heterodoxyのお話3

 

使徒

 

考えてみれば、あれが最初のことだった気がする。

千尋は何度目かになる目の前の光景に

呆然としながらも、遠い記憶を思い浮かべた。

 

・・・・・・

 

ゆらゆらと紫の髪留めで止めた

ポニーテールが揺れている。

視線の先には、何の変哲もない

どこにでもいるアマガエルがいて。

時折、ノドを大きく膨らませ、

グゲェッと鳴いている

カエルは、それ以外の動きを見せず

しかし、どういうわけか少女の視線を

捕らえて放さないのだ。

 

学校の帰り道。

森の入り口にある崩れかけた石段の隅。

千尋がふと気を惹かれた、

ちょうど目線の高さにあるそこに

親指くらいの大きさの緑色のカエルが

ひっそりと座っていた。

 

緑色をした滑った体。

水かきのついた足をたたんで

背中を丸めて石の上に鎮座してる

何の変哲も無いカエルは

瞬間、ちろりと千尋を睨みつける。

「えっ?」

確かにあった瞳と瞳。

そうして千尋は金縛りにあったかのように

そこに釘付けになっているのだ。

 

グゲッ

カエルがのどを膨らます。

白く滑る(ぬめる)喉元の、

その白さが目に焼きついて。

ぬめっとした目が

千尋をねめつけていて。

 

「な、何か用?」

 

自分ながらカエルに何を言っているんだか、

と思わないでもないのだけれど

なぜか、返事を待っているこの状況が

当たり前のような感覚もどこかにあるのだ。

しかし、カエルのまるで責めるかのような

目つきに、千尋は思わず目をそらす。

カエルの背後には千尋たち家族が

引越しのときに迷ってしまった森があって。

あれ以来、我が家では立ち入り禁止に

なってしまった森の中へと続く小道が

うっそりと茂る木々の間に消えていて

千尋はブルリと体を震わせる。

と、何かの気配にはっとして、

視線を戻した先にあった光景に

千尋の目は大きく見開かれた。

 

グゲッ

いつの間にか子猫くらいの大きさに

なっていたカエルが

のどを大きく膨らまし

ギョロリと千尋をねめつけながら

ゆらりと立ち上がる。

 

『・・・様がお召しなるに、なぜ来ない?』

 

そうして、次の瞬間

泡がはじけるように、パチンと

カエルの姿は消えていた。

 

「え?あれ?」

慌てて辺りを見回しても

そこには夕暮れ近い森が

暗い入り口を

覗かせているだけで。

「・・・夢・・・?」

千尋の常識はそう思いたがって

いたのだけれど。

でも、心のどこかでは

分かっていた気がする。

 

『・・・様がお召しなるに、なぜ来ない?』

 

ナニヲイッテイルノ?

ポニーテールをゆらゆらと揺らし

ゆっくりと坂を上りながら

カエルがしゃべった内容を

思い出そうとするのだけれど・・・

次第に薄れていく記憶に

焦燥感ばかりが募っていって。

 

『・・・・・・・に、なぜ来ない?』

 

ナニヲイッテイルノ?

 

 

・・・・・・・・・・・

 

そうして、これを最初とする一連の出来事は、

千尋の日常を非日常に塗り替えながら

聞き取れなかった名前の主が

千尋の目の前に現れるまで

続いていくことになるのだった。

 

 

おしまい

 

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千尋がいなくなってからの

・・・様のダメダメッぷりに

部下たちが入れかわり立ちかわり

おせっかいを焼いていたとしたら楽しい、かも。

最初は例のカエル男ってことで。

 

駄文ですみません。