「旨いもの10選」


 これまで、いろいろ食べてきたものの中で、自分自身が「これは旨い」と感じ、人生最後の食卓に並べたいもの「10選」をとりあえず思いつくままに取り上げてみました。食べ物については人により好き嫌いがあるので「これはどうかな」と首を傾げるものもあると思います。ここで取り上げたものに関するご意見、また、これ以外に「こんな旨いものがある」などお教えいただければと幸いです。なお、これからも「20選」、「30選」と拡げていければと考えています。

 鮒寿司

 確か最初に鮒寿司を食べたのは、かれこれ30年以上も前になる。職場の同僚が土産に持ってきたのを皆でご相伴にあずかった。その独特の匂いに多くの者は一口食べて遠慮していたようだが、自分はそれほど匂いも苦にならず、鮒のしまった肉感の舌触りとこれまで経験したことのない後を引く味わいが気に入って食べた記憶がある。その後、大津等に出かけた折には必ず鮒寿司の食べられる店を探して味わってきた。最近も、思い立ったように近江八幡方面に出かけ、そのたびに鮒寿司のお茶漬けを食べ、帰りに土産として子持ちの小ぶりのものを買ってきて冷蔵庫にしまって何日かにわたって味わうことを楽しみとしている。食べ方としては、ご飯の上に何片かの切り身を乗せ、熱いお茶をかけてお茶漬けで味わうのが一番。小泉武夫東農大教授は、その著書でひれの部分を酒の中に入れて「ひれ酒」にして呑むのも風情があると書いています。今度、試してみるつもりです。

 

 茹でシャコ

 山国で育ったためシャコは身近な存在ではなく、寿司ネタの一つとして甘い煮切りをかけたものを食べる程度でそれほど旨いものと認識はなかった。シャコの旨さを知りよく食べるようになったのは5年ほど前で知多半島に出かけ、豊浜港の魚市場で活きたシャコを見つけ、自分で茹でて貪り食べた時からである。春から初夏にかけて取れる子持ちのシャコは、その独特の歯ごたえと風味で格別です。食べ方としては、茹でたてのシャコの殻を剥きながら食べるのが何と言ってもベスト。参考までに活きたシャコの茹で方と殻の剥き方を紹介する。

⑴活きたシャコを少量の塩を入れて沸騰させた湯の中に放り込む。シャコを入れると湯の温度が下がるので、強火にして蓋をして再沸騰させる。沸騰したら、中火にしてふきこぼれないにする。8分たったらザルに上げて水分をきる。殻は最初に頭を落とし、シッポをVの字状切り落とす。足のついている体の両側を深めに切り落とし、先に腹の殻を剥き背中の殻は尻のほうから剥く。面倒だが、ツメの肉も食べるのをお忘れなく。


 野沢菜漬け

信州育ちのため、家庭で樽に漬けられた野沢菜を小さい頃から食していた。食卓の一角に出される冬場の漬物としてごく当たり前に口にしていてことさら旨いものとは思っていなかったが、ふるさとを離れ、年を重ねるにつれその美味しさが分かってきたと言うか、懐かしい味の一つになっている。食べておいしいのは冬から春にかけての時期で、よく母親が樽の表面の薄氷を割り手を悴ませながら取り出している姿を目にした。艶(べっ甲色)がありしゃきっとした茎の部分が歯ざわりがよく美味しいのでそこだけを先を争って食べたものである。初夏の頃になると酸味が出てきて色も悪くなり、食味も落ちるので油で炒めて食べるのだが、これはこれで美味しい。ちなみに、この油炒めした野沢菜を入れた「おやき」が最近人気を博している。漬けるのに大変手間がかかるので、ある時期から、自宅で漬けることがなくなり、たまに貰ったものを食べるが、どうも味わいが違いほとんど口にする機会がなくなっている。特に、土産物店やドライブイン等でパック詰めされたものはまったくいけない。そんなことで今は懐かしい味になってしまっている昔ながらの家庭の野沢菜漬けを炬燵にあたりながら、美味しいお茶とともに味わってみたいと願うばかりです。


