龍神シリーズ小話集・その9、ターニングポイント裏話         

「経営会議」

〈拍手用小話5を加筆修正したもの)

 

油婆婆は悩んでいた。油屋の経営が頭打ち

なのだ。なんとかして、新規の客を開拓しようと、

今日も上役達を集めて、経営会議を開いた。

「いいかい。お前達。今までの男神とは別に

女神たちにターゲットを絞るんだ。どうしたら、

女神たちが油屋にきてくれるか、知恵をしぼりな。」

そう言って、開いた会議は今回で5回目である。

全くの進展のなさに油婆婆はいい加減頭にきていた。

「まったく、男どもときたら役に立たないね。

そこのお前、白拍子3人衆を呼んできな。」

さく、なり、たつ、何れも眉目秀麗、典雅な油屋自慢

の女達である。湯婆婆は、やってきた女達に問う。

「お前達が、油屋の客なら何を期待する?」

「私なら、おいしい料理、かしら。」

「そうね、もちろんお湯も楽しみだけれど。」

「あと、強いて言えば綺麗どころ?」

油婆婆は、こめかみをぴくつかせる。

「ホストなんか、集めた日にゃ、肝心の男客に逃げられ

ちまうだろ。もっと真剣に考えな。女として何をしたいか。」

先ほどから黙っていたさくが、首をかしげていった。

「癒し、だと思います。」

「癒し?」

「ええ。美味しい料理とお湯で体の疲れを癒す。ついでに

心も癒すことができれば。女が心身をリフレッシュさせる

といえば エステ、でございましょうか。」

「あ、それ最高。のんびりしながら女を磨けるなんて。」

「そうねえ。私たちなんざ行ったこともないけれど、

エステって女のソープと言われるくらい気持ちいいらしいし。」

油婆婆は、目を細める。

「よし、さく、お前にエステサロン・ユヤの開設責任者を命ずる。

一年以内にめどをつけな。」

即断即決は、湯婆婆が持つ最高責任者の資質である。

 

「そのようなわけで、私などが、このエステを仕切らせて

いただいているのでございます。」

さくは、ブライダルコースの客に答えた。

早いもので、開設してから数年がたち、この

エステサロン・ユヤの評判も上々で、今では

この油屋の看板の一つとなっているのだ。

「そう、とにかく任せます。愛しいお方のもとに最高の姿で

嫁げるように、しっかり磨いておくれ。」

「はい、蜘紗さま。お任せくださいませ。なにしろ、このエステには

標の龍神様の奥方様もおいでになることになっているのですよ。」

「それは、本当?験のよいこと。あの娘にあやかりたいと

思っている女神は私だけではないのよ。」

そんな蛇女神に微笑むと、白拍子ならぬ当代きってのエステシャンの

呼び声が高くなりつつあるさくは、腕を振るったのだった。

 

その後、念願かなって相愛の夫をえることができた蛇女神は 

いたく満足して 嫁いでいかれたそうな。

 

おしまい

 

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作者も癒されたい今日この頃です。