高橋知己を初めて強く意識したのは、森山威男カルテットの「フラッシュ・ア
ップ」(77年)を聴いたときだ。解説でポスト・コルトレーン派の若手と紹介さ
れているとおり、モーダルでハードな演奏がすばらしかった。その後、エルヴィ
ン・ジョーンズとの共演や元岡一英らと結成した「北海道バンド」を経て、94年
本作を吹きこんだ。
ピアノがいないやや不安定な楽器編成であるサックス・トリオだが、2つのス
ピーカーの真ん中からドカンとサックスの音が聞こえてきた時の気持ち良さは、
この編成でなくては味わえない最高の瞬間だ。本作では、少し音量を上げて聴い
て欲しい。緩急自在、見事にコントロールの効いた美しいサックスの音が目の前
に現れるはずだ。
彼の前後に世に出たテナー奏者には、早世した人が多い。高橋と同じエルヴィ
ンとの共演で伝説を築いた武田和命を始め、高橋の後森山カルテットに参加した
小田切一巳や国安良夫などだ。だから、高橋の堅実な活動はファンには嬉しい
し、貴重でもある。本作の後もアケタズ・ディスクにコンスタントに質の高い
作品を残している。故エルヴィンに捧げられた新作は、30年を超えるキャリアは
伊達じゃないと思わせる深い作品だ。(関口 将)