 キンキの塩焼き

キンキ(標準和名は「キチジ」)との出会いは、札幌の居酒屋風の店で地元の知人に勧められるままに食べたのであるが、もう30年くらい前のことで古い。その後、何回かはそのときの味わいを求めて食べてはいるが、ここ何年かはお目にかかっていない。かかっていないというよりかかれないと言ったほうがいいかもしれない。先日も、インターネットで覗いたら「品切れ」とある。あまり捕れないせいか、量が少ないことに加えて、価格が高い。残念ながら、そうやたらに食べれる存在ではない。その食味は少ない経験からだけ言うと、その白身は柔らかく脂がたっぷり乗っていてこの上なく美味しく、頭からシッポまで、骨の周りの肉までしゃぶりたくなるすぐれもので塩焼きのほか煮付けにしても美味しい。煮付けのときは、煮汁にうまみやコクが出るので、同汁でごぼうや、焼き豆腐などを煮るとこれまた美味しく味わえるとのことである。旬は冬である。今冬は、是非とも食べたいものと今から楽しみにしている。


 霜降り馬刺し

馬肉を最初に口にしたのは馬刺しではなく、東京は下町森下町の昔ながらの店での桜なべである。馬肉は、その色合いから別名桜肉と呼ばれている。その後、居酒屋等で馬刺しを食べるも、凍った肉をスライスしたものがほとんどで旨いどこの話ではなかった。

 両親の住む松本に行ったときに、初めて凍らせてない生の少し霜降りの入った馬刺しを食べ、それ以来、噛めば噛むほどに甘くとろりとした馬刺しの虜になっている。馬刺しにもいろいろな部位があるが、やはり霜降りが入ったものが、肉質の細やかさ、味わい等から何といっても一番。昔から、馬刺しをよく食べる県は、熊本と長野と言われているが、両県以外でも気の利いたスーパーであれば売っており、いつでも口にできるが霜降り馬刺しはそう容易く手に入らない。その意味で、熊本と長野は旨い馬刺しが食べられる双璧と言える。カルシウム、鉄分、ビタミンなどは牛肉の倍以上含むのに、カロリーは牛肉の半分、また血行がよくなる、熱のコントロール作用があるなどまさに健康食品であり、加えて旨いのだから何も言うことはない。


 イかの沖漬け

かって北海道は函館で食べたイカの沖漬けの味が忘れられず、伊豆にイカ釣りに行った折、醤油と焼酎と味醂を合わせたものを蓋付きのバケツに入れ船中に持参して、まさに釣り上げたスルメイカを放り込んで沖漬け造りを実践した。しかし、次から次へと上がるイカを仕掛けから外してすぐまた仕掛けを落とす作業をしながら沖漬けにと大きめのサイズを選びバケツに放り込むのは大変で、加えて、敵はスミを吐くし、飛び跳ねるし大変な騒ぎだったとの印象が強い。まさに沖漬けしたのに、その割にはタレの調合がよくなかったのかはたまた大振り過ぎたのかあまり味が染み込まず味のほうはいまいちであった。それ以来、自分で作るのは止めて、もっぱら美味しいと評判のものを買って食べることにしている。食べる時は、軽く解凍した状態で薄く切り、ゴロ(内臓)を和えると一層美味しく味わえる。


 蜂の子の甘露煮

信州という土地柄、よその人から見たらおおよそゲテモノと言われるものも貴重な蛋白源として昔から食されていました。その例が、絹糸を紡いだ後の蚕の蛹の佃煮とか稲の害虫とされるイナゴの佃煮、それと今回取り上げた蜂の子の甘露煮などです。この蜂の子は地蜂(クロスズメバチ)の幼虫や羽化し始めた子を地中から掘り出した巣から取り出し、砂糖、醤油などで甘辛く煮たもので、独特の風味があり酒の肴でもご飯のおかずにしても旨いです。加工して瓶か缶に詰められたものを買うわけですが、価格も高く貴重品といってもおかしくなく珍重されています。昔、田舎の土産として職場に蜂の子を持っていったことがあるが、皆その形状に驚嘆してほとんど手を出さなかった。旨いか旨くないかは主観の問題だから致し方ないが、見た目だけで味はずに遠避けてしまうのは如何かと思う。 切り身でしか魚を味わったことのない子供が多くなってきている昨今、この傾向はますます広がっていくのではと危惧する一人である。話はそれたが、蜂の子は旨いだけでなく滋養がある。食べ過ぎると鼻血が出ると言われたくらいである。


