第4部第1章3のおまけ話です。

リンさんがお帰りになった後のお話

(拍手小話21として公開済み)

 

 

「日々是好日・・・初夏の宵編」

 

「その本、面白い?」

頼りになる姉のような存在が

手ずから持ってきてくれた

妊娠と出産について書かれた本は、

千尋にとって目を見張るような、

目からうろこが落ちるような内容で

読み始めてからすでに小一時間は経過している。

その間、何も言わず

千尋の真向かいに座していた夫は、

本に夢中になってどうやら自分の存在を

忘れてしまっているらしい妻を

さすがに取り戻すべく声をかけたらしい。

「ご、ごめんなさい、独り占めしてしまって。

はくも読みたかった?」

ほんのり頬を染めて本を

差し出してくる妻の仕草も愛らしく、

内心では笑みながら、

しかし自分を忘れていたことは

いただけないと琥珀主は

わざとらしくため息をついた。

「そういうわけではないよ。

本に夢中になるのもよいけれど

そなたの体もいとわねば。

そろそろ休んだほうが良いよ。」

「ん、でも。」

「体の調子が良いのはいいのだけれど、

やはり無理をしては欲しくないな。」

「無理なんて。はくもみんなも心配すぎるくらい

大切にしてくれるもの。体も絶好調だし。」

少しだけ不満を滲ませて口を尖らす妻を

黙らせるべく琥珀主は腕を伸ばすと

本を取り上げ、そのまま抱きあげてしまった。

「あん。はくったら、」

「続きは、また明日。ほら普段よりも

疲れた顔をしているよ。」

「大丈夫だったら。この本にも

今は安定期だってあるし。」

「そう。・・・私も読んでもよい?」

「もちろんよ。」

「ならば、そなたが褥に入った後で読ませてもらうよ。」

そう言ってにっこりと笑った琥珀主の顔は

思わず見とれるほど美しく、

千尋はいつものことながら言葉を失って、

力強い腕に身を委ねることになるのだった。

 

おしまい

 

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ここから下は、大人の時間ということで。

お子さまはご遠慮くださいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ギシッ

ベッドが軋む微かな気配に

千尋はふと目を開ける。

「・・・起きたの?千尋。」

低い声に千尋は眠りの中にいるような

かすれた声で応える。

「はく?」

しかしそれ以上の返事はなく、

夫が横になる気配とは異なる

ごそごそとした音は、

久しく褥の中で聞くことのなかった音で

千尋は寝ぼけ眼ながら

意識をだんだん覚醒させていった。

「・・・はく?・・・な・・に・・・してるの?」

「そなたは、そのままじっとしていてくれればいいよ。」

「え?・・・あの、はく?」

「安定期、なのだろう?」

低い声が耳朶を震わせると同時に

ペロッと食んできて。

「あっ、やぁ。はくっ。」

思わずあげた悲鳴も構わずに

柔肌を指が這っていく。

いつの間にか夜着を脱がされてしまった千尋は

呆然となすがままになっていて。

「大丈夫。本にも書いてあっただろう。

無理をしなければ適度なスキンシップは、

むしろ大切なのだそうだよ。」

そうして、暗闇の中、先程と同じく

凶悪なほど美しい笑みを

浮かべた夫に、千尋はなすすべもなく

身をあずけることになるのであった。

 

 

 

ちゃんちゃん

 

 

 

日々是好日編にしてよいのだろうか・・・・・

まあ、いつものことということで。