ファースト・コンタクトのおまけ

〜真也君と沙良ちゃんのその後のお話〜(拍手用小話8より)

 

「よく考えればちょっと怖い(かもしれない)お話」

 

「あっ、こら沙良。そっち行くな。」

「・・・なんで?」

「そっちには、恐いやつがいるんだよ。」

「また、そんな事ばっかり言って。

恐がらせようとしたってだめなんだからね。」

行くなという方向へ向かってずんずん歩いていく

沙良の後ろ姿を見ながら真也はため息をついた。

昔は素直で可愛かったのに、高学年を過ぎた頃

から真也の言うことにことごとく逆らってくるように

なって扱いにくいったらないのだ。

「まあったく、反抗期ってやつかね。」

小6にしては早すぎるような気もしないではない

のだが、それこそ小学校に上がる前から見守って

きた真也にしてみれば、寂しいような誇らしいような。

6つも年下の女の子のナイトを自任していた真也を

最初の内こそ奇異の目で見ていた周囲もすっかり

なれて、今では 学校の行き帰りどころか休日の

公園やら街中やら沙良のいく所に、付かず離れず

見守っている真也の姿があることは当たり前のもの

と化していて、特に注目するものとていないのだ。

もっとも、沙良にしてみれば、友達の視線も気になる

オトシゴロで、つい反抗してみたく

なるのも当たり前かもしれない。

「きゃあ。」

突然の悲鳴に慌てた真也は焦りながらダッシュする。

と、歩道の真ん中ですっ転んでいる沙良に駆け寄ると、

地面を右手の手の平でバシンと、土煙が上がるかの

ような勢いでひっぱたき、次の瞬間には

何食わぬような顔で沙良に手を貸して立たせてやった。

「いったぁ。」

半べその沙良にあきれたように言ってやる。

「だから言ったろう。」

「転ぶなんて言ってない。」

ぷんと頬をふくらましている沙良をやれやれ

といった顔で見ると、徐に抱き上げてしまう。

「ちょっと、歩けるってば。」

「だ〜め。直ぐ転ぶようなお姫様は

大人しく抱かれていなさい。」

「もう、子ども扱いばっかりして、

レディーに失礼じゃない。」

「レディーだと言い張るなら、

余計にナイトの言うことをき・け!」

ああ言えばこう言うような言い合いは、

新波家につくまで続けられたのだ。

 

「なんだ〜?ま〜た、けんかしてるの?」

「リンさまぁ。信也ったらひどいのよ。」

「はいはい、ああ沙良、お前怪我してるじゃないか。

すぐ手当てしなけりゃ。あとが残っちまったら

せっかくの綺麗な足が台無しになっちまう。」

社のある部屋から追い出すようにして、

沙良を家人の元に行かせたリンは、

憮然としている信也をじろっと睨む。

「なんだよ〜。俺は、止めたんだぜ。

行くなって言うほうに勝手に行くような

やつ、どう守れって言うんだよ。」

「沙良の足首に穢れがついていた。」

「・・・ああ、地面から頭と手だけ出していた

自縛霊につかまれたんだ。封印してやったから

当分は、地下から出てこれないはずだよ。」

「甘いな。」

「・・・どういう意味だよ。」

「沙良に目をつけて呼び寄せるほどのやつなら

お前の封印ごとき、すぐ破っちまうだろ。」

リンの言葉にむっとした信也は

「なら、あんたが直接守ってやればいいじゃんか。」

投げ出すような言い方は信也にしては

珍しいことで、リンは思わずにやっとする。

「お前も反抗期か?」

からかってくるリンにますますむかっ腹を

たてた信也を制するように、リンは続ける。

「冗談だよ。沙良を傷つけられたことが

そんなにショックだったのか?」

「・・・あいつ、握り潰してやればよかった。」

ポソリと呟いた信也を面白そうに見やると、

「ふふ、まあ、やつが封印を破ってでてきたら

お気の毒ってことになりそうだな。」

リンの言葉に肩を竦めた信也は背中向ける。

「んじゃ、俺帰るわ。後は頼むな。」

いつからか、信也のほうからリンに対して沙良を

頼むと言うようになっていて。それだけ、信也の沙良に

対する思いが深くなってきたということだろう。

 

 

「リンさま、信也、帰った?」

「ああ、さっきな。」

「信也に悪いことしちゃった。今度こそ

嫌われちゃったかなあ。」

「お前なあ、その殊勝な態度を信也の前で

見せてやれば踊りあがって喜ぶのに。」

「・・・だって・・・」

「ああ、はいはい。また誰かに何かを言われたのか?」

「知らない女の人。多分信也と同じ高校の人だと思う。」

「あん、で?」

「信也がかわいそうだって。こんな子どものお守を

しなければいけないなんて、バイトとはいえ気の毒って。

たまには、お休みをあげなさいって言うの。」

沙良の言葉にくすくす笑うと

「ああ、ほっとけほっとけ。どうしてもっつうなら、

お休みをあげても勝手にくるんです、とでも言っておけば?」

「・・・信也、かわいそうなのかなあ。

わたしなんかに縛り付けられて。」

「何言ってやがる。どっちかっつうと

羨ましがられていると、思うぜ。

こんな、かわいいお姫様のナイトに

立候補したいやつなんて山ほどいるんだから。」

俯いている頭を軽くぽんぽんしてやると、

子どもと乙女の境目にいる娘は

そのままぎゅっと抱きついてきた。

「・・・リン様、大好き。」

・・・ああ、マジに信也のやつは羨ましがられる立場だな。

素直で優しい輝きを放つ魂。

・・・ああ、よく似ている。久しぶりにあいつに

会いたくなっちまったなあ。

沙良が元気が出る呪いをそっと呟くと、リンは

龍神の守護地の方角を見やったのだった。

 

 

おしまい

 

目次へ

 

 

リンさん青春カウンセラーですか?

真也が気になるのに、まだまだ、対等に並び立つことができない

沙良ちゃんは、これから思春期を迎えてどんな少女に育っていくのでしょうか。

リンさんの後ろ盾があるとはいえ、真也君、

沙良ちゃんを完全に落とすまでにはかなりの紆余曲折があることを

覚悟しなさいね。(にっこり・・・by友林)

(てめぇ、いつになったら書くつもりなんだよ。怒・・・by真也)

 

ちなみに、まだ屋敷の主人ではない沙良ちゃんには

リンさんも完全なガードはできません。ま、だから

信也をスカウトしたんだけどね。

なお、沙良ちゃんは神様〈リン様)のお守りがあるので

霊は見えません。もっとも結婚前の琥珀君の千尋への守りほどでは

ないから、ちょっかいを出されてしまうけれど。

今回は、信也君が油断して守りきれなかったよ〜ん。

というお話でした。