」

  「旨いもの10選」に加えるべく、その名も「旨いもの+5選」とし、このたび5品を取り上げてみました。


   ヒラメの刺身(特に縁側)

 ヒラメ釣りを始めたのは昭和50年代の終わりころで、その後、毎年解禁を待ちわびて千葉(大原)の海によく出掛けた。11月が解禁で翌4月までがヒラメ釣りの期間であるが、この期間に何回か出掛けて、釣れるのは3〜4枚というところである。まったく釣れない年も何年かあった。東京を離れて、ここ6年ほどご無沙汰している。釣れるとその場で締めて血抜きをする。普通の魚は三枚におろすが、ヒラメの場合は、五枚におろす。身は一晩昆布締めして薄く削ぎ切りにして食べる。この時とばかり身を厚く切ると、ゴムを噛んでいるような感じでなかなか噛み切れず、食感だけでなく味わいまで台無しでいただけない。縁側は身から削いで、皮を剥ぐが、よっぽど大物でない限り、その量は僅かで一口、二口で終わり堪能するまでにはいたらない。しかし、コリコリとした食感があり、身に比べ脂ものっていて実に旨い。ちなみに、回転寿司などで出される縁側は、北太平洋、北大西洋で獲られ、輸入されたカラスカレイやアブラカレイのもので、その味わいもヒラメとは一味違う。下の写真は、これまでに釣った中での一番の大物で体長70数センチ。

   オコゼの唐揚げ

 最初にオコゼの唐揚げを食べたのは何時頃だったろうか。食べたのは新宿のガード下の居酒屋かなんかのような気がする。その美味しさは、あのグロテスクな姿態からはまったく想像できない。カサゴ目に属し、標準和名は「オニオコゼ(鬼虎魚)」、鬼と虎を重ねた名もすごい。英名は「Devil stinger」、直訳すれば”悪魔の針”である。確かに、背鰭の棘に毒を持っており、釣った時など気をつけないとえらい目に遭う。白身で刺身にしても美味しいが、バリバリと頭から食べられる唐揚げが好きである。旬は春から初夏で、カワハギ釣りの際、たまに外道で釣れることがある。唐揚げにする時は、特に頭や鰭を二度揚げし、できるだけ全身を味わっていただきたい。また、身をとった粗は味噌汁仕立てにすると美味しい。ミューヘン(ロンドンか定かに覚えていない)を訪れ、日本料理を食べさせる居酒屋にこのオコゼの唐揚げがあり、旅の途中ということもありその懐かしい味わいに感激したことがある。最近、漁獲量がめっきり減って高価な魚とされ、魚屋の店頭でもなかなかお目にかかることはないが、山の神にでもお願いしてお近づきになりたいものである。(山の神の大好物はオコゼだという俗信がある)

     鯖寿司

   昔、学校の給食なんかで出される鯖の味噌煮が苦手でほとんど手をつけなかった。鯖独特の臭いが鼻について食指が動かないのと骨が多く子供の身にとって食べづらかったせいである。また、当時は、信州の田舎まで新鮮で旨い鯖が届かなかったのではなかろうか。鯖だけではない。イカなんかでも生ではなく塩漬けしたものが多く食されていたように記憶する。今でこそ、関サバとか松輪の黄金サバとかブランド鯖が出回るようになりそのイメージもだいぶ変わってきたが、一昔までの鯖のイメージは「鯖の生き腐り」もさることながら、その食味も含めて総じて評価は高いものではなかった。昔と今で、鯖の味が変わったわけではないので、美味しい鯖が近場で獲れ、口にできるかできないかの違いだけの問題であろう。福井は小浜の地で、鯖寿司を食べて鯖の美味しさを知ることになる。若狭の海で獲れた脂ののった寒鯖で作られた押し寿司、鯖の絞まった厚い身と酢メシのバランスがよく美味しいことこの上ない。鯖は軽く酢じめされており、刺身同然の味わいである。焼鯖寿司なるものもあるらしいが、これはこれでこんがり焼かれた鯖と酢メシとの相性がよく美味とのことで、機会があったら、食して見たい一品である。以前に小浜から京都にいたる鯖街道(針畑越え)を通ったことがあるが、かってこの道でひと塩の鯖が運ばれ、京の都に着く頃にちょうどいい塩加減になり、京の人々の食膳を賑わせたと思うと感慨深かった。

     生タコ刺し

   普通タコを食べるときは、茹でたもので生のタコは釣りでもしない限りなかなか手に入らない。生のものが手に入ったら刺身で食べてみようと思っているのだが、いざ生タコを市場などで見つけても、あのヌルヌルした吸盤のついた体を見ると、どう捌いたらいいのか悩ましくなかなか手を出しづらく、またこの次ということになってしまう。岡山にいた時、瀬戸大橋のたもとの下津井を訪れ、タコのフルコースを味わった。いろいろな部位をいろいろな調理法で食べさせてくれるのだが、何と言っても山葵醤油と梅肉で味わった刺身が一番旨かった。薄く削ぎ切りされた真っ白な身は、コリコリとした食感で口当たりもよく美味しい。目の前で調理しているのを見ていると、先ずまだ生きているタコの足を切り取り、吸盤を包丁で削ぎとる。そして包丁の刃先で皮を抑え付け、芯の身の部分を引き抜くようにして身から皮を剥がしている。後は身を薄く削ぎ切りにする。身がブヨブヨしているので切りにくそうで、素人ではかなり難儀しそうである。できれば食べるだけにしたいと、まだ生きているのではと思われるおろしたての刺身を頬張る。知多半島の先にはタコ島と呼ばれる日間賀島があり、タコ料理が名物とのこと、近いうちに訪れてタコ刺しを味わってみたい。

    ■ 明石焼き

 妙なものが好きだと思われるかもしれないが、あの柔らかな口当たりがなんともいえず、街を歩いていて明石焼きの看板を見つけると、無性に食べてみたくなるのである。その存在を知ったのはそう昔でなく、10年ほど前である。神戸を訪れた折、明石焼きの看板を掲げた瀟洒な構えの店を見つけ、その何たるかも知らずにふらっと入ったのが最初である。周りを見ると、タコ焼きのようなものを何かの汁につけて、熱そうに食べている。実際に食してみると、タコ焼きより柔らかくふわふわしており、卵でそっとコーティングされており、コンブとカツオブシのダシの効いた熱いダシ汁につけて食べるのだが、食感が新鮮で口の中で溶けてくる。今までに経験したことのない味わいである。明石焼きはタコ焼きの元になった食べものと言われており、正式名称、玉子焼きと言う。もともとは、生地に味付けをし、そのままあるいは、少し醤油を垂らして食べていたそうであるが、熱いダシ汁につけて食べるようになったのは酒の肴にするためだったそうである。また、当時は焼きあがった熱い明石焼きを早く冷やすために冷たいダシ汁につけて食べることが多かったとのこと。早食い性の者にとっては冷たいダシ汁は、歓迎かもしれない。タコ焼きの元祖である明石焼きのほうが、上品で味わい深いというのはおもしろい。


「食のページ」メニューに戻る