 フグの卵巣の糠漬け

フグは、フグ調理師資格を持ったものでなければ扱えないことからも分かるように猛毒を持っており、その中でも卵巣はもっとも多く毒を含んでいると聞いていたので食べる対象としては考え及ばぬ存在であった。ところが、ある本を読んでいたら、石川県は金沢地方で昔からその毒を抜いて食べている、名物として売られていることを知る。珍しもの好きとしては早速、紹介されている金沢市内の店に注文して宅配してもらう。たらこより大粒の卵が詰まった卵巣を口にすると、塩辛さがまずくるものの、噛んでいると卵巣のコクと糠味噌の味、酸味が複雑に混じりあった独特の旨みがにじみ出てくる。塩辛さを紛らわすために酒を飲む。後を引く味わいである。このように酒の肴として少し食べるのもいいが、温かいご飯の上に卵巣を崩して乗せ、熱い湯をかけてお茶漬け風に食べるとこれが最高である。よく、酒の席でこの卵巣が出ると、残りものをラップに包んで家に持ち帰り、このようにしていただくことにしている。聞くところによると、毒を抜くために塩漬けにして1年、糠漬けにして3年、都合4年の歳月がかかるそうです。人間の英知もさることながら猛毒を分解してしまう糠味噌の持つ力を改めて評価し直す。


 鯨肉の竜田揚げ・尾のみの刺身

団塊の世代周辺の方であれば、昔の学校給食に鯨の竜田揚げがよく出されたことを覚えておられるだろう。当時はまだ、捕鯨が盛んに行われており鯨肉は決して贅沢品ではなくベーコン、刺身などいろいろな機会に口にした。ところが、捕鯨禁止以降、僅かに試験捕鯨で提供される肉だけになり、価格は高くなる、食べられる店も少なくなるなど鯨肉愛好家としては淋しい限りである。渋谷駅前にある某店にも時に無性に食べたくなって出かけるが、頬張り食うとわけにはいかない。昔、給食で食べた竜田揚げ、いくらか臭みはあるが、今となっては懐かしい味である。たまに、スーパーで鯨の赤み肉を見つけると買ってきて竜田揚げにして食べる。醤油の中に、リンゴとかニンニク、ショウガ、タマネギなどを摺りいれて砂糖、酒を加えたタレに漬けてから、片栗粉をまぶして油で揚げるだけでたまらなく旨い。加えて、尾の身の刺身の旨さよ。口の中に広がる旨みは何物にも変えられない。しかし、あまりに少量しか出回っておらず、価格も高く高嶺の花で、最近まったくお会いしてない。このような豊かな食文化を科学的な根拠のないまま資源保護だか動物愛護だかよく分からないが我々の生活から奪いさる国際機関は問題があるのでは。


 カワハギの肝和え

東京で生活していた頃は、よく久里浜沖にカワハギ釣りに出かけた。久里浜からは一年中、カワハギ釣り専用の乗合船が出ていたので折々に出かけたが、特に肝に脂が乗る秋、冬のシーズンが多い。朝早く着くと、アサリの身剥きに精を出す。これがカワハギ釣りのエサになる。カワハギは餌取り名人と称されているほど、針からあのオチョボ口でアサリを知らぬ間に食べてしまう。なかなか釣りづらい魚で、隣で釣れていてもまったく釣れないことがしばしばあり、初めの頃は何度か悔しい思いをしたことがある。釣りに行くのは釣りが面白いからだけではない。その肝を堪能できるからである。杉浦明平氏が著書「カワハギの肝」でも書いているようにあらゆる魚の肝の中で一番味がいいのは、カワハギの肝と言うことに落ち着く。淡白で身のしまった肉と脂が乗って甘い肝、これを和えて食べる旨さは他の魚とは群を抜く。何故、釣りかというと、魚屋に並んでいるカワハギは鮮度のためか、ほとんどその皮を剥がれ、内臓(肝)も取り出されている。自ら新鮮なものを調達するほかないのである。知多半島からもカワハギ釣りに出かけたが、釣果はあまりなく、その味わいもいまいちな感じがしている。



(おことわり)

 本ページの作成に当たっては、できるだけ美味しいもののイメージをご理解いただく手立てとして、インターネットを通じて関連のホームページに登載されている写真を勝手に使わさせていただきました。本来なら、それぞれにご承諾をいただいた上で使わせてもらわなければならないのですが、この場をお借りしてご了解いただければ幸いです。


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